木10 ~VOL.19~

ディズニー行ってから
あの男からの連絡がかなり減った。てか来なくなった。
会おうとか誘われなくなった。

 

(…悲しそうに笑ったからな)
(…ありゃ、ガチだ)

 

どうしようかなーとか
やだなーとか
素直にそんなふうに思った。
結構頻繁に会ってたし、連絡だけなら毎日取ってたし
『都合のいい関係』とか言いながら
結局恋人みたいなことしてたんだよな。

 

(…最初から付き合いたいって言ってたヤツが)
(恋人だと勘違いしちゃうのもうなずける)

 

まぁ正直あたしも結構楽しかったしね。
これであの日々がなくなるのは、キツい。

 

「あーもー、めんどくさいけどしょうがねーなー!」

 

自分で蒔いた種だからな!

 

連絡来ないなら会いに行けばいいじゃない。

 

ってことでちょっくらいってくるわ!
さおちゃんも今日白石とご飯行ったしな!

 

通い慣れた道を歩いて彼の家に来た。
ふむ。電気ついとるな。いるな。
居留守使ったらぶっ飛ばそ。

 

ピンポーン

 

『はい』
「あたし」
『…』
「開けてくれなきゃ朝まで外で寝てる」

 

ガチャ

 

「…そんなん、ズルイやん」
「こー言わないと開けてくんないじゃん」

 

入るよ、と私は靴を脱いで上がった。

 

「何しにきてん」
「会いにきちゃいけないの?」
「…いや、あかんくないけど」
「そんな怒んないでよ」
「別に怒ってへんけど」
「怒ってんじゃん」

 

あたしはやつに近づき、そっと抱きついた。

 

「ねー、今日泊まってっていい?一緒にいたい気分」
「……そないなこと言うても」
「だってずっと連絡くれなくて…淋しかったし」
「…あのなぁ」
「いーでしょ?」
「…あかんって」

 

(…とか言って)

 

あたしを抱きしめ返してるくせにwww

 

「言ってることと行動がバラバラなんですけどwww」
「せやってズルいわーこれはズルイわ、ズルイ女…」
「そー言いながら嬉しそうだけどwww」
「嬉しいに決まっとるやんか!」
「あたしもw」
「…え?なに?今日どないしたん、ずいぶん素直やん」
「不審がるなよwww」
「あやしいわ!俺また騙されとる!?なに!?怖いんやけど!」
「は!?なにそれ!失礼だ!謝れ!」
「…ふはっ、いつものお前や笑」
「だから、そーだってば!」

 

ほな、俺もういい加減真面目な話したいんやけどええ?

と、彼は腕に力を込めて  強く抱きしめながら言った。

 

「…うん、あたしも話そうと思ってきたから」

 

そう言って

体を離して

目だけ合わせて

 

「謙也、あたし、」

 

きちんと伝えようとして

ピコン

携帯が鳴った。

 

(…おおお)
(誰だ一体)

 

見る気はなかった。
でも、見えてしまった。

 

『氷枕ってどこかわかる?』

 

さおちゃんからのラインだ。

 

「ちょっとごめん」

 

嫌な予感がして、携帯を手に取った。

 

『氷枕ってどーした?熱?』
『うん、明日休めないから氷枕して寝ようかなと思って』
『何度?』
『39.6』
『ヤバイね、帰るわ』
『え、いーよ大人だから大丈夫』
『薬飲んだ?』
『バファリン飲んだよ』

 

そこまでやり取りをして

 

「けんや、ごめん、帰るわ」
「え、どないしたん急に」
「さおちゃん熱でたって」
「いつも話しとる姉ちゃんか!そら大変や、送るわ」
「ありがとう」
「なんか買ってくもんあるか?途中どっか寄るで」
「じゃあ薬局行ってもらうかな」
「おぅ、ほな車に、」

 

鍵を持ってすぐにでも部屋を出ようとする謙也の服を 後ろから掴んで

 

「…好きだよ」

 

小さく呟いた。

 

(なんか今言っとかないと)
(後悔しそうな気がする)

 

謙也は静かに振り向くと

 

「…おおきに、その話はまた今度ゆっくりな」

 

あたしの頭を嬉しそうに撫でた。

 

今はとにかく急ぐで、と私の手を握って
彼は家を出た。

 

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