次の日、また彼が私を待っていた
会社のエントランスで捕まった
けれど、昨日のこともあってか、私の心は静かだった
「あの、まえさん、」
「・・・」
「話聞いてください」
「・・・今ここで言ってください」
「え?」
「2人きりになりたくないので、今ここで言ってください」
そんな言葉が冷静に口から出てきた
彼は少し戸惑ったようだったけど、すぐに
「すみませんでした」
と深々と頭を下げた
「・・・」
「酔ってたとはいえ、あんなことするなんて、ホンマに最低でした」
「・・・」
「すみませんでした」
「・・・」
「許してほしいとは言いません」
「・・・」
「でも、謝りたかったんです」
「・・・」
「本当にすみませんでした」
「・・・」
目立っていたと思う
エントランスで、頭を下げる白石くん
それを冷静に見ている私
だけど、そんな周りの目なんてどうでもよかった
もう、
彼に対して、私はが何かをいう事はない
(怒りも)(悲しみも)
(もう彼にぶつけることもバカバカしい)
「覚えてません」
私はそう言った
彼はそこで、やっと頭をあげた
その顔は、ものすごく驚いた顔をしていて、
私の言葉に驚いたのか、それとも、冷静な口調に驚いたのか、
(何にせよ)
(もう、これ以上・・・)
「覚えてませんから、」
その後の言葉は続けられなかった
「・・・」
(覚えてないから、何?)
(もう関わらないでください?)
(もうやめてください?)
(もう会いたくありません?)
(なかったことにしてください?)
言葉が出てこない
(違う、)
(違うんだ、)
私、本当はそんなこと言いたいんじゃない
私はその場から走り去るように
逃げた
(結局、)
(いつも逃げることしか出来ない)
(情けないなぁ・・・)
(情けないよ・・・私・・・)
その日は一日中、なんだか集中できなくて、
私はまた時間になると、すぐに家に帰った
――――――――――――――――
「仕事やめた」
家に帰るとまぁちゃんにそう言われた
うん、もうあんな危ないことがあったあとだから行かなくていいよって私は思った
そして、
「あいつのめんどうみることにした」
まぁちゃんはそう言った
「そっか、」
「うん」
「それは、頑張ってね」
「うん、頑張るよ」
なんだかすっきりした顔をしていたまぁちゃんは
(ああ、)(好きなのかな)
鈍い私でも何となくわかった
(朝から「生きてた!」って嬉しそうにLINEきてたもんな・・・)
(あのまぁちゃんがなぁ・・・)
(そっかぁ・・・)
(上手くいくといいなぁ・・・)
ズキン
なんだか心が痛んだ
だって、まぁちゃんの幸せそうな顔見てたはずなのに、
それなのに
思い浮かんだ
彼の顔
(あれれ?)
(なんで、あの人のこと思い出したんだろう、)
(なんで、私)
(忘れるって決めたのに、)
まだ気になるの?
自分の心を押し込めるのなんて得意で、
いつも我慢して生きてきた
私が我慢していれば周りは上手くいくって思ってたし、
我慢しないといけないんだってずっと思ってた
だから、
また我慢すればいいだけなのに、
それだけなのに、
(ダメだ、)
(おかしい私、)
(どうしても、あの人の顔が)
頭から離れないよ・・・
ずっとずっと心がすっきりしないまま、
数日が過ぎて行った