刃物を持った男を見て、院内はパニックになった
「きゃあああ!!!」
女性社員たちが次々と悲鳴をあげて逃げ惑う
(な、に あれ)
刃物を持った男は、興奮しているのか、息遣いを荒くしながらこちらに向かってきた
当然だ、開院したばかりで患者さんは誰もいない
いるとすれば、受付とその後ろで仕事をしている事務くらいだ
しっかりと両手で刃物を握りしめているその男がこっちへやってくる
(あ、こいつ・・・)
見覚えのある顔だった
精神科に通っている男
何度も通院していたから覚えている
「おい、村本を出せ!!」
そう言って叫んでいる
村本先生は、精神科の先生だ
「早くしろ!!!」
「キャッ」
同じ事務の人が刃物を向けられ、ガタガタと震えている
(こ、怖い・・・)
(怖いけど・・・)
狂っていると思った
目に生気がなく、どこを見ているかもよくわからない
何も答えられない社員にしびれを切らしたのか、
受付のカウンターを乗り越えてやってこようとした
「い、今、確認します!!!」
アタシがそう叫ぶと、その男はアタシのほうを見て、
「・・・早くしろ!!」
そう叫んだ
隣の友だちも小さくなって震えている
(怖い・・・)
(けど、刺激しちゃだめ・・・)
そう思い、震える手で、出勤表を確認した
(う そ・・・)
この最悪なタイミングで、
村本先生は休みだった
(ど、どうしよう・・・)
(な、なんて言おう・・・)
ガタガタ震えが止まらない
どうしよう、そう考えている時、
その男がこちらにやってきた
「おそい!!早く村本を出せ!!!」
「あ、あの・・・!」
「早くしろ!!!」
「あ、せ、せ せんせい は 今日は お、おやすみ をいただいて いて」
もっと上手い言い方があったのかもしれない
けど、そんなこと考えられなかった
つい、本当のことを言ってしまった私のところに
カウンターを乗り越えて、その男がやってこようとした
だ、誰か!!!
たすけて!!!
そう思って、周りを見ると、
一目散に走って逃げる三浦の姿が見えた
恐怖に駆られ、三浦のことなんて考えられなかった
ただ、”助けてくれる人はいない”
それだけはわかった
いつの間にか、みんな事務室に逃げてしまったのか、動けないでいるのはアタシだけ
「まなみ!!」
そう友達の声が聞こえたけど、体は動かない
「隠すなよおおおおお!!!!」
カウンターを乗り越え、動けないでいるアタシに
刃物を持った男が大きく手を振り上げた時、
(刺される!!!!)
アタシは誰かに抱きしめられていた
(え?)
「・・・・・・ケガ、してへんか?」
そこには、ここにはいるはずのない、忍足の姿が見えた
(え、)
(なん で)
(なんで ここに )
なんでここにいるの?
頭が追い付かない
何も考えられない
バタバタバタバタ
ガッ!!!!!
「おとなしくしろ!!!!」
病院にいた警備員たちが駆けつけ、その男を取り押さえた
「はなせぇぇぇ!!むらもとのせいで おれのじんせいがぁぁぁぁあああ!!!」
狂ったように叫ぶ男を何人もの警備員で取り押さえ、何とかその場はおさまった
(あ、れ)
(そういえば、)
(あいつ、 刃物もってない!!)
「きゃあああああ!!!」
そう叫んだのは私の友だちで
「忍足先生!!!!!ち、血が!!!!!」
「・・・お前が無事ならよかったわ・・・」
そういう忍足の真っ白な白衣は
「や、 やだ、」
真っ赤に染まっていた