木10 ~VOL.4~

昨日の飲み会、実は設定してもらったのは俺やった。

 

入社して間もないころ、うちの部署に キラキラとした瞳の女の子が挨拶にきた。
「あ、白石くん、新人のまえ。うちの部署に配属になって、これからこちらの会社でもお世話になるからよろしくね」

 

よく話すデザイン会社のおねーさんに紹介されて

 

「よ、よろしくおねがいします」

 

緊張した面持ちでそう言ったのが印象的やった。
おれも新入社員やのにあんま緊張とかせぇへんし、フランクに話しかけたんやけど いつも少し話すとすぐにプイと顔を背けて
正直最初は 調子が狂う子やな、と思うとった。

 

 

(あ、まえさんや!)

 

 

けど、そんな態度が逆におもろくなって 少しからかうようにわざと話しかけに行った時も正直あった。

 

 

「まえさん、おつかれさん!」
「あ、白石さん、お疲れ様です(ぺこり)」
「今日もこっち来てたんやな!ホームページの仕事?」
「いえ、業務内容は言えません、失礼します」

 

 

ささっと逃げるようにいなくなる彼女に いつの間にか
あの子は笑うんやろか、とか ふざけたりするんやろか、とか思うようになり
俺の関西魂にメラッと火が灯った。

 

 

(絶対あの子 笑かしたるで・・・!!)

 

 

それから執拗に笑かしにかかるんやけど結局いつも無表情で交わされてまう。
まえさんの先輩のおねーさんはむっちゃ笑ってくれんやけどな!なんでやろ?なにで笑うんやろ?

 

 

そう考えていたある日
俺は食堂で彼女を見つけた。

 

いつものようにふざけて近づこうとしたんやけど

 

「おいしぃー(にっこり)」

 

それはもう美味しそうにご飯を食べる彼女の笑顔に

 

 

おれは

 

 

完全に

 

 

落ちた。

 

 

 

(・・・あかん、むっちゃ  かわええ)

 

 

 

美味しいものを食べたら笑う
こんな単純なことを見落としてた俺は
その日から 笑かす んじゃなく 本気で彼女を口説きにかかる。
それはもう全社員が引くレベルで・・・!!

 

 

 

「まえさん、今日暇やったら飯いかへん?」
「すいません今日は用事(イケメンの握手会)があって」

「まえさん、ランチ?隣の席ええ?」
「すいません、ここ今先輩来るので」

「まえさん、今日の服装もかわええな、いや服装だけやないけど、」
「これ妹の服借りました」

「まえさん、美味しいスイーツの店見つけたんやけど一緒にどお?」
「私スイーツ食べないので他の方誘ってください」

 

 

・・・撃沈!
ちーーーーん
 
 
まえさんの先輩に ぷぷぷ、今日もだめだったね と笑われて
・・・くっ、こんなん男らしくなかったらつかいたなかった 最後の手段・・・・!!!
 
「すんません!飲み会セッティングしてもらえませんか!?」
 
そう、おねーさんに 頼み込んだ。
 
(まぁ結局面白がってみんな即OKしてニヤニヤしながら見られることになるんやけど)
(見世物ちゃうからな!)

 

 

 

 

 

 

・・・そして昨日
いよいよ心待ちにしとった飲み会が開かれたんやけど

 

酔った彼女は  天使・・・

 

ご飯を美味しいと食べるのはもちろん

 

「白石さん イケメンですよねぇ」

 

とろーんとした顔でそういわれては 俺の理性がもたん。なにこれ何の試練なん。ほんましにそうやけど!
周りは相変わらずニヤニヤと俺らを見ている。
いやもう公開告白とかなんの罰ゲームや。嫌いやないけどな!!
ほんで一次会、二次会と終わって みんなに三次会はふたりで♪と背中を押され まえさんとい二人きりになれたんやけど・・・

 

 

 

