木10 ~VOL.27~

まぁちゃん最近元気ないし、休みの日もふらっと出かけるしお泊りも行かなくなったし絶対あやしいわ。
これがおかしい。
多分私に内緒でどっかの空き地で猫でも飼ってるんじゃないかな・・・
しかもその子があまり具合よくないとか・・・そんなんだったらどうしよう・・・
ほんと心配だわ・・・

 

と、実は私も人の心配している場合ではないのだ。

 

(・・・白石くんにひどいこといっちゃったな)

 

あのあと

 

白石さんからの反応が怖くて

 

ライン、ブロックにしちゃったんだ・・・。

 

電話は来ても出ないし、

 

そしたらちょうどいいというかなんとゆうか
会社で 1ヵ月の出向の話が来て
めちゃくちゃ忙しいらしいからどうしよう誰が行く?って話になって
すかさず手を挙げた。
私の部署が担当してる製薬会社のほうは先輩を中心に他の人もできるし
なんの迷いもなかった。
むしろありがたい。
他の人に感謝されたけど、こっちのほうが感謝したいくらい。

 

そして私は一週間の出向で全然違う会社へ赴いていて
製薬会社のほうには全く近寄らなかったのだ。

 

おまけに死ぬほど忙しくて夜は遅いし、休日出勤もあったりで
みんなに心配されたけど
今は仕事に追われてたほうが都合いいと 私は夢中で仕事に没頭した。

 

(・・・だから)
(仁王君からのメールもあんまり返せていなくて)
(ちゃんと仕事の話はしたからわかってくれたけどね)
(・・・ほんと、どうしようこの先)

 

真面目に働きすぎて出向先から引き抜きの話もあったくらい
それはもう真摯に働いていて
この1ヵ月、あまり休むこともなかったんだけど

 

(今日久々に休みだな)

 

1か月ぶりのお休み。
何をしたらいいかなー、なんて空を見上げながらぽわわーーーんと考えていた。

 

・・・いや、逃げていたのかもしれない。
現実から。

 

ブルブルブル

 

ビクッ!

 

携帯が震えて、焦って手に取る。

 

(・・・あ)

 

仁王くんから 電話だ。

 

(ど、)
(どうしよう)
(なんか、)
(久々すぎて 緊張する!!!!)

 

私は震える指で 通話ボタンを押した。

 

「もしもし・・・?」
『あ、さおりか?』
「うん・・・」
『久々じゃの!そろそろ仕事落ち着く頃かと電話してみたぜよ』
「うん」
『・・・そろそろ、聞かせてくれんかの?』
「え?」
『・・・返事じゃ』
「う、うん・・・」

 

(ひゃあああああ)
(どどどどどうしよう)
(えっと、えっと、えっと・・・!!!)

 

『・・・プッ』
「!?」
『・・・電話なのにわかりやすいくらい動揺しとるの』
「あ、いや・・・」
『・・・すまん、急かすつもりはなかったんじゃが・・・』

 

返事がもらえない間、不安で

そう、少しためらって 彼は言った。

 

(・・・そう、だよね)
(待たせれば待たせるほど彼に失礼だよね・・・)

 

「あ、あのね、仁王くん、」
『・・・金曜日』
「え?」
『金曜日、空いとるか?』
「う、うん」
『なら、その日に』
「あ・・・」
『直接、聞かせてきれんか』
「・・・うん、わかったよ」

 

時間と場所はあとでまた、と彼は電話を切った。
最後に、仕事お疲れさま、今日はゆっくり休みんしゃいって優しい言葉をかけてくれた。
うん。
やっぱり仁王くん、すごく優しいよね。

 

(こないだのデートもすごくすごく楽しかったし)
(ほんと・・・最高にとろけそうな時間で、)
(あんな幸せな時間・・・)

 

 

夢にまで 見ていたのに

 

 

(・・・夢にまで、見てたんだよ?)
(別れてから 後悔ばかりで)
(またやり直せないか、今度はうまくやるのにって)
(毎日思ってた)
(毎日だよ、毎日)
(毎日 彼に恋い焦がれて)
(何年も、毎日、そう過ごして、)
(やっと 憧れの彼と 夢にまで見た理想通りのデートをして)
(それはもう 幸せなはずなのに)

 

 

なぜ?

 

 

(・・・手をつないだ時)
(違和感を感じた)

 

 

彼を “男”だと認識した瞬間

 

何か ”おかしい”と感じた。

 

 

(・・・理想通りだったはず)
(あのデートは 完ぺきだったはず)
(思い描いた通りの、)
(完ぺきなデートで、)

 

 

でも 彼の手、強く握り返せなかった。

ずっと“理想”であったから “現実”になるのは違うのかもしれない

 

本当はそう 心に疑問が浮かんだのに
私は 考えないようにしていた。

 

(あの瞬間)
(間違いなく)
(思い浮かんだのは、白石さんの顔だったのに)

 

 

でも その白石さんを傷付けて 近寄らないように、拒否したのは私

 

 

(・・・・・・私、どうしたいんだろう)
(白石さんには悲しい顔ばかりさせて)
(嫌な思いさせてるのに)
(仁王くんと よりを戻すことに手放しでは喜べない)
(むしろ、こう引き延ばしていたのは どう断ろうか考えていたからかもしれない)
(・・・思わせぶりな態度してたよね)
(・・・白石さんにも)
(あれだけデートに行って、ごはん食べに行って、楽しそうにしてたのに)
(仁王くんが登場した途端これだもん)
(・・・あー私最悪・・・・・)
(めちゃくちゃ嫌な女・・・)

 

 

自己嫌悪

 

 

(こればっかりは自業自得だ)
(まぁちゃんの言う通り、どっちとも付き合わないのが正解なのかもしれない)
(てゆーかそもそもあんなこと言ったから白石さんには嫌われてる可能性が強い)
(・・・もう、愛想尽かしたよね)
(私、最悪な女だもん)
(・・・ごめんね、白石さん)
(ごめんなさい)
(仁王くんも、)
(きっとすごくがっかりするよね)
(いや、怒るかもしれないな)
(でも私、殴られたほうがいいな)
(気が済むまで殴ってもらおう)

 

考えても考えても落ち込むばかりで
枕に顔をうずめて ベットに横たわった。

 

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