本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の六

んじゃ、一先ず和睦すっか!とまぁちゃんは言った。

 

そこで、まぁちゃんを含めて、本丸で話し合いの場が設けられることとなった。

 

 

 

本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の六

 

 

 

刀剣男士たちも、このままでは良くないと感じていたのだろうか。

こんのすけを通じ、話し合いの席を申し込んだ時には、快諾してくれた。

しかし、条件を出された。

 

・結界を張らずに真剣に向き合ってほしい

 

そういう条件だった。

 

もちろん、命の危険があるのはわかっていたので、こちらとしても

 

・刀を話し合いの席に持ち込まない

 

という条件を出した。

たった1人の少女くらい、刀を使わなくてもどうにかなると考えたのだろう。その条件も快諾され、いよいよ話し合いの日となった。

 

2人が本丸の大広間に着くと、そこには刀剣男士たちが座っていた。

見回しても、刀を持っているものはいない。約束は守られたようだ。

 

しかし、全員揃っていないことに気が付く。

数人はやはり、こちらの顔も見たくないようだ。

きっと、隣の部屋で、息を殺して様子を伺っているんだということが簡単に理解できた。もちろん刀を握りしめて。

 

まぁなんとかなるだろうと、妹はのん気だ。

カオナシは内心ビビりまくっている。

 

「よく来たな。結界を張っていないか確認しても良いか?」

 

そう切り出したのは三日月だった。

 

「どうぞ」

 

それに、妹も答える。

 

三日月は、妹に近づくと、

 

さわっ

 

優しく頬を撫でた。

 

「・・・本当に結界は張っていないようだな」

 

そう、言うと満足気に三日月は戻っていった。

鳥肌を立てて固まっている妹が不憫だと思った。

三日月宗近は、天下五剣の1つで、その美しさは刀剣の中でもナンバーワンと言われてるほどの美しさだった。そのため、人として顕現した今でも、「イケメン!」「美しい!」「キレイ!」と言われ、誰もがその美しさにため息をつくほどだった。

しかし、この双子は、三日月宗近の魅力がわからなかった。

乙女ゲーでイケメンに慣れすぎている2人は、「ボケボケじじい全く興味なし」というスタンスだった。むしろ、三日月宗近は苦手な部類なのかもしれない。

まるで愛でるかのように、優しく頬を触った三日月宗近が気持ち悪くて、固まってしまったのだ。気持ちはわからなくもない・・・。

 

「では、話し合いを始めようか」

 

そう微笑んだ三日月を見ながら、どこまでえらそうなんだこいつは、と妹は心の中で悪態をついたのだった。

 

 


 

 

審神者と刀剣男士たちとの話し合いと言うのも、今後のことをどうするかということだった。

一度も刀剣たちの意見も聞くことがなかった審神者と、審神者を何も言わせないために離れに追いやった刀剣たちの今後。

正直、審神者側は特に不満もなかったが、いまだに本丸では食事をとらないと短刀たちが言っていたため、そういうことも含め、不便なことはないかと聞くことにしたのだった。

 

妹「じゃあ食事に関しては、食べるって方向で」

燭「えっと、食事は僕が作りたいんだけど、いいかな?」

歌「僕も作りたいと思っていたんだ」

姉(やっぱり食事当番は燭台切光忠と歌仙兼定か)

妹「畑はあるの?どこの本丸にも畑はあるって聞いたけど」

燭「いや、知ってのとおり、前の審神者の時は生き物を育てられるような環境じゃなかったから、畑は作ってないんだよ」

妹「前任者死ね。じゃあしばらくは通販とか、万屋に注文するってことにしようか」

燭「そうしてもらえると助かるよ」

妹「っつーか、料理出来るの?」

燭「いや、それが顕現してから一度もしたことがなくって・・・」

妹「じゃあカオナシ派遣するわ」

姉(!?)

