学校の帰り道。
その人は言った。
審神者になりませんか?
本当は怖いブラック本丸で双子生活 其の一
その男は言った。自分は2205年からやってきた政府のもので、時間遡行軍と戦う刀剣男子を顕現できる審神者を探しているということなのだ。
もちろん最初は嘘だと思ったし、正直「頭やべー」「変質者だ!」なんて思っていたけど、未来の技術というものを見せつけられると、信じずにはいられなかった。
西暦2205年の技術は、こちらを納得させるには充分すぎるほどだった。
特に、立体の映像機器に映し出された戦いの映像は、映画にしてはリアルすぎた。あまりにもひどいその光景に目を伏せたほど。
そして、最後に「時間遡行軍と戦い、歴史改変を阻止しなければ、今こうして話しているあなたたちも消えてしまう。アナタの家族も、友人もみんな消えてしまうのです。」
その言葉は彼女の言葉に突き刺さった。そんなことを言われてしまえば、人を信じやすい素直な彼女は悩まないわけにはいかないのだ。
つまりは、政府のものの戦略通り、彼女は審神者になることを決意したのだった。正しくは”彼女たち”だが———–
今日は審神者の研修施設の卒業式だった。
明日からいよいよ本丸に派遣される。
自分たちの新しい本丸を作り、時代を守るのだ。
そこで、政府の担当補佐官と話しをする。
審神者には1人、政府の担当がつくこととなっていた。審神者になるにあたり、本人たちの希望はある程度優遇される。2人は今後の希望を聞き取りされていた。
「で、ご希望は?」
「出来れば和風の家より超綺麗な洋風の家で、最新の設備の家」
「ま、まぁちゃん・・・」
「わかりました。本丸は無理かもしれませんが、可能な限り用意しましょう。他にはございますか?」
「あ、さおちゃん刀剣男子たち怖いからなんかかぶり物したいいらしいよ」
「馬のかぶり物でも用意しますか?」
「えっと・・・カオナシ・・・とか?」
「カオナシwww」
「カオナシってあのカオナシですか??」
「もう全身を晒さないスタイルwww」
「・・・ダメでしょうか・・・?」
「いえ、用意しましょう」
「あと、漫画とーゲームとーお菓子とー」
「そういうのは、自分で揃えてください。審神者様は私たち政府の公務員と違ってお給料いいんですから」
「えー最初に用意してくれよ~」
「支度金はもちろんお支払しますので、そちらでご用意ください。いちいちアナタの要望聞いてたら大変なことになりますので」
「この担当、辛辣だな」
「まぁちゃんがけっこう無茶なこと言ってるような気もするけど」
「ああ、そういえば、お給料ですがお2人で普通の審神者様1人分のお支払になりますので」
「え!?なんで!!??」
「なんでって・・・言わなくてもわかるでしょ」
「ふざけんな!!!ふ、ふざけんな!!!」
「あなたたちニコイチなんですから」
そう。
この2人、実は双子だった。
そして、その能力も面白いくらい仲良くハンブンコだったのだ。
妹のほうは、好奇心旺盛、想像力も強く、”何か”を創造するということが非常に得意であった。
そのため、審神者の研修中でも鍛刀や刀装作りが得意で、常にトップだった。
そして姉のほうは、すでにある、目に見える”もの”に寄りそうということが得意だった。
そのため、手入れはトップクラス。
また、計画が好きで、真面目な性格から、戦術が非常に得意だった。どの戦力をどのように配置するかが非常にうまく、これまた戦術でもトップだった。
一方で、相手が得意とすることは非常に苦手で、妹は手入れが苦手だし、姉は鍛刀や刀装作りが苦手だった。
はじめは成績優秀な双子がきたということで政府も色めき立っていた。もちろん、双子それぞれに本丸を任せるつもりだったが、蓋を開けてみると見事に得意不得意な分野が分かれている。
それに、2人を離してしまうと、途端にその能力が効力を発揮しなくなる。妹は鍛刀も刀装作りも出来なくなり、姉は手入れが出来なくなってしまうのだった。まるで抜け殻のようになってしまった。
これには政府も誤算だったが、しかし良いこともあった。
審神者は霊力を使い神である刀剣男士たちと向き合うため、少しずつ霊力を削られ、命までも削られていってしまう。
