「え?嘘でしょ・・・」
「ホント、ごめんねさおり」
親に本州に引っ越すとカミングアウトされてから半年
あと少しで、実家がなくなってしまう
北の北海道、札幌生まれ札幌育ち
産まれてからずっと札幌で育っている私には衝撃すぎた
(ほんとうちの親ばかだ・・・)(なぜ娘を置いて本州に・・・)
私も行きたい
行きたいけど・・・
(仕事あるし、)(行けるはずないじゃん!)
今の仕事はけっこう気に入っていた
パソコン教室の先生
生徒さんもいるし、
友だちもいるし、
なにより、
(全てを捨てていく勇気はないよ・・・)
まぁちゃんが東京に行ってしまってから、何度も東京にはいっている
イケメンの舞台を観にもよく行く
けど、
生まれ育った土地を捨てて、
一から全てを始める勇気が私にはなかった
(そう考えるとお父さんすごくない?)(60年生きて来たのに・・・)
(ホント、ばかだよ・・・あの人たち・・・)
と、いうことで、あと少しで私は独りになります。
「え?新しい人?」
『うん』
「まぁちゃん今までの子は?」
『結婚するって出てったー』
「えー!急すぎるね!!」
『急だしむかついたよ、でもめでたい事だからさー』
「そうだね・・・人生何が起こるかわからないね・・・」
『あーあ、きみもこっちくればよかったのに・・・一緒に住みたかったよ・・・』
「ごめんね・・・生徒さんたちもいるしさ・・・」
『きみいま塾長だからな』
「うん・・・ちょっと簡単にはやめられなくて・・・」
『じゃあ、落ち着いたらこっち来てよ』
「うん、絶対いくよー」
『そしたら新しいやつ追い出すから』
「え!ひどいしょ!」
『いいんだよ、男だし』
「え!?男!?」
『うん、男』
「お、男の人と住むの!?」
『いや、ルームシェアだからさ』
「ルームシェアでもいいの!?男の人だよ!?なんかあったらどうするの!?」
『大丈夫だよ、金タマ蹴るから』
「そういう問題じゃないしょ・・・」
『ってか、大丈夫だよ、かなり真面目でね、こっちが女ってわかったら断ったんだってー』
「え?そうなの?」
『いつも話してる3バカの知り合いでさー』
「ああ、よく話に出て来る人たちね」
『うん、でもこっちも本当にお金なくて困ってるからさー』
「そこまでかい・・・」
『いや、本当にお金ないのさ、このままでは歌舞伎町にまた戻らなくてはいけなくなるからさー』
「それは大変だね」
『大変なのさ、だからすっごいお願いしてもらったのさ』
「あ、そうなんだ」
『うん、最近は男女でルームシェアする人たちも増えてるしさ、お互い干渉しないってことにして一緒に住むことにしたよ』
「そっかー・・・ホントに大丈夫かい?」
『大丈夫だよ、負けないし』
「うーん、きみなら大丈夫そうだけど・・・」
『それよりきみは新しい家決まったのかい?』
「いや、それがまだで・・・」
『まだなの!?家なき子になるよ!?』
「うん・・・忙しくてさ・・・」
『早く決めなよー』
「うん、決めるけどさ・・・」
『決めるけど、なにさ』
「・・・1人で住む勇気もなくてね・・・」
『自分で残るっていったくせに!』
「でも、1人暮らしは無理だよ・・・」
『けっこう快適だよ』
「でも、怖いよ・・・夜一人で寝れないかも・・・」
『あ、きみもルームシェアすれば?』
「・・・うーん、そうだねぇ・・・」
『快適だよけっこう』
「でもトイレ問題とかあるじゃん?」
『人間だもの』
「いや、そういう問題じゃないのさ、」
『誰しもうんこするから大丈夫だ』
「うん・・・まぁでも一人で住むくらいならトイレ掃除くらい必死にするかな・・・」
『そこまで!?』
「そこまでだよ、けっこう札幌も物騒だからさー」
『まぁね』
「こないだ友達、着替えてた時、窓から男がいきなり入って来たんだって!こわいしょ!」
『こわいな!』
「叫んだら彼氏がやってきて、男は逃げたらしいけど」
『あー、きみには独り暮らしは無理かもね』
「無理だよ・・・」
『きみだったら殺されてるかも・・・』
「怖い事言わないでよ・・・」
『だから、ルームシェアでもしなよ』
「うーん」
『流行ってるから今』
「うん、そうだね・・・」
『うん、じゃあ、お風呂入って寝るわ』
「うん、わかったよ」
『じゃあね』
「ばいばい」
(ルームシェアか・・・)
まぁちゃんが友達と住むって言った時にそれも考えなかったわけじゃない
けど、私の友だちはみんな彼氏と住んだり、実家から出る気がなかったり、
一緒に暮らしてくれる人がいなかった
(他人と暮らすのか・・・)
(けど、)
(それがきっかけで仲良くなれるかも・・・)
1人はやっぱり寂しいよ・・・
(・・・うん)
(無理だったら、やめればいいだけだし!)
