彼女がいなくなってから、まずは急いで彼女の妹に確認をした
けれど、居場所は知らないて言われて(ホンマに住所まで知らんって言われた)
それから、会社に連絡したけど、職場が変わったって言われた(ほんで新しい職場までは教えてもらえんかった)
彼女に連絡しても拒否られている俺は、もう彼女と連絡をとる手段がなくなってしまった
彼女の妹に頼んでも取り次いでもらえんし・・・
彼女のいない部屋に独りで残された俺は、
今頃になって、彼女の存在の大きさを痛感した
俺が休みを合わせるようになってからいろいろなところに遊びに行った
次はどこに行くか楽しく話して、ガイドブックやネットをいつも検索する彼女を見ると嬉しかった
ソファでテレビを一緒に見ている時も、
料理をしている時も、
些細な生活の一部でさえ、今となっては愛おしくなってくる
(なんで・・・)
(なんで、気づかなかったんや・・・)
(おれのアホ・・・!)
(今さら、好きって気づいても遅すぎるわ・・・)
何をしていても、考えるのは彼女のことで、
ちゃんと飯食ってるかとか、
夜は寝れているのかとか、
独りが怖くないかとか、
そんなことばかり考えてしまう
(会いたい・・・)
どうしても、
どうしても、自分のアホな行動を謝りたくて、
ほんで、出来ればもう一度彼女と一緒に暮らしたくて、
彼女とどうしても会いたかった
どないしようか悩んで悩んで悩んで
彼女のことを考えていた時、思いついた
彼女が好きな家電量販店におれば、いつか会えるかもしれん
それはどれくらい時間がかかることかわからへん
けれど、札幌で生まれて札幌で育った彼女のことや
この辺に買い物に来ることはわかっていたし、時間がかかっても絶対会える
そんな変な自信があった俺は、休みの日は彼女を待った
会社の昼休みもなるべく歩き回ることにして、
とにかく待った
(一歩間違えばストーカーやけどな)
(けどもう、手段を選んどる場合やあらへんねん)
そうして、その日は思ったよりも早く訪れた
(さおりちゃんや・・・!)
家電コーナーで家電を見ている後ろ姿は紛れもない彼女だった
俺はすぐに彼女の近くにより、後ろから
「さおりちゃん!」
そう声をかけた
でも
振り向いた彼女は
なんだかとても
泣きそうな顔をしていた
ズキッ
そう、俺がした
俺がこんな顔にさせてしまった
せやからちゃんと、責任をとりたい
彼女ともう一度、話がしたい
そう思っていたんやけど、
彼女が俺に対して見せる姿は”拒否”やった
(そらそうやな・・・)
(俺、彼女のこと傷つけて・・・)
(もう前みたいに笑ってくれへん)
(タメ語で気軽に話してくれへん)
(そんだけ傷つけたってことやな・・・)
彼女のことを考えると、
胸がギュッと苦しくなった
だからこそ、
このままにしてはおけない
(きっと、)
(めっちゃ傷つけてしもうたから)
(せやから、ちゃんと謝りたい)
(このまま終わりなんて絶対にあかん)
「無理、です、怖いです」
そう言った彼女の一言で、
どれだけ悲しい思いをさせたのがわかる
「・・・さおりちゃん、俺きみに伝えないけないことがあんねん」
「・・・聞きたく、ありません」
「俺の話なんて、聞きたない・・・と思う、けど、頼むから時間ください」
「・・・ごめんなさい」
謝りながら、俺から離れようとする彼女の腕を更に強く掴んだ
(もう、)
(話を聞いてもらうには、)
(これしかない)
俺は掴んでいる場所を腕から、手首へと変え、
「・・・!」
驚いている彼女の手を引いて歩きだした
最初はなんとか手を離そうと抵抗する彼女だけど、俺の力には敵わなくて、
観念したのか、途中からは嫌々ながらもついてきてくれたようだ
無言で足早についた先は、
先月まで彼女と一緒に暮らしていた部屋だった
俺は、彼女をソファに座らせた
彼女が今にも泣きそうなのが分かる
おそらく・・・
ここには来たなかったんやろうと容易に想像ができた
「すまん」
