「忍足くん、頼むよ」
お世話になった先生から話があったのは急なことだった
研修医が終わって、いよいよ独り立ちという時に声をかけられた
あの先生の元で学べるのは俺にとっても良い事だし、勤務先としても非常に条件が良い場所だったので断る理由は特になかったので即決した
困ったのは、住む場所だった
(あーどないようかな…)(今まで実家やったから家決める勝手もわからん…)
(時間もあんまりあらへんし、忙しくて見に行ってる時間もないし…)
幸い、勤務先が昔よく遊びに行っていた商店街の近くだったのは助かった
俺はすぐに友達に連絡した
『久しぶり!今度そっち転勤なったんやけど、ルームシェアしてもええ友達とかいてへんかな?家探すの大変で・・・』
返事は思ったより早く帰ってきた(さすが向日やわ!)
『おう、元気だぜ!こっち来んの?また飲もうぜ!ルームシェアは悪いけど今んとこいねーわ、みんな実家暮らしか地元離れてる奴しかいねーから』
(やっぱりな・・・)
確かに地元の友だちはみんな実家暮らしか、地元を離れているやつしかいないだろう
ルームシェアなんて、きっと必要な人間は周りにはいないんだろうと思い、半ば諦めつつあった
(ほな、あの近所で適当に決めるか・・・)
(あーでもなー、家具買う時間もあらへんし…)
(ガスとかネットとか、もう引いてるとこに引っ越すのが一番楽なんやけど…)
そう思いながらも、忙しさのあまりなかなか家を探す時間もないまま時間が過ぎて行った
そんな時に、向日から連絡があった
『もう家決まった?ルームシェアしたいって奴いるんだけど』
そのメッセージを見て、おれはすぐに向日に電話した
「あ、もしもし、謙也やで」
『おー、元気か?』
「今ええ?」
『おう、ルームシェアの件だろ?』
「おん、ルームシェアしてもええって言ってる奴おるって言ってたけど・・・」
『うちの店の近くのマンションに住んでて、最近一緒に住んでた友達が結婚するって出てったらしくて困ってんだよ』
「ならめっちゃちょうどええやん!病院も近いし、家に家具全部揃っとるんやろ!?」
『ああ、生活に必要なもんはあると思うぜ、後は自分で布団用意すれば住める』
「ほな、お願いしたいんやけど、それ友達に伝えてくれへんかな!?」
『あー・・・別にそれはいいんだけどよー』
「ん?何か問題ある?」
『いやー・・・問題って言うか・・・』
「何!?あ、めっちゃ家古いとか!?古いのは別に気にせぇへんで!」
『いやいや、築10年の2DKでオートロック』
「めっちゃええやん」
『いや、物件じゃなくてさ、』
「おん?」
『一緒に住む相手に問題あんだよなー・・・』
「え!?何!?あ、めっちゃ汚いとか!?」
『汚くはねーわ』
「え、ほな何!?何が問題!?」
『いや、女なんだわ』
「え・・・?」
『女なんだけど、お前一緒に住める?』
お、
女・・・?
「い、いやいやいやいやいや!!そ、それはあかん!!」
『だろー、お前絶対そう言うと思ったんだよなー』
「知らん女の子と1つ屋根の下とかあかんわ!!!」
『言うと思った』
「いやー、残念やけど・・・ほな別の相手探してもらってやー・・・」
『いいじゃん別に女でも』
「え?」
『一応性別女になってるけど、女じゃねーからあいつ』
「いや、けど、」
『大丈夫だって、変なやつだから』
一緒に暮らしたら楽しいと思うぜ?
向日はそう言うたけど、その時はやっぱり女の子と住むのは無理やって言って電話を切った
(申し訳ないけど、)
(女の子と住むとか!)
