本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の五

「カオナシ殿、どうぞ、弟たちのこと、よろしくお願い申し上げる。」

 

目の前で頭を下げる一期一振。

周りには、この本丸にいる46振の刀剣男士たち。

 

一体どうしてこうなった

 

 

 

本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の五

 

 

 

コトの発端は、加州清光が一緒に暮らし始めて5日後のことだった。

日に日に元気になっていく加州とは反対に、日に日に疲れが溜まっていく審神者たち。

そう、ストレスで爆発しそうだったのだ。

2人で楽しく話しながらゴロゴロすることは叶わず、常に加州が「俺って可愛い?」「主、俺のこと愛してる?」とついて回るのだ。マジでストレス。

 

そして、姉は決意した。

ちょうど、秋田、乱、五虎退、前田、平野、博多が遊びに来ている時に合わせて、アレを見せることにしたのだった。

 

「アレ」とは・・・

 

 

上映会が終わったあと、短刀たちと加州は顔が青くなっていた。

唯一、顔が青くなっていなかったのはカオナシ大好き秋田だけ。

「カオナシさん、編み物できるなんて器用ですね!」と他のものが全く思わないような感想を言ったのだった。

 

そう、姉はみんなに「千と千尋の神隠し」を見せていたのだった。

 

これによって、自分が話せるということを、意識してもらえばいいかと軽い気持ちで見せたのだが、それが失敗だった。

 

秋田以外の刀剣たちはすっかりとビビッてしまっていた。

 

試しに声を出してみた。

 

「ハクさまー」※カエル声

 

ビクッとその場にいた、秋田以外の刀剣たちが反応する。秋田だけは目をキラキラさせて、「カオナシさん・・・!」と感動していた。

 

「やっと話せたかいきみ」

「うん・・・5日ぶりにね・・・」

「さみしかったよ・・・」

「私も・・・」

 

この会話もカエル声である。

ちなみにカオナシの衣装の中に変声期が入っており、カエルの声、カオナシの「あ・・・」という呟きの声には変えることができた。

このカエル声をチョイスして話しているのだ。

 

だが、それが増々彼らの恐怖を煽ったようだ。

 

「カ、カエルさんを食べたんですかーーーー!!?」

「何かを食べないと喋られないんですよねーーーー!?」

「やっぱり、カエル食っとっと!?」

「お、俺ももしかして食べられるの!?」

「え・・・!か、加州さんを食べちゃダメです・・・!!」

「こんにちは!カオナシさん!やっとお話しできますね!」

 

目を輝かせて挨拶してきた秋田は間違いなく天使だと思った。

誤解を解かなければと、姉は焦った。このままでは秋田以外の短刀に嫌われてしまう・・・。それだけは避けたいのだ。短刀は癒しであり、天使であり、心の支えだから。

 

「大丈夫大丈夫、うちのカオナシは何も食べなくても話せるのさ」

 

そう、妹が助け舟を出すと、やっと刀剣たちはホッとした様子で、安堵の表情を見せた。

短刀たちに嫌われるかと思ったら、こっちが気が気じゃなかった。ほんとつらい。

 

お昼にピザを作って食べ、みんなでまたゴロゴロしながらゲームをしたり、漫画を読んだりしていた。

そう言えば、まぁちゃんの仕掛けた漫画は、厚と鯰尾と骨喰と浦島がハマっているらしく、浦島なんかは最近「俺は海賊王になる!」が口癖らしい。

もうとっくに全部の漫画を5巻読み終わっているので、続きが読みたいって言ってたと伝えてくれる乱たちに、今度は10巻まで持って行ってもいいよと言っていた。

ちなみに、乱に「俺物語!!」を勧めた妹は、まんまと乱を少女漫画にはめることに成功していた。

 

そんなこんなでワイワイやっていた時、

 

「!?」

 

