あれから1週間が経った
(顔も見んと来てしもうたけど、さおりちゃん大丈夫やろか)
謙也から「ねえちゃんふったってほんまか?」とラインが来た
そのまま謙也に相談しようと思うたけど、
正直、あの妹に伝わるとさおりちゃんにまで伝わるんやないかと気になって謙也を呼び出すことがでけへんかった
そこで、俺が呼び出したんは財前やった
財前は東京に住んどったけど、テニス部の集まりにはあんまり参加してへんようやった
こないだの関東テニス部の集まりにもおらんかったし
個人的に謙也や俺となら会うてくれるけどな!
けど、絶対泊めてくれへんねん
自分の時間めっちゃ大事にしとるからな財前は・・・
「で、なんすか話って」
仕事終わりに呼び出したもんやから不機嫌そうな財前
(それでも来てくれるんはありがたいこっちゃ)
「いや、ちょおな」
「なんやねん」
なんて切りだしたらいいのか少し躊躇する俺に、財前が「はよしないと帰るで」と言うものだから、早速切り出すことにした
「あんな、」
「はぁ」
「こないだ話してた俺の同居人おるやん」
「おん」
「あの子がさ・・・」
「なんすか」
「・・・」
「告られたんすか」
「・・・!?」
「わかりやすすぎるやろ」
「え!?そんなわかる!?」
「わかるわ」
「あー・・・そっか」
「んで、付き合うんやろ?」
「え?」
「えって何やねん・・・え、まさかふったんすか?」
「・・・おん」
「え?なんで?そっちのがびっくりやわ」
「え、なんでや?」
「部長ほんまに気付いてないんすか?」
「え?何がやねんな」
「え、あの新年会やった時から全く進歩しとらんすか?」
「進歩って・・・」
「いや、部長あの子のこと好きやろ?」
「は!?何言うてんねん!!」
ビックリして大きな声が出てしまった俺に、
財前は冷静に「声でかいわ」とつっこんだ
おおすまん、ビックリしすぎてつい
「いやいや、待ってや、俺別にあの子のことそう言うふうに見たことないで」
「好きとかちゃうって?ほなどういう風に見てんねん」
「え、せやから、手のかかる妹っちゅーか、なんかほっとけへんなぁって・・・」
「・・・」
「いや、かわええなぁって思うで、一緒にいても楽しいし」
「・・・」
「けど、あくまでも友達としてしか今まで接してこなかったしなぁ」
「・・・」
「好きかって聞かれると、まぁ好きやけど恋愛の好きっちゅーか友達として?やと思うし・・・」
「・・・」
「けっこう手かかるから、俺がこっち戻ってくるまでには独りでも暮らしていけるようにしてやらなっていう使命感でいっぱいやったし」
「・・・」
「家族と離れてもうたから、俺が側にいて世話してやらなあかんて・・・そればっかりで」
「ちゃうやろ」
「え?」
「”世話せなアカン”やなくて、自分が”構いたい”んやろ?」
「・・・」
「先輩いつもそうやんか、好きなもんにはしつこいくらい構ってたやんか」
「・・・」
「使命感でもなんでもなく、好きやからとちゃうんすか?」
(・・・)
(・・・好きやから?)
まぁ、
た、確かに
財前の言う事は一理あるけど・・・
(カブリエルにしても)(トリカブトにしても)
(好きやから大事にしてきたけど・・・)
「その子の話してる時、めっちゃ楽しそうやから惚気ちゃうかと思うてたで、俺らみんな」
「・・・」
「ぶちょーその子のこと構うの嬉しそうやったで」
(せや、俺はいつの間にか、あの子のこと構いたくてしゃーなくて)
(休みも出来るだけ会わせて)(一緒におりたいって思うようになって・・・)
あれ?
おれ
さおりちゃんのこと、好きやんな?
あれ、これ恋愛の好き?
「その子に彼氏出来たらどないすんねん」
「・・・いや、彼氏作ったらええよって言ってもうて・・・」
「はぁ?アホちゃいますか、ほんまにええんすか」
「・・・」
「ちゃんと後のこと考えてから発言せぇや」
「・・・せやな」
「ほんまに、」
「おん」
「ほんまに彼氏出来たらルームシェア解消やろ」
「・・・おん」
「ええんすかそれで、他の男と一緒にいるとこ想像してみぃや」
(他の男・・・)
(さおりちゃんの隣に他の男・・・)
(・・・)
(・・・)
(・・・)
(・・・・・・想像・・・でけへんかったんやな今まで)
(彼女は俺の傍にいるのが当たり前すぎて、)
(深く考えられへんかったんや・・・)
「・・・めちゃくちゃいやです」
「せやろ?」
(アホやおれは・・・)
(今更そんな・・・!)
