本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の四

「バスケコート作ろうかなと思っている」

 

まぁちゃんの突拍子もない言葉に、

驚いたのはこんのすけだった

 

 

 

本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の四

 

 

 

「突然どうしたのさ、きみw」

「いや、やっぱりね、スポーツしているイケメンを見たい」

「それは激しく同意だけどもさ」

「だろ?」

「何をおっしゃってるのですか!審神者様!彼らは刀剣男士なんですよ!?」

「だからだろうが!!体を鍛えるためにもスポーツはいいぞ!!」

「しかし、今は本丸の刀剣たちと和解することが先で、スポーツなどとは・・・」

「だって、うちら出陣にも遠征にもついていけないじゃん」

「だね」

「イケメンが動いてるとこ見れないじゃん」

「うん」

「だからスポーツやってもらうしかないよね」

「そうだね!」

「いや、なぜそうなるのですか!!」

 

キンキン声で怒鳴るこんのすけを見る双子

うるさいよ、こんのすけ

マジでうるさい

と冷たく言われ、こんのすけはこの2人には何を言っても無駄だと悟ったようだ

 

「それで?どうやってスポーツやらせるの?」

「ふっふっふ、ぬかりはないよ、さおりくん」

「うん」

「実は夜中に、本丸にスラムダンクと黒子のバスケを5巻ずつ置いてきた」

「ひーーーー!!!やるなきみwww」

「だろ!?」

 

その声にまたしてもこんのすけはがっくりとした。本当にこの2人の審神者はのん気というかなんというか・・・

いつ切られてもおかしくない本丸になぜ行こうと思ったのだと不思議に思う。

そりゃあ結界も忘れずに行ったのだろうが、行動が奇抜すぎる

 

「ついでにワンピースとドラゴンボールとうしおととらも5巻ずつ置いてきた」

「名作!!www」

「だろ?」

「でもなんで5巻ずつなの?」

「いや、5巻ってちょうど面白くなってくる頃じゃん?」

「うん」

「どんどん気になるわけだよ」

「うんうん、気になるね」

「だから、続きが気になるってあいつらがモヤモヤしたところで、続きを投入」

「うんうん」

「そしてどんどん沼にハマっていくと言うわけさ!」

「天才だな!」

 

なにが天才なのだろうか、

はぁ、とこんのすけはため息をついた

 

「・・・でも刀剣男士の皆さまに漫画本を破られたらどうするのですか」

「漫画本に結界つけといた、絶対にやぶけないけど読むことなら出来る結界」

「ふぁーーーーwww無駄な結界www」

「だろ、まさか漫画本に結界が貼ってあるなんて誰も思わないからな」

「めっちゃうけるwww」

「うけるだろ」

 

そう言いながら、双子は次はどの漫画を置いてくるかの計画を立て始めた

ジョジョにしようとか、ヒロアカにしようとか、楽しそうな声が聞こえる。

 

全くこの双子は本当に危機感が足りないなと思いながら、こんのすけはふて寝した。

 

 


 

 

最初にそれを見つけたのは浦島虎徹だった。

いつも彼と一緒の亀吉の姿が見えず、廊下に出たところ、亀吉のそばには謎の書物が置いてあった。

こんなのあっただろうかと首をかしげたが、少し触るとわかる。審神者のものだ。

ただの書物なのに、暖かく、心地よくなる雰囲気に、審神者とは所有物さえ心持ち1つで我々に影響を与えられるのかと思う。実際、この書物には審神者の術がほどこされているため、触っただけでも刀剣男士にそれが伝わるのだろう。

あの審神者たちは、前の男と違って、清澄な霊力の持ち主だった。だからだろうか、目の前の書物に触らずにはいられなかったのは。

見たこともない、奇抜な絵。中身をパラパラと捲ると、ズラーッと書かれた絵に文字が書いてあった。

刀剣男士たちは今で言う、昔の文字しか読み書きが出来なかった。平安刀など、あまりの達筆ぶりに何を書いているかわからないほど。

しかし、この漫画の文字は、スッと頭に入ってきた。これも未来の技術なのだろうか。

 

「おもしろい・・・」

 