いつも通り、外から感じた殺気にみんなで窓を見る。

そこには、浅葱色の羽織をまとった刀剣が泣きながら、結界を切ろうとしている姿だった。

 

「安定・・・?」

 

加州はそう呟くと、外へ飛び出した。

それに、みんなも続いた。

門の前には、加州の顔を見て、涙をボロボロ流す大和守安定、その大和守安定を止めに来たのか、長曽祢虎徹と、和泉守兼定と、堀川国広の新選組メンバーが集合していた。

 

「な、何してんだよ、みんなで・・・」

 

加州がそう聞くと、安定は、泣きながら、

 

「お、お前が、帰ってこない、から、審神者に、ひ、ひどいこと、されてるって、思って・・・」

 

そう言った。

 

「心配、かけんじゃねーよ!!」

 

和泉守も加州に声をかけたが、涙目である。

 

「兼さん、安定さん、清光さん無事で良かったね!」

 

堀川は万遍の笑みでそう言ったが、こちらへの殺気がハンパない。

 

そして、そんな堀川以上に殺気を放っているのが、

 

「清光、帰るぞ」

 

長曽祢虎徹だった。

 

長曽祢虎徹は最初の手入れの際に、審神者に切りかかってきた刀剣の1人だった。そのため、こちらをひどく嫌っているのはわかった。

結界のため、こちらへは入れないということはわかっているのが、刀には手を置いていない。しかし、その鋭い瞳だけは、しっかりと審神者を捕えていた。

 

そんな視線を感じ、何を思ったか、妹は家の中に入っていってしまった。

審神者と仲良しの刀剣たちは、みんな審神者は怒ってしまったのではと不安になる。

そこで、もう一度「清光」と長曽祢虎徹から声がかかり、加州はそちらを見る。

 

「行くぞ」

「いやだ!俺は自分からここに来たんだ!」

「何言ってんだよ!清光、おまえ、」

「兼さん、落ち着いて!」

「お、俺は主の側にいたい、主と一緒にいたいんだ・・・!」

「お前、主って認めてるのか、審神者のこと」

 

再び冷たい長曽祢虎徹の声がその場に響いた。その声にみんな何も言えずに黙ってしまった。

長曽祢虎徹は実装から、割と早く見つかった。いや、ムリヤリ見つけられたと言っても過言ではない。浦島虎徹と同じように、検非違使ドロップだったため、仲間がたくさん傷ついたことを彼は理解していた。

また、自分は贋作とは言え、真作の弟が苦しんでいる姿も見た。初期刀の弟が、折られるまでいかないものの、審神者に虐待されている姿を何度も見たし、清光も「主のことが好きだ」と伝えているにも関わらず、手入れをされず笑いものにされていたことも全てわかっていた。

清光は、”主”に愛されたいという気持ちが強く、どんなに審神者からキツく当たられても、それでも”主”を好きでいようというところがあることを長曽祢虎徹は一番心配していた。

今度の審神者にも、ひどいことをされても、また「好きだ」と自分自身に言い聞かせているのではないかと、思っていた。

清光が審神者を嫌いにならないのなら、側から離すのは自分の役目だと、清光がいなくなって泣きじゃくる安定と一緒にここまで来たのだ。

 

「主は・・・前のアイツとは違うよ・・・」

 

そう、清光が呟いた。長曽祢虎徹は驚いた。あれだけ前の審神者に執着していた清光が、前の審神者を”アイツ”と呼んだのだから。

 

「主は、今の主は、ものすごく優しいよ。俺のことを愛してくれるって、言ってくれる。美味しいご飯を食べさせてくれるし、毎日お風呂も入れって言ってくれる。あ、このシュシュも主の手作りなんだ!可愛いよって、言ってくれる。私のほうが可愛いけどって言われちゃうけど、それでも、加州も可愛いよって言ってくれるんだ。だから、みんなが思ってるようなことは何もないよ!俺は自分からここにいるんだ!」

 