(あの子を傷つけた、今更やで・・・!?)
けど、
それならつじつまが合う
(彼女のこといつも心配してたんも)
(わざわざ平日休みにしてもろうたのも)
(車買っていろんなとこ行ったんも)
(彼女に似合いそうなプレゼント選ぶのが楽しかったんも)
(全部、)
(好きやからやったんや・・・)
そう、気づいた瞬間に体がカーッと熱くなったのを感じた
(恥ずかしいわ!アホすぎる!!)(財前に言われて気付くなんて・・・!)
「・・・今日お前と会えてよかったわ・・・」
「ほな、ここおごりで」
「・・・おん、わかった」
「あほやな先輩、昔っから自分のこと鈍いよな」
「え!?そんなことないで!?」
「いやあるやろwwwたいしておもろくないギャグやってみんな困ってても気にせんかったしwww」
「え!?おもろかったやろ俺のギャグ!!みんなおもろくて反応に困ってると思うてた!!」
「あ ほ で す か www んなわけないやんwwwどんだけポジティブやねん」
「いや、それショックやわ・・・えー・・・」
「恋愛ごともいっつもからまわっとったやん、女子の気持ちに気付かんで」
「・・・それは反論でけへんわ・・・」
「ゆかりに怒鳴られてたやん、女の子の気持ちちゃんと考えなあかんでってwww」
「・・・そんなこともあったな・・・」
「ええ加減、自分が鈍いて気づいてや、こっちまで巻き添えくらったらやってられへんわ」
「おん・・・すみません・・・」
「ホンマ、アホやな先輩」
「返す言葉もないわ・・・ほな今日はとことん付き合ってや」
「いやや、はよ帰りたい」
「ほな泊まり行く」
「絶対あかん」
はよ、落ち着くとこ落ち着かんとこっちが迷惑やわ
財前はそう言って、俺に遅くまで付き合ってくれた
(持つべきものは、)(学生時代からの友達やな!)
(帰ったら、ちゃんと謝って、)(ほんで気持ち伝えよ)
(俺も好きやでって)
(今更・・・て言われるかもしれんけど・・・)
(確かにおれ、)(さおりちゃんと出来ればこのままずっと一緒におりたい・・・)
(いや、出来ればっちゅーか、絶対や)
(また一緒にいろんなとこ行きたい)
それから、残りの1週間おれは仕事もそこそここなして、
予定よりも早い時間の札幌行きの飛行機に飛び乗った
(早く、)(早く、)
何度か、彼女に連絡をしたけど、
「既読」にならなかった
電話にも出てくれへん
彼女の性格から、きっと落ち込んで、メッセージを開かないのも納得できた
(だからこそ、)
(早く!)
一刻でも早く、彼女の元へ帰りたかった
夜6時
家についた俺は
静かに玄関を開ける
(靴・・・あらへんな・・・)
(仕事中やんな・・・)
ほんなら、彼女が帰ってくる前に、
何か美味しいものでも作って、
お土産に買ってきたスイーツを食べて、
ほんで、ちゃんと好きって言うて・・・
そんなことを考えながら居間の電気をつけた
(え?)
俺が東京へ出発した時よりも、スッキリしている部屋の中
掃除や整理を頑張ったなんて、言葉じゃ片付かないくらい・・・
(いや、これは・・・)(彼女の物がないんや・・・!)
そんな中だから、机の上に置いてあるものがすぐに目についた
俺はそれを手にとった
「・・・!?」
机に置いてあったのは手紙と封筒
手紙には、
『不快な思いをさせてしまってごめんなさい。
もう一緒にはいられないので出て行きます。
少ないかもしれないけど、残りの家賃置いていきます。
ベッドやデスクを処分するお金も置いていきますので、面倒をかけますが処分お願いします。
今までありがとうございました。 さおり』
封筒の中には、数十万あるだろうと思われるお金が入っていた
「うそやろ・・・」
あまりのことにその場に跪いた俺は、
しばらくはそこから動けないでいた