(…なんでふたりが知り合いなの)
1番気になることだったのに
聞けなかった。
いや、聞けるわけなかった、あの状況では。
あの後、なにか言いたげな白石さんと
私に歩み寄り、必死にやり直そうと言う仁王くんがいて
そんな中、空気の読めない私の体はクシャミを連発し
(いや、ある意味空気読んだのかも)(グッジョブ私の体)
ひとまず解散となり
私は逃げるように家へ帰った。
(…どうして仁王くん、今更)
(なんで2人は知り合いなんだろう)
(白石さん、すごくつらそうな顔してた)
(あんな顔、初めて見た)
(どうしよう)
(…仁王くん、迎えに来たって)
(私は)
(私は…)
クシュン!
自分のクシャミで
ハッと我に返る
(…さむ)
体が冷えて 寒気が止まらない
(…これやばいかも)
(節々痛いし)
(熱計ってみようかな…)
(げ、39.6!)
(…薬飲んで寝よっと)
(氷枕…どこだったかな)
まぁちゃんにラインするとすぐに帰って来てくれるって。
いいって言ったけど少しホッとした。
やっぱり熱があると 心細いもんな。
寝る準備して布団にゴソゴソ入った。
(寒い…)
(布団もう1枚出そうかな…)
(あー喉渇くからペットボトルとか…あったらいいな…)
(まぁいいや、とりあえず…寝よう…)
(うん…寝なくちゃ…)
(具合悪いから、寝なくちゃ、)
体調が悪いことで誤魔化して
考えないように努めたけど
そんなの無理に決まってる。
無理だよ、当たり前だ、
(だって…)
(なにさっきの状況!)
(ありえないしょ!!!)
具合が悪いせいもあるのか
心臓バクバクだし頭も冴えちゃって全く眠れない。
あーーーー困った。
ガチャ!バタバタ!どたっ!
さおちゃんねたかい
すごく小さい声がドアの向こうから聞こえた
(まぁちゃんだ)
(なんでだろ)
(泣きそう…)
「…起きてるよ」
小さい声でかえせば、まぁちゃんが部屋に入ってきた。
「大丈夫かいきみー、氷枕冷静に思い出したら穴あいて捨てたんだわー!冷えピタ買ってきたよ、あとアイスノンね。栄養ドリンクも買ったし、バファリンとこれ飲んでいい効く風邪薬教えてもらったから買ってきたわ!それからトローチとスポーツドリンクね!今布団もう1枚出してくるから暖かくして寝な!!」
ダーッとまぁちゃんが布団取りに行って
なんかやっぱり姉妹っていーなぁと思ったよ。こーゆーとき気が効くもんね。
「はい、これかけてねなー、寒い?大丈夫かい?」
「うん、ありがとう、きみうつるから早く部屋でな」
「わかったよ、なんかあったら携帯鳴らして!すぐ来るわ!」
「うん、わかったよ」
「おにぎり作っとくから小腹空いたらチンして食べな!ゼリーとかも買ってきてるわ!あと卵スープ作っとくから!」
「ありがとう」
「あと大丈夫かい」
「うん」
「したらゆっくりねなよ!おやすみ!」
「うん、おやすみ」
持つべきものはまぁちゃんだな
なんか不安だったけど、一気に家が明るくなった気がして少し安心して眠くなってきた…
(…明日考えよう)
(難しいことは)
とりあえず寝ちゃえっと目をつぶったんだけど
携帯が光ったのがわかって目を開けた。
(…だれ?)
見ると、白石さんからのライン。
『今日はおおきに!クシャミめっちゃしとったけど平気?』
(……他に聞きたいことあるくせに)
白石さんは優しいから
きっと思ってても口に出さないんだろうな。
こーゆーとこが好きだけど
逆に、気を使われるのはキツかったりする。
(……ハッキリ聞いてくれた方が気が楽だよ)
(仁王くんとのこと)
どうしよう
そう思っていると、今度はEメールが届いた。
開くと差出人には 見覚えのあるメアド。
もう彼のアドレスなんてとっくに消したはずなのに
覚えてる。忘れられない。
(仁王くんだ…)
『メアド変わってないんじゃな、安心した。今日はいきなり押しかけて悪かったのう。白石とどんな関係じゃ?付き合うてるんか?…もし、そうだとしても俺がさっき言った言葉は変わらん。愛しとうよ。昔は俺もなるべくお前の気持ち優先に、と気を使って気持ちを押し殺しとった。さらにそれがさおりには気を使わせてたと思うとる。けど今は大人になって自信もついた。今なら絶対にあの時みたいな顔はさせん。幸せにする。もう一度、やり直さんか?』
(………)
情熱的なその言葉に胸が熱くなる。
正直、彼を見た瞬間に
あの頃彼を好きだった想いが全て蘇ってきて
別れた時に封印したはずなのに
全部全部思い出してしまって
彼の顔を見ただけで トキメキや愛おしさが込み上げてきて
好きだ、と体が感じてしまった。
そう、長年体に染み付いた想いはなかなか消せなくて
抱きつきたい、とさえ思ってしまった。
(…白石さんがいたのに)
(彼の存在を忘れてしまうくらいに)
(私は仁王くんに夢中になっていたかもしれない)
…どうしよう。
私、白石さんのこと 好きになってたはずだよね?
でも仁王くんに迎えに来たって言われたら、たまらなく嬉しくて
どうしたらいいの?
どうするべき?
さっきから「好きな人フォルダ」と「気になる人フォルダ」と「忘れられない人フォルダ」を探してるのに見当たらない。
ただ、白石さんのつらそうな顔と
仁王くんの情熱的な瞳が
脳裏に焼き付いて
忘れることが出来なかった。