月9(1-7)7【さおり】

 

「で、どーしたのさ」

 

 

帰ったとたんに 聞いてよさおちゃんなまらムカツクーーー!!! とキレているまぁちゃんの話を聞いてるとこ。

 

 

「で、結局千歳の学生時代の友達らしいんだけどさー」

「謙也はテニス部で一緒じゃったんよ」

「前に話してたテニス部か。全国4位?」

「そうたい」

「テニス部はどーでもいいのさ!問題はあいつが痴漢ってことだよ!」

「痴漢って、謙也ばそげんこつする男じゃなかたい、間違えやなか?」

「そうだよ、そんな若いのに痴漢する?」

「若くても変態っぽい顔してたもん!それにお金も無さそうだし、頭も悪そうだし!」

「お金なかことはないはずじゃけんど・・・」

「でも、荷物もあったしよかったしょ」

「よかったよ、千歳ありがとう」

「ベンチに俺が土産で買うてきた買い物袋があったきに、二人がおるんかと思うて」

 

 

よかばい、無事に見つかって

そう千歳は優しく微笑んだ。

 

 

(お兄ちゃんみたい・・・)

 

 

千歳は隣の住人で、たまたまお腹を空かせてうちの前に倒れていたのをまぁちゃんが拾ってきた。

 

 

(あの時はビックリしたよ、巨大な男をまぁちゃんが連れ込んできたから・・・)

 

 

それからフラフラとしてる自由人の彼と、同じく自由人のまぁちゃんは意気投合。

千歳もうちによく遊びに来るし、今では兄弟のように仲良くしている。

 

 

(だけどたまに長い間いなくなったりして謎が多い)

 

 

そんな千歳は

 

多分

 

もしかして

 

ニブい私でもなんとなーーーく感じてるけど

 

ホントに、多分ね

 

まぁちゃんの事が好きなんだと思う。

 

 

 

(いつも穏やかだから自信ないけど)

(でも、千歳とくっついたら)

(なんだかまぁちゃん遠くに行っちゃいそうで 怖いな)

 

 

 

恋愛感情かわからないけど

まぁちゃんが千歳に懐いていることは確かだ。(お兄ちゃんみたいだもんね)

 

 

「もう絶対二度と会いたくないわ!あんな腹立つ男初めてだよ!」

「そんなにムカついたのかい」

「ムカついたよ!!初対面なのにお前って呼ばれたからね!マジで殴ろうかと思った!」

「殴ってやればよかったしょ」

「そーする!!次会ったら絶対殴る!!」

「次?次て、次会う約束したんか?」

「え・・・してないけど、つーかもう二度と会わないし」

「おかしなこと言うけんね」

「何?別にいーじゃん!もう会わないし!」

 

 

フンガーと怒るまぁちゃんの話に

結局夜遅くまで私と千歳は付き合わされてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー・・・眠い」

「眠いってまぁちゃんのせいじゃん、起きなー」

「起きるよ・・・最悪だよ、もう会社行きたくないよ」

「行きなよがんばって」

「君がそう言うなら行くよ・・・」

「私今日朝一で会議あって、その前にメール返信したりするから早く会社行くわ」

「わかったよ、いってらっしゃい」

 

 

(まぁちゃん会社休む気する・・・)

 

 

そんなことを思いながら家を出た。

いつもの駅。いつものホーム。

だけど時間がちょっと早いだけで、なんとなくいつもより空いてる気がする。

 

 

(混んでるのは変わらないけど)

 

 

ホームで電車を待つ間、携帯を取り出した。

 

 

(あの人、同じ駅なのかな)

(それとも仕事でこの辺使うのかな)

(携帯、わざわざ届けてくれたんだよね)

(・・・私、お礼もちゃんと言ってない)

 

 

思いながら、やってきた電車に乗り込む

 

 

(やっぱ混んでるなー)

(朝の満員電車は慣れないや)

 

 

 

ギュウギュウの電車内

動き出す電車

トンネルに入って 窓の外が暗くなって

まるで鏡のように映る窓ガラスに

映ったのは 自分と、

 

 

(え、)

 

 

自分と、そして

 

 

 

(!!!)

 

 

 

(あ、あの人・・・・!!!!)