少ししか読んでいないのに、すでにこの書物にハマりそうだ。彼が最初に手にしたのは「ドラゴンボール」と書かれた書物だった。

しかし、この書物の持ち主が審神者と知られると、少々厄介なことになるような気がしてならなかった。なぜなら、この本丸のみんなは審神者のことが嫌いだから。

浦島虎徹は、博多藤四郎と明石国行のわずか前に来たばかりの刀剣だった。元々検非違使からのドロップでまれに手に入る希少な刀剣のため、他の皆よりは審神者からの被害に合っていない。しかし、自分を手に入れるために、時間遡行軍よりも強い検非違使と戦わせられた仲間の刀剣たちが何本も折れてしまったことは浦島虎徹は理解していた。

もちろん浦島虎徹を責めるものは誰もいない。無理な進軍をさせた審神者が悪いのだから。しかし、その事実はいつも彼の心を痛みつけていた。

 

浦島虎徹の兄にも遠慮してしまうのも、悩んでいる1つの理由だった。

虎徹の真作の兄は、なんと前の審神者の初期刀だった。そのため、彼は折られることはなくとも、彼の非道な振る舞いをいつも近くで見て来た。仲間を助けようとして、暴力を振るわれたことも多かった。

守るものがその時はなかった蜂須賀虎徹だったが、検非違使からドロップした浦島虎徹を見た時に、喜びより悲しみの感情を顕わにした。守るものが出来てしまった蜂須賀虎徹は悲しみに暮れる。この本丸には大切な弟は来てほしくないと祈っていたから。

そんな気持ちも理解していた浦島虎徹は、きっと兄にこの書物が見つかったら嫌がるだろうと考えたのだった。

 

さて、この書物が気に入ってしまった浦島虎徹はどうしようかと考える。

読んでいるだけでワクワクする。楽しいと実感できる。それにこの書物に触れている時は、心地の良い霊力が体に溢れ、とても心が安定するのだ。

このまま読んでいたいが、どうすればいいのか、早くどうにかしないとこの大量の書物は他のものに見つかってしまう。だけどそれを1人で運ぶのも困難だと思った。とりあえず、人目につかないように縁の下に隠しながら考えを巡らす。

そこで、浦島虎徹は考えつく。

そうだ、粟田口の子たちに手伝ってもらおうと。

 

 


 

 

珍しく「俺と一緒に遊ばない?」と誘ってきた浦島虎徹に、粟田口の子たちは喜んでついてきた。一期一振も笑顔でそれを送り出した。いつも自分の後ろで小さく震えていた弟たちは、他の刀派の刀たちとあまり交流できずにいたから。

前の審神者がいなくなり、空気も景観もキレイなものへと変わっている。安心して暮らせる日が来た今、本丸にいるいろいろな刀派の刀たちと交流を深めてもらいたいと考えていたからだ。

 

浦島虎徹は秋田藤四郎がお守りをもらったことは知っていた。そして、昨日、審神者の霊力をまとわせ帰ってきた他の3振りのことも。

きっと、彼らなら審神者に理解があると考え呼び出したのだ。

秋田藤四郎、乱藤四郎、博多藤四郎は誘うことができた。

しかし、その他に厚藤四郎、鯰尾藤四郎、骨喰藤四郎もついて来たのは誤算だった。脇差とは言え、弟を大切にする兄属性がある刀剣たちにこれを知られたら、反対されるかもしれない。でも打刀以上の審神者をより恨んでいる刀剣たちよりはまだマシなのではないかと、浦島虎徹は勝負に出る。

 

「何して遊びます!?かけっこ?かげ踏み?他に何の遊びがあるっけ?骨喰覚えてる?」

「俺には記憶がない」

「あ、あのさ、実は・・・」

「浦島さん、何かやりたいことでもあるのー?」

「実は、書物を拾ったから、一緒に隠し場所を考えてもらいたいんだ・・・」

「・・・え?」

 

言葉の意味を理解する前に「こっち!」とみんなを連れてくる。

縁の下のゴザの上に並べたその書物を見て、数人は顔を強張らせた。

 

「これって、もしかして審神者の?」

「う、うん・・・多分」

「これどうしたんですか?」

「それが気付いたら置いてあって・・・」

「えー審神者さんたちのものなのー?ボク読んでみたーい!」

「きっと面白いことが書いてあるに決まっとるばい」

「わぁ~ボクも読んでみたいです!」

「触るな秋田」

 

やはり、好感的なのは前日に審神者と接触した秋田、乱、博多の3人。

厚、鯰尾、骨喰は絶対零度の視線でその書物を眺めていた。

(やっぱり失敗したなぁ~)

