本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の二

はぁ・・・良い朝だ・・・

空気は淀みきってるけどね!!!

 

 

 

本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の二

 

 

 

さて、双子が来てからすでに一週間が経とうとしていた

 

その間、2人がやったことと言えば、

 

引きこもり

 

だけだった

 

 

うかつに外に出れば切られるのはわかっているため、うかつに外にも出れない

初日に三日月に切りかかられたことを話せば、政府は「まぁゆっくりやりなさい」という寛容なことを言ってきた

みすみす優秀な審神者を殺されてはたまらないからだ

むしろ、2人が戻ってきて、新しい本丸を作ってくれるのを政府は待っている

ブラック本丸にこりごり!という状態になってほしいというのが本音だった

 

しかし、実際のところ

 

「やっべーーーーーーー!!!!!青春△きたーーーーーーーーーー!!!!」

「いいなぁ!ニーナと嵐さん!!」

「いやぁ、本当はコウイチと△やりたいけど、いかんせん相手がルカときた・・・」

「ルカと相性悪いからねきみw」

「いや、でも青春△はいいぞ・・・キュンキュンするな・・・スポーツマン最高である」

「激しく同意」

 

ブラック本丸は天国と化していた

 

 

とりあえず危険なブラック本丸で下手しないようにね!と政府が言うものだから、2人にノルマはなかった

いつもなら早く手入れしろ!と審神者をせっつく政府も、この2人があまりにも優秀なために放置

そのため、2人は一週間も家で引きこもり生活を送っていたのだった

 

食事も漫画もゲームも、必要なものは全てsanizonで頼めば一瞬で届く

元々引きこもりの素質がある、オタクな2人にとっては天国のようなところだった

というか、まさに天国だ

やべぇ、ブラック本丸最高、これで給料もよくて、何しててもいいとか、一生ここに住みたいとまで思っている

それくらい幸せを感じていた

 

「はぁ・・・マジで最高だなニーナ好き・・・」

「うけるw」

「きみは今誰やってんの」

「クラヴィス様ぁ」

「クラヴィスw好きだなw」

「クラヴィス様は私が救わなきゃ」

「出たw謎の使命感w」

「クラヴィス様をお外大好きにしてやる」

「やめてやれwww」

 

「審 神 者 様」

 

いつ話しかけようが迷いながらも、こんのすけは2人に声をかける

この一週間、2人の様子を見ていたが、ずっと漫画・ゲーム・アニメ・ネットのみで生きていた

しかし、ものすごく幸せそうなのだ

目的を忘れてしまったのではないかと、焦るのはこんのすけのほうだった

 

「なぁにこんのすけ」

「何じゃございません!いつになったら手入れに行くのですか!」

「だって、外出たら切られるしー」

「しかしこのまま何もしないのも」

「まぁまぁ、いいから落ち着いて落ち着いて」

「あ、お、おやめください!!ああ~~~~~」

 

そういって、姉の膝でもふもふされるこんのすけ

狐好きの彼女によって、こんのすけはモフモフされ続けていた

そうして一週間も引きこもっているのだからふがいない

 

「いやぁ、マジで天国だわ・・・」

「ねー」

「こんなお金のこと気にしないで買い物したの始めて・・・」

「ね、支度金たくさんもらったしね」

「引きこもりだから服とかいらんしさ、ゲームとか漫画買っても全然余るからね」

「私パソコンもう一台買ったけど、余裕だわ」

「ハイスペックパソコンなw」

「オンラインゲーム用だよw」

「審神者様~お話を・・・お話を・・・」

 

そう言いながらもこんのすけはモフモフされ続けていた

その様子を少し不憫だなと思いながら妹が笑っていると、

 

 

!!??

 

 

外から放たれる殺気にいっきに現実に引き戻される

1人じゃない、複数の殺気だ

 

「・・・外にいるね」

「うん、何人かいるね・・・」

「審神者様とお話しにきたのでしょうか?」

「いや、この殺気はお話しどころじゃないだろwww殺しに来てんだろ間違いなくwww」

「闇落ちしないようにここの人たちは殺さないみたいだけどね~、まぁ間違いなく切られちゃうよね~」

「こんのすけなんて、あっというまにきつねうどんに乗せられるから気をつけなよ」

「ひえ~~~~~」

「きつねうどんは油揚げだからwきつねじゃないからw」

 

そう言いながら双子は「そういえばお腹空いたね」「私きつねうどん食べたい」「じゃあうどん作ろう」とのん気なものである

 