そういった加州清光の顔は、今まで見たこともないくらい、凛として、スッキリとした顔をしていた。

いつも暗く、壊れてしまいそうな顔をしていたあの頃が信じられないくらい。

 

その加州清光の言葉と顔に、新選組メンバーは驚いて何も言えなくなってしまった。

 

ガチャリ

 

そこへ、ドアが開き、妹審神者が戻ってきた。

 

「「「「「「「!!!!???」」」」」」

 

そこにいた一同は、その審神者のかっこうを見て唖然とする。

 

「新選組十番隊隊長!原田左之助!!参る!!!」

 

そう言った彼女は、新選組の羽織を着て、手には掃除用のモップを持っていた。

そして、空いている手には、なぜか新選組グッズを抱えている。

 

その姿を見た刀剣たちは唖然。

カオナシの中の姉だけが(アホだな・・・)と呆れていた。

 

「え、え!?主!?何それ!?何で主が新選組の羽織り着てるの!!!???」

「買った」

「買った!?え、なんで!?」

「私は新選組が大好きだ」

「「「「「!?」」」」」←新選組刀唖然

「そうだったの!!?なんで俺がいる時は言ってくれなかったの!?」

「いや、だって、加州新選組の羽織着てないから忘れてた」

「何それ!?」

「はっはっは、そこの人たちの新選組の羽織見て思い出した!」

「え、え~~~~~~!」

「ついでに言うと、私は十番隊隊長の原田左之助がめちゃくちゃ好きだから、左之助の話を聞かせろくださいお願いします!」

 

そう言って頭を下げた妹に加州はパァっと顔を明るくして抱き着いた。

 

「何だよ~~~!!!主も新選組が好きだったなんて、めちゃくちゃ嬉しいよ~~~♥」

「重い加州」

「原田さんが好きだったんだ!なんで!?」

「なんでもです。そういえば、これはカオナシの宝物だ」

 

ゴソゴソと新選組グッズの中から何かを取り出す。

それは、生前の土方歳三の生写真だった。

 

「と、歳さん!」

 

声を上げたのは和泉守兼定で、その隣で堀川国広が大きく目を見開いて、その写真を見つめていた。

 

「カオナシは歳さんファン」

 

そういうと、カオナシは少し恥ずかしそうにした。いや、姉はいきなり自分の宝物を出されて本気で恥ずかしかったのだが。

 

「その写真、見せてもらえませんか」

 

そう言って、堀川国広が自分の刀を置いた。

こちらに危害は加えないという意味らしい。

 

「こっちにきなよ」

 

そういう審神者の声に引かれ、堀川国広は結界の中へ入る。刀を置いた彼は、審神者への殺意はすっかり消えたのか、すんなりと入ることが出来た。

土方歳三の写真を受け取った堀川国広は、ジッとその写真を見ると、ポロポロと涙を流した。

 

「か、兼さん・・・!」

 

そして、写真を持ったまま、和泉守兼定の元へと戻った。

 

「兼さん、歳さんだよ・・・!」

「ああ・・・歳さんだな・・・」

「また顔見れるなんて思わなかった・・・」

「ああ・・・」

「この写真に写ってるの、兼さんだよね・・・!!」

「ああ・・・そうだ・・・」

「ちゃんと、歳さんと一緒にいたって、こうして残ってるんだね・・・」

「ああ・・・そうだな・・・」

 

その写真は、土方歳三が死ぬ少し前に撮影されたものだった。

和泉守兼定は覚えている。昔の写真は何時間も同じポーズをしていなければ撮影が出来ず、歳さんが少し文句を言っていたこと。

こうして、持ち主と一緒に写真に残っているのは、幕末を過ごした彼らくらいなものだろう。

 

カオナシは(マジで、あの土方さん持ってた刀、和泉守だったんかい!)とビビッていた。

そして、カオナシは2人に近づいて、写真を2人に押しつけた。

 