そう浦島虎徹は考える。

 

「こんなのあったらいちにいが嫌がるぜ。他のやつらも。こんなの燃やしちまおう」

「だめだ」

「火はダメでしょ~。すぐばれるし、いちにい倒れるよ。せめて細かく切り刻もうよ」

 

早速どう処分するかを考え出した3人を見て、がっくりと肩を落とす。

しかし、全くそんな3人を気にしませんというように、秋田がその本に手を伸ばした。 パラパラと読み進める秋田に、みんな声をかける。「やめろ」とか「早く置け」とか。

でも、そんなことを全く気にしない様子の秋田は、数ページ読んで目を輝かせる。

 

「面白いです!!」

 

ぱぁ~っと目を輝かせながらそういう秋田をみんな見る。

その声につられて、乱と博多も続いて書物に目を通した。

そして、やはり明るくなるその顔。

 

「何これ!?初めて見たよこんなの!」

「興味深いけんね」

 

その声に興味が出たのか、骨喰までその書物に手を伸ばした。

「ちょ、ちょっと!骨喰!」

鯰尾が焦っているのがわかる。

 

パラパラとページを捲った骨喰は、

 

「・・・兄弟、この書物を隠そう」

 

そう言った。

 

「はぁ!?何言ってるの!?これ審神者の持ち物なんでしょ!?絶対ダメだって!」

「でも、面白い」

「骨喰兄、ダメだって」

「でも本当にすごく面白いよ!絵がたくさん書いてるの!」

「見たことないですよこんなの!」

「でも・・・」

 

チラリと横目で書物を見ながら、鯰尾は呟く。

 

「いちにいが嫌がる・・・」

 

昨日、審神者の霊気をまとった弟たちに、顔を歪めた一期一振を鯰尾たちは見逃さなかった。

きっと自分が遠征に行っている間に弟たちが審神者と関わることが嫌だったんだろう。

弟たちには何もいわなかったが、そんな一期一振の気持ちは痛いほど良く分かった。

 

だからこそ、こんな書物を読むなんてことしてはいけないと鯰尾は思った。

 

「隠せば、大丈夫」

 

そんな鯰尾に骨喰はそう告げる。

 

「…俺たちも変わっていかないといけないと思う」

 

そういう骨喰は何を思ったのか、書物にそっと手を置いた。

 

鯰尾と厚は顔を見合わせた後、はぁ~とため息をついた。そして、「わかったよ・・・」とあきらめたように、呟いた。

 

 


 

 

7人は、今は使われていない本丸の奥の蔵にこの書物を隠すことにした。

以前はもっと不気味な雰囲気があり、近寄りがたかった蔵だったが、今の審神者の影響か、不気味な雰囲気はなくなり、格子からは日差しも差し込んでいた。

 

「少し埃っぽいけど、ここなら誰にも見つからないよね!」

 

乱がそう言うと、みんな頷く。

そして、博多が「さっきのゴザ敷くばい」とゴザを敷くと、みんなには内緒の秘密基地のようになった。

 

みんなでそこに座って書物を読みだす。

先ほどは、一切書物に手をつけなかった鯰尾と厚も、その書物に手を伸ばした。

「!?」

手を伸ばした瞬間にわかる。そこから流れ込む暖かい霊力。自分の体の中の悪いものまで消えていくような、そんな清涼な気。

(骨喰が言ってたのはこのことだったのかな・・・)

鯰尾にもそんな風に伝わった。優しい、心地よい霊力は、あきらかに前任の審神者とは違うことはわかった。

 

初めは特に読む気もなかった、鯰尾と厚だったが、ペラペラページをめくっていると、気付けば夢中になって読み進める2人の姿があった。

浦島虎徹はへへっと笑い、他の3人も顔を見合わせた。おもしろい。

 

こうして、7人は、それぞれ読んでいるものを交換しながら、書物を読んでいった。

 

 

 

―――― そろそろ日も落ちるという時に、7人は蔵をあとにした。

 

「ねぇ、あの審神者ってどんな人・・・?」

 

そう、鯰尾が秋田たちに聞いた。

秋田たちは喜んで審神者たちの話をした。

浦島虎徹は、今度は秋田たちと一緒に審神者の離れに行ってみようと心に決めたのだった。

 

 


 

 

それは、双子がとっくに夢の中にいた深夜のことだった。

 

