その日はたまたまさおりちゃんに電話したんや。
「もしもし、さおりちゃん?」
『 あ、こ、こんばんわ!どうしましたか?』
「いや、用はないんやけど・・・今日バイトないて言うてたから、声聞きたなって・・・あ、忙しかった?」
『忙しくは!ないです!』
「あ、ほんまー?何しとったん?」
『あ、てゆーか白石さん仕事終わったんですね、今日もお疲れ様です!』
「おおきに!今日は早く帰ってこれたで」
『いつも忙しいしゆっくりしてくださいね!』
「ほんまは会いたかったんやけど・・・何しとるん?」
『 え?あ、今荷物まとめてて』
「荷物!?!?え!?またどっか行くんか!?旅行!?」
『いや、違いますよ!!明日まぁちゃんとディズニー行くので・・・』
「あ・・・そうなんや?・・・え?明日平日やで?学校は?」
『学校休んで行くんですよ~』
「珍しいな?明日なんかあるん?」
『明日誕生日だからまぁちゃんと誕生日はランドで過ごそうって話してて』
「・・・え?」
『え?』
「いやまってまってまって???誕生日・・・?え、誰の???」
『え、まぁちゃんと私ですけど・・・』
「え!?!?!?さおりちゃん明日誕生日なん!?!?」
『そ、そうですけど・・・』
「なんで言わんかったん!?!?」
『え・・・別に聞かれなかったし・・・』
「うそやろ!?!?え!?!?え!?!?」
俺がパニクってると電話の向こうから さおちゃーんポップコーンの入れ物見当たんないー! って声が聞こえた。
さおりちゃんは 今行くー と言ったあと
まぁちゃん困ってるんでまたラインしますね!
と、電話を切ってしまった。
え?????
いや
いやいやいや
ちょおまって??????
そーいや誕生日聞き忘れとったけど!!!!!
え、
明日って
どーゆーことなん!?!?!?
(いや確かに聞き忘れとったけども)
(一番大事なことやのに誕生日聞いてへんかったけども)
(え、)
(明日???????)
俺はすぐに 今度は謙也に電話をかけた。
『なんや白石?俺まだ仕事終わってへんわ』
「おつかれ・・・今少し平気?」
『おう、少しなら平気やで』
「なぁ、明日な」
『おん』
「明日、さおりちゃんの誕生日なんやて」
『あ、そうなんや、おめでとうさん!』
「いや、俺、知らんかってん・・・」
『え?なにがなにが?今知ったんか?』
「せやねん・・・今電話したら明日誕生日っていきなり聞かされて・・・」
『そら驚くな?けどまだ過ぎてから言われるよりええやんか!間に合うやん!』
「や・・・明日まなみちゃんとディズニー行くらしいから会われへんと思う・・・」
『え、そーなん?2人でディズニー行くんか!?楽しそうやな!』
「てか、謙也知ってた?誕生日明日なの」
『は?知ってるわけないやん!!なんで俺がさおりちゃんの誕生日知って・・・』
「いや、まなみちゃんのやで?」
『は?』
「せやって・・・双子やん。まなみちゃんも明日誕生日ってことやん」
『・・・!?!?!?』
(知らんかったんやな・・・)
謙也はその後、「◎△$♪×¥●&%#?!」と言葉にならんことを言い、おしたりせんせー!と呼ばれたから電話を切った。
仕事中やのに申し訳ないことしたわ・・・
けど、謙也がパニクってたから逆に少し落ち着いてきたわ・・・
いや
なんで言わへんねん!?!?!?
そりゃさおりちゃんの性格やから自ら誕生日アピールしてきぃへんかもしらんけど!!
せやから俺が悪いな!?
なんで俺誕生日もっと早う聞かへんかってん!?!?
あー・・・
めっちゃショックや・・・
誕生日知らんし・・・
さおりちゃん達自分らでディズニー行ってまうし・・・
疲れてるやろうから明日会おうとか言われへんし・・・
てかプレゼントとかなにがええんやろ???
全然わからん・・・
今までと違いすぎて予測不能や。
(誕生日アピールする子ばっかやったしな・・・)
(いや、それ自体は悪いこととちゃうよな)
(誕生日は恋人と過ごしたいとか思うのは普通のことやと思うし・・・)
(え、けど・・・なんなん?二人で誕生日にディズニー・・・?)
(いやそれ)
めっっっっっちゃ楽しそうやんか!!!!!!!!!
なんやそれ!!!!!!
なんなん!?!?!?
俺も行きたいわ・・・っ!!!!!!!
俺も・・・
めっっっちゃ
行きたいわっ!!!!!!!
(大事なことなので2回言いました)
誕生日聞かれないから特に言わへんのもさおりちゃんらしいし
誕生日双子でディズニー行くあたり、めちゃくちゃマイペースと言うかなんというか・・・
友達とか恋人に祝ってもらうより
自分たちで楽しむことを選ぶあたり、あの子たちらしいわな・・・。
(あーーーーめっちゃ行きたい・・・)
(けど明日急に仕事休まれへん・・・)
(二人で行くんやったら邪魔も出来んし・・・)
(あーけど、会いたかった・・・誕生日全力でお祝いしたかった・・・)
(一緒にディズニーで全力で祝いたかった・・・)
(ワンデイパスポートももちろん買うたるし、飯代も全部払うし、欲しいものなんでも買うたるのに・・・)
(はっ!!!!そうや!!ランド行くなら小遣い!!!!小遣いやらな!!!!お金足りるんかな!?!?)