「え・・・くれるんですか?」

「・・・」コクコク

「ほ、本当に・・・!?」

「・・・」コクコク

「あ、ありがとうございます・・・!」

「国広、審神者からものもらうなんて・・・」

「でも、僕は大好きな歳さんと、大好きな兼さんが写ってるこの写真がほしい!!」

「そ、そうかよ・・・!」

「あ」

「!?」

 

カオナシは思い出したかのように再び新選組グッズをあさる。

和泉守兼定は突然声を出したカオナシを怖がりながら見ていた。

 

再び戻ってきたカオナシが手に持っていたのは、新選組局長、近藤勇の写真だった。

カオナシは、その写真を長曽祢虎徹に見せると、トントンと近藤勇の隣にある刀を指さした。

 

「・・・ああ、これは俺だ」

 

そう言う長曽祢虎徹の顔が少しだけ緩んだ。

さすがに新選組局長ともなれば、立場的にも数枚の写真が残されていた。その全てに写っているのは、まぎれもない長曽祢虎徹だった。

自分を本物の虎徹と疑わなかった近藤勇。いつも大切にしてくれていた。

池田屋にも連れて行ってくれて、自分をたくさん使ってくれた昔の主。

長曽祢虎徹は彼ら新選組と一緒に過ごした日々を思い出した。

確かに歴史上では悪役なのかもしれない。正直、無駄な殺生も多かったし、その行動が全て正しいとは言い切れない。

しかし、彼らは真っ直ぐ、自分の信じた道を生きていた。人間だから間違うこともたくさんあった。だが、仲間たちのため、自分たちの信念のために振るったその彼らの心は、自分がよく知っていた。

 

長曽祢虎徹は思った。

前の審神者を憎み、人間全てを憎んでいたが、やはり憎み切れないものもあると。新選組と過ごした思い出は、長曽祢虎徹にとっては大切な思い出だし、自分を大切にしてくれた近藤勇もまた、人間であると。

目の前の審神者を見た。

小さな少女は、自分を使ってくれた近藤勇とは似ても似つかない。

が、彼と同じような、暖かい手を持っているということは知っているのだ。その熱を、彼はもう一度感じたいと思ってしまった。

弟たちを、仲間たちを守りたい。その気持ちは確かにある。

だが、刀を振ることさえ出来ないような、細いその腕を、振り払い、こうして離れに閉じ込めておくことは、違うのではないかと。

何もできない少女に集団で切りかかり、恐怖を与えることは、今まで自分たちが前の審神者にやられていたことと同じことをしているのではないかと。

 

それに気づいた時、この離れに流れる清涼な空気が身に染みるようだった。

いまだ、審神者に抱き着いたままの清光の顔を見ると、答えは明確なような気がした。

もう一度、人間のために刀を振りたいと、心から願ってしまったのだ。

 

「・・・」

 

いっきに柔らかくなった、長曽祢虎徹の雰囲気に、先ほどまで感じていた殺気に敏感になっていた短刀たちも緊張を解いた。あんな顔で昔の主の写真を眺める長曽祢虎徹なら、心配ないなと誰もが思った。

 

「ねぇ、沖田くんはないの」

 

そんな雰囲気をぶち壊すように、安定が声をかける。

そう、土方歳三も近藤勇も写真が残っているのに、自分の昔の主の写真がないのは正直面白くないのだ。

 

「あ、あ~~~似顔絵なら残ってるけど・・・」

「見せて」

 

そう言うと、先ほどまでは結界に入れなかった安定は、簡単に結界を通って入ってきた。「早く見せろ」と審神者に催促する。

たしか、この辺の新選組の資料に載っていたと、沖田総司の似顔絵を安定に見せる。清光も同じく、その似顔絵を覗き込んだ。

そして、2人は絶句する。

 

「は、はぁぁぁ?????」

「全然似てないじゃん!!!どこが沖田くんなわけ!!??」

「何これ!?ほんと似てなすぎ!!!誰が書いたの!?」

「書いた奴、切りに行こうよ清光!!」

「ほんと、これなら切っても許されるって!!!」

 

