あれから、私は通常業務に戻った。
白石さんとは全く合わなくなったところを見ると
本格的に嫌われたかな、と そう思った。
でも、これでよかったんだと思う。
二兎追うものは一兎も得ずっていうもんね。私みたいなやつが最初から白石さんに好かれる資格はなかったんだ。
(・・・うん)
(仁王くんにも今週の金曜日、言わなきゃな)
(・・・はぁ)
(会いたくない・・・)
(自業自得だけど気が重い・・・)
落ち込んでると背中をばしんと叩かれた。
「最近暗いよー!どうした?」
「先輩・・・」
「白石さんとなんかあった?」
「え、なぜ白石さん・・・」
「いや、なんとなく」
「白石さんとは何も最初からないので(一度間違えて朝チュンはしてしまったけど)先輩が考えるようなことは何もありませんよ」
「そーかなー」
「大体私白石さんに嫌われてますし」
「それはない」
「いえ、ほんとに」
「もうまえちゃんネガティブだなぁ・・・ま、いーけどさ!」
そして先輩は 私の机にココアの缶を置いて
「まえちゃん、今日向こうの会社との親睦会だからね!」
と、笑った。
(親睦会多いな・・・)
と、思いながらも特に断ることもなく
私は先輩に ありがとうございます、とココアのお礼を伝えて、その日の親睦会に参加するのだった(決してココアに釣られたわけではない・・・)
「まえさんって俺のタイプだわー!!」
早速酔って絡んでくるのは企画部の課長さん。
40代、独身、普段は明るくていい人なんだけど酔うと絡んでくるから実はちょっと苦手。
若干セクハラしてくるんだよね・・・。まぁでも酔ってるしみんな楽しく飲んでるわけだから水をさすようなことはできない。ここは我慢。
「クールな感じがたまんないわけだよー」
「課長飲みすぎですよ」
「そうこれ!この感じいいよね!」
「課長、まえちゃん純粋なんですからあんまからかわないでくださいね!」
「わかってるよー!はっはっは!」
(・・・とか言いながら膝に手おいてくるし)
(誰にも見えないようにやってくるもんなぁ)
(って・・・うわー、やだ・・・さわさわしてきた・・・)
(きもい・・・)
(うー・・・我慢我慢・・・)
心の中ではもういろんなストレスで泣き出しそうだけども
ほんとここはもう罰が当たったと思うしかないこれは。
嫌だけど耐えるべきだわ!私のような最低な人間はこんなおっさんに触られて落ち込めばいいんだ!
(それにしては気持ち悪い)
(マジで落ち込む)
それを思えばいくら記憶なくしたとはいえ、こんなおっさんじゃなくて白石さんと寝た私グッジョブだよね・・・
いや、イケメンだからこそ酔ってもすべてを委ねたのかもしれないな。
だってこんなおっさん相手にべろべろに酔うとかもうありえないし、酔ってても絶対ついていかない自信あるし。
てことは私無意識のうちで白石さんならいいやとか思ってたな。いや、思うよなそりゃあんなイケメンね。中身の伴うイケメンだしね。
なのに自分勝手に傷付けた私・・・申し訳なくて死にたい。
そう・・・申し訳ない・・・
うん、申し訳ない、から
だから
もう一度、会いたい。
(謝りたいだけだよ)
(別にもうあんなことしといて何かを望むわけじゃない)
(ただ・・・)
(悲しそうな顔してたから)
(・・・自分勝手に怒って 傷付けたから)
(謝りたい)
会いたい
(・・・無理だな)
(きっと相当嫌われたもんなぁ)
はぁ、とため息をついて
おっさんに触れれている気持ち悪さをごまかすように グッとお酒を飲みほした。
「・・・遅なってすいません!」
(・・・え?)
