その後は、仕事にはならなかった
もちろん病院自体も騒がしく、警察の聞きこみなどに追われていた
何より、アタシが
(アタシの せいだ・・・)
アタシの代わりに刺されたあいつのことが気になって仕事なんて手につかなかった
(アタシが、余計なことしなければ・・・)
(アタシのせい・・・)
まだ患者さんがいなかったのが幸いし、被害も少なく、
そして外科の先生もすぐに手術することが出来た
(でも)
(アイツがアタシの代わりに刺されることなんてなかったのに・・・)
泣いて泣いて泣きじゃくっているアタシは、当然のように手術室の前でずっと忍足を待っていた
警察の対応で病院はお休みになったから、時間の許す限りずっとそばにいようと思っていた
友達はアタシの代わりに警察から事情聴取を受けてくれていた、それだけでもその時はありがたかった
バタバタと手術室から看護師さんたちが入れ替わり出て来る
(どうしよう、)
(どうしよう、死んじゃったら)
(アタシのせいだ・・・)
(アタシが死ねばよかったのに・・・!)
どうしよう
どうしよう
どうしよう
震えが止まらない
見かねた看護師さんたちが「大丈夫だからね、まえさん」と声をかけてくれる
でも、そんな声も気休めにしか聞こえない
そう言われると、逆にダメに聞こえてしまう
「うっ・・・うっ・・・」
何時間たっただろう
時間もわからないくらい、手術室の前で待っていた私の前に
ウィーーーーン
ガラガラガラガラ
(!?)
忍足を乗せたタンカが手術室から出てきた
「お、おしたり!」
「まえさん、今忍足先生、麻酔で寝てるから・・・」
「う、うっ・・・」
「命は大丈夫だからね」
そう優しく外科の先生が私に言ってくれた
「お、おしたり、せんせいは しにま せんか?」
「死なないよ、大丈夫だから」
「まえさん、今日はもう帰りなさい、その状態じゃキミがダメになるよ」
「い、いやです、目を覚ますまでそばに・・・」
「もうすぐ忍足先生のご家族も来るから、まえさんは帰りなさい」
「じゃ、じゃあ謝らなくちゃ・・・家族の人たちに・・・」
「いいから、かえりなさい」
そう外科の先生に言われ、
「・・・・・・・・・」
アタシは無言のまま立ち上がり、フラフラをその場を後にした
(きっと、)
(家族でもなんでもないアタシが)
(その場にいることが邪魔なんだろうな・・・)
そう直感的に感じてしまった
(そう、家族じゃないもん)
(アタシ、アイツの家族じゃない)
(・・・恋人でもない)
(友達?)
(ううん、友達とも言えない・・・)
(じゃあ・・・)
じゃあアタシはアイツの何なんだろう・・・
何も出来ない自分が悔しかった
おとなしく家に帰ったアタシは、家でもさおちゃんに電話した
ずっと泣いているアタシを心配して、さおちゃんが早く帰って来てくれた
「・・・大丈夫だよ」
「・・・だ、大丈夫じゃないよ・・・」
「大丈夫だよ、先生大丈夫って言ったんでしょ?」
「で、でも、死んじゃったらどうしよう・・・アタシのせいだ・・・」
「そんなこと言うものじゃないよ、大丈夫だって言われたなら大丈夫だから」
「でも、意識 なかった、アイツ・・・」
「麻酔で寝てたからなんでしょ?」
「麻酔か どうかわかんないよ」
「いや、麻酔だよ、大丈夫だよ」
「あ、アタシが 死ねば よかった・・・」
「・・・そんなこと言わないでよ」
アタシがそういうと、さおちゃんはポロポロ涙を流した
「私は、 きみが無事で嬉しい」
「・・・うっ、うっ・・・」
「その人も言ったんでしょ?・・・きみが無事でよかったって・・・」
「・・・うん・・・・」
「お、同じ気持ちだよ、私と・・・」
「う、うん・・・」
「自分が刺されてもいいって思えるくらい、きみを 助けたかったんだから、」
「・・・うっ・・・」
「きみは、死ねばよかった なんて言っちゃダメだよ」
「・・・っう、うん」
そうして、2人でたくさん泣いた
2人でたくさん泣いて、しばらく見てなかったけど、
携帯を開くと、看護師さんたちが、「大丈夫だから!」とたくさんの励ましメールをくれていた
「ほら、やっぱり大丈夫だよ」とまたのん気にさおちゃんは良い、
「その人が元気になったらうちに連れておいで、お礼しないとね」
そうさおちゃんが言った。
アタシは「うん」と小さく呟いて、ずっとアイツが無事であることを祈ったのだった