沖田組の2人はプンスコご機嫌斜めである。現在残されている沖田総司の似顔絵は、誰が見ても「え・・・」と引いてしまうような顔だからだ・・・。

怒り狂う安定に、新選組の茶飲みをプレゼントし、なんとか怒りを静める。

 

そうこうしているうちに、すっかり夕方になったので、短刀達は帰っていった。

すっかり、審神者たちに毒気を抜かれた新選組の刀たちは、そのまま清光を置いておいても大丈夫だと判断し、帰ろうとしていた。

その時、

 

「清光、一緒に帰りなさい」

 

そう審神者が言った。

 

「え、どうして?主、俺のこと嫌いになったの?」

 

清光は不安そうな顔で妹を見た。

しかし、首を振った妹審神者はこういったのだ。

 

「みんな、清光を心配して迎えに来てくれたんだよ?」

「それは、わかってるけど・・・」

「清光、清光は目の前で仲間を折られたんだよね?」

「・・・」

「誰かを失うっていう悲しみやつらさは、清光もわかってるはずだよ」

「・・・うん」

「アタシは清光にひどいことをしようとは思わない。だけど、仲間たちは、どれだけ清光を心配しているか、わかるでしょ?」

「・・・うん」

「ここに来たのが安定なら、きっと同じこと清光もしてると思うよ」

「・・・」

「ほら、みんなも心配してるから」

「いや、俺たちはもう「心配してるから!!!」

 

長曽祢虎徹の言葉にかぶせるように力強くそういった審神者の目は「余計な事をいうな!」というような迫力のある目だった・・・

 

「・・・わかったよ主・・・俺、みんなと戻るよ」

 

そう清光は頷いた。

 

「でも、また遊びに来てもいいでしょ?」

「うん、来てもいいよ」

「またハンバーグ作ってくれる?」

「うん、作るよ」

「ピアスも作ってくれるって約束したよね?」

「うん、今絶賛制作中です」

「・・・俺のこと愛してる?」

「愛してるよ!」

「俺、可愛い?」

「アタシの次に可愛い」

 

そこは、世界一可愛いって言ってよと清光は笑いながら、新選組の仲間たちと本丸へ戻っていった。あまりの審神者の必死さに、苦労をかけたのはこちらのほうだったんだな・・・と新選組の一同は反省する。

清光は、この五日間で食べたもの、作ってもらったものを、みんなに自慢しながら帰った。「今度はみんなで遊びに行こうね」と言った清光に、全員が良い返事をした。

 

そして、家の中に入った双子は、

 

「「つ、疲れた~~~~~~~!!!」」

 

と久々にマシンガントークと徹夜で乙女ゲーを心置きなくしたのだった。

 

 


 

 

次の日。

 

「たのもー」と声がして、眠い目をこすりながら、カオナシを装着して姉は玄関をあけた。

妹は夜中まで遙時6に夢中で、まだ夢の中だ。

 

玄関を開けると、そこには、今まで見たこともない顔が。

 

「おむかえにきましたよ」

 

そう言う彼は、玄関まで入ってこれたということは、殺意がないということだ。

 

なんのことかわからないまま、カオナシは手を引かれる。

 

「はやく、ついてきてください」

 

そう言って、にこやかに笑う今剣は、本当に短刀かと思うくらいに力強い。

 

(え、ちょ、ちょっと、待って)

 

何度も抵抗しようとしたが、「なにしてるんですか」と言われ、グッと腕を引っ張られる。

 

(まって、まって、やばい!!)

 

今剣に無理矢理連れてこられた場所は、

 

「連れてきましたよ!!」

 

本丸の大広間。

 

(ひっ!!!!!)