「まえさん、飲みすぎちゃう?酔ってるで?」
「酔ってませんよ、大丈夫です」
「大丈夫ちゃうって」
「大丈夫です!酔ってるとしたら白石さんにですよ~」
「(う、うおおおお!!!)そ、そない、こと言うてもなんもでぇへんで・・・!あ、ローストビーフやるわ!」
「やった、肉肉」
「肉、好きやなぁ」
「大好きですー」
「今度焼肉でもいかへん?」
「行きますー」
「(よっしゃ!)ほないつにする?」
「いつでもいいですよーもー・・・白石さん、ほんとかっこいい・・・(うっとり)」
「え!お、おおきに!(どないしよ!)(こんな展開考えてなかった!!)」
「私白石さん(の顔)めちゃくちゃ好きだなぁ・・・」
「!!?」
「白石さん、ほんと・・・(顔が)タイプで・・・」
「え、え、」
「ずっと、初めて見た時から・・・(顔が)」
「ちょ、ちょっと待った!!!!それ以上は・・・俺に言わせてくれへん!?」
「えー?」
「まえさん!!」
俺は体を彼女に向き直して

 

 

 

 

「ずっと好きでした!付き合うてください!!」

 

 

 

 

そう、頭を下げた。

 

 

 

「・・・どこにですかぁ?」

 

 

 

!!

 

 

 

「いやいやいや、そないなベタな返し・・・」
「いいですよー」
「え!」
「私白石さん(の顔)好きだから・・・いいですよ」
「ほ、ほんまに!やった・・・!!」
「ふふふ」
「あ、ほな、名前で呼んでええ?さおりちゃん、って」
「もちろんですよー」
「おれ、くらのすけ、で!」
「白石さん、ほーんと かっこいいから・・・離れたく、ないな」
「(名前スルーされた!)離れたくないて・・・」
「ずーーーっと (顔を)見てたい」
「え!?」
「ずーーーっと (会社とかも)一緒にいたいな・・・」
「え・・・いやでも、初日 で、それは、あの、あかんのとちゃうかな」
「だめですか・・・?」
「いや、だめ・・・やない!です!」

 

 

 

そして俺はなるべく綺麗なホテルを選び
彼女と一緒に中に入った。
別にあれやで、あの、初日でそんなことするつもりやないで!
その、一緒に!朝まで過ごす だけやで!?
けしてやましいことは・・・

 

 

「白石さん、(顔が見えないから) はやくこっちにきてー」

 

 

・・・・

 

 

や、やましいことは・・・

 

 

「しらいしさん、はやくー」

 

 

・・・

 

 

「しらいしさん (顔が) すき」

 

 

 

ぎし

 

 

 

「・・・ほんまに、ええん?」
「え?」
「初日やで?おれ別に、もっと待てるし、大事にしたいし」
「だいじょうぶですよ」
「・・・ほんまやな?」
「だいじょうぶですよ」
「・・・まえさんて、お酒はいると積極的なんやな」
「はぁ」
「そんなギャップも、たまらんわ」
「ふふふ」
「・・・せやから、あかんて」

 

 

 

ちゅ

 

 

 

「そない顔で笑われたら、理性もうもたへん・・・」
「ふふ」
「・・・ええんやな?」

 

 

 

こくん

 

 

 

彼女がうなずいたと同時に
俺は 彼女を 押し倒した。

 

 

 

「愛してる、一生大事にするから・・・」

 

 

 

そうして深い口づけをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ってゆーのが 昨日の流れや!
もうほんまな 朝までは最高に幸せやったで俺・・・
腕の中に大事な彼女がいて目が覚めるとか・・・夢とちゃうかと思うたのに・・・
ほんまに 夢やったなんて・・・!!!

 

 

ずーーーーん

 

 

(・・・むっちゃ落ち込む)
(ほんま・・・)
(男として、以前に)
(酔ってる女の子に手出したら 人間として終わりやろ・・・)
(しかもまえさん、全く覚えてへんし)
(・・・付き合わへんて言われたし)
(・・・・大嫌い、て 言われたし・・・)

 

 

 

ずーーーーーーーーーーん

 

 

 

「はぁ・・・まえさん、なにしとるやろか」
 
まだ泣いとるんかなぁ

 

 

彼女の泣き顔が頭から離れない

 

 

(さいてーって言われた)
(ほんまに最低やな)
(泣かして、もうてんし)
(むりやり、やな、これ)
(記憶ないし、なぁ)
(・・・くずやな俺)
(ひとりで浮かれて、あほやわ)

 

 

 

・・・やっぱ、大事にせなあかんかったんや
大事に、きちんと 酔ってへんときに告白して
向き合わな、あかんかった
酒飲んで、なんて 男らしくないわ

 

 

 

(来週、彼女は会ってくれるやろか)

 

 

 

激しい後悔と罪悪感でいっぱいで今すぐきちんと謝りたいのに
連絡先を聞いてない俺は ずっと家で彼女のことを想っていた。

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