しかし、この双子は2人でいる時はとにかく霊力の枯渇がない。むしろ霊力は2人でいることで常に増え、手入れや鍛刀で減った霊力が元通りになるのだ。しかも、審神者は苦手な行動をすると余計に霊力が減ってしまう傾向があるのだが(例えば手入れが苦手だと、手入れで大幅に霊力が減ってしまう)この双子は、お互い得意なことしかしないため、霊力が減ることがほとんど少ない。
つまり、2人でいるうちは無敵。どんな審神者にも負けないハイレベルな手腕に一気に期待が高まった。
だが、残念なことに2人は「2人で審神者1人分」として見なされるため、「お給料は2人で1人分を割ってもらえばいいよね!」という政府のブラックな考えから、お給料は2人で1人分に決まってしまったのだった。
「は、はぁ~~~~~???意味ないじゃん!!審神者って給料高いはずなのに、2人で割ったら意味ないじゃん!!」
「でもまぁ、あなたたち2人で1人の審神者!ですからねぇ」
「仮面ライダーWみたいな言い方すんなや!!」
「まぁちゃん・・・仕方ないよ。だって本当に2人でお仕事しないとできないんだからさー」
「さおちゃんはまたそうやってすぐに諦める!!おい!!もっと上に掛け合ってなんとかしろーーー!!」
ガクガクと担当の胸倉を掴みゆする。担当は冷静に「やめてくださいよ」と言いながらなすがままだ。
そんな揺られていた担当のファイルから、スッと一枚の紙が落ちた。
「あの、落ちましたよ・・・」
隣で困った様子で傍観していた姉が、その紙を拾った。
そして、それを見て声をもらした。
「ブラック・・・本丸?」
その紙には「ブラック本丸に務める審神者大募集!」と書かれていたのだった。
「ああ、それね、あなたたちには関係ないですよ。だって、あなたたちは新しい本丸希望ですものね。明日には初期刀を1口選んでもらう予定なので、まぁお気になさらず」
「ブラック本丸って・・・なんですか?」
「ブラック本丸は、審神者によって刀剣男士たちが虐げられている本丸のことです。ほとんどの本丸は審神者と刀剣男士の関係は良好で、仲良くやっているのですが、中には神より自分のほうが上だと勘違いするバカもいるんですよね。主って神に崇められるもんだから、ますます調子に乗って、刀剣男士たちへの暴力・過剰な出陣、解刀、破壊、手入れをしないで放置・・・中には夜伽の相手をさせる審神者もいます。」
「え、審神者って9割おっさんだよね?夜伽ってきもくね?」
「きもいんですよ。そうやって、神を無益に穢し、心に大きな傷を残すやつらもいるんです」
「・・・そのブラック本丸の刀剣男士たちはどうなるんですか・・・?」
「基本的には、もちろん刀剣男士たちへの虐待は神への冒涜にあたるので逮捕され、審神者の資格をはく奪されます。演練や政府の調査で明るみに出ることが多く、我々政府も対処しています。何と言っても、虐待された刀剣男士をそのまま刀解することが出来ないんです。そういうブラック本丸ってレア男士の所有率が非常に高いですし、何より人間に恨みをもったまま刀解して本霊に戻してしまうと、その黒い記憶が混ざり、他の刀剣男士たちが審神者の言う事を聞かなくなる可能性が高くなるからです。出来れば新しい審神者と上手くやってほしいという希望はあるのですが、刀剣男士の心の傷は深く、大体が審神者に危害を加えようとしてきます。中にはブラック本丸に足を踏み入れただけで殺された審神者もいました。それだけのことをしているとは言え、ブラック本丸の刀剣男士たちと向き合うことは難しいんですよ。刀解もされず、誰も手をつけられないというのが本音です」
この担当官は喋り方は淡々としているものの、きっと心根は優しいんだろう。刀剣男士たちを擁護し、ブラック本丸を運営していた審神者を憎むようなそんな気持ちが言葉の端々にとってみられた。
本当は政府でもなんとかしてあげたいが、何ともできないということが悔やまれる、そんな気持ちがこもっていた。
妹はその「ブラック本丸に務める審神者大募集!」と書かれた紙を一読したあと、ガッと目を見開いた。
「まぁ、あなたたちは非常に優秀な審神者なのでそんな危険な本丸へはいかなくてもいいと上も言ってくるので心配いりませんよ。ただでさえ審神者不足で困っているのに、殺されるような危ない場所に優秀な人材を送り込むなんて真似はしませんから。どうぞあなたたちは自分の本丸を作ってホワイト経営してください」
