あいつは、仕事を辞めてまで俺と一緒にいてくれると言った。
(悪いなとは思った)
(けど、あんなことがあって仕事も手につかないっちゅーのはわかったし、)
(何より、)
めっちゃ嬉しいと思って、俺はそれを受け入れた
(あかんな・・・)(ほんまは、仕事やめたらあかんって言わなあかんとこやけど、)
(嬉しいし・・・)(かなり助かるからな・・・)
本当に、言った通り、
彼女はずっと側にいてくれた
朝から晩まで、面会時間ずっとずっと一緒にいてくれた
それが嬉しくて、幸せで
(あかん、)(顔にやけてまうわ)
(しかも、ほんまにめっちゃ家庭的やし・・・)
(これは惚れてまうやろー)
「お箸とコップ洗ってくるわ!」
そう言って病室を出ていく彼女の背中を見る
(洗い物してくれるとか・・・)(あー、もう)
(・・・ええやつやな・・・)
そんなことをぼーっと考えていたら
「あ!ここちゃう!?」
と聞き覚えのある声が聞こえた
「謙也!お前大丈夫か!?」
「心配したで!!」
「おお、」
学生時代からの友人たちが、続々と病室へ入ってきた
「お前、ほんまビックリしたで!」
「財前から連絡きてビックリやったわ!」
「『謙也さんの病院で男性スタッフが刺されたってニュースなってますけど謙也さんじゃないっすよねwww』ちゅーて、」
「まさか~って連絡したら、『おれやで!』はないわ!」
「謙也くん良かったわ生きてて!」
「無事で良かったばい」
「刺されるなんて宝くじ当たるより確率低いんとちゃいますか?」
おお、
こいつらはこいつらなりに心配していてくれたようで
「すまんな、心配かけて・・・」
そう言った俺に、
「友達やからな」
という答えが返ってきた。
(じーん)
(俺恵まれとるなぁ)
(ええ仲間いてよかったわ・・・)
「ニュースじゃ詳しく報道されへんかったけど、無差別なん?」
「精神病んでたってネットで書いてましたよ」
「いや~ん怖い話ねぇ」
「大丈夫やで!小春は俺が守ったるからな!」
「謙也さん、刺されるほどどんくさいんすか」
「けど、医者って恨まれてもしかたなか職業ばいね・・・刺される人もたまにニュースでおるばい」
「え、お前狙われてたん?」
「いや、俺は狙われてへんけど・・・」
「ああ、もしかしてお前誰かかばったん!?」
「え、それめっちゃかっこええやん!!」
「え~~~謙也くん!!もしかして、か・の・じょ?」
(か、彼女って・・・!)(何言いだすねんこいつら・・・)
か、彼女・・・
ええ響きやな・・・
彼女か・・・
そんなことを考えながら
「まだ、彼女とちゃうけど・・・」と呟いた
けど、その答えはますますこいつらを盛り上げてしもうて・・・
「まだ!?まだって言ったわよね!?」
「え、謙也お前好きな子おんのか!」
「好きな子助けるとかやるやんか!」
「ラノベみたいやな」
「ははは、よかよか」
「す、好きて!!やめて!!まだそんなんとちゃうから!!」
「え、ほな、その子この病院で働いとるんや」
「いや、事件のあと辞めてん」
「ああ・・・せやなぁ」
「怖くて勤められへんもんねぇ」
「じゃあ、もう会えないと?」
「いや、毎日会うてるで」
「え、お見舞い来てくれとんの?」
「お見舞い・・・っちゅーか、俺の看病してくれとんねん。買い物行ってくれたり、洗い物してくれたり」
「えええええー!?何それ!?」
「っちゅーか、それもう彼女とちゃうんか」
「リア充爆発しろ」
「よかねぇ、安心したばい!」
「や、やめて!!そう言われるとめっちゃ恥ずかしい!!」
「ええやんええやん♥謙也くんってばもう~いつの間に~♥」
「い、いや、ホンマに付き合ってるとかそういうわけやないねん!!」
「ええな・・・謙也・・・」
「あら、蔵りんしょんぼりしてどないたん?」
「っちゅーか、今日は来とらんのか?」
「き、来とるけど・・・」
(あ、あかん・・・)(今あいつが戻ってきたら、)
(確実にからかわれる!!)
と思った矢先・・・
ガラッ
(あああああ!)(タイミング最悪や!!!)
洗い物だけやから時間もかかるはずがなく、すぐに戻ってきてもうた・・・
「お、あの子かいな」
「や、やめぇや!」
「はは、焦っとる焦っとる」
「お、おお、洗い物おおきにな!」
こいつは軽く会釈をすると、コップとお箸を棚に戻し、またドアのほうに向かった
「どこいくねん?」
「いや、お邪魔でしょ?」
「いや、全然そんなことないで!」
「え、でも・・・」
「もし、良ければ一緒にお話しでもせえへん?」
そう白石が声をかけた
(白石も、)(めっちゃ気使うからな)
けど、
「いや、せっかくだから私ちょっと外に行ってるので、なんかあったら連絡して」
そう言って彼女は去っていった・・・
(ほっとしたような・・・)(寂しいような・・・)
「・・・あの子名前なんて言うん?」
白石が、そう俺に聞いてきた
「え、何?蔵りんどないしたん?」
「・・・いや、なんでもあらへん・・・あの子、ええ子そうやないか」
「ちゃんと気を使えるいい子ばい」
「や、まぁ、ええ子なんやけどさ、」
「むかつくんで、プリン食います」
「それ、お見舞いなんやけどな」
「ほな、みんなで食うてこか」
「食ってまえ食ってまえ、女おるやつに残しとくことあらへん」
「えええ、なんでやねん!!」
そう言って、本当に俺へのお見舞いの品を食べつくすこいつら、
俺はかろうじてマドレーヌだけ手にとって隠した
騒がしい奴らが帰ったあと、またあいつに連絡する
(戻ってきたら、これやろ)
少しだけしか経っていないのに、早くあの子が戻ってこないかソワソワした