ep.042 -another Kenya-

なんやかんやで無事に退院した俺は、家に帰った

 

彼女も当然のように一緒に来てくれて、退院してからも毎日俺の家に来てくれていた

 

 

 

「あーあかん、ティッシュ切れそうや・・・」

「洗濯の洗剤もなくなってたから、買いに行ってくるよ」

「いや、ええよ、おれも一緒に・・・」

「何言ってるの!ちゃんとおとなしくしててよ!」

 

 

じゃあ行ってくるね

 

 

そう言って俺の家の鍵を持って出かける彼女を見送る

 

 

 

それはまるで・・・

 

 

 

 

(なんや、)(もう付き合ってるみたいやな・・・)

(あかん、顔ニヤける・・・)

 

 

その状況に、俺は

 

 

(あーもう幸せやー!)

(きっと、あいつも俺のこと嫌い・・・ではないよなぁ?)

(ここまでやってくれるっちゅーことは俺のこと、少しはええと思ってくれとるかな・・・)

(わーどうやって告ろう!)

 

 

完全に浮かれていた

 

 

 

(今までこんな経験ないからわからんかったけど・・・)

(彼女が家におるってこんなに幸せなんやなー)

(初めてやわ、こんなに幸せやって感じんの)

 

 

そう考えていた時、

 

 

 

ヴィーヴィーヴィーヴィー

 

 

 

携帯が鳴った

 

 

 

(お、誰からやろ?)

 

 

 

確認すると、それは

 

 

 

(お、)

 

 

 

三浦からやった

 

 

 

 

『彼女に謝る決心が出来たから、セッティングしてもらえますか?』

 

 

 

 

(おお、)

(せやなぁ、あいつらこのままにも出来へんし・・・)

(三浦もこのままやったら一生後悔することになるやろな・・・)

 

(よっしゃ!)

(ここは、おれがバッチリセッティングしたるわ!!)

 

 

 

 

 

そう思いながら、携帯の画面を閉じた

 

 

 

 

 

それから数日後――――――――――

 

 

 

いよいよ出勤OKの許可をもらった俺は、菓子折りを買うという名目で彼女をデートに誘った

(いや、デートっぽい誘い方とちゃうけど、)(けど俺はデートのつもり)

 

 

 

今日は、彼女に今までのお礼でご馳走して、

 

ちゃんと三浦のことも言う

 

 

 

ほんで、

 

 

 

(もし夜まで一緒にいてくれるなら、)

(家に帰ってきた時に気持ち伝える!)

(これを最後にしたくあらへん!)

(俺はこれからもずっと一緒におりたい!)

 

 

 

 

そんな気持ちで彼女と来たのは大きなショッピングモール

ここやとなんでもそろっとるからな!

 

 

買い物も終わり、食事を食べる

(ほんまに、こいつと一緒におるのはめっちゃ楽しいわ!)

 

 

何気ない会話も楽しくて仕方がない

 

 

(あ、そういえば!)

 

 

 

おれは、言いづらそうに

”三浦”のことを切りだすことにした

 

 

 

(きっと今なら飯食ってるから、)(機嫌もええやろう)

 

 

 

そして、俺は

 

 

 

爆弾

 

 

 

を投下する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんさ、」

「ん?何?」

「そういや、お願いあったんやった」

「え?何?」

「あー・・・ちょっと、言いづらいねんけど・・・」

「うん、」

 

 

 

「三浦がお前と会いたい言うてんねんけど・・・さ、会ってもらえへんかな?」

 

 

 

 

 

 

 

そう、三浦の名前を出した瞬間に、

 

 

 

 

 

(え?)

 

 

 

 

 

なぜだか泣きそうになる彼女の顔

 

 

 

 

 

一瞬で、俺の胸が締め付けられる

 

 

 

 

「え?何?どない・・・」

 

 

 

 

 

彼女は椅子から立ち上がり

 

 

 

 

「かえる」

 

 

 

 

そう言った

 

 

 

 

 

(え、)(え?)

(なして?)

 

(え、こいつなしてこんなに泣きそうなん?)

 

 

 

 

 

俺は咄嗟に彼女の手を取る

 

 

 

 

 

「え!?急にどないしたん!?」

「・・・離して」

「え、や、なんでそんな顔してんねん」

「・・・離してよ、」

「あかん、やってお前、」

 

 

 

 

 

めっちゃ泣きそうやん

 

 

 

 

 

「離してよ!!!」

 

 

 

 

俺が言いたかった一言は、彼女にかき消され、

 

 

 

そして、

 

 

 

俺の目の前には、まだ彼女が食べかけの食事だけが残った

 

 

 

 

(え、)

 

(え、)

 

 

(なんでや・・・)

 

 

 

 

 

その場に呆然としたおれは、

「お客様、」

と、声をかけてきた店員の声でハッとした

 

 

 

「あ、ああ、すみません」

「あの、お連れ様の分のデザートはいかがなさいますか・・・?」

「あ、えっと・・・いや、ほなキャンセルで・・・」

「かしこまりました」

 

 

 

 

その後は食事もまともに喉を通らず、すぐに店を出た

 

 

 

もしかしたら、まだいるんとちゃうかなって思うて急いで電話した

 

あちこち探し回った

 

 

けど、あいつは・・・

 

 

 

 

(電話出てくれへん・・・)(どこにもおらん・・・)

(・・・帰ってもうたんかな)

 

 

 

 

ずっと一緒にいた

 

 

 

 

あの事件からほんまにずっと

 

 

 

 

せやから、

あいつが ”つらい” なんてことは一度も考えたことがなくて、

 

 

 

 

(一緒におってくれてたから、)(嫌ではないと思っとった・・・)

 

 

 

 

 

一体、彼女は何を抱えていたのか

 

 

 

 

ずっと俺の傍で笑いながら、

 

 

 

心の中では何を思っていたのか、

 

 

 

 

 

(いや・・・)

 

(ずっと一緒にいたからこそ、)

 

(気づかんとあかんかった・・・)

 

 

 

 

 

おれはその日、彼女への連絡をずっとしていたが、

 

最終的に彼女は携帯の電源を切ってしまった

 

 

これは紛れもない”拒否”

 

 

 

 

(ああ・・・)

(やってもうた)

 

 

 

 

 

思い当たるとすれば”三浦”のこと

 

 

 

 

 

 

(嫌やったんかな・・・)

(名前聞くのも嫌なほど・・・)

(・・・けどそれしか考えられへんよな・・・)

(せやって、あいつの名前出してから豹変したしな・・・)

 

 

 

 

 

どうにか彼女と連絡をとりたくて、

 

どうすればいいのかずっと悩んでいたのだった

 

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