「ご迷惑おかけしました、すみません」
あいつが一緒に選んでくれた菓子折りを持って各部署に挨拶に行く
挨拶しながら歩き回っている俺は、
（あ、）
会計のカウンターの前にやってきた
（・・・あいつもうおらへんやった）
（・・・はぁ・・・）
彼女がいない
それだけで、その空間は全く別のものに見えた
（・・・やっぱり、）（もっと一緒に働きたかったなぁ）
（まぁ、あんなことがあった後じゃしゃーないけど・・・）
挨拶をしている時、
彼女の友だちの姿が目に入った
（ん！？）
（もしかして、あの子に頼めば・・・）
（あー、けどなぁ、いやいや・・・）
彼女の友だちに頼むべきかどうするか、
そんなことを思いながら、とりあえず自分の持ち場へ戻る
そこで、上司の先生から
「忍足くん、今日は無理をしないで午前中で帰りなさい」と声をかけられた
「え、けど、俺もう平気ですよ」
「いやいや、けっこう塗ってるからね、久しぶりだし今日は慣れる感じでいいから」
「はぁ・・・」
「まぁ今週は様子を見ようか」
そうして、午前中を過ごした俺は、
やっぱり足は会計のカウンターに向かっていて、
（よし！）（早く帰れるなら！）
（・・・もうあいつのところ行ってまえ！！）
彼女の友人のところへ行った
昼休みに入り、院内に人がほとんどいない
昼をとろうと席を離れようとしたところを捕まえた
「ちょっとええ！？」
友だちはめっちゃびっくりして俺を見ていたけど、
「・・・まなみのことですか？」
と逆に聞かれてしまった
「え！？なしてわかるん！？」
「・・・わかりますよ、っていうかいつの間に付き合ってたんですか、まなみと」
「え、いや、まだ付き合うてへんねんけど、っちゅーか、そんなことやなくて！！」
「え？」
「頼む！！！！あいつんちの住所教えてくれ！！！！！」
俺は友達に必死に頼み込んだ
もう、土下座する勢いやで！！あいつの住所教えてもらえるんならな！！
まぁけど、意外とすんなりと教えてもらえた俺は、
今、
タクシーで家まで向かっとる
（・・・家におるやろか・・・）
（休みの日は家にいるって前に言っとったけど・・・）
（いや、けどなぁ・・・）（いるかわからんなぁ・・・）
それでも、どうしても
彼女に会いたくて、
そして、
きちんと謝りたかった
（きちんと言おう）
（嫌なのに三浦と会ってくれへんかって言ったこと）
（っちゅーか、泣くほど嫌やったんなら、）
（もう会されへんやん・・・）
（三浦にも謝らへんと・・・）
いろんなことをモヤモヤ考えているうちに、
タクシーが止まった
聞いてた彼女の家や
俺はタクシーを降りると、すぐにマンションの下までいき、
（えーっと・・・６０５・・・６０５・・・）
ドキドキ
ピンポーン
インターホンを鳴らした
しーーーーーーーーーーん
（あー・・・やっぱり・・・）
（いないかぁ・・・）
（いや、）
（居留守っちゅー可能性も捨てきれん・・・）
そう思っていたところ、
ウィーーーーーーン
中から人が出ていて、玄関があいた
（お！）（めっちゃラッキーや！！）
俺はすかさず中に入ると、
（エレベーターなんて待ってられん！）
階段で６階まで登った
そして、
彼女の部屋のドアの前で
一度深呼吸して、
（よし、）
ピンポーーーーーーン
また、チャイムを鳴らした
（お、おるかな・・・）（出て来るかな・・・）
ドキドキ
けど、やっぱり、
シーーーーーーーン
何も反応はなかった
（あ、あかん・・・！）
（で、出てくれへんのか・・・）
（おらへん・・・のか？）
俺はもう一度、
ピンポーーーーーーーーン
チャイムを鳴らした
シーーーーーーーーーーーン
・・・しかし、やはり反応がない
（や、っぱ）（おらんのかな・・・）
（いや、けど、）
（あいつのことや、）
（頑固やから出て来ぉへんのかもしらん）
俺は、彼女を
それだけ傷つけたっちゅーことや
そう思うと、胸が痛んだ
（アイツに、）（悲しい想い）（させてもうた・・・）
そう思うと、
「・・・いるなら聞いてほしい」
自然に口から出て来るそんな言葉
いるかいないかもわからないのに、
俺はドア越しに、彼女へ謝罪を始めた
（せやって、）（こうするし、もう）（残されてへんやんか）
せっかくここまで来たんや
俺はポツリポツリ話しかける
「お前が三浦のこと嫌がっとるのに、会えなんて言うてすまんかった」
「三浦にこないだのこと、お前にちゃんと謝りたいって頼まれてん」
「あいつと2人きりにはさせへんから、一回会ってもらえんかな？」
「あいつ、ホンマはええ奴やねん」
「ホンマに後悔してて、」
けど、やっぱり、
そんなことを言っていても、
彼女の部屋のドアは開くことがなくて
（あー・・・）
「・・・って、いるわけあらへんよな、チャイム押してもでぇへんし・・・」
やっぱり、おらんと思った
「はぁ・・・」
ため息をついた俺は、来た道を戻る
コツコツ
静かな廊下に俺の足音だけが響く
（・・・おらんかった）（・・・ちゅーことでええんやろ）
（ここに、あいつはおらんかった）
俺の伝えたかったことは伝えた
せやから、
帰る
（嫌がってたのにあんなこと言ったの謝った、）
（三浦のこと、勘違いしとるんやったらちゃんと伝えて、）
（ほんで、）
（あとは、）
・・・
あれ、
俺、
他にも言わなあかんことあったよなぁ
（なんで、俺）
（帰ろうとしてんねん）
ちゃうやろ、
あいつにちゃんと、伝えなあかんこと、
もしこのまま
永遠に会う事がでけへんかったら？
（そんなんアカン）
（おれ、こんなん、）
（一生後悔する）
言わなきゃあかんこと、
大事なこと、
あったやろ！！！！
俺は、帰ろうとしていたその足を翻した
そして、
ドンッ
彼女がいるか、いないか
そんなことはわからないけど、
それでも伝えなければいけない言葉
「好きや・・・」
それをやっと、口にした
