「・・・ったく、三浦やつ・・・打ち合わせ始まるっちゅーねん・・・」
まさか、あいつのとこおらんよなぁ?
そう思って会計窓口まで行くと、
(え?)
刃物を突き立てられているあいつの姿が目に移った
刃物を突き立てている男が誰かは考えてなんていられなかった
途中で逃げる三浦とすれ違ったけど、何かを言ってやろうとも思わんかった
ただただ
あいつが危ないって思って、
体は自然と、アイツの元へ向かっていた
他の受付や会計のやつらが逃げてるのを見ると、もしかして、他のやつを助けるために自分からあの男に話しかけたちゃうかって思った
(絶対そうやで、)
(なんとなくわかんねん)
(まだ出会ってから短いけどな)
人見知りで、一見いう事キツく感じるけど、
ほんまはめっちゃ優しくて、正義感の強いやつやねん
カウンター越しのあいつを助けるために、
カウンターを飛び越えて、
(ぜったい、)
(こいつだけは、)
こいつだけは、守ったる
そう、思いながら、彼女を抱きしめた
思ったより、鈍い痛みが身体を駆け巡った
自分のことはどうでもよかった
ほんまに、
体が勝手に動いてた
「・・・・・・ケガ、してへんか?」
俺の腕の中で怯えていた彼女の目は、
今にも泣きだしそうだった
(よかった・・・)
(無事、みたいやな)
ズキッ
いつも、こんな怪我の患者さんを見ていた
けど、
(自分がなると、)(話は別やな)
「・・・お前が無事ならよかったわ・・・」
情けないけど、
それだけ言うのが必死やった
(あかん、これ)
(よかった・・・ホンマに、)
(よかった、守れて)
そう思いながら、バタバタとやってきたタンカに乗せられ、俺は全身麻酔で気を失った
――――――――――――――――
目覚めたのは、その日の夕方やった
まだ麻酔がきいていて、どうやら今日は何も口に出来ないらしい
大阪から駆けつけてくれたおかんと手術の概要を聞いて、まぁそこまでひどくない状況に案度した
「大丈夫そうやから帰るわ」とオカンも帰るくらいの怪我やった
ほんま、内臓に傷ついてないのが幸いやったで
(っちゅーか、あんだけ痛くてなんともないのが奇跡やで!!)(すごいな!!!)
(痛いな刺されるの!!!)(死ぬときってもっと痛いんやろな・・・!)
(いや、おれ・・・)(この痛みを忘れんで、)(ちゃんと痛みをとってあげられる医者になろ・・・)
そんなことを考えていた俺のところに、警察がやっていて、
その後は次々と夜勤の看護師さんやら医者たちが見舞いに来てくれた
みんな「よかった無事で」と言葉をかけてくれて、
「まえさん、泣いてたよ」
そう言われた、この一言が頭から離れなかった
「あいつは、無事ですか!?」
「まえさんは、どこも怪我してないよ」
「・・・はぁ・・・・・・・・よかった」
「忍足先生~、まえさん助けたんだって!?」
「かっこいい~やっぱりまえさんと付き合ってたんだね!」
「え!?」
「だって、懇親会の司会すごい息合ってたもんね~」
「みんなで2人が付き合ってるんじゃないかって話してたんだけど、ほんとだったんだね!」
(そ、そんな噂が・・・!)
キャッキャッと噂をして部屋を出ていく看護師のみなさん・・・
いや、すごいわ・・・噂しとる時のあの生き生きとした姿はほんまに女子特有やな・・・
ほんますごい・・・
(けど、まぁ)
(特に否定もせずに)
(あ~、けど)(泣かせてもうたのはあかんかったな・・・)
(おれはあいつに笑ってもらいたかったんやけど・・・)
今度会う時は、笑ってくれるやろか
そう考えながら、その日は就寝した(けっこう痛くてあんまり寝れんかったけど)
次の日
(あー腹減ったわ!!)
すっかり元気になって飯を食っていた
(あー病院食ってまずそうやって思ってたけど、)(けっこういけるな!!!)
(めっちゃバランスええし・・・)
(黙ってても出て来るのええな・・・)
そう思っていた時、
ガラッ
「お!どないしてん、こんな時間に!」
面会時間よりあきらかに早い時間に、彼女の姿が
そして
俺の顔をみた彼女は
ポロポロポロポロ
大粒の涙を流しはじめた
(あ、あかん!!)(やっぱり泣いてもうた!!)
よく見ると、その目は泣く前から真っ赤で、
(もしかして、一晩中泣いてたんかな)
そんな風に思った
「ご、ごめんなさい」
「ん?」
「ごめんな、さい、アタシの せいで」
「え、お前のせいちゃうやん、いっこも悪ないで」
「でも、 アタシをかばった せいで・・・」
「あーあんときはまぁ・・・」
体が勝手に動いてたっちゅーか・・・
モゴモゴ
(う、うわぁ、)
(よぉ考えたら、)
(勝手に体動いたとか、)
(っちゅーか、お前やから助けたとか、)
(あーなんかもう)
いつもと違ってしおらしいこいつが
(あ、あかん)
(か、かわええ とか)
(おれのために 泣いてくれてるの嬉しい とか)
わわわわ
おれ
あかん、
気付いてもうた
(まぁ薄々は思ってましたけどもー・・・)
「・・・ご、ごめんね」
「ええて!ええから泣くなて!!」
「・・・つ、次はアタシが、守るから!!!」
「え、」
「守るから、ぜったい!!!」
「・・・」
「・・・うっうっ」
こうして、俺のために泣いてくれる彼女が
かわいくて、
いとおしくて、
(ぷぷっ)(震えてたくせに)
(守るって・・・)
(めっちゃ、嬉しいやんかそれ)
「ハハ、おん、ほな俺は 守ってくれるお前をまた守るわ」
そう、笑いながら、心の中では、
ああ、
おれ、
この子の特別になれへんかな
そんな風に思っていた