pulululululu pulululululu
「はい、忍足です」
『お疲れ様です、まえです。すみません会計のことで山下先生に質問があるんですが・・・』
「あ、今代わります」
初めて交わした会話はそんな業務的な会話だった。
-another Kenya-
(まえ、って苗字かいな?)(珍しい名前やな)
(まぁ、忍足っちゅー名前もこっち出て来たら珍しいけどな)
はじめは”変わった名前”
そんな印象しかなかった
―――――――――――
「ほな、おばあちゃん、気を付けてな」
「先生、いつも送ってくれてありがとね」
玄関まで、お得意さんの患者さんを送った時のことやった
「まえさん、ちょっといい?」
「あ、はい!」
(まえ?)
その名前が聞こえて思わず振り向いた
そこには、想像してたよりも、幼くて、小さくて、
そんで、
(・・・かわええやんけ)
しっかりした声からはもっと年上の女性を想像できるのだが、そこにいたのは、思ったよりも小さくて、可愛らしい女性やった
(へー)
(初めて顔見たわ)
これが、彼女を見た最初の印象やった
―――――――――――――――
「忍足くん、ちょっと頼まれてくれるかい」
「あ、はい、なんですか?」
「ちょっとこっちに来てもらえないかな」
「はい、」
院内でも面倒見が良く、何度か飲みに連れて行ってもらった眼科の先生に声をかけられた
断る理由もなく、その後についていく
(あれ?)(まえさんや)
そこには、不思議そうにこちらを見ている前さんがいた
「お待たせ、彼女は前さんだよ」
「あ、よろしくおねがいします、忍足言います」
「前です・・・」ペコリ
「じゃあこれ台本だから」
「「え?」」
「2人でゲームの司会よろしくね」
「「ええ!?」」
「じゃあよろしく~」
そう言って去っていく先生・・・
残された俺とまえさん
「え、司会ってなんや・・・」
「この懇親会でいつもローテーションでゲームとか何か出し物をするんだよね、それを押しつけたんだわあの先生」
「ホンマにかぁ、ほなら仕方ないなぁ~」
(あ、タメ語や)
(ほな、こっちもええかな)
(俺のが年上やし、別にええよな)
(せや、しっかりリードしたらな)
「ほな、この台本のAっちゅーの俺が読むから、Bは前さんお願いするわ」
「いいけど・・・」
「ほないくで、適当に合わせてくれるだけでええからな」
(・・・って、)
(なんやこれ!?)
(なんやこの、つまらん台本!!)
ありえへん
(こんなつまらん台本通りに読んでられへんわ!)
(絶対すべるやろ!)
ほな、やったるか
(んー問題はこの子やな)
チラッと隣のまえさんを見る
(まぁ・・・)(無理なら無理で・・・)
(俺がカバーしたればええか・・・)
よっしゃ!!
俺はマイクを持って、
『お願いします。ラッスンゴレライ』
今流行りの芸人の真似をはじめた・・・
と、
ころで!
隣でめっちゃ驚いているまえさん
(せやなぁ、)(急やもんなぁ、)
(のってくれるかなぁ)
『ラッスンゴレライ!フー!ラッスンゴレライ!フー!
ラッスンゴレライ説明してね』
チラッと彼女を見る
それまで驚いて、目を真ん丸にしてた彼女やけど、
ガッとマイクを持って
(お!)
『ちょと待ってちょと待ってお兄さん
ラッスンゴレライってなんですの?
説明しろと言われても意味わからんからできませ~ん』
と完璧に乗って来てくれたのやった・・・
(は・・・?)
(何いまの・・・?)
(完璧やん・・・!)
俺が思わず驚きで言葉が出ないでいると、
「ちょっと次!」(コソコソ)
「あっ」
彼女から声をかけてきてくれた
その後は2人でアドリブきかせながらめっちゃ会場を盛り上げて、
(え、すごいこの子!)
(めっちゃおもろいやん!!)
(出来るな!!)
「前さんやるやん」
最後にそう言ってハイタッチの手にすると、
「おつかれ」
そう言って、手を叩き返してくれた
(なんちゅーノリいい女子や!)
(めっちゃ楽しかったわ!!)
(久々にめっちゃ楽しかった!!)
ああ、
俺、あの子ともっと仲良くなりたいわ
そんなことを思っていたものやから、
「先生、いつもありがとね」
「はは、気にせんでええよ」
「じゃあまたね」
「おん、また待ってるわ」
いつものように、患者さんを見送って白衣のポケットに手を入れた
(あれ)(飴ちゃんや)
会計のカウンターに座る まえさん が目についた
(・・・)
(・・・まぁ)
(こんなことでもせんと話す機会もないしな・・・)
俺は会計のカウンターに近づき、
「まえさん、あめちゃんやるわ」
まえさんは、めっちゃ驚いた顔をしていたけど、
(また、)(こないだみたいに)
(めっちゃ話せたらええなぁ)
俺の心に芽生えたそんな感情を
今はまだゆっくりと楽しみながら
彼女との今後を期待するのであった