ep.029

会社に行きたくなかった

 

 

(けど、行かなくちゃ・・・)

 

 

まぁちゃんとたくさん遊んで、

眠かったからたくさん寝て、

 

そしたら少しはスッキリした

 

 

だけど、

 

 

これから会社に行くのが憂鬱で心は晴れなかった

 

 

 

(絶対、会わないようにしよう)

 

 

 

そう決心して、会社へ向かった

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

なのに、

 

 

私の決意なんてそんなことは大した意味もなくて、

 

 

 

(・・・)

 

 

 

会社のエントランスで彼を見つけてしまった

 

 

 

(・・・もしかして、)

(待ってたの?)

 

 

 

どう見ても、入り口が見えやすい位置に立っていた彼は、

私の姿を見つけると、すぐに駆け寄ってきた

 

 

 

 

(どうしよう、)

(怖い、)

(どうしよう)

 

 

 

 

彼を見ないふりをして、すぐにエレベーターへ向かった

 

 

 

だけど、

 

 

 

「まえさん!」

 

 

 

大きな声で名前を呼ばれてしまった

 

 

 

振り向くことは出来ない私に、

 

 

 

「まえさん、」

 

 

 

彼はもう一度私の名前を読んで、

 

 

 

グッ

 

 

 

腕を掴んだ

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

「あの、俺、」

 

 

 

 

何か言いたそうな彼の言葉をさえぎって

 

 

 

 

「おはようございます、すみません、急いでますので、」

 

 

 

そう言って、エレベーターをやめ、階段へ向かった

 

 

 

 

でも、

 

それでも彼は付いて来ようとして、

 

 

 

 

「まえさん、あの、」

 

 

 

(やだ!)

 

(何も聞きたくない!!)

 

 

(顔も見たくない!!)

 

 

 

 

私は思わず、

 

 

 

 

「やめてください!」

 

 

 

 

そう言ってしまった

 

 

 

 

(こわくて、)

(彼の顔が見れない)

 

 

 

 

周りの視線が、私たちに注がれているのがわかる

 

 

 

 

(いやだ、)

(いやだ!)

 

 

 

 

私は少し早足で階段に向かった

 

 

 

 

 

私が嫌がっていたのがわかったのか、彼はもう付いてくることはなかった

 

 

 

 

 

(よ、よかった・・・)

 

 

 

 

 

とりあえずはそれでその場は終わったことに安心して、私は忘れるように仕事に集中した

 

昼休みも彼の顔を見ないように外で済ませた

 

 

(って言っても、食欲ないから、コンビニでプリン買っただけだけど・・・)

(はぁ・・・疲れた)

(すごい疲れた・・・)

(はぁ・・・)

(午前中でもうすでに疲れた・・・)

(まぁちゃんに相談してみようかな・・・)

 

 

 

そんなことを考えていると、まぁちゃんから電話がきた

 

 

 

 

(あれ!?)(どうした!?)

(珍しいな・・・)

 

 

 

 

私が電話に出ると、泣きじゃくるまぁちゃんの声

 

どうやら、まぁちゃんの病院で事件があって例の研修医が刺されたようだった

 

 

 

(ええええ!?)

(た、大変だよ!!)

(そんなの、私の悩みなんかちっぽけすぎて!!)

(相談している場合じゃないよ!!)

 

 

 

 

今度はまぁちゃんが心配すぎて、午後の仕事も手につかないまま、

就業後も、私は一番に会社を後にした

 

 

 

(会いたくなかったし、ちょうどいいや)

 

 

 

家に帰って、泣いているまぁちゃんを励ます

 

 

 

(ホント、私の悩みなんて、ちっぽけだ)

(ごめんよ、もう私あんなこと気にしないようにするよ)

 

 

 

 

まぁちゃんが心配すぎて、自分の悩みなんかどうでもよくなって、

本当に、あの日のことはもう考えないようにしよう

そう思った

 

 

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