「・・・いく」
「え?」
「このブラック本丸にいく!!!」
「え!!!??」
「だって、ここ!!!」
妹のほうは、紙のあるひと文字を指してこう言った
「ブラック本丸を引き継ぐ審神者は”通常の5倍”の給料を支払う」って書いてる!!」
目を輝かせた妹にあちゃーというように担当は手で頭を覆った
さすがに助け舟を出してもらおうと姉のほうを見る
「・・・私が助けてあげなくちゃ・・・」
姉は姉で、何かを決意したように、ぼそっと呟いた
あ、これアカンやつだ\(^o^)/
担当官は諦めた遠い目をした
次の日。
ゲートの前で、心配そうな担当官から説明を受ける。
「いいですか、くれぐれも無茶はしないように!刀剣男士たちを刺激してはいけまんせよ!」
「わかったってばー何回もきいたよー」
「入った瞬間に殺されることだってあるんですからね!」
「はいはい」
「気をつけます・・・」
「はぁ・・・本当は本部からやめさせろを何度も言われたんですが・・・意思は変わらないんですね」
「給料5倍!(^o^)」
「とにかく手入れをしなくちゃ・・・」
「・・・わかりました。でも、本当に気を付けてくださいよ」
本当はそんなブラック本丸に優秀な審神者を行かせたくないというのは政府の中で強い意見だったが、誰かにブラック本丸を引き継いでほしいというのも事実。まぁ、1人より2人で行ったらなんとかなるんじゃね?という結論に達したらしい。
ブラック本丸を引き継ぐということで、支度金は多めにしてもらった。(通常の10倍)
そして、本丸の離れとして、一軒家もすでに庭に建設済みという話だった。昨日の今日で一軒家が建つなんて、2205年の技術ってすごい。さすがドラえもんの時代の更に100年後だなと妹は関心していた。
「まずは、ゲートの向こうにこんのすけがいるはずです。合流してください」
「はい、わかりました」
「こんのすけに油揚げもっていこう」
「まぁちゃん・・・餌付けする気かい」
「うむ」
「あと、くれぐれも本名は明かしてはいけませんよ。神隠しにあいますからね」
「フルネームじゃなきゃいいんでしょ?」
「まぁ・・・仇名であれば問題ありません」
「じゃあいつも、まぁちゃんさおちゃんだから大丈夫だな」
「うん、大丈夫だね」
「何が大丈夫なんですか・・・本当に気を付けてくださいよ」
担当官は本当に心配そうに2人を見ていた。中には傲慢な政府の犬といった担当官もいるということだが、2人は非常に良い担当官にあたったようだ。
「じゃあ、ゲートを開きます」
「はい!」
「よろしくぅ!!」
その瞬間、ゲートは開き、2人は今いた場所とは全く別の場所に飛ばされていた。
そこで2人が目にしたものは・・・
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
大きな悲鳴が、本丸中に響き渡った
「さ、審神者様、お静かに・・・!」
こんのすけと呼ばれる小さな管狐が慌てて声の主を制止する
悲鳴を上げてしまったのは姉のほう。
なぜなら、目の前の至る所に、血のあとがついていたからだった。
本丸と呼ばれる大きな和風の屋敷は、まるでお化け屋敷のようにボロボロだった。
周りの木々も枯れ果て、天気は悪く、空気もすっかり穢れきっている。
これはなかなか修復には時間がかかるなと妹は思った。
本丸は刀剣男士と同じく、審神者の力でその景趣が決まる。審神者の心が美しく、清らかであれば、住みやすい綺麗な本丸になるのだが、審神者の心が穢れきっていれば、本丸もその心を反映したような佇まいへと変わってしまうのだ。
ここは元々、ブラック中のブラック。草木も生えないような光景が当たり前だったのだろう。空気も吐き気を催しそうなほどに穢れている。この空気は良い審神者が来ると改善に向かうのだが、あまりにも穢れすぎているために時間がかかるのは目に見えてわかったのだった。
「こんのすけ、刀剣男士たちはどこにいるの?」
「さぁ・・・?それがワタクシがここに来た時にも誰も姿を見せず・・・おそらく本丸の中のどこかに潜んでおられるかと」
「そっか、んじゃとりあえず我々の家にいこうかさおちゃん」
「離れね・・・ああ、あそこに見えるのがそうかな」
