ep.011

「これ、おかんが買ってきた大阪の土産やけど、食ってもええで」

 

 

そう渡されたのは、たこ焼き味のせんべいだった

 

 

 

 

 

「お母さん来たの?」

「おん来たで?」

「あれ?会ってないよ」

「すぐ帰ったからな」

「そうなの?」

「うちのオカン、看護師やからな。手術終わって、俺が目覚まして状態聞いてすぐ帰ってったわ」

 

 

 

息子より、家に来る患者さんのが心配言うてたで

 

 

 

(何・・・?)

 

 

 

ハハハとのん気に笑っている忍足

 

 

 

しかし、私は聞き逃さなかった

 

 

 

 

「え?家に来るって・・・?」

「ん?ああ、おれんち病院やねん」

 

 

小さい町医者やけどなー

 

 

とまた笑う忍足

 

 

 

 

(な、何ぃ!?)

(なんでこんなチャラチャラした奴が医者なんてと思っていたら、医者の息子だったのか・・・!?)

 

 

そりゃモテるわけですよねー・・・

 

 

なんだか、頭の中にこいつにキャーキャー言っていた女たちが浮かんできて、ちょっと落ち込んだ

 

 

 

(すげー美人な人たちもいるし・・・)

(やっぱり看護師とかのが好きなのかな・・・)

(・・・ってそもそも彼女いるかもわからないし)

(あーあ、やだやだ・・・)

 

 

 

 

こんなの私らしくない!と思って、「お箸とコップ洗ってくるわ!」と病室を飛び出した。

(胸がモヤモヤする)

 

 

 

 

今まで恋愛をしなかったわけじゃない

けど、こんなにモヤモヤするのは初めてだ

 

 

 

 

 

(モテたからな私)

(いつも告白されてたし)

(・・・こっちからどうやっていけばいいのかわからないよ・・・)

 

 

モヤモヤモヤモヤ

 

 

 

 

そんな気持ちを拭いきれずに、病室に戻る・・・と、

 

 

 

 

 

 

 

ガラッ

 

 

 

 

 

 

「お、あの子かいな」

「や、やめぇや!」

「はは、焦っとる焦っとる」

「お、おお、洗い物おおきにな!」

 

 

そういう忍足の傍には、数人の男が立っていた

 

 

(友達か?)

(それにしても)

(レベルが高いwww)

 

 

 

イケメンたちが謙也を囲んでいるので、私はそそくさとお箸とコップを戻して、部屋から出て行こうとした

 

 

 

 

「どこいくねん?」

「いや、お邪魔でしょ?」

「いや、全然そんなことないで!」

「え、でも・・・」

「もし、良ければ一緒にお話しでもせえへん?」

 

 

 

そう、一人のイケメンが話しかけてきた

 

 

 

(あ、これ)

(嫌いなタイプですねアタシの)

(けど、全然三浦よりマシ)

(さおちゃん好きそーーーー)

 

 

 

 

「いや、せっかくだから私ちょっと外に行ってるので、なんかあったら連絡して」

 

 

 

 

そう言って病室を出た

まぁ人見知りもあるし、多分関西弁の友だちだったから久々に会うんだろうなと思ったし

(アタシがいても・・・ね)

 

 

 

 

しーんと静まり返る院内

そう言えば、今日は土曜日だったなーと思いながら、院内のカフェに向かった

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

”みんな帰ったで!”

 

 

 

そんな連絡をもらって、病室に戻った

 

 

 

 

ガラッ

 

 

 

 

「お、すまんかったな、気ぃ使わせて」

「いや、全然大丈夫」

「あいつらうるさくて、隣の病室から苦情きたわ!」

「関西にいた時の友だち?」

「おお、中学からのな」

「へーわざわざ大阪から来てくれたの?」

「いや、みんな都内におんねん」

「そうなんだ」

「あいつら、騒ぐだけ騒いで、持ってきた見舞いの菓子も全部食っていったわ!」

「災難だったね」

「おん、ほらこれ」

 

 

そうして忍足が差し出したのはマドレーヌだった

 

 

「あれ?食べられたんじゃないの?」

「一個だけは死守してん」

「じゃああんた食べなよ」

「いや、俺はええねん、これお前の分」

 

 

 

(・・・)

(アタシの分・・・って、)

 

 

 

 

そんなこと言われたら、

嬉しくて

舞い上がっちゃうよ・・・

 

 

 

 

 

「・・・もらっていいの?」

「ええで、甘いの好きやろ?」

「うん、好き」

「おん、食え食え!」

 

 

 

あー俺も腹減ったわ、そろそろ飯やんなーとのん気に話しているこの人の隣が

どんどん心地よくなっていた

 

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