 

そこには、なぜか、この本丸の46振全員が揃っていたのであった・・・

 

「今剣よ、ご苦労だったな」

 

そう口を開いたのは、初日から完全に殺意を持っていた三日月だった。

 

「カオナシさーん!」

 

そう、秋田がカオナシの膝に座れば、その場はピリッと緊張が走った。

秋田の温かさに現実逃避したい気持ちになった。

 

妹が寝ていたということは、いつもの結界を纏わずに出てきてしまったのだ。

 

(ヤバい、私、死ぬ)

 

内心ドキドキしながら、秋田くんの頭をなでなでして心を落ち着かせた。

 

 


 

 

一体、なぜ自分が呼ばれたのかわからなかった。

すると、短刀たちが立ち上がる。いつも遊びに来てくれるメンバーだ。

そして、加州も立ち上がり、カオナシの前にずらっと並んだ。

 

何が始まるのかとドキドキした。目の前に立って、この子達は私を守ってくれているのか、いやいや、でもあの結界はまぁちゃんにしかかけられないなんて、誰も知らないはずだし・・・

 

刀剣男士たちの1つ1つの行動をドキドキしながら見つめる。

 

そこで口を開いたのは、加州だった。

 

「俺たち、昨日見たんだ」

 

何を?とカオナシは思う。

彼らは何を見たと言うのだ。

ドキドキしながら、次の言葉を待つ。

 

「カオナシさんは、実は、神様の使いだったんだよ!!」

 

何を言い出すかと思えば、いきなりビックリ仰天なことを乱ちゃんは言い始めた。神様の使いってどういうことですか。

天使ですか、え?と困惑する。

 

「昨日、俺たち見たばい!カオナシは、間違いなく、神の世界に存在しとった」

 

うんうん、と博多くんが頷きながら言う。

あれ?え?この子達、もしかして、アニメの話してます???昨日見せた千と千尋の話してませんかぁ!!!?!??

 

「か、カオナシさんは・・・欲深いものたちへ、罰を与えていました・・・神様がそれを反省させるために、カオナシさんがやってきたんです!!」

 

いやいやいや、それアニメの設定だからね!?カオナシ存在してないからね!?と言いたくても、カオナシの衣装があまりにもレベルが高すぎて、「そう言えば、足元透けてるよね」と誰かが呟いた。ハイレベルな衣装渡してきた担当官恨む!!!!!

 

「カオナシさんは、今は審神者さんの式神みたいですけど、元々は僕たちに近い存在なんですよ~」

 

今度はのん気に膝の上で秋田くんがそういう。天使か。かわいすぎか。いや、でもそれは違う。私、ただの人間。

助けてと叫び出したいくらいの罪悪感や恐怖でいっぱいである。

 

「それならなぜ、そいつからは人間のニオイがするんだ」

 

そう、布をかぶったイケメンが言った。あれは山姥切国広だ。布とったらイケメンなんだ。

そこで、今度は前田くんが口を開く。

 

「神の世界のものを食べると、人間は神に近くなり、ニオイが気にならなくなります。それと同じで、このカオナシさんは人間の世界の食べ物を食べているんです。」

 

続けて、平野くんは言った。

 

「あの審神者は、カオナシさんを大切にしています。いつも食事を一緒にとっているんです。だから、彼が人間と一緒に生活しているから、人間のニオイがするのも仕方がないことなのです。」

 

さりげなく、まぁちゃんをフォローしてくれる優しい平野くん。

うんそうだね、まぁちゃんは優しいよ。だって私まぁちゃんのお姉ちゃんだもん!!!

 

「なるほどな・・・」

 

と、鶯丸が呟いた。

いや、なるほどじゃねーから。マジで。

 

そこで、1人の刀剣が近づいてくる。

 

「だから、こんなに心地よい気を纏っているのかきみは。きみは俺たち神の眷属が作りだしたものだというのか」

 

そう言いながら、めちゃくちゃ近くでニオイを嗅いでくる鶴丸国永。

イケメンこっちくるな!イケメン!!!!