歌「いいのかい?」

妹「だって、きっとアタシが作った料理じゃまだ食べてくれない人もいるでしょ。毒盛ったんじゃないかって言われるのもヤダし」

歌「・・・」

妹「カオナシには友好的なんでしょ?しばらくは料理の作り方を教えたり、レシピ本も何冊か置いておくから、それで何とかしてくれる?」

燭「・・・わかったよ、カオナシくん、よろしくね」

姉(困惑)

妹(ぷぷ、イケメンに困惑しとるw)

歌「よろしく頼むよ」

妹「んで、お風呂は?」

加「お風呂、本丸では入ったことないよ。お風呂はどこにあるかわかってるけど、今どういう状態なのかわからないし、そもそもお湯がでるかもわかんない」

妹「あ、そうなんだ」

加「ねぇ、また主のとこのお風呂入りにいってもいいでしょ?なんなら一緒に入ろうよ♥」

妹「セクハラで訴えるぞ!」

加「(´・ω・`)」

妹「やばいね、だからなんかきみたち臭いのか」

燭「え!?臭い!?」

妹「クサいよ。お手入れすればその都度キレイになるとしても、お手入れしない間はお風呂入らないってことだよね?こんだけ男いれば臭くもなるわ」

燭「ええ~、一応毎日ボクは体拭いてるんだけどな~」

妹「身だしなみ気にするなら、毎日お風呂はいりなよ。マジでやばいよ、野球部のニオイする」

燭「やきゅうぶ・・・?」

妹「あと、お馬さんはどうなってる?」

石「馬かい?馬はクサいからいらないと言って、前の審神者が用意してなかったんだ」

妹「まじで!?それじゃあ、出陣の時どうしてたの!?」

堀「徒歩です」

妹「徒歩」

陸「馬をくれるがか?」

妹「政府に申請すれば、すぐに馬も馬小屋も出来るはずだよ」

陸「ほなら、わしが責任を持って馬の世話をするきに、馬を呼んでくれんかの?」

妹「OK!んじゃ、ついでに畑も作る準備しよう」

鯰「馬かぁ~楽しみだな~!」

妹「あとは?困ってることない?」

燭「ああ、僕たち、この正装と内番服1枚ずつしか持ってないんだけど・・・もう少し用意してもらないかな?」

妹「え!?それと内番服一張羅!?」

燭「あ、うん」

妹「マジかぁ・・・前任者ホント死ね」

姉(だから、粟田口の子も加州もいつも同じ服着てたんだ~着替えないなら仕方ないもんな~)

妹「んじゃ、何枚か出陣のときの正装と、内番の服と、あと寝間着とか何枚か用意しようか。どんなのが良いか、加州みんなに聞いといてくれる?」

加「わかったよ!ありがと主♥」

妹「いちいち抱き着かなくていいから~」

安「ほんとだよ、いちいち抱き着くなよ」

妹「服用意するなら洗濯大事だね」

歌「洗濯は、最近天気も良くなってきたからしたいんだけど・・・洗濯板と石鹸を用意してもらえると助かるよ」

妹「いや、洗濯機を設置しよう」

歌「洗濯機?」

加「主のとこにあったやつだよね?自動で洗濯してくれるやつ」

歌「何・・・?自動で・・・?」

妹「一応洗濯板と石鹸は用意しとくよ。大きいものとか手洗いしたい時ように。でも人数が人数だから、大き目の洗濯機何台か用意してコインランドリーみたいにしよう」

歌「こいんらんどりい?」

鳴「あとは、ぜひお布団を用意してくだされば助かります~~~!わたくしめは別に畳の上でも良いのですが、鳴狐の体が朝起きた時に痛そうなので!審神者どの、どうか、どうか~~~~!!」

妹「え!?布団で寝てないの!?」

安「寝てないよ」

妹「早く言えよ!!!!!布団!!!大事!!!!それ、すぐに注文して今夜にはふっかふかの布団で寝かせてやるから!!マジ前任者死ね!!!」

秋「あ、ボク、お布団くるならカオナシさんと一緒に寝たいです!お泊りに来てください!」

妹「それはだめ」

乱「え~なんで~?」

妹「捕まるから」

鶴「え?」

妹「捕まるから!!!!(さおちゃんが)」

薬「全く意味はわからんが、諦めろ秋田」

姉(やべえ、マジ逮捕されるわ)

秋「うーわかりました」

妹「あとは?大丈夫?衣食住ちゃんと大丈夫だね!?」

歌「そうだなぁ、今は部屋があまりないから、みんなで雑魚寝してるけど、出来れば個人の部屋が欲しいとは思っているよ」

妹「それは今すぐじゃないけど、そのうち拡張工事するわ、プライバシー大事」

歌「本当かい?楽しみにしているよ」

妹「カオナシ、問題点メモしてくれたかい?」

姉(コクン)