いつになったら、2人は刀剣たちと話し合いをするのか、気が気じゃないのはこんのすけである

 

出来上がったうどんをすすりながら、口を開いたのは妹だった

 

「んじゃ、そろそろ行きますか」

 

ぽかんとしながら、油揚げを落としたこんのすけは2人を見た

 

「行くってどちらにですか!?」

「本丸」

「そうだね、そうしよう」と姉も頷いている

 

なぜ、このタイミングで???とこんのすけんは不思議な顔で見ていた

 

うどんを口にしながら、妹が口を開いた

 

「一週間様子見てたんだよ、どれくらいの刀がこの離れをうろつくか」

「多分、あの三日月は毎日来てたよね」

「あとは殺気を放っていたのは、さっききた奴らと・・・」

「3日前くらいにも何人かいたね」

「でもそれ以外は殺気もなく様子を見てるだけだった」

「多分、あの中で本当に危険なのは三日月含めた数人だわ、他の大多数はこちらに危害を加える気はないと思う」

「傷だらけなんてかわいそうだからね・・・手伝い札たくさんもって行こうっと」

「そうしようそうしよう」

 

2人の会話が意外や意外で、こんのすけは更にぽかんとなった

ただ遊んでいるだけだと思っていた2人は、きちんと考えて行動していたということだったのだ!(いや、実際遊んでいたのは事実だけど)

 

「さ、審神者様~~~~~!!こんのすけは感動いたしました!!まさかそこまで考えておられるとは!!感服でございます!!」

 

こんのすけは喜びのあまり、妹に飛びかかろうとした

しかし「けものクサい」と避けられてしまった

妹はこんのすけに少し冷たい

 

「まぁ、食べ終わったら行ってくるから見ててよこんのすけ」

「こんのすけは危ないからお留守番しててね?」

 

そう言って、2人はうどんをすする

その姿はいつもと変わらなかったが、なんとも頼もしいとこんのすけは思ったのだった

 

 


 

 

「さおちゃん、手伝い札持った?」

「持った持った!!」

「荷物多すぎて笑えるw」

 

妹のほうはジャージという軽装に関わらず、姉のほうはカオナシの衣装に身を包み、なぜだか海外用の大きなトランクケースを持っていた

 

「だって手伝い札50枚は多くて(´・ω・`)」

「重いよなw」

「だ、大丈夫でしょうか・・・?そんな格好していたら刀剣たちの怒りを買うかもしれませんし、そんな大荷物で切りかかられでもしたら逃げられませんよ・・・」

 

心配するこんのすけの頭を、優しく姉が撫でる

 

「大丈夫だよ、行ってくるね」

「何を持って大丈夫なのかwカオナシw」

「イケメンこわい」

「わからなくもない」

「今から私はカオナシです」

「OK、こんのすけ、今日はから揚げにしようと思う」

「!! おかえりをお待ちしております!!」

 

こうして、2人は意気揚々と離れをあとにした

 

 


 

 

最初に気付いたのは、つい先ほど離れに殺気を送っていた刀剣だった

その手はしっかりと刀を構えていた

 

「・・・いってくる」

 

その一言に、本丸の誰もが恐怖した

そうして、審神者が近づいてくることにやっと気付く者も多かった

 

どうしよう折られたら

どうしよう傷つけられたら

怖い

 

それが恐怖で顔を歪ませているほとんどの刀剣たちの気持ちだった

 

あの審神者が来てから、本丸は少しずつ浄化されていった

以前は草木も生えず、常に天気が悪く、池も泥まみれで生き物が住める状態ではなかった

しかし、あの少女たちが来てからというもの、たった一週間なのに、少しずつ緑が見られるようになってきたのだった

また、一日のうちに数分ではあるが、太陽が見られるようになった

日に日に太陽が出る時間が伸び、今では30分ほどの長さになった

 

刀剣たちは、本丸の環境が審神者の霊力に左右されることは知っていた

心が淀んでいる審神者の本丸は、本丸の空気も淀み

心が清らかな審神者の本丸は、本丸の空気も清浄化される

この一週間で、あんなに息苦しかった空気が少しずつ良くなっていた

それでなくてもほとんどの刀剣が傷を負ったまま手入れもされていない状態だ、あんな空気の中では苦しくて仕方がなかった

しかし、そんな状態が改善され、前任者の残したものが少しずつ薄れているのは喜ばしいことだった

忘れたい記憶だ

早く、あいつのことを忘れたい

しかし、一度味わった恐怖は忘れることが出来ず、人間そのものへの失望感はどうしても消えることはなかった

本当は、あの2人の少女は前任者とは違うと心の中ではみんなわかっていても、前に進むことはできなかった

 