 

「そうです、いつも僕たちを治してくれる手が優しいのも、カオナシさんが素敵な神様に作られたからだと思いますよ!」

 

ドヤァとまたお膝で秋田くんがそういった。

かわいすぎるけど、ちょっと黙ろうね秋田くん!!!マジで!!!

 

「あの時は、千のことが好きで一緒にいたけど、きっと今の審神者もカオナシが気に入って、一緒にいるんだと思うよ」

 

だから、今の審神者のこと、信用してみない?と乱は言った。

いやいやいや、ホント、どうすればいいの・・・いや、仲良くしてくれることは嬉しいけど、どうすればいいの!!アニメの話だからね!!

 

乱藤四郎のその言葉に、その場にいた全員が黙った。

その顔は悲痛なものばかりで、どうやら乱の言葉に揺れる何かがあるものの、前に進む勇気はないような、そんな顔だった。

 

怖いのだ、刀剣たちは。

大好きな昔の主が使ってくれた、温かいその熱を彼らは知っている。その熱は焦がれるほどの、優しさだった。

だから、また人間に協力しようとした。審神者という人間に。

しかし、それは裏切られた。だから、怖い。

 

本当はもうみんなわかっていた。

あの審神者たちが来てから、1ヶ月が経った。

前の審神者の時とは全く違う、綺麗な澄んだ霊力。そこにいるだけで、心が洗われていくような感覚。本当はもっと一緒にいたい、その熱を感じていたい、眩暈もするようなその優しさに包まれたい。

誰しもわかっていたけど、誰も踏み出せないのだ。

審神者に殺意を向けてしまった自分たちを許してもらえるかというのも怖かったから。

 

末端とは言え、神として崇められる彼らは、あの小さな少女に”審神者”というだけで切りかかったのだ。

あんな小さく、儚い人間の娘に、だ。

その行動は到底許されるものではないと感じていた。

 

「ふむ、俺は反対だ」

 

そう、口を開いたのは三日月だった。

実質リーダーである三日月のその言葉にみんな息をのんだ。

 

「俺は二度と人間を信用することはない」

 

短期間であれ、一番審神者の寵愛を受けていた三日月は、その審神者を切った。殺すことはなかったが、審神者を切ったのだ。

三日月の心を壊すには充分なほど、前の審神者は非道だった。それ故、三日月は二度と人間に力は貸さないと、決めているのだった。

沈痛な面持ちの仲間たちを前に、ふうと三日月は息を吐いた。

 

「・・・しかし、みながあの審神者と懇意にするなとは言わん。”人間”は信じられなくとも、あの娘を信用するなとまでは言わん」

 

その言葉は実質、「審神者と仲良くしたいなら仲良くしろ」と言っているようなもんだった。

しかし、三日月の言葉は再び、仲間たちを落とす。

 

「まぁ、あの娘は聡いからな。また謀れるかもしれぬし、傷つけられるやもしれん。それを覚悟の上で、懇意にすることだな。」

 

どっちだよ!仲良くしていいのか、しちゃだめなのか、どういうこっちゃ!と思いながら、姉はどんどん腹が立ってきた。

大事な妹のことを悪口言われているのだ。

謀る・・・とはおそらく初日のことを言っているのだろう。幻想の術で騙したことを、三日月は根に持っているのかというのか。

 

「あの子はそんなことしない」

 

カエル声がその場に響いた。

喋れるの!?とみんな驚いた顔をしている。

 

怒りに任せて、言葉を続ける。

 

「あの子は、絶対に裏切らない。

助けを求める人がいたら、手を差し伸べてあげることが出来る優しい子だよ。

それに謀るなんでことは出来ないよ。そもそも、最初に危害を加えようとしたのは、そっちでしょ!?殺されるかもしれないと思って、身を守るのはあなたたちだって同じじゃないの?それを謀るなんて言い方しないで!

