今まで私たち、庶民というか、むしろ特殊な生活だったので全く知らなかったけど、フルネームがあったらしい。
私はサオリ・ローズ・シンプソンという名前らしい。
まぁちゃんは、マナミ・ティモシー・シンプソン。
うち、シンプソン公爵家だった!!
シンプソンなんて黄色い人間しか思い浮かばないよ・・・!
ああ・・・前世の記憶を思い出さなければ出てこなかったのに・・・今ではシンプソンズしか浮かばないよ・・・。
まぁちゃんも同じ感想だったらしい。「シンプソンズか・・・」とボソッと呟いていた・・・。
あとミドルネームも知らなかったな。この世界ではミドルネームは宗教の洗礼名で、基本的には神に捧げる名前だから普段は使わないらしい。
普段サインする時があっても、ミドルネームは書かなくていいし、書いても「サオリ・R・シンプソン」「マナミ・T・シンプソン」でOKらしいわ。
「虎之助とロザンナだね」ってまぁちゃん言ってたけど、まぁ関係ないと思うけど確かにイニシャルみたいな感じだね・・・。
そんなこんなで普段は「サオリ」「マナミ」のままです。
母がつけてくれた名前らしいので、大事にしていきたいと思います。
「あーあ、やっぱり悔しいなぁ~」
「何が?」
「お母さん、毒飲まされなかったら、きっと元気で生きてたのになぁ~」
「それは思ったよ、犯人むかつくよ」
「パパ上の話ではけっこうお転婆でいつも動き回ってたらしいから、きっと悔しかっただろうなと思って」
「だねぇ~でも犯人もう捕まって処刑されてるって言ってたよ」
「そうみたいだけどさ、毒殺とか普通にある世界って怖い」
「うん、怖いね」
まぁちゃんとそんな話をしていた時。
わーわー
廊下から大きな言い合いのような声が聞こえた。
怒鳴りあいまではいかないけど、何やらヒートアップしているような・・・
「なんか騒がしいね」
「なんだろうね」
2人でそんな話をしていると、
バンッ!!
と私たちのいる部屋のドアが開いた。
「父上!おやめください!!」
「何を言っとるか!!これも全て2人のためではないか!!」
「2人のためになどなりません!!」
その声の主は、私たちのお父様と、おじい様だったのだ・・・(何事だ一体・・・)
「えっと・・・お父様とおじい様・・・どうかされましたか?」
「ノックもせずに乙女の部屋に入ってくるとは」
「え・・・まぁちゃんそこ?」
「あ、ああ・・・それについては謝ります、急にすまなかったね」
「今日は2人に話が合ってきたんじゃ」
「何ですか?おじい様」
「やめてください!!そんな話は2人には関係ない!!」
「関係あるだろうが!!2人ともそろそろ社交界に出る準備をしなさい!」
「「社交界???」」
「父上!!まだ2人には早いと言っているでしょう!!突然連れてきて社交界に出ろはひどすぎる!!」
「何を言っとるんじゃ!!このまま嫁き遅れになったらどうする!?もう16歳と言えば社交界でデビューする歳じゃないか!!」
「いいんです!!2人はここでずっと私と一緒に暮らすんです!!」
「何を言っとるか!!ずっと手元に置いとく気か!!」
「はい(真顔)」
「~~~!! 馬鹿な事を言うな!!」
どうやら、おじい様は我々に社交界に出ろと言っていて、お父様は出なくていいと言ってケンカしてるっぽい。
(社交界か・・)(まぁ・・・当然行かなくちゃいけないっていうのは、なんとなくわかっていたけど・・・)
社交界の話はお母さんにも聞いていたし、公爵の娘なんて言ったら当然お付き合いで出席しないといけないこともあるんだろうから、話はそのうち来そうだなと思っていたけど・・・。
私たちがここに来てから、半月たってるしそんなものかな~と思った。
この世界では、学校というものは特に存在しない。
各家庭で家庭教師を雇って勉強することになっている。ハイジの世界だね。ハイジの世界でもお嬢様は家庭教師雇ってからね。