ものすごい殺気を感じ目がさめた。普段であれば、どうせこの結界を通れないのはわかっているので、殺気くらいでは目を覚まさないが、いつもと違うことが1つあった。

 

2人は窓を開けてその様子を見る。

 

そこには、

 

「主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ主あるじアルジ」

 

「ホラーかよ!!!!」

 

ずっと「主」とブツブツ呟いている1人の刀剣男士の姿があったのだった。

 

 

「何時だと思ってるんだ!」

 

と、妹は怒りながら玄関を出た。

門の前にいたのは、審神者界では主厨として名高い加州清光の姿がそこにはあった。

 

「あ、るじ・・・?」

 

ゆらりと、加州清光は姿を見せる。

その目が審神者を捕えると、「主!」と叫んで、中に入ろうとした。

 

バチッ

 

しかし、加州清光の体は結界によって締め出されてしまう。中に入れず、ただそこに呆然と立ちすくむ。

 

「ねぇ・・・なんで”主になりたくない”って言ったの?」

 

そう、加州清光は言葉を吐き出す。妹はただただ、その話に耳を傾ける。

 

「どうして?どうして主になりたくないの?俺がキレイじゃないから?こんな俺じゃ愛してくれないの?俺は主と一緒にいたいよ、主の近侍になりたいし、主の初期刀になりたいし、主の一番になりたい。ねぇ、俺頑張るから俺のこと捨てないでよ。俺キレイにしてるからさ、だから俺だけの主になってよ・・・」

 

そう言いながら、刀剣をこちらに向けてくる加州清光。

 

「お前、『僕と契約して魔法少女になってよ!』みたいなノリで怖い事いうなや!!」

 

妹はブチギレたが、加州清光は全く気にする様子もない。

ガチャリとドアが開いて、カオナシが出てくる。刀剣の前では姿を見せない、安定の姉だった。

 

「やばいわ、加州やばいわ、ヤンデレになってる」

「いや、割と元々ヤンデレじゃない?」コソコソ

「いや、ヤンデレって言うか、全くデレてないな。なんかただの病んでる人だわあれ」

「ブラック本丸の加州は病んじゃうことが多いみたいだね、主大好きだから」コソコソ

 

刀剣を構えて、こちらに入ろうと結界を切ろうとしている加州に目をやる。

入れないということは、殺意があるということ。

まぁ殺意がある刀剣男士は多いので、それは別にいいのだが、このままだとうるさくて寝れないのが困ると双子は思っていた。

 

「はぁ・・・仕方ないか・・・」

 

そう言うと、妹は結界を解いた。

いきなり結界がなくなり、その勢いで加州はその場に転んでしまった。

そこに近づく妹。

 

「審神者様!」

 

焦ったこんのすけがそう声をかけたが、妹は全く気にせずに加州へ近づき、そして、加州の前でしゃがんだ。

 

「おいで」

 

そう声をかけると家の中に戻ろうとする。

後ろを向いた審神者に、加州は今がチャンスと言わんばかりに刀を振り上げた。

 

しかし、それは以前にも見たことのある光景で、

 

刀は審神者の空中で止まってしまっていた。

 

そう、家の結界は解いて、自分たちだけの結界に切り替えたのだ。

一旦落ち着かせる必要があると判断した妹の対応に、こんのすけもホッと胸をなでおろした。

 

その刀をカオナシがとり、握りしめた。

 

その瞬間、体が暖かいものに包まれる。以前手入れをしてもらった時に感じたものと同じ。その心地よさに呆然としていると、「早くおいで」と妹はドアのところで手招きしたのであった。

 

 


 

 

審神者は加州にホットミルクを出してあげると、一口それを飲んだ加州はポロポロと泣き始めた。

加州の頭をそっと撫でる妹。

その暖かい手に、加州は涙が止まらなかった。

 

「あ、主にならないって、言われて・・・、俺、のせいかも、って焦って、それで・・・」

 

きっと、心が壊れるほど、自己嫌悪が強いのだろう。自分を肯定してもらいたいと思っているんだなと2人は感じた。研修の時に会った加州清光という刀は、主に愛されているという自信で満ち溢れていた。堂々として、そしてその姿はとても美しいものだった。

あの時、ここの刀剣たちが自分たちを主にすることを望んでいないようだったので、何気なく言った一言だったが、それで彼を傷つけてしまったのなら、申し訳なかったと2人は反省する。

 