大体あの子はね、そんな人を騙すような真似できないんだから・・・!!だって、あの子は・・・あの子は・・・!!

 

 

バカなんだから!!!!」

 

怒りに任せたカエル声がその場に響いた。

いいことを言っているように思えるが、カエル声だ。そして、バカときた。

 

刀剣男士たちはポカーンとしていたが、「ふふ・・・」と三日月は、口元を抑えて笑いだした。

 

「愚かだと言うのか!愉快なことだ!!はっはっは、あの娘は人を謀るようなことが出来ないバカだと・・・!!」

 

はっはっはっはと目元に涙を浮かべながら笑う三日月に、みんなはポカーンとその様子を見つめる。

先日も笑っていた三日月だが、鶴丸と石切丸はまたあの時とは違う、心の底からの笑顔のような気がした。

 

「そうだよ!主はね、嘘なんてつかないよ!だって、嘘でもいいから世界一可愛いって言ってほしいのに、絶対言ってくれないもん!アタシの次に可愛いとか言うんだよ!!」

 

加州も妹審神者を庇うように、そう口を開いた。「そりゃ、お前ブスだからだろ」と安定に言われ、ケンカが勃発。新選組刀たちに焦って止められていた。

 

ざわざわと周りも賑やかになる。

笑顔で談笑している刀剣男士たちの姿も見られる。

 

なんだかよくわからないけど・・・なんだか、最初に部屋に入った時よりは空気が柔らかくなったなと感じていた。

もう帰っていいだろうかと思っていた時、

 

「カオナシ殿」

 

そう、声をかけられた。

 

そこには、ロイヤル~~~なイケメン。粟田口のお兄ちゃん、一期一振が立っていた。

 

一期一振は、目の前で片足をついて頭を下げた。

突然のロイヤルな行動に意味がわからない。

 

「・・・あなたは由緒ある神と関わりある身だとは知らず、随分と失礼な行動に出てしまった私をお許しください」

 

そう、一期一振は言った。

 

目が点(゚д゚)

 

「・・・正直、まだ彼女を信用することが私には難しいのです。私は弟を守らなければいけないと思っている。しかし、彼女の元から戻って来る弟たちは、いつも幸せそうに笑うのです。以前は決して見せなかったような幸せな笑みを・・・。それは、彼女が弟たちにどのように接しているのか、容易に想像がつきました。」

 

一期は顔を上げぬまま、語りはじめる。

 

「本丸の空気も変わりました、緑が増え、弟たちが外で遊ぶ機会も増えている。でも、前に進むことのできない私をお許しください。彼女が豹変してしまった時に、彼女を止めるものがいなければいけないと思っています。」

 

きっと、一期一振も葛藤しているのだろうと、その言葉から読み取れた。

彼は、きっともう、私たちを認めてくれている。それでも、何かあった時には弟たちを守らなければいけないと思っている。

(私もおねえちゃんだから、気持ちわかるよ)

一期一振の気持ちは、痛いほどによくわかった。

 

「しかし・・・」

 

声のトーンが少し優しくなったのが分かった。

 

「神の使いである、あなたとなら上手くやっていけると感じております。いつも手入れをしてくれる時の温かさがそれを表している。カオナシ殿、どうぞ、弟たちのこと、よろしくお願い申し上げる。」

 

そう顔を上げてにっこりと、一期一振は私に言った。

 

オワタ\(^o^)/

 

罪悪感と申し訳なさと、イケメンの笑顔にやられた私は、

短刀ちゃんたちに手を引かれながらフラフラと離れに戻り、短刀ちゃん達が帰ったあとに、起きたら私がいなくて泣きそうだったまぁちゃんに一部始終を話した。

 

まぁちゃんは大爆笑。

 

ほんと、一体、どうしてこうなってしまったのだろうか。

 

千と千尋を見せたことを激しく後悔した。もう二度と、ジブリは見せないと心に誓った瞬間だった。

+5