月9(1-3)3【さおり】

 

やっぱり やらかした。

 

 

「前さん、ここ間違えてるよ」

「前サン、取引先から大至急連絡してって」

「前さん!会議!忘れてたでしょ!」

 

 

なんで嫌なことってこう重なるのか・・・

 

 

(ホント今日って最悪・・・)

 

 

女子トイレで手を洗いながらため息をつく

 

 

(やっぱり今日って最下位だからか)

(ミスるし、忘れるし、最悪なことばっかし)

 

 

席に戻って、鞄の中からリップクリームを取り出した。

 

 

 

(あ、そういえば携帯)

(今日朝から見てないけど)

(あれ、あれ?)

(家に忘れて来たかな)

 

 

 

いや、今朝は間違えなくカバンに携帯を入れたはず。

 

 

 

(落とした・・・?)

 

 

 

うそでしょ、最悪!

そーいえば電車乗るとき慌てて走って・・・た

 

 

 

(まさか、駅に落としたんじゃ)

 

 

「ど、どうしよぉ・・・」

 

 

今度は慌てて駅に電話したり、会社のロビーに探しに行ったり

 

したけど

 

 

(ない・・・)

 

 

 

定時になって残業もそこそこに、会社を後にした。

 

 

 

 

 

 

「確かここ通ったんだけどな・・・」

 

 

そしてもう数時間

 

私は駅から家までの道を行ったり来たり

 

ウロウロ探してみるんだけど、携帯なんて どこにも落ちてなくて

 

 

 

(どうしよう、ホント困る)

 

 

 

泣きそうになりながら どーしようもないから結局家に帰ることにした。

 

 

 

「はぁ」

 

 

ため息をつきながら歩いていると

背後から 人の気配。

気にしてなんていなかったのに、その気配がついてきているような気がして早足になった。

 

 

 

(やだ、この辺夜人少ないから・・・)

 

 

 

それでも着いてくるその足音に気持ちが悪くなって

 

走り出そうとして

 

ガシ っと、肩をつかまれた

 

 

 

 

「ぎゃーーーーーーー!!!!!!!!!」

 

 

 

 

叫んで思い切りカバンを振り回したら、見事カバンは命中!

グエっと蛙が潰れたような声が聞こえて

それから「ちょ、たんま!」と若い男の人の声がした。

 

 

(やだやだやだ!)

 

 

泣きそうになりながら 俺怪しいもんとちゃうから! というその人の声に

 

恐る恐る目を開けた

 

 

 

(!!!!!!!!!)

 

 

 

 

「怖い思いさせた?悪かったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イケメンキターーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

「あれ、硬直してもうた」

 

 

今度はピーンと動かなくなる私にその人は顔を近づけて覗き込んだ

 

 

(この人、朝の!)

(ち!近いし!!)

 

 

「君、まえさおりさん、やろ?」

「な なんで、私の名前・・・」

 

 

王子様のようなその人に 名前を呼ばれてハッと我に返った

 

 

「これ、落し物」

「え?」

 

 

そしてその人が差し出したのは 紛れもなく私の携帯。

 

 

「あ!携帯!よかったぁ」

「朝、駅で落とした時に居合わせて・・・悪いけどプロフィールんとこ見せてもろたわ」

「は、はぁ」

「プロフィールにこんな真面目に住所と家の番号まで入っとるからわかりやすかったで」

 

 

その人はニッコリと微笑んで

私はその笑顔に見とれていた。

 

 

「よかったわ、無事に渡せて・・・」

 

 

その人はそう言うと ほな、 と背を向けようとした

 

 

(はっ!!)

(こんなイケメンと出会うチャンスなんて二度とないのに!!)

(これでサヨナラでいーの!?)

 

 

「あ、あの!!」

 

そう思うと私の口は 自然に動いていた

 

「あの、よ、よかったら お礼に、うち 近い、ので!」

 

 

 

 

PULULULULULULU

 

 

 

 

聞こえたか聞こえないかの小さいその声は

彼の携帯の着信音によって かき消された。

 

 

 

 

「あ、すまん」

 

彼は私に断りを入れると電話に出た。

 

「はい。なんや?え、あぁ・・・そうか、アズサが・・・わかった、すぐ帰るわ」

 

ピっと電話を切って

 

「すまんけど、俺はこれで」

 

そう言って、早々と背を向けて去って行った

 

 

(・・・だよね)

 

 

アズサ って言ってた。

あんなにかっこいい人に 彼女いないわけないもんね。

 

 

(なに、期待しちゃったんだか)

(これが運命だなんて、そんな少女マンガみたいなこと)

(私に 起きるわけがない)

 

 

携帯を握りしめて、まだまぁちゃんの帰っていない暗い家に帰宅した。

 

 

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