「書類が、終わらない・・・」
なぜだろう
この時期から年末にかけて忙しくなるのは・・・
(確かに10月って後期の始まりだし)
(年末に近づいてきてるからってわかってるけど)
時計はもう23時を回っていた。
(眠い)
(帰りたい)
(もうやだ)
そう思いながらもパソコンに向かうしか出来ない
カタカタと指を動かす。
家に帰ってないことを心配したまぁちゃんからメールが来る。
残業って返すと 正社員は大変だな なんて呑気なメールが返ってきた。
(とりあえずコレだけ完成しちゃえば帰れる)
カタカタとパソコンとにらめっこして
「あー、この計算式どれだっけー」
また調べなきゃいけないのか と肩を落とした。
「まだおったんすか」
その言葉に、振り向くと
「財前くん」
いわゆる ナマイキな後輩 ってやつ。
財前くんが姿を現した。
(口は悪いけど)
(みんなからなんだか可愛がられてるんだよね)
「めずらしいっすね、先輩残業嫌いなイメージあったわ」
「嫌いだよ。でもこればっかりは仕方がないから」
「何してんすか」
「これの資料作り」
「へぇ、それもうとっくに終わってたと思うてた、さすが先輩トロいっすね」
(さすがって!)
(ぐっ・・・怒りを抑えろ)
「まぁね・・・」
「お、認めた」
「いーじゃん、もうほっといてよ」
「ほっときますよそら、興味ないんで」
(可愛くないなぁ・・・)
(いや、顔は可愛いんだけど)
(でもデレがない・・・)
(いつまでもツンツンなんだもん)
(どこら辺でデレることがあるんだろうこの子は)
「なんすか、人の顔じっと見て」
「いや別に・・・」
「見惚れても無駄っすよ」
「み、みとれてないよ!」
「そっすか」
「もう帰りなよ!」
「言われなくても帰りますよ、お先です」
「おつかれさまでしたっ!」
ムッとしながらそう言って もう一度パソコンに向きなおした。
(あーもう!)
(ここの計算式入れればあともう終わるんだけど・・・)
(どれだかわからないよー)
「そーいえば」
帰ったと思った彼の声がして 少しビクっとした
「www ビクついとるwww」
「笑わないでよ!」
「なんやねん、怒るんならええこと教えるのやめとこ」
「え、なに!?」
「ナイショ」
「なんなのー?」
「んじゃ」
また姿を消して
「YIELDMAT、計算式使ったら終わるんちゃいますー?」
廊下から それだけ聞こえた声。
(・・・あ!そうか)
その通りの関数を入力して計算式を完成させて
お礼を言おうと思って廊下に出たけど、もう財前くんの姿は見当たらなかった。
(なるほどね)
(少しだけ、優しいとこもあるから あんな態度でも可愛がられるわけだ)
それが果たしてデレなのか、なんなのか。
わからないけど、缶コーヒーを買って彼の机に置いておいた。