木10 ~VOL.21~

「ダメだね、38.8もあるじゃん。今日仕事休みなー」
「いや、今日は朝一で打ち合わせあるから行かなきゃいけないんだよ…」
「無理だよ、死ぬ気か。てか周りの人にうつるよ」
「…」
「きみの先輩子持ちなんでしょ?うつったらやばいよ」
「…」
「早く電話しな」
「…」

 

まぁちゃんに言われて朝一に一緒に打ち合わせの先輩に直接電話をした。
先輩は優しく、鼻声だね大丈夫!?いつも私も子供のことで早退してるし気にしないで今日は任せて!とか言ってくれたけど・・・

 

(先輩のお子さんに何かあったら私休んでる場合じゃないのに・・・)
(あああ社会人として自己管理もままならぬ・・・)
(てゆーか昨日はいろいろありすぎて全然寝れなかったもんな・・・)
(これもすべて自分が蒔いた種・・・だと思う・・・)
(普段の行いが悪いから・・・)←ネガティブ

 

「きみ落ち込んでる場合じゃないよ、とりあえず適当に冷蔵庫に入ってるからチンして食べて薬ちゃんと飲みなよ」
「うん・・・」
「じゃ、おらは行くよ!行きたくないけど行くよ!休みたいけどもう有給あんま残ってないから行くよ!今日は金曜日だしすぐ帰るよ!定時で帰るよ!金曜ロードショーぽにょやるから見るよ!」
「わかったよ、いってらっしゃい・・・」

 

まぁちゃんを見送ってから 居間に行く。
まだフラフラするよ。でもいろいろ用意してくれたし食べて薬飲んで寝よう。

 

テレビをつけながらぼんやりご飯を食べる
なんだか平日に家にいるのは・・・風邪だからしょうがないんだけど・・・
ずる休みをしているような悪いことをしてる気分になる・・・

 

(・・・昨日白石さんからの ライン既読つけて返してないや)
(気になってソワソワしてないかな・・・)
(あとで返そう・・・)

 

そう思って Eメールの受信ボックスを開く

 

(・・・仁王くん)

 

仁王くんからのメールを改めて読むと
体が かぁ と熱くなった。

 

正直、仁王くんからあんなこと言われるとは思ってなかった。
夢みたい。

 

(・・・夢なのかな?)
(ふわふわしてて全然実感ない)

 

ううん、違う。
これは紛れもなく現実だ。

 

(・・・だからちゃんと考えないといけないんだ、私)
(あー・・・すごい大変だ)
(とりあえず熱下がってから考えよう)
(じゃないといつまでも熱下がらない気がする)

 

また『仁王くんからのメールを見る・・・

 

(あ、あいしてるだって・・・!)

 

ジタバタジタバタ

 

あれだけ恋い焦がれて 付き合ったのにうまくいかなくて 結局後悔ばかりで忘れられなくて
何度ももう一度やり直したいと願った

 

それが今、叶いそうになってるなんて!!!

 

(・・・ほんとすごい)
(ほんとに、すごい)

 

思えば、私の人生のほとんどが 仁王くんのことばかり考えて生きてきたんだから
これだけ彼が頭から、心から、体中から 抜けきらなくて当然なんだ。

 

(・・・幸せにする、だって)
(やりなおさんか?だって)

 

複雑な心境なのに ニヤニヤが止まらない

 

彼が
あの仁王雅治が
私とよりを戻そうとしてくれている。
付き合えたことですら奇跡だったのに、もう一度 二度目の奇跡が起きようとしている

 

(・・・すごい)
(どうしよう)
(仁王くん、大人になったなぁ)
(そんなこと、言う人じゃなかったのに)
(・・・いつも何を考えてるかわからなくて)
(口数が多いタイプでもなかったし)
(ミステリアスで・・・魅力的で・・・)
(いつも私なんて遊びだろうな、とか 不安ばっかりで)
(こんな風に 気持ちを言葉にして言ってくれることなんて なかったのに)

 

別れた日ですら
私から告げた別れの言葉に あっさり わかった と言っただけだったのに。

 

(・・・だから、本当にもうどうでもよかったんだろうなって思ってた)
(だからもっと私ががんばってればって、)
(もっともっと私ががんばって彼に愛されなければいけなかったのにって)

 

いつも思ってた。
白石さんと一緒に過ごすまでは。

 

(・・・白石さんと会って最初は最悪だったけど)
(その優しさに惹かれてたんだけどな)
(すごく 悲しい顔してたな、白石さん・・・)
(・・・私はどうしたらいいんだろう)

 

くしゅん!

 

「・・・あー、さむい、薬飲んで寝よう・・・寝れないならゲームしよっと!現実逃避!!」

 

そうして私は携帯を放置したままゲームしたりそのまま寝たりして1日を過ごした。

 

 

 

 

 

(・・・あれ、真っ暗)

 

目が覚めるとあたりは真っ暗。
時間の感覚が全くなくて、もう真夜中なのかと思って慌てて時計を見た。

 

(・・・あ、まだ5時半か)
(え?朝?夕方だよね?)

