告白すると言ってたまぁちゃんは
振られちゃったからちょっと相手言うのためらうと言っていた。
そしたらまだ言わなくていいよって言ったけど
振られた割にはまぁちゃんの顔はなんだか晴れてるなと思った。
私の方が心はどんよりで、なんでこんな気持ちになるんだろうって悲しくなっていた。
次の日。
部活が終わって帰宅しようと校門を抜けたところで
同じく部活帰りの生徒が数人ザワザワしていて。
一緒に帰宅途中のバレー部の誰かが すげーカッコイイバイク! って言った。
「よ」
そして私はその声に顔を上げた。
「あれ……」
「さおり、久しぶりだな」
バイクに跨りながら夕日をバックにそう笑う彼に
その場にいた男女問わず 見とれてしまった。
「よ、洋平くん!」
ビックリして近づくと
「さて、行くぞ。乗れよ」
と突拍子もないことを言いながら彼は私にヘルメットを渡した。
「え!え!?前、このカッコイイお兄さんと知り合いなのか!?!?」
と菅くんが叫べば
「さおりちゃん、ま、まさか!か、彼氏!?!?」
と、徹くんが大声で叫んだ。
「ち!違うよ💦洋平くんはいとこの親友で……よく遊んでもらってたから……」
そういう私の言葉に徹くんは よかった と呟いていた。
「急にどうしたの?」
「ん?会いたくなったら会いに来ちゃっダメかよ?」
ドッキーーーーン
(う、う、うわぁーーーーー!!!!)
(洋平くん!!!!)
(昔からまぁちゃんと私が神と崇める素敵なお兄さんだったけどォォォ!!!)
(歳を重ねる毎にあまりにもイケメンすぎて直視ができない!!ふぁぁぁ)
どうやら 洋平くんにときめいちゃったのは私だけではないようで
あ、あにきって呼ばせてください!とか
しびれる……!
とか言いながらみんなぽわぽわしている。
わかる。
私が男でも惚れるわ。
「前!!兄貴を待たせるな!!」
「さぁ、バイクに乗るんだ!!」
バレー部たちが謎にバイク乗れ乗れって急かすから私は大人しく洋平くんのバイクに股がって、渡されたヘルメットをかぶった。
「また明日な!前!」
「さおりちゃーん!いってらっしゃーい!!」
部活の仲間に見送られ
「しっかり掴まれよ」
と洋平くんが言うから 大人しく彼の腰に腕を回した。
「で、なんで海?」
洋平くんに連れられて来たのは、小さい頃に花みっちゃんや洋平くんによく遊んでもらった浜辺だった。
「んー?いや、冬の海も悪かないだろ」
「寒いよ?」
「はは、だな」
洋平くんは笑いながらホッカイロあるぞーなんて渡してきた。
(うーん・・・)
(どうしたんだろう洋平くん・・・)
あまりにも急なことで頭が追いつかない。
なにがどうなって洋平くんは私を海に連れてきたのか。こんな寒いのに。湘南はやっぱり夏に来たいし、急に彼が会いに来た理由もわからない。
「洋平くん?」
「まぁ待ってなよ、もうすぐ来るから」
そう言った洋平くんは相変わらず穏やかな笑顔を浮かべていた。
(はーすき)
(カッコイイ……)
(昔からカッコイイけど大人になって更にカッコ良さを増した……)
(神過ぎる……)
ぼんやり海を眺めて、寒いからって洋平くんにマフラーぐるぐる巻きにされて更に膝掛けまでおかりして至れり尽くせりなモコモコだるまになった時
ぎゃいぎゃいと賑やかな声が聞こえてきた。
私が辺りをキョロキョロ見回すと、洋平くんが 来た来たって笑った。
「あ!もう洋平ついてるぞ!!」
「はなみっちゃん、寒いってば!どこ行くのさ!」
「あれ!?はなみっちゃん、まぁちゃん!?」
声が近づいて2人の姿を確認できた時、はなみっちゃんとまぁちゃんはフラフラ自転車でこちらに向かってきた。
「あれ、さおちゃんもいる!」
「まなみ、さては太ったな……ゼェゼェ……重い……」
「何!?はなみっちゃんが体力なくなったんでしょ!!」
「ふんぬー!?この天才に向かってなんてことを!!!」
はなみっちゃんがシャカシャカと自転車を漕ぐうしろでまぁちゃんは呑気に手を振っていた。
「はぁはぁ……やっとついた……まなみのデブめ……」
「は!?はなみっちゃんの体力無し!」
「なにをー!?」
「ほらほら、2人とも喧嘩すんなよ」
そう言う洋平くんにデレデレしながれ近づくまぁちゃん……
いや気持ちはわかるけど。
今日も神々しいよね洋平くんは。
「よーへー!久しぶり❤️」
「よ、まなみ」
「どうしたの急に?街ブラしてたらはなみっちゃんに拉致られたよ」
「あー、まなみは部活出てねーだろうから花道に探してもらったんだよ」
「そして海寒い」
「わかってるよ、だからさっさと用事済ませて帰るから……」
そして、花みっちゃんと洋平くんは花みっちゃんが背負ってきたリュックから何かをガサゴソ取り出して、ハイ と私たちに渡した。
「え、え?」
「あ、もしやこれは?」
洋平くんはニヤニヤしながら
はなみっちゃんは少し照れながら
「少し早いけど誕生日おめでとう」
と言った。
(あーそうか!)
