「怖いねんけど、まぁ・・・顔は、一番好みかもしれんな」
そう俺が言うたあと
ガタンッ
と廊下に響いた音。
誰だ? とクラスのやつが不思議がって廊下に出た。
そんで
(あれ?)
持ってきたんや
「これ落ちてた」
って、
俺の傘を。
謙也「あれ?これって・・・」
「謙也の折りたたみ傘じゃね?」
謙也「そうやわ、持ち手のところにシール貼ったんや昔」
「あとこれも一緒にあったぞ?」
と、手に持っていてのは めっちゃ可愛らしいラッピングの・・・
「これチョコじゃね!?」
「絶対そうだ!!!」
「え、なんでだ?」
「謙也に???」
謙也「・・・」
頭の中がグルグルして、上手く考えつかんかったけど
(この傘・・・)
(前にあの子に貸したやつやんな・・・?)
(あの子、ここにおったってこと?)
え、待って
せやったら、
ガタッ
俺は思わず席を立ち廊下に飛び出し辺りを見渡す
(やばい)
(あかん)
聞かれた
(悪口、まで言うたつもりないけど)
(あんまいいこと言うてへん)
「謙也、急にどうしたんだよ?」
「心当たりあるのか?」
謙也「あ・・・いや・・・」
「これ、開けたんだけどすげー上手そうなお菓子入ってたぜ」
謙也「え!?開けたん!?」
「あけねーと誰のかわかんねーじゃん」
「絶対バレンタインのだぜ!」
「手作りっぽいもんな!!」
「誰にだろう、名前書いてねぇけど」
「俺か・・・?」
「お前じゃないだろ、謙也の傘と落ちてたんだから謙也のじゃね?」
謙也「いや・・・それは・・・」
(・・・それだけはないやろ)
そう思いながらも
一応落とし主わかるかもしれんってとりあえずそれは俺が預かることにした。
ほんまは雑談しとったんやなくて、先生に上級生のお別れ会でなんかやってくれって言われて考えるのに残ってただけやし
ちゃんと話し合いしたらそのあとは普通に部活に行った。
けど
今日のことが気になって あんま集中でけへんかった。
(嫌な思いさせたやろな)
(会話聞こえて)
(嫌な思いして おらんくなったんやろな)
(傘とチョコ落ちとったからそうやろな、それしかないよな)
(・・・5組に好きな人でもおったんかな)
(ついでに傘持ってきてくれたんかも)
(・・・邪魔してもうたな)
(せっかく、作って来たんやろうに・・・)
俺かて、自分のこと よくない風に言われといったら嫌やし
悪口みたいに聞こえたやろうし
(実際よくない感じの話しとったから)
傷つけたやろな、と
相手が誰やろうと、傷つけるのは自分自身も胸が痛んで、申し訳なくて。
(・・・また嫌われたな)
(めっちゃ怒ったやろな・・・)
(あーーー・・・・)
好きな人への告白も邪魔してもうて
嫌な話も聞かせてもうて
もう絶対キレてるわ・・・
もっとあたりきつくなるわ・・・
俺かて別に嫌われたいわけやないのに
(・・・いっつも嫌われることしてまうな)
(はぁ・・・)
嫌な思いさせたのも後悔しとるし
めっちゃキレてまた明日から冷たくなるんやろな、とか
バレンタインのチョコ渡すの邪魔してもうて申し訳なかったやろなとか
いろんなこと考えて
(・・・とりあえず明日これだけは帰さんと)
不器用に包みなおしたラッピングのチョコを カバンにしまった。
顔は好み
それはほんまのことで。
初めて見かけた時 いつやったか廊下ですれ違っただけやけど
その時 つい二度見した。
そのあとも見かけるたびに 目で追って
廊下で向こうがロッカーから荷物落ちて拾ってる時
チャンスや!って思って 走り寄って荷物拾いを手伝った。
それから少しずつ話せるかと思うたんやけど それは叶うことなく
俺はどんどん嫌われていくこととなる・・・・・・
これでも嫌われへんように自分なりに努力したつもりやったんやけど
全部から回りしてもうて 嫌われて あたりきつくなって
性格もきついし・・・あかんこれめっちゃこわい・・・って思うようになって今に至る。
嫌いではないねんけど、とにかく怖い、怖いしかない。それが今の心境。
次の日
朝練終わって 教室に向かった。
(うーん、どのタイミングで返すか・・・)
(みんなの前で返されたらいややろうし)
(あと昨日のこと謝らな・・・)
(嫌な思いさせてもうたかもしれんし)
(そもそもめっちゃブチ切れて話聞いてくれへんかもしれん・・・)
(ちゅーか、このチョコほんまにあの子のかもわからへんし)
(いや・・・とりあえずあれや、傘の話をして・・・)
(傘は間違いなくあの子に貸したもんな?)