「ま、前の主は、俺のこと、気持ち悪いって・・・、女みたいだし、血まみれでいたほうがまだ見れるっていうから、俺、傷はずっと治してもらえなくて・・・、ボロボロの俺を見て、いつも笑われて・・・」

「マジでか。キモいのはお前だって言ってやれば良かったしょ」

「そ、そんなの主に言えないよ・・・嫌われたくなかったから・・・」

「嫌ってたよ、あいつは。何もしなくても、きみたちを嫌ってた。加州のせいじゃないよ、加州は何も悪くないから」

 

そう、妹が声をかけると、ポロポロとまた涙が止まらなかった。

 

「あ、主が、ほしいよ・・・。今度は、ちゃんと、愛してほしい・・・俺も主を大事にしたい、守りたい・・・主がほしい・・・」

 

加州はそう、涙をぬぐいながら言った。

2人の審神者は顔を見合わせると、頷いた。

そして、

 

「よし、加州、ちょっといいことしようか」

 

そう、加州に声をかけた。

 

 


 

 

2時間後―――――――――

 

 

「わぁぁぁぁぁぁ」

 

目をキラキラと輝かせる、加州の姿があった。

自分の爪をジッと見つめ、嬉しそうにしている。

 

「ふふふ、カオナシはネイルうまいんだわ」

「す、すごい!こんなにデコってもらったの初めて・・・!」

「そのネイル、なかなか落ちないネイルだから、塗り直ししなくても平気だよ」

「ほんと!?」

「うん、ずっとキレイなままだし、伸びて来たらまたカオナシにやってもらいに来なよ」

「い、いいの?」

「もちろん大歓迎だよ、ね」

 

そこで、コクリとカオナシは頷いた。

 

「あと、これ、ネイルの間に作ったんだけど・・・」

 

そう、妹審神者が言って加州に近づく。そして、その手は加州の髪の毛に触れた。

びくっと肩を震わせた加州だったが、すぐにその小さな手は心地よいものだと感じた。

 

「はい、これ加州をイメージしたシュシュだよ!大事にしてね!」

 

と妹審神者が加州につけたのは、真っ赤な布で作ったシュシュだった。

今まで、あれだけのことをされても主を嫌いにはなれなかった。自分が至らないからと自分を責めて、主に好かれたいとずっと思っていたが叶わない願いだった。

そんな加州の願いが今、叶ったのだ。

 

泣きながら、加州は、「ありがとう・・・」と呟く。

それから、「主・・・って呼んでもいい?」とも。

 

その言葉に、2人の審神者は頷く。

「好きに呼んでいいよ」と言われ、また涙がこぼれた。

 

もう朝日が昇りそうな時間に、加州は離れを後にする。

夜中にごめんなさい、それからありがとうと伝えると、「これから昼間で寝るから大丈夫」と審神者は笑ってくれた。

 

そして、

 

「次は1人でも門をくぐれると思うよ、途中で家に結界をつけたけど加州は追い出されなかったから。また、いつでもおいで」

 

そう言ってくれた。

 

帰り際に、自分の本体と、それからお守りをカオナシから渡された。

初めてのプレゼントをたくさんもらってしまった。

加州は嬉しそうに本丸へ戻る。そして、加州の心はある1つの決断をしていた。前に進む加州の心はもうすっかりと晴れていた。

 

 

3時間後―――――――

 

 

ドンドンドン

 

という、ドアが叩かれる音で目が覚めた双子たち。

昼まで寝ようと思っていたのに、まだまだ早すぎる。

 

しかし、ドアを叩いているということは、門は潜れたのだ。殺意はない。

 

ということは、短刀ちゃんかなと感じて、カオナシの衣装を身につけた姉はドアを開いた。

 

そこには、

 

「ご、ごめんさい、主!寝てたよね・・・?」

 

まだ少し遠慮しがちな加州の姿があった。

その手には、先ほどは持っていなかった風呂敷が。

 

どうしたのか不思議に思っていると、加州は続ける。

 

「主!!俺もここに住む!!!」

 

呆然とするカオナシの横を通り、加州は家の中に入っていった。

 

(あ、頭いたい)

 

カオナシの衣装に身を包んだ姉は、ついつい頭をおさえたのだった。

 

 


 

 