妹「よし、んじゃとりあえず、急ぎのものだけすぐに決めちゃおうか。じゃ、一回帰るわ」

 

 

そう言って立ち上がった審神者に

 

「ちょっと待て」

 

声をかけたのは三日月宗近だった

 

「何?」

 

三日月を睨むように、そう答えると、三日月は笑いながら、

 

「よもや、それだけで帰れると思っておるのか?」

 

そう言った。

 

その言葉の一瞬で、刀剣たちの顔が青ざめる。

せっかくこちらに協力してくれると言っているのに、何をする気なんだと、三日月へ目をやる一同。

 

「手土産の1つもなく、随分不躾な小娘だな」

「・・・」

 

一発触発のその雰囲気に、みな固唾を飲んで見守っていた。

 

この審神者は前の審神者のことを、話し合いの中でちょいちょい怒ってくれていた。

こんなに温かい空気を纏った彼女のことを、主とは認めていなくても少しずつみんな心を開きかけている。

何より、万が一この子に何かあって、この子が審神者を辞めてしまった時は自分たちはどうなるのかと考え出すようにもなった。

この本丸が解体されてしまったら?

次に来る審神者がまた非道の限りを尽くす者だったら?

せっかく良い環境になりそうだったのにまた地獄のような毎日を過ごすのか

三日月以外、その場にいた全員が「三日月、頼むから下手なことはしないでくれ」と心で思っていた。

 

そんな中、口を開いたのは、

 

「手土産なら・・・ある!」

 

審神者だった。

 

「ほう、ではなぜそれを最初に出さない」

「時間かかったから」

「なに?」

「アップデートに時間かかったから!」

「あっぷでーと?」

 

もういいと思うわ、カオナシ、連れてきてくれる?

 

そうカオナシに言うと、カオナシは立ち上がり、どこかに行ってしまった。

そして、戻ってきた時には、誰もが聞いたことのない変な音と共に戻ってきた。

 

「なんだ、この音は?」

「機械音だね」

「機械音?」

「よし!じゃあペッパーおいで!!」

 

そう審神者が声をかけると、

 

『はじめまして、ぼく、ペッパーです』

 

と、見たこともないカラクリが動きながら部屋に入って来たのだった。

 

この部屋にいるものは、全員帯刀していなかったため、ただぼーっとその様子を見ているだけだった。

 

『よければ、しょうもない話でもする? 日本の歴史の話? 恋愛の話? それとも、回転寿司の話?』

 

そう、ペッパーくんが話しかけている。

なんだこのカラクリは・・・と刀剣たちは目が離せなかった。

 

すっとペッパーくんの前に出たのは山姥切国広だった。

 

布をギュっと握った山姥切国広は、「俺が写しだからってそんな目で見るな!!」とペッパーくんに怒鳴り始めた。

そこにいた一同はぽかーん。

どこで山姥切国広のネガティブな心が刺激されたのだろうか。

 

ペッパーくんはそんな山姥切国広に向かって話始めた。

 

『あなたはとても心がキレイな人だということはよくわかります』

「!? お、おれが写しでもいいと言うのか!?」

『写真でも写しますか?ではボクを見てください、はい、チーズ』

 

カシャ

 

その音と共に、ペッパーくんの胸の画面には、山姥切国広の顔が映し出された。

「ペッパーくん・・・!」

 

山姥切国広は感動し、ペッパーくんに抱き着いた。

山姥切国広とペッパーくんとの(一歩的な)友情が芽生えた瞬間だった。

 

異様な光景を見ていた一同だが、短刀が楽しそうにペッパーくんの周りに集まりだした。

カラクリが好きな陸奥守吉行もその輪に加わっている。

みんな笑顔を見せ楽しそうである。

当然のようにお世話係は山姥切国広になった。カオナシはそっと取扱い説明書を山姥切国広に渡したのだった。

 

 


 

 

「んじゃ、なんか困ったことがあったらペッパーくんに相談してね!」

 

そう言って、審神者は去っていった。

鶴丸は三日月に近づいて告げる。

 

「ハラハラさせてくれるなよ、今の驚きはいらなかったぜ?」

 

すると三日月は、今まで見た中でも一番優しく微笑みながら

 

「なぁに、ちと戯れたくなってな」

 