(探してみようかな!)
カチカチカチ、
私はネットで「ルームシェア」と検索して、ルームシェアの相手を探してくれる会社に登録した
―――――――――
Pulululululu。。。
(あ、電話)
次の日、知らない番号から電話が鳴った
私が出ると、例のルームシェアを探してくれる会社の人からだった
『もう住むところはお決まりですか?』
「あー、目星はつけてるんですけど・・・」
『実は、先ほど連絡があって、今ご紹介したいお相手がこっちに来てるみたいで・・・』
「はぁ・・・」
『家を見に行くらしいんですが、一緒に行ってみてはいかがでしょうか?』
「え!?今からですか!?」
『お仕事でしたらいいのですが・・・』
「あ・・・いえ、今日はお休みです」
『ではぜひ!お相手にもお話しておきますので』
「あー」
『お家が決まっていない方がちょうど、まえさんとその方だけなんです』
「はい・・・」
『そういう方は2人で相談してお部屋を決めていただくとスムーズに行くことが多いので、できればおうちも2人で決めていただくことにしているんです』
「はあ・・・」
『ぜひ!』
「は、はい・・・」
(い、今からなんて心の準備が出来てないよ~~~)
けど、
断れない私の性格
私はその人からお相手の連絡先を聞いて、待ち合わせ場所に向かった
(えーっと・・・)
(札駅の東口でいいんだよね・・・?)
人混みの多い駅で相手を待つ
(えっと、白石さんって言うんだっけ?)
(どんな人なんだろう・・・)
可愛い女の子かなぁ?
若い子かなぁ?
あ、もしかして年上のお姉さんかな?
そんなことを考えていると、電話が鳴った
Pulululululu。。。
(あ、これ、多分白石さんの番号!)
聞いていた番号と一致する番号から電話がかかってきて、急いで私は電話をとる
「は、はい、もしもし」
私がそう言うと、
『もしもし?』
そう、聞こえた声は・・・
うそ
でしょ
なんで、こんなに
低い声なの・・・
(男の人だ・・・)
ぼーぜん
(え、なんでなんで!?)
(同性のみ募集ってところにチェックつけたよね!?)
(女の子しか募集してなかったよね!?私!!??)
『・・・もしもし?まえさんですか?』
あまりのショックに何も話せないでいる私に、もう一度声をかけてきた電話の相手
「は、はい!そうです・・・」
『あ、よかった、おれ白石です。はじめまして』
「は、はじめまして・・・」
『今、どの辺ですか?すみません、ちょお札幌来慣れてへんくて・・・』
「あ、あの、東口の赤いオブジェの前で・・・」
『ああ、ありました』
「えっと・・・、」
『あー、今ネイビーのコートですか?』
「そ、そうです」
『あ、ほな見つけましたわ、今おれ手振りますね』
そう言って、手を振っている人を探す
すると、
(えええええええええーーーーーーーーーーーー!!???)
(な、何あのイケメンーーーーーー!!!??)
スーツケースを持って、スーツに身を包んだ、超イケメンがこちらに向かって手を振っている
(う、嘘だよね・・・)
(ち、違う人と待ち合わせでしょ・・・?)
(ほ、ほら、他にも待ってる人いるし・・・)
でも、
彼と目が合うと、
ペコリ
『ほな切りますね』
私に向かって一礼し、
そう言った彼の声は電話から聞こえる声と同じで・・・
彼は少し駆け足で私の元へとやってきた
(おわった)
(おわったこれ)
(私の人生おわった)
「よかったです、無事に会えて、わざわざすみません」
そう言いながらやってきたイケメンに
(や、やばい・・・)
(私・・・)
(死ぬ・・・)
緊張せずにうまく言葉が出てこない自分がいたのだった・・・
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