(傘の話から入ろ)
(そんでいつ話しかけるか・・・)
ぐるぐるぐる
いろんなこと考えとった
ぐるぐるぐる
いつもあんま難しいこと考えへんから
考えたことであんま周りが見えてへんくて
「あ、」
その声で 顔をあげた。
「お、おはよっ」
その姿を見て 目が丸くなった。
(え・・・?)
思わずキョロキョロと あたりを見回した
けど
・・・俺しかおらん・・・・よなぁ・・・・?
「お、おはよう・・・」
俺???に言ったんかな???
って思いながら
一応挨拶を返すと
彼女は嬉しそうに笑って 俺の横を通り抜けた。
(え?)
謙也「あ、ちょ・・・待って」
まー「え?」
謙也「ど、どないしたん?」
まー「あ・・・おはようって、言いに来た、だけ」
謙也「え???誰に???」
まー「え???お・・・忍足謙也に・・・」
謙也「え!!?」
まー「え!?」
なぜか二人で え?え? と言いながら
なんやろう 頭の中がパニックでよくわからん
なんなんこれドッキリやろか???
(・・・絶対キレてると思うてた!!!!!)
あ、そや!!
謙也「あ、あの、昨日、傘、教室の前に落ちてて」
まー「あっ!そ、そう、あの、傘返そうと思って・・・ありがとう・・・」
謙也「それは全然ええんやけど・・・」
まー「・・・じゃ」
またすぐに教室に帰ろうとする彼女に
謙也「あ!!まって!!」
まー「え・・・」
謙也「あ、あんな!これ、」
そう言いながらそっとカバンの中から昨日傘と一緒に落ちていた袋を取り出す
まー「!!」
謙也「これも昨日一緒に落ちとって」
まー「え・・・中見た・・・?」
謙也「あ・・・いやなんか友達が開けてもうて・・・」
まー「あーーーーそうか・・・・まぁでも落としたアタシが悪いしね・・・」
謙也「・・・やっぱ、これ落としたんや?」
まー「落としたけど、」
謙也「ほな、これ・・・「」
まー「いらない!!!」
謙也「え?」
まー「それ、もう・・・いらないから 捨てて!!!!」
謙也「えぇ!?」
まー「もう!!!捨てていいから!!!」
謙也「け、けど!これ手作りやろ!?誰かにあげよう思うてたんとちゃうの!?」
まー「・・・でももういらないんだ、だから捨てて!捨てれないなら食べていいから・・・手作り気持ち悪いかもしれんけど」
謙也「え、気持ち悪いとかはないけど、」
まー「じゃ!!!!」
待って、って止めようとしたけど そのタイミングでチャイムが鳴って しゃーないから教室に入った。
(・・・挨拶に、きたんやて)
絶対に怒ってるて思うてたのに
(・・・おはよって言うてくれた)
俺に、笑顔で。
(・・・可愛かったな)
カバンに入ってる袋を 見ながら
今度気になるのは
(・・・誰にあげる気やったんやろ)
チョコレートのほんまの行先で。
返せへんかったし、捨てるなんてとても出来んし
・・・寮に戻ったら、食おうかな
って思いながら、俺は1時間目の授業の準備をした。