鶴丸はその顔と言葉に驚いた。本当に三日月は彼女に手をあげるつもりはなかったかのように、なぜだか穏やかな顔をしていた。

 

信じられないと、鶴丸国永は思った。

あの審神者に嫌悪感しか抱いていなかった、三日月がまさかと。

 

「・・・一体、どんな風の吹き回しだい?」

「なにがだ」

「あれだけ審神者を憎んでいた男の顔とは思えんな、今のあんたの顔は」

「ははは、さすがにこれだけ心地よい雰囲気が漂っておれば、審神者の人となりが理解できるであろう」

「じゃあ、なんであんなに意地の悪い事を言うんだ?」

「まぁ、可愛い子ほどいじめたくなるものだからな」

 

三日月はそう言いがら、奥の部屋へと消えて行った。

審神者への憎しみも、人間への不信感も、この温かい気で満たされている本丸にいると薄れてきてしまったのかと、鶴丸は思う。

いや、もしかしたら最初から、三日月はそこまで審神者を憎んでいなかったのかもしれない。

三日月宗近本人は、審神者に寵愛され、大切にされてきた。だから、人間に傷つけられたことがないのだ。

だが、三日月宗近は我々の手を取った。助けてくれた。俺たちの意を汲んで、悪役に徹してくれていた。憎まれ役を演じさせているのは自分たちなのかもしれない、そう頭を過ぎった。

おそらく、本当の三日月は先ほどのように穏やかな笑みをたたえる刀だったはず。

人を憎み、審神者を傷つけるのは、彼の本分なのではないのだ。

 

(三日月、悪いがもう少し悪役を演じていてくれ・・・もう少し仲間たちの気持ちが落ち着くまで)

 

久しぶりに賑やかな本丸の中で、鶴丸は静かにそう思ったのだった。

 

 


 

 

(しにそう)

 

 

本丸の食事をとりあえず一任されてしまったカオナシは厨に来ていた。

本当は妹のほうが料理は上手い。だけど、審神者だと思われている彼女が作った食事を、食べたくない者もいるんだろうということは、容易に想像がついた。

ここは私がひと肌脱ぐしかないと、意気込んだのはいいものの、なぜか今、厨には燭台切光忠と2人きりなのだ。

もう一人、食事当番に立候補した歌仙兼定は、洗濯機を設置する場所を考えたいという妹と堀川国広と共にどこかに行ってしまった。故に、自然と2人きりになってしまったのだ。本丸一の伊達男に、緊張してしまう。

 

話し合いの後、政府に必要な物資を申請した。本丸内の建築・増築関係はさすがに自腹でなくとも政府が動いてくれるのだ。

刀剣男士たちは、神であるが故、基本的には食事をとらずとも生きていくことができる。

しかし、人の身を得た今では、良く食べ、良く寝て、健康的な生活を送ったほうが、戦績も良くなることがわかっている。また、食事は供物の意味もある。神への供物として食事をし、この戦いに快く協力してもらえればと、政府は考えていた。

そのため、厨の中の調理器具はすべて経費として申請することが出来た。遠慮なく申請してしまおうと、姉は考える。

本丸は基本的に、50人までの刀剣男士を想定して作られているため、厨もそこそこ広さはあった。

が、さすが昔の日本家屋だけあって、厨も土間であることが多く、薪などで火を起こして米を炊いたり、調理をするスタイルだった。しかも、ここの厨は一度も使われていなかったため、ホコリがかぶって汚い。水道ももちろんなく、井戸から水を汲んでくるような作りだった。冷蔵庫だってないのだ。

どうせ申請するなら手間なので、最初から普通のキッチンにしてくれればいいのに・・・と姉は心の中で思う。

しかし、全く審神者が食事に手を出さない場合は、彼らが刀だった時に見ていた時代の厨に合わせて作ったほうがいいのかもしれない。そのほうが、使いやすいと感じる者もいるかもしれない。こればかりは一概に言えない問題であった。

 

さて、姉扮するカオナシは大きなタブレット端末をその手に持っていた。厨のリフォームをするためだ。リフォームをしないと食事を作ることができないのだ、21世紀の人間には。

タブレットの中には本丸の図がそこに表示されており、必要なものをタップするだけで、そこに現われるという未来の技術。まだあまりやったことはなかったが、早速試してみようと、画面を開く。

