「あたし、帰るね」
カラオケでもいこー!!!なんて酔っ払いたちが盛り上がってる中
お酒も飲めないシラフの私は、そんなことを言った。
「えー、さおちゃんも行こうよー!」
「いや・・・私こうゆう場所本当に苦手なのさ・・・」
「知ってるけどさぁ、カラオケでユウジが物まねライブしてくれるって言ってるし!」
「ユウジって君・・・随分仲良くなってるな・・・」
「行こうよさおちゃん」
「ううん、帰るよ」
「なら」
声の方に顔を上げた。
白石さんが こっちをまっすぐに見て言った。
「なら、俺が送って行くわ。夜一人で帰すんは危ないし」
サラリとそんなことを言えちゃう白石さんを見ると
嬉しい反面 なんだか悲しくなってしまう(こんなの、みんなに するんだよね)
「い、いえ、いーです!大丈夫です!一人で帰れますから!」
「白石部長と帰す方が危ないっすわ」
「なんやて?」
「前先輩、俺が送って行きます」
「え?」
「さっき抱きしめた奴が何を言うねん!お前のが危ないわ!」
「部長に言われたないわ」
「い、いや、いやほんとにいいから!」
(さっき抱きしめた奴・・・って)
財前くんに抱きしめられたことを思い出してしまった。
細いと思ってたけど、意外と固くて、男の子の匂いがして、それから 力強くて
(うわ、恥ずかしい!)
(サイテーだ!なんでだ!なんで私がからかわれてるんだ!)
(ホント最悪だよもう・・・ムカツいてきた・・・)
また顔が赤くなったらからかわれそうだから
空を見上げて考えないようにした(ほら、今日は満月だ)
「俺が送っていくばい」
その声にみんなが一斉に顔を向けた
「隣やけん、いつも一緒におるし俺なら心配することなか」
「・・・まぁ、千歳が一番無難やろな」
「え、いいって、千歳だってみんなとカラオケ・・・」
「よかよか!騒がしかとこは苦手やけん、さ、行くばい」
すでにスタスタと歩き出す千歳につられ、
慌ててみんなに一礼して まぁちゃんには 飲みすぎる前に帰っといでね! って言って(無理だろうけど)
私は大きな千歳の背中を追った。
「千歳、本当によかったの?」
「よかよ。いつもちょっとしか顔出さんけんね、さおりが心配せんでもいいばい」
穏やかに笑う千歳と二人になると 緊張が解けて ホッとした。
千歳は優しい。私とまぁちゃんに、本当のお兄ちゃんみたいに優しくしてくれる。
「・・・しかし、意外やったと」
「え、何が?」
「さおりが白石ば好いとったは」
「えっ!?な、なに!?何言ってるの!?」
「隠さんでもよかけん、バレバレたい」
「や、ややや、やだなー!ちょっと何言って!」
「俺はまなみんこと好いとうと。これでおあいこたい」
隠さんでよか
そう千歳は、真ん丸のお月様を背に、微笑んだ。
(・・・やっぱり!)
(てゆーかこうハッキリ言うなんて)
(男らしい・・・!)
「・・・なんとなく気づいてたよ」
「隠す気ないけん、鈍いさおりにもバレとったとね。まなみも気づいとーと思うばい。ばってんまだ本人に言うには早かと思うてたと」
「早い?」
「時期を見とったけん。今の関係も好きたいね、3人で楽しく過ごすんも」
「そうだね、3人でいるのは普通だし楽しいもんね」
「・・・ばってん失敗したと」
「失敗?なにが?」
「今日。面白か思うて連れてったばい・・・・・・ばってんまなみが離れていくけんね」
「ごめん・・・言ってる意味が・・・」
わからないよ
(なんでそんなに悲しそうな顔するの?)
ねぇ、千歳
今日私たちをあの場に連れていったこと 後悔してるの?
「・・・なんでもなか。難しい話たい。俺にもまだチャンスはあると」
「うん・・・千歳は優しいし、まぁちゃんも好きだと思うよ」
「俺ん話はよか!問題はさおりと白石たい!まぁ財前も怪しかばってん、同じ会社やき今は気にせんでよかね」
「え、あの・・・」
「まぁ最初からキャーキャー言うてたと・・・今更照れることじゃなか」
「そうだけどさ・・・いつもこうなんだよ」
「ん?」
「恥ずかしくなっちゃって何にも話せないのさ」
面白い話題も、ちゃんとした受け答えも出来ないし
目も見れなくて、俯いて すぐに黙っちゃう
(相手がまぶしすぎて)
(見ていられない)
「つまらない女だからね、私・・・」
「そげんこつなか。さおりにはさおりのいいところがあるばい」
「ないよ私にいいところなんて・・・」
「白石はちゃんと見てくれるたい。ただ、白石はちょっとニブか男たいね・・・」
「え、そうなの?」
「そうじゃ。諦めんことが大切ばい!」
「でも・・・彼女絶対いるしょ。あんなかっこいいんだから」
「おらんばい」
「え!?」
「最近はずっとそんな話聞いとらん」
「えぇ!?そうなの!?(でも、そしたらアズサって誰?)」
「詳しい話ばせんけど・・・おらんと思うたい」
「・・・いない、といいけど」
(千歳に言ってないだけでいるかもしれないし)
(それに・・・女の子慣れしてるのは確実)
(ただ優しい人って思いたいけど)
(自信がなくて、信じることが出来ないよ)
「自信持つたい!さおりはよか女ばい、俺が保証しなっせ!」
「うん・・・ありがと」
「お互いがんばるたい」
「うん・・・」
手を伸ばせば 千歳は月に届きそう
そんなことを考えながら
似た者同士の私たちは のんびりと家に向かった。