「さおりちゃん、これバレンタインのお返し」
「あ、ありがとう」
バレンタインが終わって、今日はホワイトデー
ちょっと焦っている自分がいた
なんせ、この人バレンタインに山のようにチョコレートもらってきたんだから!
(会社の女の子はもちろん、)(なんか街歩いてて知らない子に声かけられたって言ってた・・・)
(職場に近いとこに勤めてる人だって・・・)
(この人・・・やっぱりすごいモテるんだ・・・)
紙袋いっぱいにもらってきたチョコレート
「食いきれんからやるわ」と私にも分けてくれて、連名のやつとか、あきらかに義理チョコっぽいのだけ選んでもらった・・・
謙也曰く、学生の頃はもっとやばかったと聞いたよ・・・ホントどんだけモテるのこの人・・・
私は白石くんの好きなチーズケーキを作ってあげて、そしたらすごく喜んで食べてくれていたけど・・・
やっぱり、それもこれも一緒に暮らしてるってだけで少しだけ優遇されてるのではと思うと心が痛い
(はぁ・・・)
「開けてみてや」
「あ、うん」
ガサゴソ
「え、これ・・・」
キラキラ光ったとてもキレイなブレスレットが
可愛いピンクの包みから顔を出した
「え!」
「どお?さおりちゃんに似合うと思うてんけど」
「ちょ、ちょっとまって!こんなに高そうなもの!!」
「いや、そんな高くないねん!むしろ安くて申し訳ないくらいや!」
「で、でも、誕生日にもマフラーと手袋もらっちゃったし・・・(すごいいいやつ)」
「それはそれやんか」
「でも・・・」
「今のホワイトデーコーナーめっちゃすごいねんで、いろんなもんあんねん」
「うん・・・」
「さおりちゃん甘い物そんなに食べへんし、どないしようってうろうろしてたらめっちゃかわええブレスレッド見つけてん」
「で、でも、これは高いし、」
「ええから、もらってくれへんと俺のが困るわ」
「・・・」
「俺がつけるわけにはいかへんし、さおりちゃんに似合うと思うて買ったんやからつけてほしいわ」
「・・・」
(ずるいよ白石くん)
(そんなこと言うなんて)
そんなこと言われたら、
私だけ特別なんじゃないかって、
錯覚しちゃうよ・・・
(本当はその気がないのわかってるのに)
「・・・ありがとう」
「ん」
お礼を言ってやっと素直に受け取った私に、
優しい笑顔を向ける彼
(ああ、ホント)(好きすぎる)
「で、俺今夜から2週間おらへんから家のこと頼むな」
「ああ、うん、大丈夫だよ、大変だねお仕事」
「おん、まぁしゃーないよな、本社も人足りないからなぁ」
「年度末だもんね」
「せやねん、本社で雑用やってくるわ」
「白石くんなら雑用じゃないでしょ」
「はは、雑用に呼ばれるようなもんや」
「向こうはもう梅咲いてるのかなぁ?」
「せやなぁ、梅がええ頃やろな、俺が帰る頃には桜も咲いとると思うわ」
「いいなぁ、桜」
「桜好きなん?」
「うん、桜好き」
「そういや、函館の桜見に行こうな」
「うん!5月ね!」
「おん、もう宿とったほうがええな」
「うん!楽しみだなぁ」
「はは、さおりちゃんも俺やなくて好きな人と見たいやろうに」
(・・・好きな人、)(白石くんなんだよ)(だから、いいの)
そう心に思ってその言葉をグッと飲み込んだ
ん
だ
け
ど、
「さおりちゃん、俺に遠慮せんと彼氏出来たら言うてな?」
白石くんのそんな言葉に、
胸が締め付けられるように痛くなった
(え?)
(白石くん急に何言ってるの?)
突然、
言われたそんな言葉
やめてほしいのに
彼は
ニコニコと言葉を続けて、
「さおりちゃん、家事もだいぶ出来るようになったし、いつでもええお嫁さんなれんで!」
「彼氏出来たら、俺すぐにここから出てくからな」
「っちゅーか、好きな人とかおらんの?バレンタイン、俺だけとちゃうやろあげたの」
「さおりちゃんもちゃんと恋せなあかんで、彼氏作ったらええよ」
はは、っと笑いながら
一番残酷なことを言った
(ひどい)
(ひどすぎるよ、)
(なんで、このタイミングで?)
せっかく、ホワイトデーのお返しもらって嬉しかったのに
何も今、
そんなこと言わなくてもいいじゃん
だけどそれは、
彼が私のことを何とも思っていないということが
はっきりしたということで
(なにそれ)
(本当は、)
(私に遠慮して彼女作らないのそっちなんじゃないの?)
(私が邪魔だから、彼氏作れっていってるんじゃないの?)
ショックでショックで、
すぐにはうまく言葉が出てこなかった
そんな私に、
「さおりちゃん?」
彼は不思議そうに話しかけた
「どないしたん?」
「・・・なんでそんなこと言うの?」
「え?」
「彼氏なんて、作るはずないよ」
「あ、」
「そんなにこの家から出てってほしいの?」
「いや、そういうつもりで言ったんとちゃうで!?」
「じゃあ、どういうつもり!?」
「どうって・・・俺はただ、」
「彼氏なんて、」
(彼氏なんて、)
(作れるはずないじゃん、)
(だって、)
(わたし、こんなに、)
「・・・私の好きなのは白石くんなのに・・・」
ハッと気づいた時にはもう遅くて
(あ、)
思わず、
今までずっと心の奥底に隠していた気持ちを
言葉にしてしまった
白石くんの顔を見上げると、
(・・・!)
ものすごく困った顔をしていた
(どうしよう・・・)
(私、こんなこと言うつもりじゃ・・・)
「ご、ごめんなさい、き、聞かなかったことにして・・・」
震える声でそう言うのがやっとで、
私は彼からもらったブレスレッドを握りしめ、部屋へ戻ろうと体を翻した
(どうしよう)
(どうしよう)
(どうしよう)
なんてバカなことをしたんだろう、
そう思っている私の後ろから、
「すまん、」
そんな言葉が聞こえて、
思わず足が止まった
「俺、さおりちゃんのこと、そういう風には考えられへん・・・」
ホンマに、ごめん
そう、彼は言った
その瞬間、
辺りは滲んで見えなくなって、
「・・・・・・・っ、」
ガチャッ
いつもの感覚だけを頼りに、部屋へ籠って
カチャリ
部屋に鍵をかけた
ポロッ
部屋に入ってから溢れて来る涙
(どうしよう・・・)
(私・・・)
(ふられちゃった・・・)
とめどなく溢れる涙を
しばらく止めることは出来なかった