「そうでございます。何人かの刀剣男士たちの気配が周りにあったので、おそらく突然現れた小屋に驚き様子を見に来たようですね」
「そりゃ、いきなり一軒家が現われたらビビるわ」
「ビビるよね」
「それでは、一先ず離れのほうに向かいましょうか」
そう言って、2人と1匹で離れに向かおうとしたその時だった
ヒュッとものすごい速さの太刀筋
「いたっ」
その風圧でも、腕から血が滴った
「まぁちゃん!!!」
妹を心配するような声をあげて、姉が近づく
その顔は、真っ青になっていた。が、当の切られた本人は平然としていた。
「おや、外したか」
そう言って2人に近づいてくる、衣が擦れる音
その声に双子はパッと顔を上げる
そこにいたのは
「次は、痛みも感じぬように切ってやろうな、審神者よ」
不気味な笑顔を湛えながら近づいてくる、三日月宗近の姿だった
「み、三日月・・・」
姉がやっとの思いで声を漏らす
その目は恐怖ですっかり染まっていた
「おや、今度の審神者は2人なのか?」
そっくりな2人の少女を交互に見る
しかし、やはりその顔からは殺意がにじみ出ていた
「や、やめて!」
妹を庇うように、姉は前に出る
これ以上、傷つけられたくないという思いでいっぱいだった
「なぁに、2人とも殺しはせんさ。早く現世に戻るように少々遊んでやるだけだ」
そう言って、一歩、また一歩と近づいてくる
「・・・こんのすけ」
冷静な声で妹は管狐の名前を呼んだ
「あわわわわ!こ、ここの審神者様は全身傷だらけで見つかり、今も意識が戻っておりません!!!その後、2人の審神者様が引き継ぎでやってきましたが、いずれも刀傷で重症!みなさん初日で現世に戻ってまいりました!!!」
「ガッチガチのブラックじゃねぇか!!」
「審神者様が望んでやってきたんでしょーーーー!!!」
ガタガタ怯えるこんのすけは、今までの審神者の経緯を話し始めた。
その刀で審神者切ってるのか。ガチじゃねーか。
さおちゃん、危ないから下がりな、
そう言おうとした時、
ブシュッ
と、血が噴き出す音がした
それと同時に倒れる姉
審神者様ーーーーーーーーというこんのすけの声が響いた
「さ、さおちゃん!!!!」
倒れてきた姉を支え、名前を呼ぶ
見ると首元から大量の血が流れていた
「なぁに、殺しはせんさ、俺が堕ちてしまうからな。さぁ今すぐに戻るのだ。未来の技術とやらで、今なら助けることが出来るだろう?」
そういう、三日月宗近の顔は、相変わらず不気味なほどの笑みを湛えていた。
「さおちゃんに何するんだ!!!」
「いけません!!審神者様!!」
激高した妹が三日月の元へ走る
そこで、三日月は冷静に、妹の太ももを狙って切った
「ああああ!!!」
あまりの痛さでその場にしゃがみ込む
人生で初めて受けた痛みに顔がゆがむ
それを見ながら、三日月は楽しそうに笑う
「愚かなことだな、あのままあちらの娘と共に逃げ出せば苦しまずにすんだというのに」
それでは、殺さない程度に遊んでやるか
そう言って、三日月は次々と妹に傷をつけていく
大量の血がその場を汚していた
「早く政府の役人とやらを呼んで来い、さもなくばこの審神者は死ぬぞ」
そうこんのすけのほうを言って、微笑んだ三日月に、こんのすけは恐怖を覚えた
それは、トラウマになるには充分な出来事だった
「まぁだやってるよ」
1人で刀をふりながら笑っている男を窓から見る
「こわっ、三日月ってあんな感じだったっけ!?」
「いや、研修であったじじいはもっとボケボケしてて、天然だった」
「だよね!?うわぁ、こわぁ・・・こんなのばっかりいるなんてブラックってこわい!!」
そういってのん気に話す2人の隣で、こんのすけが口を出す
「審神者様、もっと危機感を持って行動なさってください!この本丸は本当にブラック中のブラックなんですよ!!幻想の術がかかってなかったら、お2人共危ないところでした!」
そう、あらかじめゲートを潜る前に2人はある術を施していたのだった
それは「幻想の術」
つまり、切られている双子はまぼろしで、2人はゲートを潜った後はさっさと離れの一軒家に移動していた
そして、さっさと結界を施し、のんびりと家の中を探検し終わった後に、窓の先の三日月を見ていたのだった
「・・・お前は「死」にすら値しない。」
