「さおりちゃーん」
ある日の放課後、そう呼び止められた。
「はい?」
「久しぶり~」
そこには手をひらひら振る長身の男子が立っていた。
(え、っと)
「…あの、どちら様でしょうか」
真面目にそう答えた私に
「えっ!ひどい!忘れちゃったの!?」
と、本気でショックを受けたかのように彼は言った。
(えー??)
(こんなチャラそうな人知り合いだったかなぁ???)
そのうしろで声がした
「バカか、いきなり話しかけて」
わかるわけねーだろ、と現れた人物を見て
ハッと気付いた。
「あっ!!!岩ちゃん!!!」
久しぶり!元気だった!?
私は彼に近寄った。
「よぅ。覚えてたか。久しぶりだな」
「覚えてるよ、当たり前でしょ!久しぶりだね!」
「だな。元気そうでよかった」
岩ちゃんがにっと笑った。
あー、変わらない、その笑顔。
「ちょっと待って!?なんで徹くんは忘れちゃったのに岩ちゃんは覚えてるわけ!?」
「うるせー及川黙れ」
「岩ちゃんひどい!!」
(徹…?)
(及川…?)
「あ、なんか思い出したー、そーいや居たよね徹くん」
「何その扱い!?ひどくないっ!?」
「( ˘・A・)ブフォww」
岩ちゃんが吹き出して、徹くんが
ひどい!ひどすぎるよ!あ、でもわかんないってことはそれだけ及川さんがイケメンになったってこと…?と言って、岩ちゃんが背中にケリを入れてンなわけねーだろアホかと言った。
あー、覚えてる覚えてる。この漫才みたいなやりとり。
親同士が同級生とかで昔よく遊んだんだよね。
(小学生までは遊んでたけど、中学生になってからは全く会ってなかったからなぁ)
(男の子ってこーんなに背とか伸びちゃうんだ)
(すごーい)
「2人とも同じ学校だったんだね!」
偶然だねー、と笑うと
2人は顔を見合わせて、いやそーでもないけど、と言った。
???
何が???
「…ところでさおりちゃんさ」
「うん?」
「もう、部活って決めた?」
「部活…?」
「うちの学校特別な理由がなければ部活は必ず入らなきゃダメじゃん?」
「あー、そうだったね…」
(そーいや、亮や跡部にテニス部入ればとか言われてたなぁ)
そんなことをボンヤリ考えていたら
「ねぇ、バレー部入らない!?」
と、徹くんに言われた。
「…え!?」
ビックリして固まっていると
「1回練習見に来てみないか?」
と、岩ちゃんにも言われた。
(えぇ~)
(バレーかぁ…)
(でも私全くバレーはわからないし…)
「私、運動神経ないから…」
そうつぶやくと、一瞬固まった2人は
同時に
「知ってる」
と、ズバッと言った
(え!なんだそれ!)
「ひどい!」
「いや…誰も選手の方でスカウトしないし…」
「お前にバレーやれとか言うやつ勇者だわ…」
「何それ!」
「じゃなくてさ、」
「マネージャーの方だよ」
「は?マネージャー?」
(あー…)
(マネージャーかぁ…)
そーいや、同じクラスの澤村くんもマネージャーいなくて困ってる、みたいな話してたような…
(そっかぁ、マネージャーかぁ)
「うーん、でも…」
「見学だけでもいーからさ、ね?」
「及川必死だな」
「だって、さおりちゃんにマネやってほしいし!このままじゃむさい男がマネになっちゃうじゃん!そんなのやだよ!」
「まぁ…おれも他の部のマネージャーやられるくらいならうちの部のマネージャーやってほしいけどな」
とりあえず見にこないか?
そう、岩ちゃんが言うから
「あー…うん、マネージャーするにしろ、バレー自体全くわからないから…不安だけど…」
じゃあ見学だけでも行くかな?と言うと
よっしゃ!と喜ばれた。
そこそんな喜ぶものなの?
「ここが第2体育館。大体いつもバレー部が使用してる」
2人に連れられて、体育館の扉から顔を覗かせた。
「へぇ、こっちあんまり体育で使わないから知らないやー」
そう言うと
「あ、まえ」
澤村くんに声をかけられた。
「澤村くん!お疲れ様!」
「よぅ、どーしたんだ?なんか用事?」
「マネージャーになってもらいたくて、ちょっと見学だよねー」
徹くんがなぜか私の肩をグッと掴んでそんなことを言った。
ざわ……ま、マネージャー…?ざわざわ…
「えー!ありがたい!」
「マジで?やった、女マネー」
「ヘイヘイヘーイ!やる気出るよなぁ!」
「いや、あの、まだ、やると決めた訳では…」
(わー!)
(この黒髪の人かっこいーな!)
(何気にイケメンいるなぁ、バレー部)
ほわほわほわ
先輩達も、1年の女の子?かわいーとか言いながらほのぼのと声をかけてくれている。
優しい。
バレー部の先輩達みんな優しい。
みんなでかくてちょっと怖いけど。
優しい。
ほわほわほわ
その時
バシン!!
と、思い切りボールを打つ音が聞こえて顔を向けた。
(う、わ)
ナイッサー!
そんな掛け声と共に繰り出されたサーブに目が奪われた。
それから、何回かラリーが続き、トスが上がった時
その人はすごく高くフワッとジャンプし
思い切り
ボールを打った
(!!!)
(アタックした…!)
(す、すごい!!)
(すごい、飛ぶし、すごい、ボール飛んだ!!)
かっこいい…!!
その光景に魅了されていると
「…女マネか」
サーブを打った先輩が鋭い視線でこちらに向かってきた
(え!こわい!)
「女子が来たからと腑抜けるのは許せん」
え、え、え、え、え
(わ、わたし!連れてこられただけなんだけど!!)
(こ、こわい!!)
こわ…
ん?
いや
(じーーーー)
よく見ると、かっこいいな…
「だが、強くなるには少なからからず支える存在…また、癒しというものが必要だ」
(な、な、な、)
「約束しよう、俺がお前を勝利に導こう。俺について来い」
ガシィ!と、両肩を掴まれ すごい迫力でそう言われては
(゚ェ゚(。_。(゚ェ゚(。_。*)コクコク
頷くしか……なかったのだ…。
こうして私のバレー部入部が アッサリと決まった…。
(その後、牛若ちゃーん気安く触らないでねーと徹くんにベリっと剥がされ、彼が同い年であることを知る)
(こ、これで1年!?)
(揺るぎない自信…かっこよすぎ!!)