 


 

 

「・・・来るね」

 

妹がそう呟くと同時に、目の前には刀が見えた

早い

 

しかし、その刀は2人にあたることなく、空中で止まっていた

 

当然、それを振り下ろした刀の持ち主・・・いや、本人も、身動きが取れない状況になってしまったのだった

 

 

「乙!!!」

 

少女がそうやって声をかける

バカにされているようで、頭に血が上った刀剣は、もう一度、刀を振り下ろそうとなんとか距離をとろうとするが、離れないのだ

 

一方、見たこともない謎の生物は気にする様子もなく、歩き出す

(あれはなんだ?式神か?)

そう思っていると、目の前にいた少女も一緒に歩き出す

すると、空中にピッタリとくっついていた刀剣も一緒に動き出したのだ

手を離すまいと思ったが、なぜだか不思議な力が働いているのか、それ以上刀を握ることが出来ず、ついつい刀を手放す

そうして、相変わらず少女の前で空中で止まっている刀を不思議そうに見てしまった

 

「刀、ゲットだぜ!!!」

(ポケモンみたいに言ったwww)

「お、おい!!返せ!!」

「無理だよ、これ、結界にくっついてるから」

 

そう少女が言うと、少女は何事もないかのように、本丸に向かって歩きだす

 

「やめろ!!あいつらに近づくな!!」

 

必死に殺気を含んだ大声を上げる

しかし、その声は2人には届かないかのように、一歩また一歩と本丸に近づいていく審神者と謎の生物

 

このままでは仲間を守れない

焦った刀剣は、もう一人の謎の生物に今度は殴りかかる

 

しかし、やはりその拳は、謎の生物の目の前でピッタリと動かなくなってしまったのだった

 

「落ち着けたぬき」

 

そう、隣にいる少女は言った

 

「仲間には手出さないから」

「じゃあ、何するつもりだ!!」

「手入れすんだよ」

 

少女がそう告げる

 

彼女は本当にそのつもりなのだろうか

手入れを本当にするのだろうか

手入れをしてまた折れるまで酷使するのではないか

 

そんなことを考えているうちに、本丸の大広間の前に少女たちはついてしまった

謎の生物は、1人でどこかにフラフラといってしまった

しかし、もう一人の少女は仲間たちのいる襖の前で仁王立ちだ

 

焦った同田貫は「まて!」というつもりだったが、

 

それよりも早く、少女は顔に何かを装着した後

 

すぱーーーーん

 

と襖をあけ、

 

「悪い子はいねぇか!!!!!!」

 

なぜか、大声で叫んでいたのだった

 

 


 

 

襖を開けて、一番に見た鬼の顔をした人物に、中にいた刀剣たちは混乱した

中には時間遡行軍がやってきたのかと錯覚したものもいたし、泣きだしてしまう短刀たちもいた

 

そして、数人のものはその”鬼”に切りかかっていた(正しくはなまはげ)

 

一期一振、江雪左文字、山伏国広、長曽祢虎徹

 

主に兄弟や仲間を大事に思う、兄やリーダーと慕われる刀剣だった

その心は、みんな同じだった

 

”兄弟(仲間)を守りたい”

 

たった、それだけの気持ちで切りかかったのだ

 

しかし、先ほどの同田貫と同じく、その刀は空中でピタッと止まって、彼女に届くことはなかった

一向に動かない刀をはじめは離さない4人だったが、彼女が一歩踏み出すと、まるで弟や仲間を守る本能が働いたように、パッと手を離し、弟たちの前へ戻った

 

鬼のお面をかぶったまま、その周りには空中に5本の刀

その異様な光景に、次の手をどうするか刀剣たちが考えを巡らせている時、

大きな声が響き渡った

 

「へい!!5本手に入れたぜ!!カオナシこれ頼む!!」

 

ちょうど、手入部屋を確認し、荷物を置いてきたカオナシが戻ると、鬼のお面をかぶった少女はそう叫んだ

それと同時に、5本の刀は謎の生物が持ち、部屋から出て行ってしまった

 

「何をする気だ!!」

 

大声で叫んだのは山伏国広だった

 

普段は明るく、朗らかで、ムードメーカーになるような彼の顔は、ひどく怒りを含んでいた

そして、続いて

 

