木10 ~VOL.28~

(え、なんであの子ひとりで楽しそうにダーツしとん)
(やばい、めっちゃ面白そうや!)
(えー、ちょ、一緒に遊びたい・・・)
(よっしゃ、声かけてみよ!)

 

彼女はダーツバーで 突然声をかけた見知らぬ俺に、
よし負けたほうのおごりね! とめっちゃノリノリで笑った。

 

(あ、これあかん)
(俺この子絶対好きになる!!)
(あかんわこれ・・・!)

 

そう感じた直感は見事に当たり
2時間ダーツしたり飲んだり騒いだ後、すでに俺は彼女に惚れていた。
(いや、多分見かけた瞬間からかもしれん)
(一目惚れや)
(せやないと、見知らぬ女の子に声なんてかけへん)

 

そのあとは 酔いが回って、正直どうゆう流れでああなったのかは覚えてへんのやけど
ところどころ 彼女を抱いた記憶だけある。
朝起きて あー、やばいと思いながら ちょっと嬉しいとか思ってる自分がおって
この流れで付き合えたらな、とか思うたんやけど。
体から入る恋は出来ないとキッパリ拒否られ、そのとおりやと納得。
(向こうは記憶なくて)
(記憶ない女の子抱くとか・・・)
(サイテーやもんな)

 

まぁけど結局都合のいい関係にはしてもらえて

 

このまま上手くいけば 付き合えるんちゃうか、って思うてたんや。
俺がめっちゃがんばれば!めっちゃ大事にすれば!
好きになってくれへんかなって

 

思うてたんやけど

 

(・・・俺だから、て言うてくれてたし)

 

 

その日俺は 久々に日本へ帰国した。

 

(ふぅー、まいったでほんま・・・)
(1ヵ月研修でフランスのど田舎の施設に閉じ込められて・・・)
(携帯使えんし、なんもないし、気が狂いそうやった・・・)
(まぁそれ以上に忙しかったから気もまぎれたんやけど)

 

久々にまずはおでんが食いたいなーとか思って
あいつの顔が浮かんで  胸が痛んだ。

 

(・・・こーゆうとき、気軽に誘ってたもんな)
(おでん食いに行かへんー?とか)
(もう・・・顔合わすこともないけどな)

 

まなみが男とホテルから出てきたとき
心臓が止まるかと思うた。

 

『あんただからいいと思ったんだけど』

 

あの日言われた言葉が 頭をよぎった。
その言葉があったから 今までがんばってこれたのに。

 

(・・・なんや、おるやん)
(めっちゃイケメンなセフレ)
(いや、本命の彼氏かもしらんな)
(せやから付き合われへんかったんかもしれん)

 

俺、いらんやんか

 

(・・・お前の中でおれは)
(ほんまにただの セフレ やったんやな)

 

悲しくて苦しくて切なくて どうしようもなく
でも次の日からすぐに海外研修やったから まだ冷静でおれたのかもしれん。

 

(・・・違う、って言うてたけど)
(・・・もう、信用でけへんよ)

 

「はぁ」

 

ため息が 白い息になって消えていく

 

(あぁそうか)
(今日から12月か)

 

そないなことを考えながら 俺は結局まっすぐ家に向かった。

 

ガチャガチャ

 

鍵をさして 久々の我が家に入る

 

「ただいまーって誰もおらんけど・・・・ってえぇ!!?」

 

玄関を開けて足元に散らばった紙の山を見てビビる
なにこれ!いやがらせか!?

 

(だ、誰がこんなこと・・・)

 

とりあえずかき集めて玄関をきれいにした。
ちょ、ほんまひどい・・・!!

 

部屋に入って鍵を机に置いて

 

大量の紙を見る。

 

(・・・あれ)
(これ、)

 

DMや普通の郵便物と一緒にあったのは
まなみからの手紙やった。

 

(・・・あ、日付)
(・・・あいつ)(毎日、来てたんか)

 

日付順にその手紙を並べて
一番日付が古い順から読んでいく。

 

「・・・きせはただの同僚で何もなかった、信じて、本当に酔って寝てただけ・・・ほんまかいな」

 

独り言が一人きりの部屋に消えていく
あいつ、こんなにたくさん・・・何考えとるんやろう

 

「あー、これめっちゃ心配しとるな、海外研修て言わへんかったしな」

 

中には何通も 元気にしてる?とか無事なの?とか心配する手紙があって
せめて言っていけばよかったかと少しだけ 悪い気もした。

 