燭台切光忠自身は、今の厨のほうが見慣れていたので、当然今のまま使うと思っていた。掃除をして、鍋などの必要なものをそろえなければと考えていた。

 

カオナシは、まずは水道を設置しようと、空いているところに業務用の大きなシステムキッチンを選択。注文ボタンを押した。

 

ボンッ

 

「!?」

 

うまく設置できたようだ。本当に未来の技術はすごい。

突然現れた大きなものに、燭台切光忠は困惑している。

 

「何!?これ何!?」

 

必死に聞いてくる燭台切光忠だったが、うまく説明できないので、ほっといて次々と注文をしていくことにした。

厨の床を土間からフローリングにして、壁紙、業務用の大きな冷蔵庫に、炊飯器。換気扇、食器棚、簡易テーブル、キッチン用品。

思いつく限りの必要なものを取り寄せると、そこはすっかり洋風の広々としたキッチンが出来ていた。

 

光忠はあまりの出来事に驚き、ただただそれを呆然と眺めるだけだった。

一通りキッチンが完成してから、光忠にスリッパを渡す。自分も一応履いたが、足元が透けてしまうので履いてるのか履いていないのかよくわからない。

光忠は、不思議に思いながらもそれを履くと、「すごい・・・」と一言漏らした。

 

「すごいね、カオナシくん!!見たことがないものばかりだよ!どうやって使うか教えてもらえるかい!?」

 

元々料理が好きなのだろう。初めて見るキッチンに光忠は興味深々のようで、興奮していた。

 

(とりあえずまずは米の炊き方を教えよう・・・)

 

同時に注文したお米の袋をやぶき、ゴム手袋を装着してお米を研いでいく。

5升炊きの大きな炊飯器を2つ購入したので、ご飯は多分充分炊ける。

一応、5キロずつに分けて、お米を炊くことにした。「こっちも研げばいいかい?」と光忠が途中で手伝ってくれた。イケメンすぎて、直視できない。

炊飯器にセットして、ボタンを押す。お米を炊くのは本当にこれだけなのだ。光忠は不思議そうに、「これでご飯が炊けるの?」と聞いてきたが、本当に炊けるのだ。昔のように火の強さに注意しながらお米を炊く必要はない。

 

(今日はとりあえず、おにぎりと漬物とお味噌汁にしようかな・・・)

 

次にカオナシは味噌汁を作りだした。コンロの使い方を教えるために、一部始終を見ていてもらう。

火がトラウマの刀もいるし、この燭台切光忠も刀の時に燃えた経験があるらしいということで、コンロは一律IHにした。火を見て倒れられても嫌だから。

全ての機器の説明書を渡しながら説明する。IHは電気で鍋を温めるという説明書の一文を指さして説明すると、とても驚かれた。

業務用の鍋に、水を入れ、材料を入れ味噌汁を作っていく。今はとりあえず私たちおススメの味噌を注文してしまったが、そのうち自分たちの好きな味のものを注文してもらえたらいいなと思う。

シンプルに豆腐の味噌汁を作ることにしたので、光忠には薬味としてネギを切ってもらった。

それから、買っておいた漬物も何種類か切ってお皿に盛ってもらう。

そうこうしているうちにご飯が炊けたので、今度はおにぎりの具を用意して、おにぎりを作っていく。カオナシは作るのが下手なので、おにぎりの型で作っていく。「短刀達でもそれなら簡単にできそうだね」と光忠に言われた。

シーチキンや、チーズおかかなど、昔にはなかった具材を不思議そうに見ていたが、少し味見してもらうと美味しいと言ってもらえた。

2人でせっせとおにぎりを握る。梅や鮭や昆布など、定番の具も作って完成!海苔はその場で巻いてもらうことにしたので、別皿に盛った。

味噌汁をよそって、大広間に持って行く準備を始めていると、光忠に「カオナシくん」と呼び止められる。

 

「ありがとう、きみのおかげで、料理が楽しくできそうだ」

 

そう、光忠は笑った。

あれだけ審神者を警戒していたのに、自分には笑顔を見せてくれるのは、嬉しいけど、ひどい罪悪感があった。

でも、笑えるようになったことは、本当に素晴らしいことだと思い、準備を進める。

 

