木10 ~VOL.24~

今日は仁王くんとデートの日!
まぁちゃんは会社の飲み会の後泊まるとか言ってたから帰ってこなかった。
服とか選んで欲しかったのにな!

 

(この服変じゃないかな…)

 

ものすごく気合を入れてる自分がいた。
元カレと遊びに行くの、こんなに楽しみにしてるとか、おかしい?

 

(今日どこ行くかも教えてもらえなかったし)
(迎えに来てくれるらしいけど…)
(大丈夫かな?)

 

ソワソワ ソワソワ ソワソワ

 

(・ω・`三´・ω・)

 

プルル

 

Σ(゚д゚;)ビクッ

 

メールだ!!

 

『ついたぜよ』

 

つ、ついたの!?
ふわぁぁぁ(;°Д°)

 

 

 

 

エレベーター降りてマンションのロビーに出る。

 

 

「お、今日は一段とキレイじゃのぉ」

 

 

に、仁王くんだーーーーーー!!!!

 

 

(どどどどどうしよう!!!!)
(今更だけどめちゃくちゃ緊張してきた!!!)
(仁王くんこそ一段とかっこいいよ!!!)
(どうしたらいいのもう!!!!!!)

 

 

「こっちじゃ」

 

 

彼のあとを追ってマンションを出ると
そこにはなんともカッチョイイ車が…

 

「乗りんしゃい」
「え?あっ!仁王くん車買ったんだね!」
「まぁ…仕事で使うしの」
「そうなんだ、お仕事って何してるの?」
「家のデザインとかやっちょるよ」
「え!かっこいい!デザイナーさん?」
「いや、建築士」
「そっか、そーいえば建築学科だったもんね!」

 

彼は笑いながら  よぅ覚えとったの と、助手席の扉を開けてくれた。
私はそこに座ってシートベルトをしめた。

 

(…高そうな車 )

 

「…仁王くん、建築士になるなんてすごいな。家作るの好きなんだね」
「そうでもないぜよ。…ただ、ここにこれをつけたら楽しくなるとか、ここにこんなんやったら面白いとか、そんなんばっか考えとるだけじゃ」
「充分すごいよー!仁王くんの作った家見てみたいな~」
「ん?大したもんでもなかよ…?こんなんじゃ」

 

そう仁王くんは雑誌を私に渡すと、  行くぜよ  と車を発進させた。
(やばい、運転してる姿かっこよすぎる死にそう)
(付き合ってた時は学生だったから車とかなかったもんなぁ)
(大人って感じ…素敵!!!)

 

はっ!( ゚д゚)
見とれてないで雑誌見よう…!!

 

「えっと、どれが仁王くんのデザインした家なの?」
「この辺じゃ」
「え!?めちゃくちゃオシャレだよ!?」
「ん?そーか?」
「あ、仁王くんも載ってる!人気のカリスマ建築士だって…!」
「おー最近そう呼ばれとるの」
「すごい…かっこいい!!!」
「…ふはっ」

 

(!!!!!)

 

(やばい)
(調子乗りすぎた!)
(笑われた!)
(笑っててもかっこいい…)

 

「お前さん、言うようになったのぉ」
「え、いやっちが…」
「煽っとるんか?」
「や、あの、」
「…ありがとな、お前さんに褒められんのが1番嬉しい!」

 

仕事頑張ってきてよかったぜよ

 

そうして笑った仁王くんの笑顔に
私は  瞳を奪われた

 

(仁王くん…)
(こんな嬉しそうに笑うんだ…)
(2年間も付き合ってたのに)
(私、そんなことも知らないんだ)

 

なんだったのかな、あの2年間

 

(バカだなぁわたし)
(全然彼のこと見ようとしてなかった)

 

…でも今日は違う。
私だって成長したんだ!
もう後悔しないようにがんばらねば!!

 

(やる気満々…!!)
(俄然やる気!!!)

 

車の中で今は何をしてるとか、当時の友達の話とかあーだこーだと話は尽きなくて
そしてそのままあっという間に目的地についた。

 

「…あれ、仁王くん、ここ」
「…覚えとるか?」
「もちろん、だってココ」

 

仁王くんと私が初めてデートした場所

(八景島シーパラダイス…)

 

正直、そのデートは緊張しすぎて散々だった。
全く会話もないし、ほんとよくあの後2年も付き合えたと思うくらいひっどいデート。

 

(嫌な思いさせちゃったって…)
(家に帰ってめちゃくちゃ泣いたんだよね)
(でも、また行こうってメールくれて…)
(…あの頃からちゃんと仁王くん、優しくしてくれてたのに)

 

「…また、連れてきてくれたんだね」
「…また来ようって言うたじゃろ?」

 

(!!)
(お、覚えててくれたんだ、)

 

嬉しい!!!

