月9(3-2)20【白石】

 

 

「なら次あっち見てみよか」

 

 

水族館見てる間、さおりちゃんはチョコチョコと俺の後をついてくる。

 

 

(まだちょっと緊張しとるんかな?)

 

 

その様子がおもろくて、思わず笑いそうになる(あかん、笑ったら失礼や)

 

 

大体、真面目すぎんねん。

それはまなみちゃんも千歳も財前も言うてたけど。

ほんでたまにものすごくクールなこと言うから 興味深い。

 

 

(ちゅうか不思議な子やな)

(まなみちゃんは思いっきし感情顔に出すしハッキリ言うけど)

(結構こん子は我慢しとんちゃうかな)

(て、思えば何も考えてなくて素やったりするし)

(双子でもこおも似てへんもんかな)

(・・・奥が深いで)

 

 

「ソフトクリーム、食べへん?買うたげるよ」

「え、いや、いい!自分で買うし!」

 

 

すぐ遠慮するし

 

 

(まなみちゃんは平気な顔しておごってって言うで)

 

 

「ぬいぐるみ見てんの?」

「み、見てないよ、興味ないもん!」

 

 

絶対興味あんのに隠そうとするし

 

 

「イルカ、見に行かへん?」

「うん、見たかったの!」

 

 

せやったら言えばええのに

なんで、言わへんの?

 

 

(・・・て、)

(なんで俺もここまで観察しとるんやろ)

 

 

そもそも 今日、こうして二人で遊んでんのはなんでやったっけ?

 

 

(メール返ってきて、電話して、遊ぼう言うて)

(ん?ノリか?)

(ノリでこうなったんやっけ?)

 

 

考え出すとよぉわからんくなって 考えないようにした。

 

 

「俺こんなにいっぱい遊んだん久々や」

「わ、私も」

「ホンマに?楽しかった?」

「うん」

 

 

日が暮れて。

海辺に車を停めて、近くの堤防に腰かけて海と星空を見ながら話をした。

謙也たちと馬鹿やって騒ぐのはようあるけど

こんな風に1日を過ごすのはホンマに久々で 悪くないと思うた。

 

 

「さおりちゃん、まだ時間平気なん?」

「あ、うん」

「ならなんか食うてから帰ろか」

「うん」

「何、食いにいこか?」

 

 

そう話しながら、立ち上がって歩き出そうとした。

 

 

「ッ」

 

 

(あ、)

 

 

一瞬、さおりちゃんの顔が歪んだんを 見逃さんかった。

 

 

「・・・足、見せてみ?」

「え、な、何が?」

「何が やなくてさ。足、一瞬引きずってたやろ」

「ううん、全然」

「なんで隠すねん」

「隠してないよ」

「えぇから見せてみって」

 

 

俺はしゃがんで半ば強引に さおりちゃんの足を掴んだ。

 

 

「・・・・・・・いつから?」

 

 

血だらけの足を見て、 言葉を失った。

 

 

「・・・水族館で、ちょっとつまずいたみたいで」

「・・・」

「今日、本当に久々に、ヒールの靴 はいて」

「・・・」

「えっと、でも、大丈夫 そんなに 痛くないから」

 

 

血は出てるけど、そーでもないから

そう言うさおりちゃんの困ったような顔に

 

俺は、

 

悔しくて、

 

腹が立って、

 

許せんかった。

 

 

 

(気づいてやれん、自分に)

 

 

 

「ごめんな、早よ病院いこ」

「え!!だから!こんな靴ずれくらいよくあるし!全然平気だから!」

「ホンマ・・・すまんかった、気付いてやれへんくて・・・」

「いや、本当に大したことないから私も言わなかっただけだし」

「とりあえず、消毒しよか、薬局行くわまず」

「ほんと、平気だから、だから・・・気にしないで・・・」

「気にするに決まってるやんか!」

「え、」

「なんでそないに我慢すんねん!もっと頼ってくれてええのに!」

「えぇ・・・」

「俺は、さおりちゃんを守りた・・・っ」

 

 

 

(!!!)

 

 

 

ちょ

 

待て

 

 

一体 どないしたん!?

 

 

(今 守りたいて、言おうとしたやんな・・・)

 

 

何それ、守りたいとか俺

 

 

(え、何?何なんマジで)

(おかしない?)

(引くわ自分に)

 

 

 

「や、と、とにかく!薬局は行くで!包帯まかな!」

「大げさだよ包帯は」

「ならバンソウコウ!消毒液も買ってくるわ俺!」

「いいよ自分で買えるから」

「せやから!こんな時くらい俺に頼り!」

「・・・でも、」

「あーもう、なんでこないに頑固やねん!」

 

 

 

なんでそないに甘えるの、下手やねん

 

 

(そうや)

(甘えんのが、下手やねんこの子)

(せやから自分の気持ち隠そうとしたり我慢したり)

(甘えられへん子なんや)

 

 

どうしたら、俺には甘えるようになってくれるんかな

 

 

(ん)

(ちょっと待てよ)

(俺、なんかさっきからおかしいで)

(おかしい、絶対おかしい)

 

 

「素直に、なりよ」

「え?」

「痛いときは痛いて、言うねん」

「・・・」

「見たい時は見たいって言うて、」

「・・・」

「男がおごるて言うた時は、大人しくおごられてや」

「・・・」

「かっこ悪いやん、俺」

「・・・ごめんね」

「いや、なんかこっちこそ悪かったな」

「ううん」

 

 

 

じゃ、行こうか、とりあえず車乗って

そう、歩き出そうとした時。

 

 

 

グッ

 

 

 

(っ!)

 

 

 

「・・・ホントは、痛くて 歩けないの」

 

 

 

 

俺の袖をつかんで、泣きそうな顔で そう言うた彼女に

 

 

 

 

 

 

 

 

おちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(可愛すぎるやろ、それ)

 

 

 

 

 

 

途端に胸が、動き出した。

 

 

 

(俺、今、)

 

 

 

この子に 恋 をした

 

 

 

 

(いや、よぉ考えてみれば)

(さいしょから)

 

 

 

 

初めて会うた時からこの子は一生懸命で

そんなさおりちゃんに惹かれとったんかもしれん。

 

携帯拾うて駅員に届ければええ話やのに家まで届けよう思うたり

電車で会うても俯いて話してくれへんかって

嫌がられとんのかな思うてなんかへこんだのも

まなみちゃんの会社で偶然会えて嬉しかったんも

友達になろうなんて言うて携帯番号聞いたんも

財前が抱き着いたとき、無償にイラついらんも

彼氏おるか気になったんも

メールこなくてソワソワしたんも

ほんで、電話して 今日デートに誘ったんも

 

 

 

(ちょ、待て 俺)

(・・・なんで今まで気付かなかってん!!!)

(自覚、ないにもほどがあるやろ!!!)

 

 

 

さおりちゃんのこと 好きやったんや

 

 

 

(なんで今頃気づくねん)

(アホやな俺・・・)

(自分の気持ちにすら全然気付かへんて・・・)

 

 

 

俺のことを見上げているさおりちゃんを チラっと見る

カァ~・・・

無償に えらい恥ずかしなって

さおりちゃんの顔も見れず

 

 

 

「じゃ・・・大人しく、しとってな」

 

 

 

なんて、ええ恰好しぃのふりして

お姫様抱っこして車に運んだ。

 

 

 

(心臓バクバクやで!)

 

 

 

今更ながら自分の気持ちに気付いてもうた俺は、

次の話題が急に浮かばなくて とても困った。

 

 

 

(・・・どないしたらいいねん俺)

 

 

 

+1