途中で歌仙や、堀川も手伝いに来てくれて、みんなで大広間に食事を運んだ。

初めての食事を見るだけで、みんなの喉がゴクリと鳴った。離れに遊びに来たことのあるメンバー以外は、初めての食事に感動し、200個ほど作ったおにぎりは全て完食となったのだった。

 

(明日は何を作ろうかな・・・)

 

お皿を業務用の食洗機に入れながらそう考える。勝手に食器を洗ってくれるなんて便利だねと光忠と歌仙に喜ばれた。

やはり少人数で食事を作るのは大変だから、お手伝いしてくれる式神も用意したほうがいい。

あとで光忠と歌仙にレシピ本を渡して、明日の食材を注文しなければと、姉は考えていたのであった。

 

 


 

 

「お疲れ、ご飯出来てるよ」

 

部屋に戻ると、妹はそう言った。

やった、今日はから揚げだ。

 

「疲れたしょ」

「めっちゃ疲れた~~~~めっちゃおにぎり作った~~~~」

「乙www」

「そっちは?洗濯機とかお風呂どうなった?」

「コインランドリー作ったわ。乾燥機もつけたし、窓側にサンルームもつけたから、洗濯問題解決。あと、お風呂すっげー汚くてさ~カビだらけだったし、狭かったから、もう全部一新してキレイにして、髪乾かすために鏡とドライヤー10個設置してきたさ」

「あ、ほんと、お疲れ様」

「髪長い人多いからね。和泉守とか、膝まであるってどういうこっちゃ」

「確かに長髪多いw」

「あとお布団も置いてきたわ、高級布団だから、今日はみんな夢見いいと思う」

「それはよかったw」

「あ、あと馬小屋と馬ね。馬今まで受け取らなかったのが不思議で、すぐ来たわwあと畑も大体場所決めて、これからは内番で畑作ってくれるって」

「そうかい、ならよかったよ」

「うん、よかったわ!」

「じゃあ、ほぼ問題解決だね」

「うん、前任者死ねだわ」

「ほんと、死ねだね」

「ただいまもどりました、審神者様」

 

急に声をかけられ振り向くと、こんのすけがそこにいた。

 

「どっか行ってたの?」

 

その言葉にこんのすけはショックを受けた顔をした

 

「気づかないなんでひどいです!」

「いやー、今日忙しくてさー」

「ごめんねこんのすけ」

「ううっ」

「どこ行ってたの?」

 

その言葉に、こんのすけは姿勢を正す。そして2人にこう告げた。

 

「政府からのお知らせがございます」

 

 


 

 

次の日。

 

朝ごはんを作り終ったあと、食事をする刀剣男士をカオナシはジッと見つめていた。

 

「どうしたのかな?カオナシくん」

 

光忠がそう声をかける。

昨日は、食事をするところをこんなにジッと見てはいなかった。特にその視線は粟田口のほうを見ているような気がする。何か用があるのだろうか。

カオナシは、顔を横に振った。気にせず食べてと言っているようだ。

 

なんとなく、全員が居心地の悪さを感じながらも食事が進み、ほとんどが食べ終わり片付けを始めようとした時、

 

パンッ

 

カオナシが手を叩いた。

驚いた刀剣たちはカオナシを見る。

 

するとカオナシは、どこからともなく、大きなスケッチブックを取り出すと、そこに文字を書いて、刀剣たちに見せた。

 

≪後藤藤四郎が大阪城で見つかりました≫

 

そう書かれた文字を見て、刀剣たちは一期一振を思わず見る。

目を見開いてジッとその文字を見ていた一期一振は、すぐにいつもの柔らかい笑顔に戻る。そして、

 

「では、大阪城へ参りますか」

 

そう告げたのだった。

 

 

 

――――― 大阪城へ行くメンバーは岩融、今剣、一期一振、博多藤四郎、鯰尾藤四郎、骨喰藤四郎の6人に決まった

前回の博多藤四郎を迎える際にも岩融、一期一振は出陣していた。そのため、粟田口の弟がいると言われている50階までは正直余裕で下りれることを知っていた。疲労は溜まるものの、ほぼ岩融の攻撃で敵が一掃できるほどなので、好きなメンバーを募集したところ、このメンバーになった。

特に博多藤四郎の希望はすごかった。「大判小判!!絶対大阪城に行くけんね!!」と張り切っていた。大阪城に置いてある小判を持ち帰ってもいいと政府が言っていたので、それ狙いだろう。