俺はまず、一番に彼女に謝った
彼女は俺を見ずに、黙って俯くままだった
「無理矢理連れてきてしもうて、すまん、まずはそこから謝るわ」
「・・・」
「今日は・・・ちゃんと俺の気持ち聞いてほしい」
「・・・」
「今更って思われるかもしれん・・・けど、あんな終わり方絶対嫌やねん俺」
「・・・」
「アホすぎて自分でも引くんやけど、全部ちゃんと伝えるから、聞いてください」
「・・・」
やはり俯いたままの彼女
だけど、
もう後戻りはできない俺は、彼女に思っていることを口にした
「俺、今まで女の子にあまりいい思い出あらへんねん」
「せやから、好きな子できるとか、そういうの考えたことなくって・・・」
「俺なんて一生独身やろなってずっと思うてたし、」
「昔から女の子の気持ちに鈍かったんや」
「さおりちゃんが俺のこと好きって思ってくれてたのも全然気づかんかったし、言われてほんまにびっくりして・・・」
「それまでが、めっちゃ楽しかってん、せやからこの関係のままがええって思うて、あんなこと言ってしまって、」
「ホンマにごめんな、さおりちゃんのことめっちゃ傷つけたよな、ごめん」
「・・・」
さおりちゃんを見ても何も反応はなかった
けど、
少し肩が震えているのがわかった
俺は言葉をつづけた
「俺、あれからずっとさおりちゃんのこと考えててん・・・」
「出張行ってた時も、帰って来ても、ずっとずっとさおりちゃんのこと考えとって、」
「ほんで1人になった時にさおりちゃんの存在がどれだけ俺の中ででかかったのか・・・わかったわ」
さおりちゃん、
俺はさおりちゃんの目の前でひざまづいて、
さおりちゃんの手を握った
「好きです、」
「ホンマに今更やけど、俺さおりちゃんのこと大好きです」
「一緒にいるのが当たり前すぎて気づくの遅なったけど、ほんまに心の底からきみが好きです」
「きみがおらんのがつらい、」
「一緒におりたい」
「・・・勝手なのわかってるけど、戻ってきてほしい」
俺はさおりちゃんの手を握ったまま、
手をおでこにやる
「・・・きみを失いたない・・・」
俺が呟いたその言葉は
静かなその部屋に消えて行った
ポタッ
俺の手に、冷たいものがあたり、
俺は顔をあげた
そこには彼女の泣き顔があった
「・・・泣かんでや・・・ごめんな、ほんまにごめん」
「・・・勝手すぎるよ・・・白石くんは・・・」
「うん・・・ごめん」
「わ、わたし、たくさん泣いたし・・・」
「ん・・・」
「あんなにつらい思いしたの初めてだし・・・」
「おん・・・」
「い、家だって、一人で全部頑張って探したんだよ、」
「・・・」
「やっと慣れて来たのに、今の生活、」
「・・・」
「もう、忘れられるかなって思ってたのに、」
「・・・」
「・・・毎日夢見るんだよ、白石くんの」
「・・・」
「つらくて、やっぱり忘れられなくて、」
「・・・」
「いつになったら忘れられるんだろうって、思ってて、」
「・・・」
「でもふられたから、もうどうにも出来ないじゃん、」
「・・・」
「私忘れるしかできないのに、それも出来ないし、どうしたらいいのかって思ってたのに・・・」
「・・・」
「今さらすぎるよ、白石くんのバカ・・・大嫌いだよ、白石くんなんて、」
「・・・ごめんな、」
泣きじゃくる彼女を抱きしめて、ごめんと何度も囁いた
そして、最後に
「愛してる」
そう言った時
「・・・やっぱりなしは、もう効かないからね」
そう、彼女が腕の中で呟いた
「・・・絶対言わへんよ」
「私、めんどくさい女だよ」
「・・・知っとる」
「だらしないし、家事も苦手だよ」
「・・・おん」
「ネガティブだし、インドアだよ」
「・・・おん」
「・・・けど、白石くんを好きな気持ちは誰にも負けないよ」
「・・・」
「・・・世界で一番白石くんが好きだよ」
だから、ごめん無理って絶対言わないでね
そう言って、声をあげて泣く彼女を強く強く抱きしめて、
俺は「絶対言わへんから、二度と離れへん・・・」そう誓うのだった