 

しばらくボンヤリしてたけど、居間に行ってテレビをつけると夕方のニュースがやっていたから
まだ夕方なんだと、ホッとした。

 

(結構寝れたなー)
(熱も下がった!)
(よかったー)
(土日はゆっくり寝てよっと)

 

まぁちゃん定時で帰るって言ってたからもう少しで会社出るかな、とか
そんなことを考えていて

 

ピンポーーーーン

 

インターホンが鳴って 誰だろうと思いながら通話ボタンを押した。

 

「はー・・・・」
い、と言おうとしてその画面に映った人物に動きが止まる。

 

 

(!!!!!!!)

 

に、仁王くん・・・!!!!!

 

え、え、え、え、え、え、え、えーーーー!!!!!

 

 

(どどど、どうしよう)
(どうしよう・・・もない!!)
(もう声出したしそもそも部屋の電気ついてる!!)

 

心臓がバクバクと動いて 体が震えた

 

『・・・さおりか?』
「う、うん」
『大丈夫か?ずいぶん鼻声じゃな・・・昨日あれから熱出たんか?くしゃみしとったもんな』
「うん、少しだけ・・・あ、今開けるから上がって・・・ちょっと今着替えるから」
『いや、近くにきただけじゃ、すぐ帰るからこのままでええ、ちっと聞いてくれんか?』
「あ・・・うん・・・」
『昨日は突然すまんかったの』
「う、ううん」
『・・・メールも』
「・・・うん、まだ返事してなくて、ごめん」
『ええんじゃ!・・・嫌がられたんかと少し心配になっただけじゃ』
「そんな!嫌なんかじゃないよ!」
『そうか?お前さん昔から優しいのぉ・・・そんなとこが好きじゃ』
「! あ、ありがとう(人来たら聞かれちゃうよ、大丈夫かな)」
『・・・また、メールしてもええか?』
「も、もちろん!」
『・・・あと、今度、飯でも』
「え、あ、う、うん・・・」
『昨日は焦りすぎた・・・じっくりまた二人の時間を取り戻すぜよ』
「・・・」
『・・・具合悪いのに悪かったの、もう帰るからゆっくり休むんじゃよ?』
「ありがとう」
『じゃあ』

 

そう言って仁王くんは帰っていった。

 

(・・・はぁ)

 

き、緊張した・・・

 

でも

 

(うれしかった・・・)

 

さっきとは違う ドキドキが胸いっぱいに広がる

 

(仁王くん・・・)
(今までと全然違う)
(どうしよう、私、すごく嬉しい)

 

ブルブルブルッ

 

(ビク!)

 

ほわわーんとしてたもんだから 携帯が震えてビックリした。
あ、そういえば携帯まだ見てなかったな今日。

 

見ると今来たまぁちゃんからのライン。
『今会社出たよ!急いで帰る!』
それからお昼くらいにも
『熱大丈夫か』『寝てるか』『おとなしくしてなよ』『薬のみなよ』
何通かラインが来てて
それに返信してから、まだメッセージが来てることに気づく。

 

 

『さおりちゃんの先輩に聞いたで、熱出たらしいけど、大丈夫?』

 

 

白石さんからお昼くらいに届いてたメッセージだった。

 

(白石さん・・・)

 

そうか、先輩に会ったんだ。
心配、してくれてるのかな・・・。

 

ズキズキ、と胸が痛んだ。
なんでだろう、白石さんのメッセージ見ると ズキズキと胸が痛む。

 

(・・・はぁ)

 

なんて返そうかしばらく悩んで

 

『少し寝たら熱下がったので大丈夫です、ありがとうございます』

 

そんな業務的な文章を送ってしまった。
(ほんとはもっといろいろ書こうとおもったのに)
(それしか思い浮かばなかった)

 

ブルッ

 

すぐに携帯が鳴った

 

『ほんま!よかったわ、ホッとした!ほな、土日はゆっくりして風邪治してな!また来週、会おうな』

 

(・・・うん)

 

彼はやっぱり優しい。
昨日のことには何も触れず 私の心配だけをしてくれている。

 

でもそれが モヤモヤするのはなぜなんだろう?

 

しばらく画面とにらめっこして、またなんて返すか悩んでがるうちに
ドタバタ とまぁちゃんが帰ってきた。

 

(!! び、びっくりしたーーー!)

 

「ただいまーーー!!熱は!?」
「下がったよ」
「よかった!ご飯食べれる?」
「うん」
「じゃうどんにするわ!ドラえもん見てくれしん見て風呂入ってぽにょだ!」
「そうだね」
「Mステ誰かなー、ジャニーズ出るかなー」
「どうかな」
「あ、今日スマップか、見なくていいな。よし今着替えたら作るから待てって!」
「わかったよ、ありがとう」
「あ、あとさ!」
「うん?」
「ん」

 

まぁちゃんが、私の目の前に綺麗に包装された一輪の花を差し出した。

 

「え、えぇ!?wきみ買ってきたの?うけるね!やることイケメンでしょ!」
「いや違うよ」
「え?」
「郵便受けに入ってたよ」
「え!」
「誰かしらんけど、きみにでしょ?」
「あ・・・」
「んじゃ、今日はじっくり話聞かせてもらうから覚悟しといて!」
「え!」

 

そしてまぁちゃんはドタバタと部屋に着替えに行った。

 

(・・・仁王くんだ)

 

そう思いながら、まぁちゃんにどこから話をしようか
頭の中を整理するのだった。

 

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