ep.012

いつものように、忍足の部屋へやって来て、扉を開けようとした時、

話し声が聞こえた

 

 

 

(あ!)

(この声は!)

 

 

 

アタシが今一番顔を見たくないアイツの声だった

 

 

 

(三浦だ・・・)

(最悪・・・)

(もう少ししてから出直そうかな・・・)

 

 

 

 

そう頭の中でグルグルしていると、

 

 

 

 

「・・・お前の好きにせぇよ」

 

 

 

 

といういつもとは違う、少し突き放したような忍足の声が聞こえた?

 

 

 

 

(え?)

 

 

 

 

思わず、耳を傾ける

 

 

 

 

 

「・・・こればかりは俺も譲れないから」

「ああ、せやな」

「本当に忍足には悪いと思ってるけど、」

「・・・ああ」

「あの子は俺がもらうよ」

「・・・勝手にせぇ言うとるやろ」

 

 

 

俺にはもう関係ないことや、今更どうこうするつもりもあらへん

 

 

 

 

そう謙也が冷たく言った

 

 

 

 

(え・・・?)

(なんの話?)

(あの子って・・・)

(あの子って)

 

 

 

 

誰?

 

 

 

 

 

もしそれが、アタシの知らない女の子の話だとしても

万が一、アタシのことだとしても

 

 

 

 

 

どっちにしろ、悲しい話じゃないの?

 

 

 

 

 

 

(あの子って・・・誰?)

(アタシの知らない人?)

(もしかして、彼女とかいたの?)

(それとも、)

(それとも、アタシのこと?)

 

 

 

もしアタシの自惚れじゃなく、

三浦が私を少しでもいいと思ってくれていたなら

その話の「あの子」とは「アタシ」のことになるんじゃないか

 

 

 

(やばい・・・)

(胸が苦しい)

(どうしよう)

 

 

 

 

 

涙が零れそう

 

 

 

 

 

アタシを庇って刺された謙也のために、毎日病院に通っていた

面会時間開始から、終了時間までギリギリまでずっと一緒にいた

ずっと一緒にいたらものすごく感じた

やっぱり、アタシはこの人が好きって

 

 

明るい前向きな性格も

人を笑わせようとするところも

話してたらいろんな共通点もあって

一緒に笑って

一緒にふざけて

一緒にたくさん話して

 

 

 

 

 

(やだアタシ)

 

 

 

 

 

(こんなにアイツのこと好きになってたんだ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

これ以上2人の話を聞きたくなくて、アタシは走ってその場から逃げた

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

”今日は来んの?”

 

 

 

 

そんなメッセージが届いたのは、あれから5時間も過ぎた時だった

 

 

 

 

思わず家に帰ってきてしまって、どうしようか悩んでいたけど

 

 

 

(5時間も経ってやっとメール来るなんて・・・)

(やっぱりアタシのことだったのかな・・・さっきの)

 

 

 

ズキン

 

 

 

そう考えるだけで胸が痛んだ

 

 

 

 

(最悪・・・)

(ホント、最悪だよ)

(アタシが一番最悪だ)

 

 

 

 

怖くて逃げだした

忍足のお世話をするって約束したのに

 

 

 

 

(・・・このままじゃダメだ・・・)

(怖くても、)

(こないだアタシを守ってくれたアイツのために・・・)

(アイツが治るまでは側にいるって決めたんだから・・・)

(ちゃんと面倒みないと・・・)

 

 

そうだ、動けない忍足の面倒を見るのは私だった

 

 

 

 

 

つらくて動かすのがやっとな身体に喝を入れ、重たい足で再び病院へ向かうのだった

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