好きな人、おるんか…
酔ってる彼女に手を出した。
最低なことしたから嫌われるのはしゃーないかもしれん。
けど、友達になれるなら俺のことちゃんと知ってもらって、ほんでまた告白すればいつか想いが届くかも、なんて淡い期待を抱いとったんやけど。
(好きな人か…)
多分あの真面目な彼女やから心を動かすのは難しいことやろな、なんて思いながら
何となく連絡も出来ないまま日にちだけが過ぎて行った。
(…まえさんに会いたいな)
そう思ったある日
久々に会社に前さんが来るんだと、例の先輩さんからメールをもらった。
周りはやたらとくっつけようとしてくるから有難いでほんまに。
「まえさん」
ちょうど、打ち合わせが終わり部屋から出てきたまえさんに声をかけた。
「あ、しらいしさん…お疲れ様です」
彼女は驚いた顔でそう言った。
「お疲れ様…って、ひとり?」
「はい、先輩のお子さん熱を出しちゃって先輩早退されて」
「そうなんや」
「はい…あ、じゃあ、失礼します」
ペコっと頭を下げ、スタスタと歩き出す彼女に
(あぁ、行ってまう…!)
「待って…!」
そう必死に追う俺。
「…なんですか」
(うわぁ…めっちゃ嫌そう…)
(嫌われたもんやなぁ…)
(まぁ…当然やけど…)
「…いや、このあともし直帰なら飯でもどうかな、思うて」
「いえ、この後は会社に戻りますので」
さよなら
そう告げて彼女は帰って行った。
(………)
「ほなっ!今夜連絡してもええですか!?」
(あ、しまった…!)
思わず、大声でそんなふうに叫んだ俺に
立ち止まった彼女は
「はい」
振り返って律儀にそう返事をしてくれ
今度こそ本当に帰っていった。
(………やっぱ、あきらめられへん)
真面目で、結局は優しいんや、彼女は。
(好きな人おっても)
(嫌われとっても)
(…もーちょい、がんばろ)
あの日の夜、これ以上ないくらいに幸せを感じたから
(…もう1度、幸せ感じたい)
(ほんで、彼女も幸せにしたい)
俺、あきらめ悪い男なんや
(絶対、振り向かせてみせる)
心に炎が灯った。