「こちらはキッチンも広いですし、セキュリティも万全ですし、駅も近いのでかなり人気の物件となっております」
私は今、
今日初めて会った男性と
なぜか、マンションの見学に来ていた・・・
(なぜこんなことに・・・)
「駅近いですねぇ」
「そうですね、ここからなら歩いて行けますね」
「北海道ってめっちゃ物件安いですね」
「そうですね、関西や関東に比べたらかなり低価格ですよね!」
「まえさん、ここどうやろ?」
突然話を振られ、戸惑う私・・・
(い、いや、)
(だってここ、家からよく見えてためっちゃ高いマンションじゃん・・・!)
(ってか、マンションじゃなくてタワーじゃん!)
(新しくてキレイなとこ・・・!)
(かなりキレイだよ!)
(新築だし、駅近いし、)
(2LDKだし!)
いう事ないけど・・・
(家賃13万・・・)
(半分にしたら6万5千円・・・)
(ここならもっと安いとこで一人で住むよ・・・)
いつも家から見ていた憧れのタワーは、やっぱり値段もそれ相応で・・・
6万5千円はちょっと痛いと思っていた
「・・・素敵なところだと思います」
「そうなんです!ここ本当に人気なんですよ~!」
「ええなぁ、こんなええマンションに住めて家賃も安いならここにしよか?」
ここならセキュリティも安心できそうやしな
彼はそう言って笑った
(えー!)(いやいやいやいや、)
(だって、ここ高いしさ~)
(ってか、そもそも)
こんなイケメンと一緒に住めるはずないじゃない・・・
(どうしよう・・・)
(まぁちゃんに相談したい・・・)
(あ、でもまぁちゃん仕事中だ・・・)
(どうしよう・・・)
そんなことをグルグル考えていたんだけど、
「ここは人気で他にも考えている方がいるので、早めに決められたほうがいいですよ」
「やって!まえさんここでええ?」
「えっと・・・」
「札幌ではおそらくこれ以上の物件はありませんよ~」
「せやなぁ、新築で、駅も近くて、めっちゃ安いしな」
(安い安いって・・・)
(そりゃ関西とか関東に比べたら安いでしょーよ!)
「彼女さんも、コンシェルジュのいるマンションのほうが安心だと思いますし、」
「女性にはええですよね」
「ええ、絶対にこちらはおススメです!」
2人で盛り上がってなにさ!!!
私は一緒に住むなんてまだ言ってないのに!!
そう言いたいけど言えないチキンの私・・・
(まぁ・・・正直言うと、)
(ここのタワーずっと憧れてたし、)
(めちゃくちゃ綺麗だし)
(何より、)
(ビックカメラ近いからサイコーすぎるだんけどね・・・)
あー!ビックカメラが見える距離にあるのがもうたまらん!
ビックカメラにすぐに行けちゃう距離ってやばい・・・!
そう思いながら窓を見た
「いかがですか?何かご都合の悪い点はありましたか?」
「あ、いえ、」
「素敵な景色ですよね、眺めもいいですしねー」
「・・・ええ、ここに住めたらすごくいいなと思います」
あ、
しまった
そう思った時にはもう遅くて、
「では、決まりですね」
「ほな、よろしくお願いします」
わわわわわわ!!!!
私ってば・・・!
な、何という事を・・・!!!
肯定するようなことを言ってしまった時にはもう遅く、
契約の準備が進められてしまったのであった・・・
「では、こちらの書類に保証人の方のサインをいただき、郵送お願いします」
「わかりました」
「では、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
(どうしよう・・・)
私は結局、
心のうちを話せないまま、不動産会社を出た
店を出た時に、
「あの、」
白石さんから話しかけられた
「あ、はい」
「・・・この後って時間あります?」
「あ、はい、大丈夫です・・・」
「ほな、夕飯一緒にどうですか?」
「え?」
「いや、せっかくやからもっと仲良くなりたいと思うて・・・」
あかんかったですか?