そして、私たち令嬢のお仕事と言えば、主に「社交界」なのである。
12~15歳までは「お茶会」で、16歳になると「社交界デビュー」となる。
それと同時に行われるのが婚活。
もちろん小さいころから婚約者が決まっている場合もあるけど、社交界で人脈を広げたり、人間関係を学ぶ必要があるので基本的には社交界にみんな出て、顔を合わせてお互い気に入る人ができたら婚約という流れらしい。
女性は大体22歳頃までに嫁がなければ嫁ぎ遅れになると言われているから女性たちは必至だよ。
社交界でも年齢が高くなってきた場合には、政略結婚とか親が持ってきたお話で結婚する人も多いみたい。
ちなみに男性の場合も16歳くらいから社交界デビューはするけど、公務(騎士団とかお城の仕事とかいろいろ)を賜るのでそっちが忙しい人もいるし、令嬢ほど多く社交界に参加できないみたい。女性は毎回出ても、男性は忙しければ数か月出られないこともあるとか。男の人って領地のこともあるし、すんごく忙しいなと思う。
令嬢は社交界以外は何やってるの?と言えば、主にパッチワークや刺しゅうだったり、ダンスレッスンや礼儀作法を学んだり、お茶会したり・・・とにかく自分磨きをして少しでも良いお宅に嫁いで世継ぎを産むのが一番の大仕事らしい。
基本的に偉い人は何もしないという世界なので、子供産んで社交界でてれば終わり。
何つー世界だ。令嬢暇だな。
嫁ぎ遅れは家の恥。
ということで、我々にもそんな話が来るような気がしてたけどね。
でも、お父様がこんなに止めるとは思ってなかったな。
「とにかく、娘たちは誰にも嫁がせません!!」
「そんなのダメに決まってるだろう!!」
「いやです!!16年間も離れていてやっと再会できたんですよ!?このまま3人で暮らしていくからいいんです!!」
ただたんに16年間分の愛が爆発しただけみたいだ。
嫁がせない!離れたくない!とわがままを言う父と、嫁ぎ遅れると困るからと私たちを社交界に出そうとする祖父。
(う~ん、でもなぁ・・・)
(きっと公爵家としては嫁がないとダメなんだろうし・・・)
「あのー、お父様、私社交界出ても大丈夫ですよ?」
「!?」
「本当か!?サオリ!!」
「家のためですから。でも、私今まで多くの人にお会いしたことないので、人の名前を覚えるのが苦手で・・・」
「そこは気にするな!わしと一緒にいればいろいろ教えてあげるからな」
「えー!アタシはやだな~」
「マナミ!!マナミもいやだよな~!!」
「何を言っとるか!!」
「だって、めんどいんだもん」
「めんどいってきみ・・・」
「ほら、本人も嫌がっていますし、2人で出れないのであればこの話はなかったことにしましょう」
「そんなこと出来るか!・・・だが、確かに無理強いも出来んしな・・・そうじゃな、ではひとまずサオリだけでも出なさい」
「はい、おじい様」
「マナミもそのうち出ること」
「「えー」」
「お父様とまぁちゃん声がかぶってるwww」
「えーじゃない!そのうちでるんじゃぞ!!」
ということで、社交界に出ることになりました。
お父様はしょぼんとしながら、おじい様は意気揚々と部屋から出ていきましたよ。これからちょっとまたもめるかもしれませんね。余計な事いったから~とかなんとか。
「さおちゃん本当に良かったの?」
「うん、だってそれがお仕事だよ私たちの」
「うわっ出た真面目」
「お母さんに働かぬもの食うべからずって言われて育ってきたからね・・・」
「でもさ、いろんな人と話したくもないこと話さないといけないんだよ?」
「うん・・・それは前世でも超苦手だった・・・」
「だろ?パパ上無理しなくていいって言ってくれてるんだから無理しなくていいよ」
「うーん、でもお友だち欲しくない?」
「いや、きみがいればいいよ」