(いや・・・ちゃうな・・・)
(小遣いはちゃうな・・・)
(それもう父親の心境やな・・・)
いくらどう考えても羨ましい。何度考えても羨ましい。
会いたい。
俺もさおりちゃんの誕生日お祝いしたかった。
おめでとうって、ケーキもプレゼントも用意して。
彼女が喜んでくれること、全部全部したかった。
(ミッキーさん・・・ええな、誕生日に会うんか俺の彼女と・・・)
(お祝い出来るやん、ええな・・・)
俺は大人なんやからほんまはこんなん気にせんでもええのかもしれんけど
もう三十路やのにどうしても余裕もてへん。
さおりちゃんのこととなると、ほんまに子供のように悩んだり嫉妬したりしてまう。
なんでこないに余裕ないんやろ・・・
こないだも抱きしめるの我慢できなかったしな・・・
ほんまに 情けない。
(・・・一緒に誕生日過ごす相手に選んで欲しかったとか)
(ちょっと淋しいとか)
(カッコ悪すぎやろ、俺)
これはきっと
醜い嫉妬
(いや、最初からまなみちゃんとミッキーさんに勝てるとは思うてへんけど!!)
(ちゅーかまなみちゃんも誕生日やし、お祝いしてやらなあかんわ)
(むしろ同じ誕生日なんやからお互い好きなところでお祝いするのってめちゃくちゃ合理的すぎやないか???)
(賢いな、あの子たちは・・・)
そう思いながら
とりあえず誕生日は無理でも週末だけは盛大にお祝いさせてもらおうともう一度電話をした。
「あ、さおりちゃん?何度もすまんな!今大丈夫?」
『大丈夫ですよ!どうしました?』
「いや、誕生日、はよ聞いてなくてごめんな!ほんで週末、良かったらお祝いさせてもらえへんかな、と思うて・・・週末空いてる?」
『あの・・・それが・・・』
「あっ!週末もあかんかった!?」
『いえ・・・それが、まぁちゃんが同じ学科の友達から急に連絡来て明日の講義で抜き打ち試験あるからそれに出ないと単位取れないとかで・・・まぁちゃん単位ギリギリだから明日休めなくなっちゃったから週末にディズニー行こうかって話してたところなんですよね・・・』
「え・・・?」
『 まぁちゃん悔しくて泣いちゃって・・・』
「可哀想すぎるな!?!?代わりに出てあげたい気分やわ・・・」
『まぁでも週末は空いてるので・・・ほんとは平日のがすいてるんですけどね・・・来週からは試験期間に入っちゃうからしばらく行けないですし・・・週末に行きます!』
「そうなんやな、わかった!!ほな、明日は・・・?」
『まぁちゃんめちゃくちゃ落ち込んでるから明日は一緒に焼肉行こうかって話してて・・・』
「奢らせてください」
咄嗟に出た言葉やった
(!!!( ゚д゚)ハッ!!!!)
(奢らせてくださいとか!!!)
(必死すぎやんか俺・・・!!!!)
彼氏のはずなんやけど・・・
彼女に片想い中で猛アタックしてる気分になってきたわ・・・
『え?でもそんな・・・いつも御馳走してもらうから悪いです・・・まぁちゃんも居ますし・・・』
「いや!!誕生日やから・・・誕生日やからむしろ張り切ってご馳走したいねん!もちろんまなみちゃんにも!!!」
俺も夜ならあいてるし!!!まなみちゃん落ち込んでるなら尚更!!お祝いさせてや!!!
と、必死に言うと、さおりちゃんは まぁちゃんに聞いてきます と電話口でごにょごにょと会話が聞こえた。
しばらくしてさおりちゃんが
『白石さん?あの・・・まぁちゃん焼肉ご馳走してくれるのすごい楽しみにしてます』
とちょっと嬉しそうに言った。
まなみちゃんも落ち込んだみたいやけど、さおりちゃんもガッカリしとったんかな、とか。
焼肉で喜んだまなみちゃんの笑顔見てさおりちゃんもホッとしたんかなとか。
(つくづくまなみちゃんには敵わへんな)
なんか俺までおかしくなって。
「めちゃくちゃ美味い焼肉屋連れてったるから!!!!」
そう宣言した。
(学生の財布じゃ行けへんところ連れてったろ・・・!!!!)
『すいませんいつも・・・』
「いや!えーねんえーねん!!むしろ誕生日に会えてお祝い出来るとか、ほんまに嬉しいわ!」
『・・・わたしも』
「ん?」
『私も、誕生日に白石さんに会いたいなってちょっと思ってたから・・・嬉しいです』
ふふっと電話の向こうから聞こえる彼女の声。
胸がドキドキと動いて。
カァ~と全身熱が帯びて。
(あぁ、好きやな)
会いたいと思うたのは俺だけやなかったんや、って思わずウルっときそうになって(あかんな!)(年取ったら涙腺弱なったわ!!!)
「明日!!!楽しみにしといてな!!!」
と、子供のようにはしゃいで電話を切った。
(あー、明日会える)
(お祝いできる)
(プレゼントは間に合わへんけど)
(誕生日に会えるんや)
(あ、謙也来れるかな?謙也も誘わな)
そして俺はまた張り切って謙也に連絡をするのやった。
(もちろん謙也も二つ返事でOKやったで!!)