そう、聞かれた
(・・・・・・・)
(そんな・・・)
(イケメンにお食事に誘われて)
(断る女はいないっつーの・・・)
(あ!)
(お食事しながらなら、一緒に住めないっておはなしできるかもしれない!)
(そうだ、そこでちゃんと話そう!)
「わかりました」
私はそう言って、白石さんと一緒にお食事に行くことになった
―――――――
最終の飛行機で帰るため、あまり時間のない白石さんのために選んだのは、
よく友達と行く、札駅の中のイタリアンのお店だった
(とりあえず男性と食事に行くときは)(ラーメンという選択肢は捨てなければいけないらしいから・・・)
(イタリアンで・・・いいはず・・・)
(あーでも、)
(せっかく北海道に来たから、ラーメン食べたかったかなぁ・・・)
そんなことをグルグル考えていたら、白石さんから話しかけられた
「まえさん、」
「あ、はい」
「まえさんって、お仕事は何されてるんですか?」
「あ、パソコンの塾の講師をしてます」
「へぇ!そうなんや!」
「はい・・・あの、白石さんは?」
「俺は製薬会社で薬品の研究してます」
「あ、そうなんですか」
「今度、北海道の素材を使った研究をすることになって、転勤になったんです」
「だから探してたんですか、住むところ」
「北海道は家賃も安いし、1人暮らしでも良かったんやけど・・・、会社の先輩に薬品を扱うから呼び出しもあるし出来れば会社の近くに住めって言われてて、」
「へぇ・・・」
「そうなると駅前は高いから、ルームシェアしたほうがええって言われたもんですから、」
「ああ・・・」
「あ、家賃は俺10万払います」
「え!?」
「いや、会社で上限あるけど、住宅手当でるんで」
「あ、そうなんですか・・・」
「せやから、この契約の書類は俺の名前で全部記入させてもらいますね」
「あ、はい・・・」
「保証人も俺のほうで全部やって送っときますから」
「はい・・・」
家賃が高いという逃げ道がなくなってしまった
(家賃払えないので、一緒に住めませんって言おうと思ってたのに・・・!)
(くそう・・・!)
なんて断ろうか、いろいろとグルグル考えていたけど・・・全然ダメだ、思い浮かばない
「・・・で、まえさんはなんでルームシェアしようと思うたんですか?まえさん札幌の人なんやろ?」
「あの・・・実家が今度本州に移住することになりまして・・・」
「え、そうなん!?」
「母の実家が本州なので・・・それで実家がなくなってしまうんです」
「はぁ・・・そら大変やなぁ」
「私今まで一人暮らししたことないし、夜も遅いので1人は怖くて・・・」
「ああそうですよね、女性の一人暮らしは危険ですよね」
「それで、ルームシェアでも、と思って・・・」
(女の子を募集したはずなのに、)(なぜかあなたを紹介されて・・・って)
(言えばいいのに、口から出てこない・・・)
(どうしよう・・・)
どう考えても上手い言い訳が出てこない
どうすればいいのだろうか
私がそんなことをグルグル考えていたら、
「・・・まえさん、」
ドキッ
白石さんがものすごく真剣な顔で私のことを見るものだから、
うかつにもドキドキしてしまった
「俺、正直、女の子って聞いてほんまはどうしようか迷っててんけど、」
(え?)
(この人も迷ってたの?)
「けど、今日まえさんに会えてよかったわ」
「・・・」
「おれ、絶対手は出さへんからそこは安心してほしい」
「・・・」
「そんで、まえさんが怖い想いせぇへんように守るから」
「え・・・」
「せやから、・・・これから、よろしくお願いします」
そう言って、頭を下げたこの人に
(ま、守るって言われた・・・)
(・・・は、初めて言われた・・・)
うっかりときめいてしまって、
断ろうと思っていた言葉が全く出て来なくなってしまっていた