「いつもそれ言うなきみ・・・だって、私たちずっと2人で育ってきて他の人しらないしさ」
「まぁね」
「いろんな話聞けるかもしれないじゃん、女同士だったらいろいろとさ」
「そうだけどさ」
「まずは行ってくるよ、おじい様ついててくれるって言うし。もしダメそうならきみと引きこもるから」
「引きこもるwwwそうしてwww」
「快適なのはわかるけど、外でないとダメだからね」
「わかってるけど、何にもやらなくていいの最高に幸せなんだもん・・・」
「わかるよ、今までが今までだからね・・・」
「全部やってもらえるんだよ?むしろ、自分じゃやったらダメなんだから」
「そうだね・・・」
「ただ暇だってところが苦痛だけど、我々には創作活動があるから・・・」
「前は小屋にあったボロボロの紙に書いてたけど、かなりいい紙もらえるからね・・・」
「創作活動楽しくて仕方ないわ・・・暇だった私たちの唯一の楽しみ・・・前世の記憶を思い出した今、前世でも書いていたと判明したし」
「じゃあきみはこのまま創作活動を続けてくれ・・・きみの分も頑張ってくるから」
「おう、わかった!」
こうして、社交界に行くことになった私だけど・・・
予想していた通り、ここからが大変でした・・・
「下を見ない!」「ターンはもっと優雅に!」「ステップが違います!!」
社交界に出るにあたって大きな問題が。
それはダンス問題。
所作や食事中のマナーだけは、母に厳しく躾けられて育ったので、みんなに褒められるくらいにはなっていた。(ここは自慢できるって褒められましたえっへん!)
でも、ダンスがね・・・
男性と練習したことないし・・・というかダンス踊れるくらいの年齢になった時にはお母さんかなり弱くなっていて全然起き上がれないからダンス教えてもらうどころじゃないし・・・。
あと、実際に社交界でどうやってご挨拶すればいいかとか、ご挨拶の順番とか・・・。
貴族の名前が書いてある本があるからそれを見ながら勉強中。
ひえー!だよ・・・。
公爵(こうしゃく)とか侯爵(こうしゃく)とか、読み方一緒じゃん!!もうわけわからないよ!!!
おじい様も一緒にいて教えてくれるっていうけど、全く知らないのも・・・って感じで覚えることがいっぱい!!
特にダンス!!!
執事のミカエルさんと社交ダンスを教えてくれる家庭教師のロッテンマイヤー先生・・・
もう、ロッテンマイヤー先生、ハイジの先生そのままだよ!!!ざますメガネかけててこわいよ!!!
ミカエルはミカエルで素敵なおじいちゃん執事なんだけど、お相手してくれてるときに何度も足を踏んでしまって申し訳ない・・・
「わーお父様じょうずー♡」
「マナミも筋がいいよ」
なぜか見学しに来たまぁちゃんとお父様が2人で踊りだして、まぁちゃん初めてなのにめっちゃ上手いし・・・なんでそんなに上手いの・・・。まぁちゃんかなり野生児で木登りとかガンガンしてたし運動神経いいのかな・・・。お父様も娘と踊れて嬉しそうだし・・・。ついでにまぁちゃんもお父様イケメンだから喜んでるし・・・。
お母さんって、ダンスがとてもお上手で、社交界の花って呼ばれてたらしいから私頑張らないといけないのに・・・!誰に似てこんなにセンスがないの私は・・・!
そう思いながら必死にレッスンに励んでいると、
「サオリ、出席するパーティーが決まったぞ」
と、おじい様が手紙を持ってきた・・・。
え・・・まだ全然覚えられてないのに、もう決まったの・・・?
「実はずっと陛下より2人の無事を確かめたいと言われていたんだが、今度王子の誕生日パーティーがあるようでな、そこでご挨拶といこう。参加状が届いたから参加で出しておくからな」
楽しみだな!とおじい様は笑っていたけど、私は顔面蒼白・・・!
い、いきなり王族のパーティーだと・・・!?
もっと、こう、規模の小さいやつでお願いしたかったよ!!