「え!?ちょっとさおちゃん!!どうした!?www」
「いやぁ、蔵馬のセリフ思い出してさ~。あの洞窟で、戸愚兄に幻想見せて一生幻想にとらえるってやつ・・・」
「思い出すなよ今www」
「いや、あの蔵馬めっちゃかっこよかったなって・・・」
「余裕だなきみwww」
「きみこそwww」
「お2人共!ふざけてる場合ではございませんよ!!」
狐に怒られた
なかなか口うるさい狐である
「きちんと今後のことをお考えください!いつでも危険と隣り合わせなんですよ!!」
「そうだよね~~~まずは手入れをどうするか考えなくちゃ」
「この状況じゃ、手入れもさせてもらえないじゃん」
「そうなんだよね・・・あそこの本丸に傷ついている子たちがいると思うと・・・つらいわ・・・」
「無理矢理行ったら切られるしなwww」
「笑いごとじゃございません!!」
なぜだか緊張感のない双子に叱咤する
本来こんのすけはただのサポート役なので、審神者に対しこんなに話しかけることはないのだが、一体何が間違って口うるさくなってしまったのだろうか
「っつーか、この本丸にいる刀剣男士って何人いるの?なんも聞いてこなかった」
「そうだね、何にも聞いてこなかったね」
「今のところ、日本号と物吉貞宗以外は全員です」
「え?」
「ここの本丸の以前の審神者様の悪事がおおやけになったのが、ちょうど博多藤四郎が大阪城にて発見された時でございました。その際にたまたま政府の監査の方が抜き打ちで本丸を訪れ発覚したのです。なので博多藤四郎までは全員揃っております。もちろん短刀や脇差は折られた数が多いため、一体何振り目なのかはわかりかねますが・・・」
今のところ、実装が確認されているのが物吉貞宗までだった。日本号と、物吉貞宗は今のところイベントでしかゲットできないということだったが、おそらく本実装もそのうちされるだろうと思うと、特に焦ることはないなと感じた。
しかし、なかなか手に入りにくい大阪城限定イベントでゲットできる博多藤四郎がいるのは嬉しいことだと姉は咄嗟に考えた。短刀は尊いからね!
「・・・明石国行もいるってことは6面にいけるくらいの強さは短刀ちゃんたちにあるってこと?」
「いえ、それが・・・短刀は使い捨てだと言いながら、明石国行を保護するために何度も何度も低レベルの短刀を出陣していたようです・・・」
「・・・」
「元々主な戦力は太刀以上の刀ばかりで、6面の実装時には短刀の練度はほとんど1のものばかりで、脇差と打刀中心に6面はクリアを目指していたようですね・・・」
「・・・」
「比較的手に入れづらい、レアとされている、平野藤四郎と厚藤四郎に関しては折られることもなく練度が上がっていたようですが、ドロップしやすい短刀たちは・・・」
「・・・」
「ちょっと、さおちゃん大丈夫かい」
「・・・殺す」
「え!?審神者様!?」
「前任者絶対殺す!!!!」
「ええ!?」
「さおちゃんが前任者絶対殺すマンになってしまったwww」
「あんな!可愛い!短刀ちゃんを!!使い捨てとか!!絶許!!!!」
「まぁ気持ちはわかるが落ち着けwww」
「そ、そうです、落ち着いてください!!」
「あああああああ!!!一刻も早く手入れがしたいいいいいい!!!短刀ちゃんたちが苦しんでいると思ったらこっちも胸がいたいよおおおおおおおお!!!うわぁぁぁぁぁん!!!!」
そう言って、ソファのクッションに顔を埋めながら号泣する姉に、こんのすけは困惑した
しかし、前任者の頃の悪行を蔭から見ていたこんのすけにとって、それは喜ばしいことでもあった
なんせ、彼女は刀剣男士のために涙を流しているのだから
「・・・そのように泣いてもらえるだけでも彼らは救われると思いますよ・・・。まぁ全くその気持ちは伝わっておりませんが」
「おいwその一言は余計だw」
「しかし、審神者様のそのお優しいお心は、いつの日かきっと刀剣男士たちに伝わるはずです!!」
「いや、でもまずは気持ち伝えるより、切られないようにするというのが先だからね」
「ですね!!」
「いちいち切られてたら話しもできないしなぁ」
「そうですね・・・」
「まぁ悩んでても仕方ないからさ、まずは・・・」
スッと立ち上がった妹にこんのすけは目をやる
まさか、話し合いに行くのだろうか?