(バレンタインとか最近色々あって忘れてたけど)
(もうすぐ私たちの誕生日だ!)
はなみっちゃんも洋平くんも毎年必ず律儀にお誕生日プレゼントをくれるんだ……
ほんとにありがたすぎて泣ける……
「わーー!!ありがとう!!」
「ありがとう、はなみっちゃん、洋平くん」
当日会えそうにねーからちょっと早くてごめんな、と洋平くんは言った。
はなみっちゃんも洋平くんも忙しいのにむしろ申し訳ないよ……もうこうして覚えててくれるだけで大感謝……
「めっちゃうれぴー😭開けてもいい?」
「もちろん」
「何が入ってるのかなー」
ガサゴソ
まぁちゃんが袋を開け始め、つられるように私も包みを開けた。
「あ!可愛い……!」
中を開けるとめちゃくちゃ可愛い部屋着が入っていた。
「え!ジェラートピケでしょ!高いのにはなみっちゃんもよーへーも大丈夫なの!?」
「ハハ、社会人なめんなよ?」
「よーへーはともかく!はなみっちゃん!!」
「ふん!俺だって金くらいある!少しだけど……」
めちゃくちゃ可愛いけどジェラートピケと言うのか・・・ジェラートピケ知らなかった・・・と思いながら、すごく嬉しくて改めてお礼を言った。はなみっちゃんも洋平くんも笑ってくれた!
「よくジェラートピケ買ったね?」
「ハッハッハ!晴子さんに協力してもらった!」
「だろうと思ったよ。てか毎年晴子さんじゃね?」
「しょーがねーだろ?俺も花道も女子高生の好みはわからんし」
「まぁはなみっちゃんとよーへーがジェラートピケ行ってたらビビるわ」
「一緒には買いに行ったぞ!!」
「それウケるね」
店内ザワついたでしょ?
と、まぁちゃんは本当に嬉しそうに笑っていた。
私ももちろん嬉しいけど、まぁちゃんのこんな嬉しそうな顔も久々に見たな~ってそっちの方が嬉しくなった。
「いや~こないだ振られて落ち込んでたから嬉しいわ~」
って、え!?
まぁちゃん!?!?
そのネタをここでぶっこむ!?このメンツで!?
ぎょっとするわ!!!
「・・・なんだ、落ち込んでたって聞いてたけど失恋してたのか」
そう洋平くんが呟いたあと
ぎゃはははは!失恋!まなみが失恋!!
と、はなみっちゃんの笑い声が聞こえた。
そしてまぁちゃんが はなみっちゃんのが何万回も振られてるじゃん💢 ってキレて、はなみっちゃんも 何万回じゃねー!!50回だー!とか言って大喧嘩に発展……まぁ私も洋平くんも慣れてるので、その辺は気にしないんだけど。まぁまぁって止めに入ったけど。
振られた
なのになんでこんなに平然としていられるのかがわからない。私なんて自分から別れたというのにうだうだグチグチと落ち込んでいると言うのに……
「強いなぁ、まぁちゃんは……」
ボソッと
ついつい、想いが言葉に出てしまっていた。
その言葉にまぁちゃんはビタっと動きを止め、私をじっと見た。
「・・・でも、死ぬほど泣いたよ」
(え?)
今度その言葉に固まるのは私の方だった。
泣いた?