「私たちを折るつもりですか」

 

少し冷静に、しかし怒りを含んだ声が響く

 

”折る”

 

という言葉に、短刀たちは過剰に反応した

そして「いちにい、折れちゃやだ・・・!」「いちにい・・・!」とみんなで一期一振に抱き着いたのだった

あの小夜左文字までも、江雪左文字の服を掴んで離さない

あまりの展開にどちらが悪者かわからない・・・

 

その様子を見て、少女はなまはげのお面に手をかけた

 

そして、

 

バッとそのお面をとると・・・

 

 

ごーーーーーーーーーーーん

 

 

そのお面の下には、大仏の顔があったのだった・・・

 

 


 

 

ジャージ姿で大仏の仮面をつけた少女と、しばらく睨み合いが続いた

そこに出てきたのは、三日月宗近だった

 

「はっはっは、お前は相変わらず人を謀るのがうまいな」

 

そう言いながら近づいてくる三日月に、全く怖がる気配もなく、ただ立ち尽くす審神者

 

「ふむ、面白いなそれは」

 

そう笑いながら目の前でマジマジと大仏のお面を見る三日月の顔からは、すっかりと殺気はなくなっていた

それに驚いたのは、周りの刀たちだった

そんな三日月の顔は久しぶりに見た

そう、誰もが思った時

 

「「「「「!!!!????」」」」」

 

先ほど、刀をとられた5人にあった体の傷がキレイに治った

全員中傷から重症の間くらいの大けがだったが、ボロボロだった衣服も全てキレイになったのだ

 

「な、何を・・・!」

「あ、手入れ終わったね」

 

さすが手伝い札を使うと早いね

 

そう独り言のようにいう大仏顔の少女をみんな見た

 

「さぁ、全員その腰についてるものを差し出してもらおうか!覚悟を決めて手入れを受けろ!!」

 

そう少女の言葉に、目の前の三日月が口をひらいた

 

「ほう、手入れを受けなければどうなる?」

 

その一言にその場にいた全員の顔が強張った

思い出されるのは、前任者の悪行

自分に逆らう刀剣たちはひどい暴力を受けた

兄弟刀がいるものは、見せしめに兄弟を傷つけられた

あの時のことは記憶からなくなることはない

いまだに悪夢として夢にまで出てくるのだ

 

みんなその恐怖を思い出し、口を開けない中、少女は首をかしげた

 

「どうなるも何も痛いだけだよね?」

 

不思議そうに聞き返す少女を、更に不思議そうな顔をして刀剣たちは見た

少女は言葉を続ける

 

「っつーかさ、超痛いんだけどマジで、マジで!!!今これ被ってるからいいけど、血とか結構アウトだからアタシ!!こういうの平気なのさおちゃんの方だから!!アタシ昔から血!嫌い!絶対!ダメ!ケガ!」

 

なぜか最後のほうはカタコトになりながら興奮した様子で、審神者は言った

ぽかーんとしている刀剣の中、「・・・ふっは・・・」と声を漏らしたのは三日月だった

 

「はっはっは!!愉快な娘だな。しかし、この傷をつけたのはお前たち人間だ。5振りは無理矢理手入れされたようだが、他の者たちはそう簡単には手入れをさせるとは思わぬ」

 

さてどうする?というように、三日月は少女を見下ろす

 

すると少女は

 

「・・・仕方ない・・・」

 

そう言って、ジャージのチャックを開き、胸元に手を入れた

 

((((殺られる))))

 

もちろん、そう咄嗟に判断したのは、その場にいた全員で、刀を持っている者は刀に手をかけ、先ほど刀を奪われたものたちは、弟たちを守るようにその目の前で手を広げていた

 

彼女の行動次第で、今にも切りかかる準備は整ったと言わんばかりに緊張感が走る

 

そして、彼女が胸元から出したものは・・・

 

 

一冊の本だった

 

 

「・・・この手だけは使いたくなかったが・・・」

 

 

そう言いながら本のページをペラッと捲った

 

それと同時にその場に漂う、いい香り

 

 

「この本は、見たページの食事のニオイが嗅げるなんとも素晴らしい未来の道具だ!」

 

 

そしてそのページに写っている写真をみんなに見せるように掲げると、

 

 

「ハンバーグ」

 

 

(((((!!!???))))