小判より後藤藤四郎のほうを気にしてほしかったと、一期一振はため息をついた。

 

≪無理せず、疲れたら戻って来てね≫

 

そう、スケッチブックに書いた文字を見せてきたカオナシに微笑む。

そういえば、初めて出陣を見送ってもらったなと、一期一振は思った。

 

「カオナシ殿、留守の間、弟たちをよろしくお願い致します」

 

一期一振は、そう言って、大阪城へのゲートを開いて出陣していった。

 

 


 

 

疲労が溜まるたびに、何度か戻ってきたが、ゲートの前で待っていたカオナシが手に持っていた団子を食べると、不思議と疲労が回復した。

刀剣男士たちはただのお茶請けだと思っていたようだが、審神者御用達の万屋で買った、正真正銘の霊力が含まれている仙人団子だった。

その甲斐あってか、すんなりと一行は50階まで到達し、1日で後藤藤四郎を手に入れることができたのであった。

 

後藤藤四郎を抱えて帰還した兄に、弟たちは駆け寄る。

 

「いち兄お帰りなさい!」

「お疲れ様でした!」

「お帰りなさい!」

「ただいま、今戻ったよ」

 

そう告げる兄の手にある、後藤藤四郎を見て、みんな歓喜する。

しかし、そこで一期一振はスッと岩融の元へ行き、頭を下げたのだった。

突然の行動に、その場にいた全員驚く。

もちろん、短刀たちと一緒にゲートの前で今か今かと一行を待っていたカオナシも。

 

「・・・岩融殿、この度も弟のためにご尽力、感謝申し上げます」

「がっはっは、いいってことよ。俺もずっと籠っていた故、体が鈍っておったからのぉ」

「・・・せっかくお力を貸していただきましたが、この子は、後藤藤四郎は顕現させるつもりはございません」

「えっ!!」

 

驚いた声を出したのは、乱藤四郎だった。

 

「いち兄、後藤に会いたくないの?」

「・・・もちろん、会いたいよ」

「じゃあ、何でですか?」

 

不思議そうに秋田も聞く。

一期一振は静かに口を開いた。

 

「・・・後藤につらい思いをさせたくないからだよ」

 

思い出されるのは、前任者の所業だった。

あの頃、いつも思っていた。

いっそのこと、弟たちが顕現しなければこんなつらい思いをしなくてすむのにと。

しかし、手に入れやすい短刀たちは、折れてもすぐに顕現され、また同じことの繰り返し。

”顕現させない”ということは、一期一振にとっては弟を守るということと同じだった。

 

岩融は少し、考えた後に口を開く。

「気持ちはわからんでもない。俺も何度も折られる今剣を見るたびに、心を痛めていたからな。無力な自分を嘆いたものだ」

「ええ、そうでしたね・・・」

「しかし、俺は、今の審神者であればそんな心配をせぬとも良いと考えておる」

「・・・」

「のう、お前の弟たちに笑顔が戻ったのは誰のおかげだ?最近の短刀達は心から笑っていることが見て取れる。その顔を見て理解した、だから俺は大阪城に行こうと決めたのだ」

「・・・しかし、人の子とは遷ろいやすいもの。いつ、豹変するかわからないのです。その恐怖から守ってあげたい、顕現などさせず、刀のままでいてほしい、そう私は思うのです」

「俺もまだ審神者のことを主とは呼べん。しかし、あの娘が豹変したところで、前の審神者のようにはならないのではないかと思うぞ」

「・・・」

「それよりも、まずはお前の弟たちの顔を見てみろ。後藤藤四郎に会いたくて仕方がないという顔をしておるぞ。過去のことを嘆くよりも、絶対に守ってみせると思い直すことはできぬのか?俺は、今ここにいる今剣は今度こそ、守ろうと思っておるよ」

 

そんな岩融の言葉に、一期一振は弟たちを見る。

 

みんな泣きそうな顔をして、こちらを見ていた。

後藤が見つかったと聞いて、あんなに喜んでいた弟たち。それなのに、今悲しい顔をさせているのは紛れもない自分なのだと、一期一振は思い直した。

 

「だいじょうぶですよ、もうだれもきずつきません。ぼくたちもみんなでまもりますから」

 

そう、今剣が声をかける。

あれだけ虐げられていた今剣が、だ。

 

