月9(2-2)11【財前】

 

(なんやねん、りんごちゃんって おもんない)

 

 

白石部長が電話番号自分から聞くなんて、珍しい 思うてたんや

 

 

(本人、自覚ないやろうけど)

(おかしいやろ絶対)

 

 

結局、うるさい謙也さんの嫁(え、ちゃうの?嫁でええやろ、あんな興奮しとる謙也さん見んの初めてやし)が

「金曜日だから飲む」とか言いだして、前先輩も帰るに帰れずみんなで一緒に飯を食うことになった。

 

 

(前先輩飲めへんのに)

(さっさと帰ったらええのに)

(なんやねん、ちゃっかり白石部長隣に座ってんし)

 

 

毎月開催されるこの飲み会

悪くない思うてたんや

先輩らアホやけどええ人やし、楽しいし

なのに今日は おもろくない。

 

 

 

(なんでこんな気持ちになんねん、俺も)

 

 

 

「んでんで?まなみはどこで修業したん?」

「金ちゃん、まなみばどこでも修業しとらんとよ」

「強いんやろ?なぁなぁ!教えてーなー!」

「つーか!金ちゃんとやら!!初対面でこのアタシを呼び捨てってどーゆーこと!?」

「千歳かて呼んでるやん!」

「千歳はいーの、仲良しだから!」

「ほなら、ワイも仲良しになる!ワイとおやまきんたろーや!仲良くしてなっ!(にかっ)」

「(キュウゥン)まぶしい・・・!超可愛いし、なんか萌えた・・・!金ちゃん、よろしくな!」

「おぅ、よろしくなまなみー!!」

「こう見えて金ちゃんは世界のテニスプレーヤーや!俺ら四天宝寺の自慢の男やで!」

「え、スポーツ選手なのかい、金ちゃん!スゴイしょ!どうりでこの筋肉・・・!」

「まぁちゃんヨダレ・・・!」

「別にスゴくないでー?ワイからしたら小春のがスゴイで!たまにパリで会うんやけど、なんかキャーキャー言われてん!」

「やだぁ、すごくないわよ、ちょっとパリコレに出展しただけよ☆」

「パリコレ!?すごいし!何この集団。興奮する」

「俺の小春は世界のトップデザイナーや!スゴイやろ!俺のやぞ!俺の!」

「ガチホモキタ━━━━(*゜∀゜*)━━━━ッ!!」

「私本物の人初めて見たよ(*´・ω・`*)」

「そういう一氏もお笑い芸人目指してがんばっとるんやで」

「マジかー!アタシお笑い大好きだからな!応援するわ、マジで!」

「ホンマか!?お前・・・ええやつやな・・・」

「だろっ(`・ω・´)キリッ」

「財前はリーマンやけど、ネットで有名人やし」

「え、そうなの?財前くんって有名人なの?」

「・・・別に」

「エリカ様かお前は!ホンマ愛想ないなぁ!」

「コイツ、動画サイトにいろいろ曲アップしてそれがCDやカラオケやアニメの主題歌になってんねん」

「ッ!言うなや!」

「ええやんけ別に!有名なんやから・・・ブツブツ」

「そうなんだぁ、財前くんパソコンも得意だしすごいなーとは思ってたけど、楽曲とかもするんだね」

「すごくないわ、先輩がトロいだけっすわ」

「(ム)そんなことないしょ・・・」

「へー、スゲー!動画サイトってニコニコ?私見てるよニコニコ。なんて名前?」

「光のハンドルネーム、あたし知ってるわよ!ぜんざい、よね?」

「え!!!!!!」

「まぁちゃん、どうしたの?」

「ぜんざいP・・・!!!!ア、アタシ・・・ファンですし!カラオケでいつもミク歌いますし!!」

「何言ってるのさ、まぁちゃん」

「ほら!!いつもアタシがカラオケで歌うミクの曲だよ!あれ作った人がこの人なんだよ!」

「え!」

「君も歌うしょ!すごい、どうしよう!ボカロを初期から盛り上げた人だよ!」

 

 

 

謙也さんの嫁は興奮してガタガタ震える手で握手を求めてきた。

自分の歌を褒められんのは悪かないで?