 

 

いきなり語りだしたのである

 

 

「肉汁たっぷりのジューシーなお肉と、ソースが相まって、何とも言えない絶妙なお味!アタシは大根おろしを使った和風ソースが好きだけど、男子に人気なのは断然デミグラスソースだね!!肉汁とデミグラスソースが混ざり合って、ポタポタと垂れるその様は食欲をそそるよ!!あとチーズを乗せたり、卵を乗せたりするのも味が変わって美味しいんだよね。アタシは断然芝のハンバーグが好きだなぁ…。鉄板の上でジュージューやけるお肉は本当に美味しかったよ。ビーフ100%で柔らかくて、付け合せの野菜も旬の野菜を使っているからホクホクで美味しいんだよね。はぁ、食べたくなっちゃったなぁ…芝のハンバーグ…」

 

 

そう言いながら、漂ってくるのは、そのページに載っている「はんばーぐ」という食べ物なんだろう。

ゴクリと誰かの喉がなり、どこからか「グルルルルル」とお腹の鳴る音も聞こえた。

「い、いちにい・・・」と困惑気味に兄を見ている短刀たちは、我慢できないと言わんばかりの顔だった

 

 

そこで、ペラッと次のページをめくる審神者

 

 

「あ、次はカレーか」

 

 

またしても先ほどとは違う、食欲を誘ういい香りがその場に充満する。

そして、彼女は、また高く本を掲げ、「これカレー!」とみんなに見せているのである。

 

「拷問だ・・・」誰かがそうボソッと呟いた。

 

確かにこんな良いニオイを漂わせながら食べれないとはひどい拷問だった。

ここの刀剣たちは”食べる”ということを知らない。

なぜなら、前任者が「刀は何も食べる必要がない」と食事を与えていなかったからだ。

それでも、刀剣たちは知っている。

昔の、刀として使われていた時の主たちは、それはもう、たいそう美味しそうに食事をとっていたことを。

供物と言って自分たちの前に並べられた時の、そのいい香りを、彼らは知っていたのだ。

 

目の前の審神者の彼女は淡々とその食べ物の説明をする。こうやって食べるのが美味しい、あそこの店が美味しいなど、聞いただけでお腹が空いてしまう情報も交えて、だ。

 

「・・・手入れを受けなかったら、永遠とここで今まで食べた美味しいもの紹介をするから!!!!」

 

そう叫ぶ彼女の目は本気だった・・・

 

「・・・手を出さないと約束するか?」

 

彼女の目の前にいる三日月はそう言った

手入れ中に何かされないための”約束”をとりつけようというのだ

 

静かに、本を閉じると、審神者の少女は言う

 

 

「・・・あんたたちに手だしても、こっちのメリットない」

 

 

そう呟いた

 

 

「めりっと?」

不思議そうな顔で三日月は彼女に問い返す

 

「ああ、えっと、利益?みたいの?別にあんたたちを傷つけても何にも良い事ないじゃん。むしろ見ていて痛々しいから、こっちとしては早く治したい。見てるの痛い。それに・・・」

 

キッと、彼女は刀剣たちを睨んだ

 

「いつまでもあいつにつけられた傷を持ってるままじゃ、ずっとあいつのこと忘れられないよ!!」

 

そう言ったのだ(大仏顔で)

 

「大丈夫、カオナシはすっごく治すのうまいよ。治すの上手すぎて、短刀ちゃんたち寝ちゃうんだから。治された5振りも気持ち良かっただろ!!!!」

 

確かに、弟たちを守らなければと思い、気を張っていたとはいえ、あの手入れは今まで感じたことのないような優しい手だったことが伝わった。

以前の審神者にはなかった、そんな優しさだった。

 

「ふむ・・・では皆のもの、手入れを受けると良い」

 

三日月は、目の前の審神者の反応を見て、そう言った

 

「・・・信頼できると思ったのかきみは」

 

三日月に、鶯丸が問う

 

それに対し、三日月は

 

「なぁに、信用できないと感じたら、すぐに切ればいいさ」

 

そう、告げたのだった

 

 


 

 

内心穏やかじゃない、被害者はこっちだった

 

 

(ひ、ひえ~~~~~~~まぁちゃん刀だけ持ってきてくれると思ったのにいいいいいいい!!!)

 

 

すっかり刀だけ持って来てもらえると思って安心しきっていたのだが、次から次へと、刀剣本人が刀を持ってくるのだ

傷つき、肌があらわになっているイケメンたちの目のやり場に困る

 

(まぁちゃんは何をしているんだ!!)