まぁちゃんが?
平気そうに見えたのに???
「うそ・・・でも全然平気そうだったじゃん・・・」
「平気じゃないよ!落ち込み過ぎてやばかったしめっちゃ泣いたけど」
「え~??え、ほんとに!?」
「うん、だって嫌われてたからね・・・振られたっつーか告白も出来てないんだよ、たまたまアタシの話を友達としてる所見ちゃった」
あんまり・・・って言われちゃったさ
まぁちゃんはなんだか淋しそうな笑顔で
ハハハうけるしょ
と、言った。
(なにそれ・・・?)
(なんで?)
(なんでそんな平気でいられるの!?)
「やめなよ!!!」
そう、大きな声を出していたのは私だった。
「誰だか知らないけど、きみのことそんなこと言う人なんてもう好きなのやめなよ!!きみにはもっときみのいいところ見てくれる素敵な人がいるよ!!!」
なんだか悔しくて
泣きそうになって
必死にそんなことを言ったんだけど。
当の本人のまぁちゃんはポカーンとしながら私の方を向いていた。
「まぁちゃん!聞いてるの!?」
そう言うと、まるでハッとしたように
「いや、きみがそんな風に言うとは思わなくて」
と、まぁちゃんは驚いて言った。
「言うに決まってるよ!!!きみのことそんな風に言うなんて・・・悔しいもん!!」
「いやでもアタシもすごいひどい態度取ってたからほんと正論すぎてな・・・」
「きみモテるんだからそんな男やめてもすぐいい人見つかるしょ!!」
「え、でもその人が好きなんだよ」
(え?)
ケロッと言ったまぁちゃんに、今度呆然とするのは私の方だった。
なんで?
あんまりとか言われたのに?
意味がわからない!
私なら全力で諦めるのに!!
(諦める・・・のに)
「好き、ってなんで?よくそんな酷いこと言う人好きだね!?」
「え・・・ひどくないけど別に・・・むしろひどいのアタシだし・・・それにアタシも最初は諦めようと思ったけど、言われたんだよね。歌仙に」
「歌仙に?なんて?」
「すでに嫌われてるならこれ以上嫌われることは無いんだから怖がらずに当たっていけって」
「え!?何それ!?」
「だってまだ何も頑張ってないからアタシ」
「でも・・・」
「頑張ってそれでも相手にされないなら諦めるけど、やっぱり今はその人が好きでさ・・・好きな気持ちは無理やりやめようとしてもやめられないじゃん?悔しいから諦めたくないし、簡単に好きな気持ちから逃げたくないんだよ」
だから毎日笑顔で挨拶するところから始めてるんだ!
ってすごくキラキラした瞳でまぁちゃんは言った。
ズキン
胸が傷んだ。
(なんだかそれって、)
ごくり、と唾を飲み込み 次の言葉を探したその時
私の言葉は
「ワカル・・・」
と言う はなみっちゃんの言葉に遮られた。
(それがすごくホッとしたことは内緒だけど)
「わかる・・・わかるぞその気持ち!!!・・・ぐす」
「え!?!?はなみっちゃん泣いてるの!?!?」
「好きなもんは好きだもんなぁ・・・!!俺はお前の恋応援するぜ!!」
はなみっちゃんがまぁちゃんの肩を組み、さっきまで馬鹿にしてたのになんなの!?とまぁちゃんがプンスコした。
そして盛大なまぁちゃんのくしゃみで「さみぃから帰るか、また夏に来ようぜ」と洋平くんが私にヘルメットを渡してお開きとなった。
最後まで「はなみっちゃんの自転車はヤダ!よーへーのバイクがいいー!」と駄々をこねるまぁちゃんは「ふんぬー!!まなみー!!俺はお前を応援する!!!!」と謎に燃え上がってしまったはなみっちゃんに無理やり抱えられ荷台に乗せられチャリで帰っていった・・・
洋平くんの、俺達も行こうぜと言う言葉に私はバイクにまたがった。
(好きな気持ちは無理やりやめようとしてもやめられない・・・)
(簡単に好きな気持ちから逃げたくない)
まぁちゃんのその言葉が深く胸に残って。
痛くて苦しくて、なんでたろうって思ったけど
(あぁそうか)
(逃げてるのは私なんだ)
そう気づくまでさほど時間はかからなかった。
頭の中がグルグルして、その日はあまり眠れなかった。