「さ、審神者様、外は危険です・・・」
「わかってるよ」
そう言いながら、パソコンの前に座る妹
こんのすけは何を始めるのかが一向にわからない
「とりあえず考えてても仕方ないから、sanizonでゲームでも頼もうぜ!」
「・・・賛成!」
先ほどまでクッションに突っ伏して泣いていたはずの姉はピタッと泣くのをやめて妹に近づいた
そして2人でワイワイとゲームを選び始める
その様子にぽかーんとなるこんのすけ
一体この2人は、危機感があるのかないのか・・・
つい、その口からため息が漏れた
本当にこの2人に任せていて大丈夫なのかという思いが、頭の中を過ぎる
しかし、この2人の幻想の術も、家に施した結界の腕も非常に見事であった
それは、今までこんのすけが見てきた人間の技の中でもトップレベルだった
不安になりながらも、この2人を信じるしかないと、こんのすけは2人を見つめるのだった
「こんのすけには、稲荷寿司注文してあげるね」
そうして姉からのその提案に喜び、家の中を走り回る・・・
sanizonで注文すると、玄関にいくつもの段ボールが一瞬で届いた
23世紀の通販すげーと感心しながらも、段ボールを一つ一つ開けていく
1人は乙女ゲーを始め
1人は漫画を読みはじめ
1匹は稲荷寿司にかぶりつく
こうして、緊張感のない3人の1日目は過ぎて行ったのだった
三日月が新しい審神者の様子を見に行ってから戻ってこないと、本丸の中で騒ぎになった
三日月は、ここの本丸の中では顕現されたのは遅い
しかし、自分たちに危害を加えていた審神者を追い出したのも三日月だったため、実質刀剣たちのリーダーのような役割をしていた
新しい審神者が来たら、すぐに刀剣たちは気付く
そうして、その審神者たちに”話し合い”を仕掛けるのが三日月の役目になっていた
この日の前日に、いきなり庭に見たこともない小屋が急に現われた
それは、刀剣たちには新しい審神者の訪問を予告しているのと同じことだった
案の定、2人の人間の気配を感じた刀剣たち・・・
三日月が「少し遊んでやるか」と出て行った姿を、刀剣たちは息をひそめて眺めていた
しかし、その三日月が戻ってこないのだ
嫌な予感が脳裏を過ぎる
三日月を呼び戻すために、代表して石切丸と鶴丸が庭にいる三日月の元へと急ぐ
(まさか、最悪な事態だけはよしてくれよ・・・)
そう考えながら、庭を見渡すと、三日月は元気な姿でそこにいた
しかし、その様子はいつもと違っているのだ
なぜなら、三日月は、何もないはずの空間に「どうだ」「そろそろ降参か」「早くここから立ち去れ」と言いながら刀を振りかざしているのだ
その様子に慌てて声をかける
「三日月!!」
その声に、三日月がハッとして振り向く
2人が呼びに来るまで刀を振りかざしていたんだろう、その額には汗が滲んでいた
「・・・鶴丸・・・」
「何してるんだ、こんなとこで・・・」
「なに、審神者に帰るように話しをしているところだ、しばし待て」
「三日月さん、」
石切丸が鶴丸の後ろから現れ、三日月に告げる
「・・・帰ろう、あなたは審神者に化かされている」
「・・・なに?」
その言葉にツバを飲みこんだ三日月は、一度、目を深く閉じたあとゆっくりと目を見開いた
そこには、先ほどまで転がっていた審神者たちの体はなく、ただ枯れ果てた草木が見えるだけだった
「・・・はっはは・・・」
「三日月?」
心配そうに鶴丸が顔を覗き込む
「はーっはっはっは!!!謀ったな、小娘ども!!!」
鶴丸も石切丸も驚いた
前任者の審神者に虐待されてからというもの、三日月は不気味な笑顔で微笑むだけで、このような大きな声で笑う事がなかったからだ
「面白い!!この俺を謀るなど、面白いではないか!!」
三日月は心底楽しそうにそう言った
恐怖にもにた感覚が2人を襲った
これ以上、狂ってしまうのではないかと、不安もよぎった
しかし三日月はひとしきり笑ったあと、
「・・・さて戻ろうか」
そう元の不気味な笑顔で本丸に戻っていったのだったーーーーーーーーーーー