とある平日。
さおちゃんがうちの会社の近くに来るからランチしよ、と言ってたので
12時になった瞬間にバタバタと走ってエレベーターに向かった。
(あーお昼のエレベーターって混んでてイヤ)
ちっとも自分の階に止まらないエレベーターにイライラする
(あ、さおちゃんもうちょっとでつくのか)
メールを見てそんな風に思って
後ろから声をかけられたことに、少しだけ反応が遅くなってしまった。
「前サン」
「まえ、さん」
「あ?」
振り向くと、そこにはキラキラと輝く例のアイツが・・・
(う、白石!!)
「よかった、ようやく話せたわ」
「は?」
「前サンと話してみたかってん」
後ろから女子社員たちの キャー白石さんだわー とか なんであの女と話してるの? とかそんな声が聞こえてくる。
そもそも、白石にあの時一度だけお茶出しはしたことあるけど話したことは今まで一度もない。
白石が色気ふりまくもんだから女子社員の間で有名で知ってはいるけど向こうはアタシのことは知らないはずだ。
では なぜ
白石が今、アタシのことを 前さん と呼んだのか
(なんじゃいコイツ 馴れ馴れしい)
(しかも何?アタシの好きな関西弁で誤魔化してるけどいきなりタメ語かいコイツ)
(調子に乗らせないように一回シメなきゃダメだこりゃ)
「ちょっとアンタさ、」
ピンポーーーン
言いかけたら 目の前にエレベーターが到着、すかさず乗り込んだけど
結局人がいっぱいで白石に文句が言えなくなってしまった。
(くそ、イライラするあの王子気取り!)
ピンポーーーン
ようやく1階について、ロビーでさおちゃんを探す。
その間にも白石はしつこく 前サン と話しかけてくる(何だっちゅーのよ!)
「なんだよ、うっさいなー」
「お、機嫌わるっ」
「アンタね誤解されんだから話しかけんな!」
「誤解?なんのこと・・・」
「とぼけないでよ、大体今初めて話したのになんなの馴れ馴れしい!」
「そうそう、そのコトで。前サンって、双子なんやろ?」
「は!?きもちわるっ!なんで知ってんの!」
「気持ち悪いて・・・。いや、前 なんて珍しい苗字他にないし、顔もソックリやし」
あ、でも性格は全然似てへんよーやね
と、白石はヘラヘラしながら言った。ぶってやろうかと思った。
「なんなのさっきから!今急いでるんだからっ!!」
「まえさおりさん って、君のお姉さんやろ?」
「・・・え、なんで知ってんのマジでありえないキモすぎる」
「せやからキモいって」
キモいなんて言われ慣れてないのか、白石は苦笑して話を続けた。
「いや、一度・・・二度しか会うてへんのやけど、最初見たときホンマそっくりやしけったいやったわ」
「え、アンタさおちゃんの知り合いなの?」
「ちゃうで」
「じゃーなんでさおちゃんのこと知ってんの?」
「携帯拾うてん」
「・・・え」
「そんから、電車の中で会うて名前言うたけどそれっきりや」
でも妹サンとこうして仕事で会う機会あんなら不思議な縁よな と白石は仕事中には見せない笑顔でケラケラと笑った。
(いやいやいやいや、ちょっと待てお前)
(てことは、あれか)
(あの、携帯を拾ってくれた イケメン とやらの)
(今日あのイケメンさんと同じ電車だったさーヤバイー白石さんって言うさー ってさおちゃんが浮かれていた)
「あの”白石さん”ってアンタのことかい!!」
ロビーにアタシの声が響いて、辺りが一瞬シィィン と静まり返って周りの人にジロジロ見られた。
(やべ、恥ずかしい)
「とりあえず、なんかの縁やし一緒にランチせぇへん?」
「え、いや、その、(何の縁だよ、つかとりあえずランチってどーゆうこと)」
「どないしたん?」
ここはさおちゃんとこの男を引き合わせるべきなのか
でもさおちゃんが言うにはこの男には彼女がいるらしいという話だし
てゆーかいるに決まってる、こんな美形にいないわけがない、イケメンなんて大体彼女途切れないんだろ
じゃあさおちゃんと出会わせて、さおちゃんが本気になってしまったら
さおちゃんが可哀想じゃないか!!!!!←結論
「ダメ!!今日は用事あるからっ!」
「え、そーなん?」
「そーだよ!だからっついてくんなっ!」
白石を引き離すように急いで会社を後にするんだけど
足の長さの違いか、簡単に追いつかれてしまう。
「ちょ、待って、ならまた来週の水曜日来るからそん時は?」
「むりむりむり!興味ないんで!なんかもーそうゆうの興味ないんで!」
「え、勘違いせんでな!?俺そんな下心とかあって言うてるんちゃうで!?」
「下心あって言われてたらなおさらキモいわ!!」
スタスタ 歩いて突き放そうとして
結局
会社の前で 出会ってしまう(これは運命なんでしょうか)
「あ、いたいた!まぁちゃーーーーーっ!!!?!?」
アタシの後ろの人物が目に入ったのか 声をかけるポーズのまま固まってしまったさおちゃんに
おぉ!前サンやー! と、何も考えずに近づいたのは アホの白石。
こうなりゃさおちゃんを守るのはアタシだけだ!と二人の間に慌てて入り込んだ。
「ひっさしぶりやなぁ!ちゅーかホンマ偶然にもほどがあるで!」
「・・・・(茫然)」
「3度目の正直ってゆーやんか!そや、よかったらランチでもせぇへん?」
「ちょーーーっと待った!!ランチには二人で行きますからっ!ご心配なくっ!」
「なんや2人で行く予定やったんか!なら一緒にいこ!」
「あー、もー!だからアタシたちはふたりでっ!!」
「い、行きましょ」
か細い声が聞こえて 声の主を見た
「あの、携帯の お礼も してないん、で、」
顔を赤らめて俯くさおちゃんが そこには、いた
(手遅れかーーーーーーーーっ!!!!!!!)
(つぅかこの乙女誰!?何これが恋なの!?オタクで引きこもりで足の毛ボーボーのさおちゃんが!!!)
まるで、少女マンガの主人公のように キラキラしている
(・・・あぁ、ダメだこりゃ)
(完全に 恋 してる)
こうしてなぜか3人でランチに行くことになったアタシたちは
白石オススメのイタリアンの店へと向かった。
そしてアタシは道中必死に考えるのだ。
(どうしたら、さおちゃんが傷つかずにすむのだろうか)