 

相変わらず、妹はグルメ本の解説をしており、何人かの刀に「もうやめろ!」「手入れ受けるやらやめろ!!」と怒られていた。(もうただの嫌がらせでしかない)

 

まずは短刀からと、小さい短刀たちが部屋に入ってくる

すでに修復された刀を取りに来た一期一振は、その様子をじっと眺めていた

まるで

”少しでもおかしな真似をしたら切る”

と無言の圧力をかけられているかのように

 

(ひえ~~~~~~視線の暴力!!!でも怒ってるイケメンも悪くない・・・)

 

そして、何より

 

(やばい)

 

(これはやばい)

 

短刀ちゃんたちが天使だったのだ

 

初めはビクビクしながらだったが、手入れを受け始めた短刀たち

五虎退などは「よ、よろしくお願いします・・・!」とすでに涙目だったが挨拶だけはきちんとしていたのだった

さすが粟田口。さすがお行儀が良い。最高。天使。尊い。

 

五体投地をやりたい気分であるが、変なものを見下すいちにいの目線がぃたぃ

 

(まぁ・・・今カオナシだし・・・かなり警戒されてるよな・・・)

 

そう思いながら次々と手入れをしていく

 

「あ、ありがとうございました」

と秋田にお礼を言われれば、律儀に頭を下げ挨拶を返す

なかなか律儀なカオナシの姿に、短刀達は非常に興味深々であった

 

 

短刀が終わり、脇差、打刀、太刀、大太刀、槍、薙刀と続き、終わった頃にはすっかり体力も消耗していた

 

 

死因:イケメンの過剰摂取

 

 

一日で、多くのイケメンの半裸を見てしまった姉は、それだけで体力的にも倒れるほどだった(霊力的には全く問題なかった)

 

 


 

 

無事に全員の手入れを終え、2人は離れに戻ろうとしていた

 

そこで

 

「まて」

 

と三日月に足を止められる

 

なんだじじいしつこいなと、妹は心の中で悪態をついた

 

「なんだじじいしつこいな」

(何言ってんのまぁちゃん!)

 

まぁついつい口にも出てしまったのだが・・・

 

「貴様ら、何を考えている」

 

と、三日月は彼女たちに問いかけた

質問の意味がよくわからなくて、2人で顔を見合わせた

 

それに続けるように、更に三日月は口を開く

 

「よもや、手入れをした程度で我々が”主”として認めると思ってはおるまいな」

 

冷ややかにそう言い放った三日月に、周りの刀剣たちも同意しているようだった。

 

「我々に主はいらぬ。・・・が、お前達が我々に手を出さないということも、そんな細い手では何もできないということもわかった。残念ながら、この姿を保つのにはお前達の力が必要だ。お前達はどうすることが一番良いと思うか、聞かせてはくれまいか」

 

つまりは、主はいらない

しかし、刀剣たちが顕現し続けているためや、傷を癒すためには審神者の力が必要だということだ

 

それは、その場にいた全員が理解していた

 

しかし、審神者と一緒にいるのは怖い

 

どうしていいかわからないのだ

 

そこで、口を開いたのは、いまだ大仏顔の少女だった

 

「あ、安心して、別に主になろうとも思ってないし、向こうの家に引きこもってるから」

 

そう告げると、また足を進めようとする

当然、刀剣たちはポカーンである

本日何回目だろうか

 

前任者は、とにかくレアな刀を集めることに必死で、刀への執着はそれはもうひどいものだった

自分が主であるということを刀剣たちに徹底的に覚えさせ、自分のほうが上であるといつも言われていた

 

それなのに、この少女は自分たちには全く興味がないというように、あっさりと「主になろうとも思っていない」と言い放ったのだ

 

しかし、彼女は「あ」と言いながら足を止めた

 

「でも、出陣とか遠征とかしてある程度成果を出さないと政府から監査入って、この本丸潰される可能性もあるんだ。だから、勝手に出陣とか遠征してもらえると助かる。なんにも私たち指示しないから、勝手に自分たちで部隊作って行ってきてよ。シクヨロ☆」

 

そう、大仏顔の彼女は言い、すたすたを歩いていってしまった。

後ろの式神のような生き物がペコリと頭を下げてその後を追う。

なんともシュールな光景だった。

 

その夜、刀剣たちは前任者の悪夢を見ることはなかった。

代わりに見た夢は、美味しいご馳走が並んだ夢だった。夢だけで料理が食べれないなんて、やっぱり拷問だと、みんな思った。

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