カオナシの衣装は、2205年の技術で作られている。

それは、被りものという感覚がない。暑くもならず、自分はいつもの状態でいられる。

それなのに、カオナシの衣装を身につけると、本物のカオナシのように背が伸びて見えるし、何より、足元も少し透けてみえた。

2205年のコスプレグッズはハイレベルである。

なので暑い日でも問題なく身につけることはできたし、手なども自分では問題なくつかえていたし、苦痛を感じない。なにより周りからも本物の式神と疑われるくらいの出来だった。

ついでに、23世紀になっても受け継がれているジブリはマジですごいなと関心してしまった。

 

そんなハイスペック衣装のため、加州が来ることは全く問題なかったのだが、1つだけ問題があるとしたら、勝手にカオナシの設定を忠実に守っているために、話せなくなるということだけだった。

 

加州は審神者にベッタリになった。

ずっと側から離れない。

「加州、うぜぇ」と言った日には自殺しようとするため、扱いが難しい。彼の心は完全には治っていないのだ。

 

さすがに鬱の人にひどいことを言えるはずもないので、気にしないことを選択した妹は、うまく加州を扱っているように見えた。

 

「しっかし、こんなキレイな家初めてだよ。見たことないものいっぱいあるよね」

「まぁ君たちの住んでるのは和風の家だけど、ここは洋風の家だからね」

「ねぇ、俺、洗濯も掃除も頑張るから!だから捨てないでね。ずっとここに置いてね」

「ふふふ、加州よ。昔とは違って、今は機械が全部してくれるのだぞ」

「そうなの!?じゃあ、俺使い方覚えるー!」

「うむ、せいぜい頑張りたまえ」

「うん!頑張るね!」

 

ニコニコと笑う加州が、幸せそうならいっか!と思ってしまう。幸せそうならいっか!

 

そこへピンポーンとチャイムが鳴った。

 

「審神者さん、遊びに来たよ♥」

「早く開けてくれんね」

「あ、虎くん、庭のほうに行っちゃダメですよぉ・・・!」

「カオナシさーん!遊びましょー!」

 

短刀ちゃんたちである。

 

天使たちの来訪に、すかさず玄関のドアを開けたカオナシ。

きっと内心めっちゃ喜んでいるに違いないと妹は思った。

 

短刀たちが中に入ると、そこにいた人物に驚く。

 

「あれぇ!?加州さん!?」

「どげんしたと!?」

 

「なんだ、お前達か。俺、今日からここに住むことにしたから」

 

そうサラリと言った加州は先ほどの甘えたちゃんではなく、少しクールな印象を受けた。

 

その加州の言葉と同時に「ええー!」「ずるいー!」「う、羨ましいです・・・!」と声が上がる。

秋田だけは、すでにカオナシのお膝の上でお菓子を食べ始めていた。

 

「僕たちもここにすみたーい!」

「お前達は一期一振が心配するだろ」

「はぁ・・・それが一番の問題ったいね~」

「今日は一期どうした?」

「今日はいちにい出陣してるの」

「や、薬研兄さんが、行くなら今だぞって言ってくれたんです・・・!」

「え、薬研に会いたい、薬研かっこいいじゃん」

「え!主!薬研のこと好きなの!?」

「うん好き」

「お、おれのことは!?」

「好き(って言わないと病んでるからな)」

「よかった~俺も主大好きー♥」

「ええ、加州さん、もう主って呼んでるの?」

「俺たちも主って呼びたか!」

「で、でもいちにいが嫌がります・・・」

「そうだよね・・・」

 

しゅんとなった短刀たちに、カオナシがお菓子を振る舞えば、すぐに明るい顔になってお菓子に手を付ける。チョロい

 

「!?」

 

そんな時、外に殺気を感じ、全員が窓の外に目をやる。

どうやら、門から入れないでいるようで、これ以上は近づいてこれないようだが、まぎれもない殺意だ。

 

誰が来たのかと、妹は外に出る。

加州もついてきた。「俺が主を守るから!」と言いながら。

結界があるから大丈夫なのだが、とりあえずほっとくことにした。

 

外に出てみると、そこには・・・

 

「あ!出てきましたね!!」

「さぁ、兄弟たちを返しなさい!!」

 

そこには刀を持った粟田口の2人が立っていた。

 

 


 

 

今流行りの双子コーデなのかな?と妹は思った。

目の前の短刀たちには見覚えがある。

名前もわかる。

前田藤四郎と平野藤四郎だ。

だけど、どっちがどっちだかはわからない。どっちがどっちなのだろうか。

 