(女なんておかんくらいしか一緒に住んだことあらへんし・・・)
(せ、洗濯物とか見てしまったらどないすればええんや・・・)
またふりだしに戻ってしまった
そう思っていた次の日
今度は向日から電話がかかってきた
『よお』
「おう、どないしたん?」
『昨日の話だけどさ』
「おん」
『向こうがかなり困ってて、どうしも一緒に住んでほしいって言っててさ』
「え!?いや、けど、俺女の子は・・・」
『いや、大丈夫』
「え?」
『ホント、女じゃねーから』
「いやいや、けど、」
『マジで困ってんだって、そいつ』
「あー、それはわかるけど・・・」
『このままじゃ水商売しないといけないって嘆いてたんだわ』
「え!?それはあかんな!」
『だろ?そこまで困ってんだよ』
「あーそうかー・・・」
『あ、ちょっとジロと変わるな』
「お、おん」
『あー、けんやー?久しぶりー』
「おー、久しぶりやなー」
『こっち来るんだって?』
「おん、来月からそっちの病院勤務やねん」
『マジでー?そしたら病院遊びに行くから~』
「いや、勤務中はあかんやろ(笑)」
『はは、でさ、一緒に住む相手なんだけど、』
「おん、」
『すげー可愛い』
「!?」
『けど、世界一アホ』
「え!?」
『一緒に暮らしたら絶対楽しい奴だから、俺はおススメだよ~』
「え、いや、けどな~」
『大丈夫大丈夫、俺たち誰も女の子扱いしてないC~』
「お、おぉ・・・」
『忍足とすっげーケンカして面白いんだよ~』
「え!?ユーシと!?」
『そうそう、あのフェミニストの忍足がケンカする相手だよ~すげ~だろ』
「そ、それはなかなかやな・・・」
『あ~、じゃ宍戸に代わるね~』
「おん・・・」
『おう、元気か?』
「お、宍戸先生やん!」
『先生はお前もだろ!』
「先生違いやけどなー」
『な、一緒に住む奴さ、』
「おん、宍戸から見てどんな子なん?」
『いや、すげーアホだぜそいつ』
「アホって言いすぎやなみんな・・・」
『いや、俺らの飲み友達なんだけどさ、俺らの中に普通に混ざってるからな』
「そうなんや・・・」
『確かに女って聞くと、ちょっと構えるかもしれないけど、そんな必要全くない奴だから!』
「・・・宍戸が言うなら、そうなんやろうな・・・」
『おう、全く女扱いしなくていい奴だわ』
「んー」
『お前と絶対ノリ合うと思うぜ、一緒に暮らしたら楽しいと思う』
「それみんな言うんやけど!そんなに楽しい子なん?」
『楽しくねーと俺ら一緒にいねーから』
「・・・せやんな」
『あいつ可愛くてモテるくせに、全く女っぽくしてないのがいいんだよ』
「そうなんや」
『俺だって、すげーぶりっ子とかならこんな勧めねーよ』
「そやろな、宍戸はそうやろな」
『あいつは女じゃない』
「そこまで言ったらかわいそうやろ!(笑)」
『だから、気楽に来いよ、俺たちも遊びに行くし』
「そう言ってもらえると、助かるわ」
『おう、じゃガクトに代わるな』
「おん(コロコロ代わるな)」
『・・・ってことだから』
「おん・・・大体わかったわ」
『ってかさ、けっこう男女のルームシェアも多いぜ?そんな気にしなくていいんじゃね?』
「んーせやなー」
『ただの同居だから、嫌なら部屋こもってればいいし、寮とかそういう風に思ってればいいじゃん』
「まぁ・・・そうやな・・・」
『亮も言ってたけど、俺らも遊びにいくし、気にすることねーよ』
「・・・せやな」
『来いよ、家近いから一緒に飲もうぜ』
「おん」
『っつーか、こっち来たら一緒に住まなくてもそいつ紹介するし』
「めっちゃその子推すな!」
『推すぜ?面白いからそいつマジ』
「・・・ほな、お前らのいう事信じるわ」
『おう!信じろ信じろ』
「相手の子に、よろしくって伝えてもらってええ?」
『おう、伝えとくわ!あー、よかった!これで怒られなくてすむわ』
「え、怒るって?」
『あー気にすんな!じゃあまた詳しい事連絡するわ!』
「おう・・・」
『じゃ、伝えとくから!』
「おう、おおきにな」
(はぁ・・・)(決めてしまった・・・)
けど、
まぁあいつらも遊びに来てくれるっていうし、
(あの3人が楽しい子って言うなら、ホンマに楽しい子なんやろうな・・・)
あの3人のいう事を素直に信じてみようと思った
(っちゅーか、散々いっとってな!)(それだけおもろい子なら、ちょお楽しみになってきたわ!)
(ほな、引っ越しの準備はしとかんとな!)
あいつらのおかげで楽しみになってきた俺は、いよいよ本格的に引っ越しの準備に入るのだった