一期一振は覚悟を決める。

 

「・・・わかりました。次こそは絶対守ってみせます。」

 

そうして、一期一振はカオナシの前に歩みを進めた。

 

「・・・カオナシ殿、お願いできますかな?」

 

今見つけてきた後藤藤四郎をカオナシの前に出したのだった。

 

(フルフル)

 

しかし、カオナシは首を振った。むしろ、イイハナシダナーと思っていたところにいきなり話を振られて困惑していた。

 

「なぜですか?手入れをいつもされるあなたならば、顕現など簡単にできるでしょう」

 

どうしても審神者には関わりたくないのか、一期一振はそう言った。

 

しかし、やはりカオナシは(フルフル)と首を振るだけだった。

 

「・・・まさか、あなたは顕現できないと?」

 

恐る恐るそう聞くと、カオナシは大きく頷いた。

 

一期一振は天を仰ぐ。

ポンッと肩を薬研藤四郎が叩いた。

 

「・・・覚悟決めようや、いち兄」

 

そういって、粟田口の兄弟たちは、みんなで離れに向かう事となった。

 

 


 

 

門の前で、一期一振は審神者を待っていた。

中にはもう何度も離れに来ている、弟たちが入り、審神者の手を引き連れてきた。

審神者はすっぴんジャージだった。

 

一期一振の目の前に来た審神者は、

 

「大阪城乙!!」

 

と言った。

 

一期一振の顔が歪む。そんな一期一振の前に、博多藤四郎が立つ。

 

「審神者しゃん、拾ってきた小判、もらってもええ「返しなさい」

 

ぴしゃりと一期一振に言われ、落ち込む博多藤四郎だった。

 

「・・・あなたにお願いがあります」

「うむ」

「・・・後藤藤四郎を顕現させてもらえますか?」

「OK!」

 

あっさりと了解した審神者は、「じゃあ鍛刀部屋へレッツゴー!」と言って、さっさと本丸に向かって歩き出した。

あまりの素早さに放心状態でいると、「いち兄も早く!」と弟たちに背中を押された。

 

 

―――――――― 鍛刀部屋には、一期一振、粟田口の面々、そしてカオナシが同席していた。

 

「んじゃ、後藤貸して」

 

と大事そうに一期一振が抱える後藤藤四郎に指をさした。

一期一振は、ふぅと息を吐いた後、

 

「・・・弟に何かしたら、すぐにあなたを切ります」

 

そう告げた。

それでも、審神者は、「わかったわかった」とあまり気にする様子もなく、一期一振の手から後藤藤四郎を奪った。

 

それは初めて、審神者が仕事をする光景だった。

いつも手入れをしてくれるのはカオナシだし、この少女は本当に審神者なのだろうかと思ったこともあった。

しかし、その手腕は非常に見事であった。

 

後藤藤四郎を台座に置くと、審神者は念じはじめた。

すると、周りから小さな光の玉が後藤藤四郎に集まっていく。その光景はとても美しいものだった。

誰もがその光景に見惚れていると、どんどんと光は大きくなり、その一瞬

目を開けていられないほどの大きな光がその場を包んだと思ったら、そこには

 

粟田口の兄弟とお揃いの衣服に身を包んだ、後藤藤四郎の姿があった。

 

「後藤藤四郎だ。今にでっかくなって・・・・・・・・ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

その叫びに、みんな驚く。

一期一振は刀に手をかけた。

 

審神者を見ると、そこには、

 

なぜか馬の被り物をした、審神者の姿があった・・・

 

その姿に一同困惑し、動けないでいる。

 

いそいそとカオナシが「ようこそ!」と書いた垂れ幕を持って前に出てきた。

それと同時に、後藤藤四郎に向かって、馬の被り物をしている審神者が何かを構えた。

そして、紐を引っ張ると、パァァァァンという大きな音と共に、細かい紙がヒラヒラと小さな筒から飛び出した。

 

「いらっしゃい!!待ってたよ!!!」

 

そう言いながら近づいて来た馬の顔をした審神者に、後藤は涙目になった。

危害を加えるわけではなく、歓迎している様子の審神者に、刀を向けるわけにはいかないと、困惑している弟を見ながら、一期一振はこめかみに手をあてた。

弟の顕現でこんなにも困惑したのは初めての経験だった。

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