 

 

 

一瞬だったけど、バッチリ目があってしまった

 

 

 

 

(ど、どうしよう)

 

 

 

心臓がバクバクと動き出す

 

 

 

(後ろに、いる)

 

 

 

カァっと背中が急に熱くなるのを感じた

 

 

 

(どうしよう、)

 

 

 

「・・・今日は携帯、ちゃんと持ってます?」

 

 

 

耳元で聞こえたその声に

 

 

 

(うっ!!!)

 

 

 

死にそうになってしまう。(どーーーしよーーーー!!!!!!)

 

 

 

なぜか息を止めて

首を縦に何度も振った。

 

 

 

(やだ、やだやだ)

 

 

 

そんな私を見てか、クスクスと聞こえる彼の笑い声

 

 

 

(わ、笑われてるかも!てゆーか絶対今私耳赤い!どうしよう、絶対バレてる!)

 

 

 

絶対

 

 

バレて、

 

 

・・・・・・

 

 

 

(バレる?)

(何が?)

(私が、恥ずかしがってること?)

 

 

 

 

 

なんで?

 

 

 

 

 

 

隣の駅について プシュー と扉があく。

扉の目の前にいた私は、一度降りて後から降りてくる人の邪魔にならないように端に立つ。

 

 

 

(あああ、もう、もう)

 

 

彼も、私とは反対側に降りて立っている

 

 

(ダメだ、やっぱり)

 

 

かっこいい。

クラクラするくらい、本当に。

 

 

 

 

(そうか!イケメンだから恥ずかしいのか!!!そうだ!こんなイケメンと話すなんて滅多にないもん!)

 

 

 

まるで王子様のようなそのキラキラとしたたたずまいに、

 

周りにいる女の子たちも彼に見惚れているようで

 

 

 

(・・・王子様、みたい)

(本当に、みんなの憧れる)

(王子様 みたい)

 

 

 

そうしてボンヤリしてたもんだから

ちょっと電車に乗るのが遅れて ハっと気づいて電車の入り口を見た

 

 

 

(ヤバイ!混んでて乗れなくなっちゃう!)

 

 

 

ギュウギュウでなかなか入れなくて

そんな私の腕を 咄嗟につかんで

 

 

 

 

「はよ、乗りや!」

 

 

彼が、グッと 引き寄せた。

 

 

(!!!)

 

 

 

王子様・・・!!

 

 

 

 

恥ずかしくて俯く私の目の前に

彼のネクタイが見える。

 

 

 

 

 

(ど、どーしよう)

(向かい合わせとか)

(死にそうだし)

(呼吸が・・・)

 

 

 

 

ど、どーしたらいいのさ!!!!!!

 

 

 

 

 

「よかった、ボーっとしすぎやで前サン」

「!」

「会えてよかったわ。こないだは慌てて帰ってもうて後悔しとって」

「えっ」

「まぁ駅もわかっとるから焦ってはおらんかったけど」

「は、はぁ」

「自分の名前も言わんと、さっさと帰るなんてサイテーやなって思うてたから、」

 

 

 

 

顔が見れない

ずっと下だけ向いて はぁ とか えぇ とか、

そんな言葉だけを呟いていた(どうしよう私)(なんでこんなにつまんない女なの!)

私の返事がそっけないからか、しばらくしてからお互い何もしゃべらなくなった

ただガタンゴトンと揺れる車内で

電車の音や人の音がたくさん響いて

そして相変わらず顔を上げられない私と

目の前にいる王子様のような彼。

 

 

 

(・・・バカだ私)

(せっかく親切にしてくれてるのに)

(こんなにそっけなくして)

(冷たい女って、思われる)

(どうしよう)

(どうしたらいーの)

 

 

 

でも 恥ずかしすぎて顔を見ることなんて出来なくて

気が付くと、次の駅

人ごみに流れるように私も降りて、そしてまた乗り込もうとして

彼がホームに立っていて

 

 

 

 

 

「俺、」

 

 

そして私に向かって言ったんだ

 

 

「俺!白石って言います!この駅なんで、また!」

 

 

笑って 彼は 言ったんだ。

 

 

(私に)

(また って)

 

 

 

 

倒れそうなくらい嬉しくて

倒れそうなくらい切なくて

プシューと閉まる扉の窓から

しばらく彼を見つめていた。

 

 

 

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