そしてその声が聞こえて 扉のほうを見つめた。
「もー、白石くん遅いよー」
「すんません!」
「お疲れさま!どうだった?向こうの研究所きつかったでしょ?」
「いやー、やりがいありましたわー」
「何々、白石くんどこか行ってたの?」
「あぁ、研究のヘルプでちょっと金沢の研究所行ってたんですよ」
「寝る間もないっていうもんね、向こうの研究所」
「白石くん寝てないんじゃない?」
「はー、でももう急いで来ましたわ」
どくんっ
キョロキョロと見渡す彼と目が合って 胸が動いた
(白石、さん・・・、)
そして彼は 私を見つけると
それはもう ホッとしたように 笑ったのだ。
(・・・ど、して・・・?)
(私、あんなことしたのに、)
(どして、笑えるの・・・?)
「白石くんこっち空いてるよー」
「や、俺向こう行きますんで!」
「あー、まえちゃんいるもんね(笑)」
「はは、ほなあとでお酌しにきますわー!」
そして彼はズンズンと こっちに向かってくる
(わ、)
(ど、)
(どうし。)
(どうしよう!)
「さおりちゃん!久しぶりやな!!」
ニカッ
彼は、満面の笑みを見せた。
(・・・白石、さん、)
だめだ
なんか
泣きそう
「あー、ちょお、課長!近づきすぎ!ここ俺に譲ってください!」
「なんだ、白石来たのか、来なくていいのに」
「はは、すんません、さおりちゃんの隣だけは譲られへんわぁ」
「さおりちゃんって、ずいぶん親しいんだなぁ」
「そうなんですわ、よぉデートしてますし!」
「なに!まえさん、本当か!」
「あ、え、っと、」
「さおりちゃん、素直に言うたほうがいいで?」
「あの、白石さんには、本当にお世話になっていて、」
「・・・なんだよー、もう、白石が相手じゃ勝ち目ないな」
と、それまで私の膝を撫でまわしていた課長は その席を白石さんに譲った。
「・・・はー、ようやく会えたなぁ」
「・・・」
「あ、ちゃんと食うてる?肉あるで肉、ほら、たくさん食いや」
さおりちゃん出向してたんやて?忙しかったってきいたで、今日はたくさん食べて元気つけてな
と、彼はいつもどおり 笑って言った。
(・・・なんで?)
(なんで笑っていられるの)
(白石さん)
(あなたが何を考えてるのか)
(私には、わからないよ)
「まえさーん、白石来てよかったねー」
「ほら、飲みな飲みな!!」
課長がいなくなった途端に ノリのいい男性社員に囲まれてしまった。
白石来てよかったねってどーゆう意味だ・・・
「や、私は、」
「はい、まえさん、テキーラあるよ!」
「え、テキーラ!?」
「はい、いっちゃおいっちゃお、ググッといっちゃお!」
「え、あ、や、」
「はい、ストーーーップ」
と、ここでももちろん
隣の白石さんが 黙ってるわけはなくて
「ちょーーーっ、先輩方ほんま勘弁して、この子お酒弱いねんから!」
「なんだよ白石、付き合ってないんだろ?彼氏気取りかよ」
「そうだそうだ、付き合ってないくせに!」
そう、彼らが言って
あぁどうしよう、私がこれを飲めば問題なく終わるのかな、とかいろいろ思ったのだけど
「・・・はぁ、あんなぁ、ひとつ言うときますわ」
「なんだよ」
そして彼は ふぅ、と ため息をついて
「付き合うてなくても、彼女のことわかっとるの絶対俺が一番やって、自負してますんで!」
そして彼は グッと私の目の前に置かれたテキーラを飲み干した。
(・・・白石さん)
男性社員たちは、それを見て 白石番犬! とか言いながら離れて行った。
(・・・二度も、助けていただいた)
何度も 傷付けたのに
(いつも、彼に 助けてもらってるね、わたし)
謝ってもいないのに
(わたし・・・)
(謝らなくちゃ)
「・・・白石さん、あの」
小さい声で話しかけると
彼は、 シッと口に手を当てて
そして私を見ずに つぶやくのだ。
「・・・俺かて、いろいろ考えとるから」
そして周りに話しかけられて笑う白石さんは それから何も言うことはなかった。
(・・・ごめんなさい)
心の中で謝りながら それでも隣から離れない白石さんの優しさに
やっぱり 泣きそうになった。