私の中がパソコンだとして
例えば「気になる人」フォルダがあるとしよう。
今、まさに
そのフォルダが新しい情報へと書き換えられようとしていた。
「来週の土曜日に向こうの会社の部長さんちでバーベキューしようって誘われちゃってさ、私は子供連れて行くつもりなんだけど、空いてるなら前ちゃんも行かない?」
と、先輩に誘われた。
ので、行くことにした。
まぁちゃんはまた肉食べたいのに置いてけぼりだとか子供連れて行く人いるなら妹連れて行ってもいーと思うとかブツブツ言ってたけど、結局人見知りだから行かないと自分から勝手に断ってきた。いや、まぁちゃん何やらかすかわからないから連れて行かないよ、うちの会社の人だけならいーけどさ…。
そして先輩と、数人の同じ会社の仲間と製薬会社の部長さん宅についた。
うわ、豪邸!庭…ってゆーか、すでに山!広い!
さすが一流企業の部長さんだわ…。
とか思いながら、お邪魔します〜とお土産を部長さんに渡し、周りを見渡した。
(あ、)
「さお、あ、えっと、まえさん!!」
そこには首からタオルを下げて、軍手をはめた白石さんが火起こしをしながら手を振っていた。
(白石さんもいたのか)
「あ、白石くんもいるじゃん!前ちゃんよかったねー」
…なぜだか私より周りのが嬉しそうにからかってくる。
みんなコイバナ好きだな…。
「別に、私は…」
とか言いつつも
「前さん、荷物重そうやな、持つで」
「あ、虫除けスプレーしたほうがええで、日焼け止めも…ちゃんとしてきた?」
「帽子は?ない?ほな俺の使てや!」
はい、と頭に自分の帽子をかぶせて
「ほな俺、火つけてくるから!前さんゆっくりしとってなー!」
美味い肉食わしたるわーと笑いながら手を振り去って行く彼に
周りの女子はキャーキャー
「やー、白石くんほんとかっこいーよね」
「てゆーか前ちゃんのこと大好きだよね」
「私達には見向きもしない笑」
「ほんと愛されてうらやましい!」
「前さん!あんな素敵な人に好かれるコツ教えてください!」
「私も知りたい」
「無理無理、白石くん昔から前ちゃんのこの鈍感で真面目なところに惚れてるから笑」
「鈍感力かぁ〜」
「やっばり真面目に生きてれば見てくれてる人はいるってことですね!」
「前ちゃんほんとうらやましー」
「ねー」
(………にやり)
悪くない。
そう、悪くないのだ、この状況。
イケメンが…!
誰もが見惚れるイケメンが…!
私を好いている…!!!
こんなのはネオロマの中だけの話だと思っていたけど現実で起こるとたまらなく幸せだ。
ふむ。
いやでもアレだよ、酔った私を抱いたことはまだ許してないよ。あと周りには絶対ヒミツだ…。
女子チームはキャッキャと野菜切りとおにぎり作り
男子チームは黙々と力仕事
一段落したらいよいよバーベキューが始まる…!
(炭火で焼く肉嬉しすぎて震える:(´◦ω◦ ` ):)
「隣ええ?」
白石さんがお皿を持って私の横に座った。
「ほら前さん肉好きやろ、たくさん、食うてや?こっちのかまど火弱いやろか…あ、タレいる?」
ほんとかいがいしく彼は私の世話を焼く。
そして、これはディズニーのときに気づいてしまったのだけど
彼は私の世話を焼くことに…喜びを見出しているようだ…。
てことは私は犬か何かペットのようなものと一緒にされているっぽいわ…
(´・ω・`)ショボン
まぁ…むしろ……ありがたいんだけどね。
私は昔からがんばってやってるのにどこか抜けてるから…最近は彼がフォローしてくれて助かってる。
そう、素直に思えるようになったんだ。
それだけ、彼は外見だけじゃなく性格もいいとわかったから。
「白石くーん、こっちでダッチオーブンやるんだけどちょっと見てくれるー?」
「あ、白石さん、呼ばれてますよ」
「ほんまやな、人気者はつらいで」
「…そうですね(真顔)」
「(やば、怒った!)あ、いや、冗談やで?人気ありたいのはさおりちゃんにだけで、コソコソ」
「早く行ったほうがいーですよ(真顔)」
「す、すぐ戻ってくるかなら!」
白石さんは慌てながら向こうへ行った。
(…ほんと、人気者はツライよね)
そう、彼は人気者なんだ。
それはもう私が自信を無くすレベルに。
(好きって言ってくれるけどさ)
(…ほんとなの?)