「そ、それって、いつ開催予定ですか・・・?」
「あー、1か月後ということだ。今すぐ着ていくドレスを作らないとな!」
そう言って張り切るおじい様。
私はあと1か月でやることを必死に考え、自分なりの計算では完璧に仕上げるのは難しいと判断し、泣きそうになった。
とにかくあと1か月、寝る間も惜しんで頑張る必要があるようです!!(寝るけど)
「ドレス~ドレス~♪」
今日はレッスンもそこそこに、仕立て屋さんが来ている。
というのも、着ていくドレスを作るためだ。
クローゼットにもたくさんのドレスを用意してあったけど、これは普段着なのだそうだ。
この世界では、近衛兵などの女性騎士などはパンツ姿だけど、令嬢は基本的にドレス。
どこにいくにもドレス。
10代の私たちは、ワンピースを着ることも許されているけど、基本的に女性は足なんて出さないし、ズボンもはかない。ドレスだ。
私たちも毎日ドレスに着替えさせられる。コルセットはつけない家用のものだけど、パーティーではコルセットつけるから、コルセットを付けた状態のサイズを測って作るらしいよ・・・。
コルセットはさっきつけたけど、吐きそうだった・・・多分私何も食べられないと思う・・・。美味しいごはんがあるらしけど残念・・・。
そんなこんなで、ついでにまぁちゃんも自分のドレスを作ってもらうといって、一緒に生地を見ている。
いろいろな生地があるし、見本のドレスもたくさん持ってきてくれているので、見ていてとても楽しい。
「今の流行りはフリルがたくさんついた、明るめの色のドレスなんですわよ」
仕立て屋さんのマダムがそう言った。
今の社交界のブームはとにかくフリフリで色もピンクとか黄色とか明るい色が流行ってるらしい。
確かにクローゼットの中も全部フリフリだった。
「こちらなんていかがかしら?」
そう言って、マダムが提示してくれたドレスを見ると、本当にフリフリ・・・ロリータみたい。
まぁロリータってヨーロッパのドレスを元にしてるから、こういうドレスが元祖みたいなものだから当たり前なんだろうけど。
持っているワンピースもフリフリ多いから、きっと今本当に流行りなんだろうな・・・。
「はぁ・・・」
「サオリ様、お若いしお美しいので、とても似合うと思いますわ!」
確かにまだ10代だし似合うと思うけど・・・
話を聞くと、20代30代40代のマダムたちまでもが、社交界の流行りにのってフリフリなのだそうだ。
みんなで同じような恰好してもなぁという気持ちもある。
「うーん、さおちゃんね、確かに似合うけど、こっちの布のが似合うよ」
そういってまぁちゃんが持ってきてくれたのは、深紅の布だった。
「あらあら、マナミ様、確かにサオリ様には何でもお似合いですけど、その色は流行りではございませんわ。ワンポイントとして入れる色ですのよ」
「流行りとか関係ないよ、さおちゃんが似合う色が一番いいんだよ。さおちゃんは濃い色が似合うからね。髪の毛もピンクゴールドだからきっと似合う」
「・・・確かに、社交界デビューで目立つことはできますわね」
「でしょ?あとね、ドレスもフリフリじゃなくてね・・・こう・・・」
「あら・・・!お上手・・・まぁ、なんて素敵な・・・!」
まぁちゃんがとうとう紙にデザインを描いてマダムと相談し始めた。
マダムはまぁちゃんのデザインが斬新だと褒めて、その案に決定したようで、さっさと布を片付けたと思ったら馬車に乗ってさっさと帰っていった。どうやら創作意欲がわいてきたらしい。
まぁちゃんのことをしきりに褒めて帰って切ったマダム・・・。
どんなドレスになるかはお楽しみにって言われて、出来上がるまでどんなドレスかはわからない。
「では、ダンスのレッスンをいたしましょうね」
ロッテンマイヤー先生が呼びに来たので、泣く泣くダンスのレッスンに戻りました・・・。
毎日筋肉痛だし、つらいです!!