 

「今日はめいっぱい楽しもうな」
「うん!」

 

中に入るとまずは水族館へ足を運んだ。

 

「11時からイルカショーじゃと」
「じゃあそれまでゆっくり見学出来るね」
「お、触れ合い体験じゃと」
「へー、亀とかヒトデいるね」
「さおり、触ってみたらどうじゃ?」
「いやっ私はいーよ」
「なしてじゃ?ほれ、可愛いぜよ」
「わっ!ちょ、仁王くん、ヒトデやめて!」
「ほれほれ」
「やーっ」

 

楽しい

 

「お、あの魚、さおりに似とる」
「え!どこが!?」
「プクーっとふくれるとこ」
「に、似てないよ」
「ははは」

 

楽しい

 

「イルカショーの前にペンギンショーだって!」
「お、ペンギン出てきたのぉ」
「わー、可愛いー!」
「…なんかあの1番後ろのヤツ赤也みたいじゃな、お調子者で」
「じゃああの先頭は幸村くんかな?」
「その次が真田か?たるんどるとか言いそうじゃ」
「ふふ、ほんとだ、キリリとしてるね」

 

楽しい!!!

 

ペンギンショー見ても、イルカショー見ても
水槽見てても お昼ご飯食べても
何しても楽しくてたまらない!!

 

まるで、あの日の心に残るツライ思い出が塗り替えられるように

 

(あの日が上書きされていく)
(私史上最も最悪の1日が)
(最高の1日になる)

 

(どうしよう…)

 

キラキラしすぎて  胸がいっぱい

 

(仁王くん、笑ってる)
(嬉しい)
(幸せ)

 

 

 

 

 

 

 

レストランをあとにしてアトラクションがあるプレジャーランドに向かう。

 

「お前さん、アトラクション苦手じゃったな」
「あ、うん、覚えててくれたんだ…」
「覚えとるよ、じゃあ軽いのだけ乗るとするかの」

 

 

ぎゅっ

 

 

(!!!)

 

「…(カァァ)」
「…そ、んな、硬直せんで、くれんかの」

 

こっちまで恥ずかしくなるじゃろ

 

と、私の手を握った彼は笑った。

 

「う、うん」
「…付き合うてる時もこうしてたのに久々じゃとなんか照れるのぉ」
「う、うん」
「…デートなんじゃから手くらいは、繋がせとってな」

 

恥ずかしそうにはにかみ笑う彼にドキンとする

 

(……いいのかな、)

 

幸せと同時に訪れる違和感

 

(いいのかな、私ほんとに)

 

白石さんの顔が浮かんで 少し胸が痛くなって
でも今は何も考えずに楽しもうと
そんな思いにフタをした。

 

楽しすぎて1日はあっという間に過ぎていく
もう11月だし 日が暮れるのも早い。

 

 

 

「はーーー、遊んだのぉ」
「楽しかったね…」
「あぁ、お前さんがそう言ってくれるのが何よりじゃ」

 

(それはこっちのセリフだよ)
(仁王くんが笑ってくれるのが本当に嬉しかった)
(あの時は…いつも困った顔させてたよね)
(今日は楽しそうに笑ってくれてた)
(ほんとにほんとに嬉しかった)

 

帰りの車の中で  彼はようやく、ポツリと疑問を口にした。

 

「…ちゃんと聞けてなかったから聞いてもええか?」
「え、な、なにを?」
「白石とは、付き合うとるんか?」
「…ううん、付き合ってないよ、彼は仕事関係の人で…」
「そうか」
「…白石さんと、仁王くんは?大学が同じとか?」
「いや、白石とはテニスの日本代表合宿で一緒だったんじゃ」
「あ、そうなんだ!」

 

(じゃあ私が仁王くんに恋焦がれてたあの高校時代も)
(全国のテニスの試合とか見に行ってた時白石さんいたのかな?)
(あの頃から知り合いだなんて、不思議)

 

そんなことをボンヤリ考えながら
キラキラ輝く  ネオンを見ていた

 

 

(イルミネーション、キレイだな…)

 

 

「…さおり、なら今彼氏はいないんじゃな?」
「い、いたら仁王くんと遊ばないよ!」
「はは、確かに」
「そうだよ…」

 

 

そう、白石さんとは別に付き合ってるわけじゃないんだもん
悪いことしてないよね?

 

 

「…なら、もっかい言わせてくれんか」
「え?」

 

 

車がうちのマンションの前に停まった

 

 

「…別れてから、俺が未熟すぎて上手くいかなかったと後悔ばっかりしちょった」
「そんな…」
「まぁ正直あれから彼女作ってみたものの、どーしてもお前さんと比べてもうての」
「…」
「一人前になったら、迎えに行こうと思うちょった」
「…」
「さおり、好きじゃ」
「…」
「もう一度、付き合うてほしい」

 

 

今度はもう泣かせたりせんから、

 

彼はそう   私の目を見て強く言った。

 

(…………)

 

彼の言葉が胸に響いて

 

なんだか  泣きそうになった。

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