「審神者め!!兄弟たちに手を出していたら許しませんよ!!」

「人質をとるなんて卑怯です!!」

 

2人はキャンキャン叫んでいる。

どうやら、粟田口の兄弟の後を心配でつけてきたようだった。

 

その様子を見ていたカオナシは(あの2人、審神者には従順だから、あんなに敵意剥き出しなの珍しい!)とツンツンしている2人を眺めていた。

 

そして、次々と出てくる藤四郎兄弟たちに、前田と平野は少し安心したようだった。

 

「みんな、無事で何よりです!」

「あれー?平野に前田、何してるのー?」

「何してるの?じゃありませんよ!みんなが誘拐されたと思ってあとをついて来たのです!」

「ひどいことはされていませんか?」

「はぁ?俺の主が変な事なんてするはずないじゃん」

「清光、お前がいうな」

「(´・ω・`)」

「そげん心配せんでも、俺たちは大丈夫たい」

「審神者なんて信用できません!!さぁ、早く戻りますよ!」

 

プンスコ怒っている前田と平野の前から、妹は消え、一度中に入ると、何かを持ってきた。

 

「主、それ・・・何?」

 

戻ってきた審神者の手に目をやると・・・そこには・・・

 

「これはどんぶりプリンである」

 

それは、刀剣たちが今まで見たこともないものだった。

 

「おとなしく殺意をなくし、こちらに来るというなら、このどんぶりプリンを分けてあげよう!」

 

そう、審神者は言った。

そして、プルプルのそれを匙ですくうと、一口口の中に入れたのだった。

 

「うまー!」

「え、主!俺も食べたい!!」

 

仕方ないなぁと言いながら、一口食べさせる。

ブワッと加州からサクラが舞った。

 

「え、な、何これ、何これ、めちゃくちゃ美味い!!こんなの初めて食べたよ~~~!!!」

 

「僕も食べたい!!」

「俺も!!」

「ぼ、僕にもください・・・」

「カオナシさんの手作りですか?」

 

秋田の質問にカオナシは頷く。

すると、大喜びで秋田も強請ってきた。

 

それぞれに一口ずつあげると、

 

ブワーッ

 

チーズケーキの時のようにサクラが舞う

 

その様子を見ただけで、相当それが美味しいのだということは前田と平野にも伝わった。

伝わったけど、一期一振や他の兄弟を裏切ることが出来ないため、身動きが取れない。

 

他の子たちはというと、どんぶりプリンの取り合いだ。

今にもなくなりそうなほど、群がっている。

 

「おいしー!!」

「柔らかくて甘くって、ほっぺたが落ちそうですー!」

「うまかー!」

「こんな美味しいもの・・・はじめて食べました・・・!」

「主って料理の天才!」

 

パクパクと次から次へと食べる5人の姿に、前田と平野は喉を鳴らす。心の中ではすごい葛藤だ。

 

「あーあ、早くしないとなくなっちゃうよー」

 

そう妹が声をかければ、ムッとしたような顔を見せた。

頑固な2人はそこから動けずにいたのだった。

 

そして、結局

 

「「「「「ごちそーさまでしたー!」」」」」

 

どんぷりプリンは5人の刀剣たちによって、キレイに食べられてしまったのである。

キレイなお皿の底の見た瞬間、絶望の顔をする前田と平野。

 

素直になればいいのに、と妹は思った。

 

そこに、

 

ギィッといつの間にか中に入っていたカオナシが手に何かを持って出てきたのだった。

 

それは、今2人が食べたくて食べたくて仕方がないどんぶりプリンだ。

 

カオナシは2人の前に近づき、匙で一口分をすくって、目の前に出した。

 

ゴクリと2人の喉がなり、

 

「し、仕方ありませんね!」

「ど、どうしてもと言うなら!」

 

そう言って、結界の中に入ってきた2人は、どんぶりプリンの美味しさに、桜を散らせたのだった。

 

結果:短刀はお菓子で釣れる

 

 

結局、前田と平野は、家の中に入って、みんなで楽しく遊んだり、お菓子をたくさん食べて、最後にはカオナシ恒例のお守りをもらって嬉しそうに帰っていった。

出陣から戻った一期は、弟たちがどんどん懐柔されていく様を見て、胃が痛くなった。一期一振も不憫だなと、その場にいた刀剣たちはみんな感じていたのであった。

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