(おらんのわかってたら来んかったと思うし)
(寒いのに、毎日待ってたんやろうな、きっと)

 

手紙を読むたびに 少しづつ 胸が締め付けられていく。

 

「・・・実家の札幌にはもう雪が降ったらしいよ、って、急に普通の会話やな・・・」

 

毎日毎日 俺のことを思って手紙を書いてくれたのがわかる
あれ、あかん
なんか泣きそうや

 

「・・・はは、なんや、あいらぶゆーって・・・相変わらずぶっ飛んでんなぁ・・・」

 

かと思えば またごめんね、とひたすら謝ったり 元気でいるのとか心配してたり

 

(・・・必死やんか)

 

こんな姿、 今まで見たことないで

 

「今日お昼休みにカップラーメン2個食べたって・・・なんの報告やねん・・・食生活心配なるな・・・」

 

手紙だけでも

 

「おすすめアイスベスト3って・・・!なんやねんいきなりランキングて!」

 

あいつと 会話してるみたいで

 

(・・・楽しい)

 

楽しくて

 

(手紙、だけやのに)
(めっちゃ、楽しくて うれしくて)

 

あかんなおれ
もう、お手上げやわ

 

(・・・あんなことあったのに)
(好きすぎるとか)
(どないなっとんねん・・・)

 

それでも今すぐ 彼女を抱きしめたいと思うのは
彼女の気持ちが手紙から 溢れ出てて
俺のことを 想ってくれてるのが伝わってきて

 

(せやって・・・)
(ほんまに本命の彼氏おるなら こんな必死にならんよな?)
(他にセフレおるなら別に俺にこだわる必要はないわけやし)

 

・・・もっかい会おうかな

そう、思うた。

 

(・・・もうちょい気持ち整理してから)
(話したいって、手紙にも書いてるし)
(もっかい、きちんと話せなあかんかもな)
(とりあえず、今日は遅いから 明日にでも、)

 

そして俺は最後の手紙を 手にして

 

(あ、日付け)
(今日やんか)
(今日も来てくれてたんやな)

 

それを見た瞬間 泣きそうになって
“明日”だとか“気持ちの整理つけてから”だなんて 悠長なこと 言うてられんくて

 

気が付けば 家を、飛び出しとった。

 

 

『けんやへ
けんや、元気にしてますか?ちゃんとご飯食べてますか?笑ってますか?
とても心配してます。傷付けてばかりいて ごめんね。
私、今日でもう 来るのは最後にするね。
きっと私がいることが迷惑なんだと思うから、これで最後。
最後だから、どうして謙也と都合のいい関係になろうと思ったのか書くね。めっちゃ長くなるよ!
今まで私にも彼氏いたし、もちろん色々恋愛もしてきたよ。
でも、どれもこれも いい恋愛ではなかった。
つらい恋愛も苦しい恋愛ばかりで、だまされたこともあるし、今度こそと信じても裏切られたり
結局最後には別れが来て、どんなにつらい恋愛でも別れるのはやっぱり悲しくて
そんなことを繰り返してるうちに もう恋愛をすることが怖くなっちゃったんだ。
好きな人をつくるのはもちろん、喧嘩するのも怖いし、別れるのも怖い。
だからもう一生彼氏は作らない、って思ってた。
でもけんやと出会って、正直、いいなって思った。
だけどまた裏切られるの怖いなとか、どうせ付き合っても別れるんだって思うと恋愛する気にはなれなくて
それでもけんやとこのまま離れるのはなんだか嫌で、都合のいい関係として繋ぎとめようと思ってた。
男の人はそのほうがいいと思ってたんだよね。気軽に会って抱けるならそれが一番男の人にとってもいいと思ってたのに
けんやはなんだか違くて、いつも大事にしてくれるからすごく戸惑った。
好きになりそうで、でも怖くて、ずっと悩んでた。 どうしたらいいのかわからなかった。
だけど、けんやが悲しい顔をするたびに私も心が痛んでこの人なら信じてみてもいいかな、ってやっと思えた。
思えたのに・・・私はやってしまった・・・。酒はほんと恐ろしいね。もう酒は飲まない(多分)
今までいっぱい嫌な思いさせてごめんね。
大好きだよ、けんやのことは本当にそう思う。
でも、もう これでおしまいにするよ。やっぱりね、私は幸せになるべき女ではないね。誠実に生きなきゃねもっと。
じゃあ元気でいてね。けんやが元気ならそれでいい!それだけを願ってるよ。
サヨナラ。    まなみ』

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