 

けど、なんや、なんちゅーか

ちょいキモいなこの女。

 

(ニコニコ見てるとかオタク丸出しやん)

(まぁいいすけど)(それ言うてまうと俺もやし)

 

 

 

「い、い、いつも聞いてます・・・握手してください・・・」

「・・・謙也さん、えーの?嫁の手握っても」

「よ・・・!?は!?なんで!?一体なんでそうゆう話になってしもうたのよ、財前!?」

「ぜんざいP・・・(ホワホワホワ~)」

「はぁ、まぁ。どーも」

 

 

俺は謙也さんの嫁の手を取り 握手した(体温高!子供か!)

 

 

「え、まぁちゃんズルいしょー!」

 

 

(は?)

 

 

「前先輩も握手してほしいん?」

「え、だって財前くんがそんなに有名な人だって知らなかったよ」

「なら、握手したりますわ」

「ほんと?やったー」

 

 

(やったーて、)

(わかっとんのかい、この人は)

 

 

俺は 右手を出した前先輩の手をぎゅっと握って

そのままグッと 引き寄せた

 

 

「え?」

 

 

俺の肩に ボスン と前先輩が倒れこむ

 

 

「・・・先輩、いつもお世話になってるから特別や。ハグしたる」

 

 

ちらっと白石部長を見ると

目を丸くしてこっちを見とった

 

 

(どう思うとんのやろ、この人は)

 

 

「わーーー!!さおちゃんズルいしょーーー!!!ぜんざいPイケメソだしーーー!!」

「え、ちょ、ちょっと!!やめてよ!恥ずかしいしょや!!」

 

 

(・・・ほんでこの人は トキメキもクソもないんかい)

 

 

「・・・はいはい、離したるわ」

 

 

そんで 俺は、今自分がした行動に せんときゃよかった と後悔することになった

 

 

「もう、やめてよバカ」

 

 

真っ赤になって俯く前先輩

 

 

(・・・あかん、軽い気持ちでやったのに)

(先輩、その赤い顔・・・ズルいわ)

(・・・りんごちゃん、て)(こんことかいな)

 

 

可愛いとか言うたら 俺は頭おかしいですか

 

 

(・・・なんか、熱、)

 

 

先輩が離れた場所が熱くてたまらなくなった。

 

 

「・・・前言撤回しますわ」

「え?」

「前先輩、やっぱからかうと ホンマ おもろい」

 

 

 

やめられへん

やめたく、あらへん

 

 

 

(おかしい、俺。どないしたんやろホンマに)

 

 

 

「な、何さそれー!」

「財前、飲みすぎや!酔ったんと違う?」

「謙也さんと一緒にせんでや」

「なにー!?」

「ぜんざいP!私もハグしてー!」

「アンタは謙也さんにしてもらえばええやろ」

「なんで!?」

「嫁やし」

「ちげーし!嫌いだし!名前も知らないし!なんだよ、ぜんざいP超ナマイキ!もうお前は財前に格下げ!」

「本名に戻っただけやしwww」

「ちゅうか、嫁ってなんやねん!!サブイボ立つっちゅー話や!」

「はぁ!?嫌なのこっちだし!!」

「俺のがいややし!」

 

 

 

またもギャーギャーと始まった二人の喧嘩を

今度は止めることもなく

真っ赤な顔した前先輩は 黙ってウーロン茶に口づけた。

トロくてからかいがいのあるクソ真面目な先輩が可愛く見えたんは酒のせいにして

 

 

 

(・・・謙也さんの言うとおり俺も今日は飲みすぎたんとちゃうかな、ホンマに)

 

 

 

今日の集まりも まぁそんなに悪くない とそう思うた。

 

 

 

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