(なんで私なんかを…)
「まえさん」
「あ、部長さん」
「食べてるかい?」
「はい、すごく美味しいです」
「それはよかった…まえさん」
「はい?」
「…白石くんのこと、よろしく頼むね」
「えっ!!」
部長さんがいきなりそんなことを言うから
ほんとに驚いてしまった
(な、なんで)
(部長さんがそんな…!!)
「いや、彼はね、入社した時から本当に真面目でね」
「はぁ」
「誰もやりたがらない研究も進んでやるし、困ってる人がいたらどんなに大変な時もサービス残業してまで手伝うしね」
「はい…」
「見た目はあの通りかっこいいだろ?女子社員にもモテるんだけど彼は全く見向きもしなくてね」
「え、そうなんですか…」
「一度飲み会の席で聞いたことがあるんだ」
「え?」
「誰の誘いも受けないけど、心に決めた人がいるのかい?って」
「…」
「その時はまだ君と出会う前かな…適当な恋愛したくはない、大切な人が出来たら間違いなく全身全霊で本気で大切にしたいからその日のため今出来ることをがんばるって、今は仕事が恋人だって笑ってたよ」
「…」
「それからしばらくしてきみと出会ってね」
「…」
「あれだけ仕事人間の彼が、誰か見てもわかるくらいきみに惚れて猛アタックして」
「…」
「ビックリしたよ、こんなに情熱的になるんだって」
「…」
「仕事をこれだけ大事にする彼だから、きみのこともとても大事にするんだろうね」
「あ、や、あの」
「大丈夫、きみのことを見た時も彼が惚れた理由がわかったよ」
「え!」
「真面目でいつも一生懸命で優しくて…なんだか少し白石くんと似ているのかもね」
「そんな!!私なんて全然!気効かないし、仕事も失敗ばかりだし…」
「ははは、そんなことないよ。そんなとこがあるならそこも含め彼はきみが好きなんだろうし…」
「いえそんな…白石さんがすごいのは、よく、わかります。優しいし気が使えるし頭もいいし…」
「そうだね」
「だからこそ…そんな彼がなんで私なんかを好きになったのかわかりません…自信もないし…」
「大丈夫」
部長さんはニッコリと笑って
「そんな素晴らしい彼が選んだんだ、間違いないよ」
彼ときみ自身を信じなさい
部長さんはそう言って、部長ーと呼ばれて私の隣から離れて行った。
(…)
結婚式ではスピーチさせてくれよ?だって…
(…いやいやいや)
(結婚式って!)
(ありえないから!)
(つ、付き合ってもいない、のに、)
そう、付き合ってもいない。
あんなことがあって 気持ち悪い なんて決めつけて
彼の好きという言葉から逃げて
(…ホントはいい人なの、わかってきてるのに)
「…ダメだな、私」
「なにが?」
「!!」
振り向くとすぐ後ろに ちょうど考えていた彼がいてビックリした。
「さおりちゃん全然ダメやないで?」
「え、聞いてたんですか!」
「いや、聞こえたんやで!」
「や、聞かなかったことにしてください!」
「部長になんか言われた?」
「え!」
「部長とふたりきりで楽しそうで焼いてまうとこやったわ」
「な、なに言ってるんですか!大体部長さんあんなに愛妻家だし、」
「なー、ほんま奥さん幸せそうやな」
「…ほんとですね」
「むっちゃええ人やろ、部長」
ニカッと笑う彼が眩しくて
直視できずに、俯いた。
「…ええ、ほんとに」
「どないしたん?元気ない?今日帰りは俺が送ってくから乗って行ってな!」
「え、でも」
「もう他の人には言うたから大丈夫!」
「…ぬかりないですね」
「さおりちゃんのことに関してはな!」
向こうでダッチオーブンで丸々チキン焼いとったから行ってみようや、と手を出す彼に
おとなしく手を伸ばしたのは
雰囲気のせいか、部長さんの言葉のせいか
(…信じてみようかな)
私の中の「気になる人フォルダ」が
今 新しく
更新された。