「他に食べたいものあったら言うてな?あ、プリンも頼む?プリン好きやろ?」
今日は白石さんに誘われてご飯を食べに来ている。
正直気まずい…。
こないだ仁王くんと楽しいデートをした後だからこそ余計に気まずい。
(でも…白石さんと私は友達だもん)
(今までどおりご飯を食べに来るなんて普通だもんね)
仁王くんのこと、いつ聞かれるんだろう
そう思うと少しソワソワした。
(聞かれたらちゃんと言うよ)
(元彼だよって)
(より戻したいと言われてるけど…)
(私は正直どうしたらいいかわからないから)
(そこを聞かれたら…どうしようもできないな…)
色々聞かれるんじゃないかと
勝手にモヤモヤしてた
(あーもう)
(聞くなら早く聞いてくれーっ!)
なのに
「な、水道橋にめちゃくちゃ美味いジンギスカンの店あるんやて」
「そうなんだ」
「さおりちゃんラム肉食べたい言うてたやろ?今度食べに行かん?」
「うん」
「俺あんまラム肉食うたことないねん、楽しみやわ~」
白石さん、いつもどーりの話しかしなくて
全くいつもと変わりなくて
(……気にしてないのかな)
モヤッと心の中に何かが広がった。
それから、ご飯を食べながら普通に楽しそうに話す彼。
私だけただ一方的にモヤモヤと心が晴れず、ご飯を食べ終えてもなんだかその気持ちが消えることは無かった。
楽しいはずのお食事がなんだか嫌な気持ちになってしまった。
おかしい。
白石さんとはそれはそれは毎回楽しくお食事したり、遊びに行ったりしていたのにな。
(…こないだの、仁王くんとのデートの方が 何倍も楽しかった)
比べるものじゃないのに、そんなことを思ってしまった。
お店を出て、この後飲んで帰ろうか、と言う彼の誘いを断わり、駅に向かった。
なんか、モヤモヤする。
てゆーか、ムカムカする。
何だ、この気持ち。
「さおりちゃん、待って、人多いからはぐれたらあかんで、」
「子供じゃないから大丈夫です」
「いや、せやけどさ、」
「まだ10時前ですし!」
「せやけど、送るから、」
「いいです、送らなくて」
「…さおりちゃん、今日むっちゃ機嫌悪いなぁ」
俺なんかしたかな?すまん、気付かんくて、
と彼は言った。
(…違う)
(違う)
(何かしたんじゃない)
(“何もしてくれないから”)
(ムカついてるんだ、私は)
だってこないだのこと 何にも思ってなかったの!?
どーでもいいの!?
好きだとか言ってたくせに、気にならないわけ!?
なんで
なんで
なんで
なんで!
「機嫌悪いって気づいてたなら…あとついてこないでください!」
「え、いや、俺心配やから送るし!」
「送らなくて結構です!まだ時間も早いし、白石さんこんなイライラしてる女嫌でしょ!?」
「何言うとるん、嫌なわけないやん!いつも言うとるけど俺どんなさおりちゃんも好きやし!でも怒らせてもうたなら俺に原因があると思うからちゃんと許してもらいたいねん!」
「…嘘つき!!」
白石さんは ウソつき!?オレさおりちゃんにウソついたことないで! とか言いながら慌てて後をついてくる
(嘘つきだよ!)
(私のことなんて好きじゃないよ!)
(好きならこないだのこと嫌だと思うじゃん!)
(気になって聞いてくるじゃん!!)
(仁王くんは、聞いてきたよ?)
(好きだって言われたよ?)
(なんで白石さんは平気な顔してるの!?)
(私に興味無いからでしょ!?)
(私のことからかって遊んでるの!?)
ムカムカムカムカムカムカムカムカ
「ついてこないで!白石さんなんてもう顔も見たくない!」
「えっ!?なして!?」
「だって…私のこと好きだなんてからかってバカにしてるんでしょ!!」
「へ!?んなわけないやん!なんや今日ほんまおかしいで!?どないしたん!」
「やめて、触らないで!!」
私は、掴まれた腕を思い切りふりほどいて
「…だったら何で仁王くんのこと何にも聞かないの!?」
「気にならないの!?」
「別にどーでもいいとか思ってるんでしょ!?」
「私に興味ないならお願いだから近寄らないで!!」
「私は…私のことを本当に好きな人と付き合うんだから…」
「もうほっといて!!!」
一方的にそう叫んで、 走って改札を通り抜けて電車に飛び乗った。
慌てた白石さんが追いかけてきたけど
電車のドアはもうしまったあとで
ガラス越しに見えた彼の顔は
あの日のように とても悲しそうな顔をしていた。
(…また、やってしまった)
(…いつもこうだ)
(白石さんにはいつもキツイこと言っちゃう)
(いつも悲しい顔させちゃう)
(…合わないのかもね、私達)
なんでだろ、胸が痛いや…
こんな思い、もう、したくない
電車から夜景を見ながら
涙をこらえるのに 必死だった。