クロスオーバー60 【さおり】

「ほな、次は向こう見てみぃひん?」

 

会ってすぐに 伝えようと思ってた言葉は
彼の笑顔と 彼の早口でしゃべる言葉 それに、少し強引に手を引かれたことで
いまだに私の中でくすぶっていた。

 

 

 

 

言わないと

 

 

 

 

そう焦っていても 彼を悲しませるだろう、と思うとなかなか切り出せずにいた。

 

 

 

(・・・それでも)
(今だって充分悲しい思いさせてるんだもん)
(早くちゃんと伝えて)
(楽にしてあげないと)

 

 

 

彼とのデートなど上の空で そんなことばかりを考えていた。

 

 

 

「な?ここのランチ美味いやろ?」

 

 

 

俺、チーズリゾットが好きで・・・って白石くんは笑った。

 

 

 

「さおりちゃん、パスタ好きって前に言うてたから絶対この店一緒に来たいと思うててん!!」
「あ、あの、白石くん」
「ここ食べたら次、ちょっと雑貨でも見よか?近くにオーストラリアの夫婦がやってるカワイイ雑貨店あるらしいで」
「えっと、」
「そのあとは植物園やな!今日ライトアップされてて綺麗らしいわ!」

 

 

 

 

デートコースは完璧に考えとるから任せてな!!

 

 

 

 

そう、白石くんは また笑った。

 

 

 

 

 

ズキン

 

 

 

 

 

 

 

笑顔を見るたびに 胸が痛む。

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・何やってるんだろう、私)

 

 

 

 

こうして時間を過ごしても 結局彼を更に苦しませるだけなのに

 

 

 

 

 

(早く・・・言わなきゃ)
(次の場所に移動する前に・・・)
(思い出が・・・増える前に・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

「白石くん、聞いて!」
「あ!すまん!ちょおトイレ行ってくるわ!」

 

 

 

水飲みすぎてもうたみたいや

 

 

 

 

そうしてまた彼は笑いながら席を立った。

 

 

 

(どうしよう・・・)

 

 

 

結局私は彼に真実を打ち明けることも出来ず
そのままダラダラと 夜を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ18時。
それでも冬は日が落ちるのが早くて
真っ暗な夜道の中  イルミネーションがキラキラと輝いていた。

 

 

 

 

 

「送るわ」

 

 

 

そう言った白石くんは 何かを考えこむように、電車の中ではじっと窓の外を見ていた。
私はいつ伝えればいいのかとか こんな人混みじゃ無理だなとか
今日中に言わないととか いろんなことが頭の中をグルグルとして ずっと俯いていた。

 

 

 

 

電車から降りて 家まで向かう。

 

 

 

 

(・・・言わなきゃ)

 

 

 

 

彼の背中を追いながら

 

 

 

 

(言わなきゃ・・・!!)

 

 

 

 

もう迷っては いられないと思った。

 

 

 

 

 

 

「し、しらい、」
「・・・さおりちゃん、今日、どないやった?」

 

 

 

そしてまた 彼に言葉を遮られ 私は言葉に詰まるのだった。

 

 

 

 

「俺は、 めちゃくちゃ 楽しかった」

「・・・」
「・・・さおりちゃん」
「白石くん、あのね、」
「・・・別れよか」

 

 

 

(・・・え?)

 

 

 

 

頭の中が 真っ白になって
呼吸もするのも忘れるくらい ドクッ と胸が締め付けられた。

 

 

 

 

「・・・さおりちゃん、今日ずっと それ言おうとしてたんやろ?」
「あ・・・え、っと、」
「けど、さおりちゃん優しいから なかなか言い出せんくて」
「・・・」
「そこに付け込んで 今日一日振り回してもうたわ、すまんかったな」

 

 

 

(・・・違う)
(優しいから、じゃない)
(私が 弱いから)
(だから言い出せなかったのに、)

 

 

 

 

 

そんな言葉すら 喉の奥が熱くて痛くて 出てこなかった。

 

 

 

 

 

 

「・・・ほんまはな、ずっと気づいてたんや」
「・・・」
「さおりちゃんのことやから 何か勘違いで付き合うてくれたんかなって」
「・・・」
「けどせっかくのチャンスやから これで好きになってもらえたらラッキーやな、て思って、」
「・・・」
「ガンガン行くと怖がるかなって 少しずつ二人の時間作れたらとか思うてたんやけど」
「・・・」
「・・・さおりちゃん、いっつも つらそうやし・・・」
「・・・」
「苦しそう・・・やから・・・」
「・・・」
「どないしよう、て 思うてて、」
「・・・」
「妹さんにも・・・ 笑顔が減ってるからそろそろ開放してあげて、って言われて、」
「・・・」
「そんなん言われたら 余計に、男の意地っちゅーか・・・手放したくなくて、もっとがんばらなって 思うて」
「・・・」
「・・・けど、あかんかったなぁ」
「・・・」
「最後までさおりちゃん ツラそうやねんもん」
「・・・」
「俺・・・さおりちゃんのこと好きで付き合うたんやで。苦しめたいと思うて付き合うたわけとちゃうねんで」
「・・・」
「せやのに苦しめてるの俺やん!俺のせいでさおりちゃん全然笑わなくなっとるし・・・」
「・・・」
「・・・俺の、つまらん維持とかプライドとかのせいで さおりちゃん苦しめとったなら」
「・・・」
「きっと 解放できるのも 俺や、と思うて」
「・・・」
「・・・」
「・・・最後に クリスマス、楽しく過ごしたくて 連れまわしてごめんな」
「・・・」
「デートとか したことないやん?やから思い出が欲しくてな」
「・・・」
「めっちゃ 楽しかったわ」
「・・・」
「これで、大好きな彼女とクリスマス過ごした!って胸張れるわ!!」
「・・・」
「・・・・・・・な、さおりちゃん・・・」

 

 

 

 

泣かんといて

 

 

 

 

そう  白石くんの方こそ 泣きそうな顔をして彼は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・私)
(こんなに 想ってくれてたのに)
(気持ちを疑ったり)
(嫌な態度とったり)
(全然・・・彼の気持ち 想えてなかった)
(彼はこんなに・・・)
(こんなに 悲しそうにしてるのに)
(彼の笑顔に 甘えすぎてた)

 

 

(私は)

 

 

(なんて・・・・)

 

 

 

 

 

 

白石くんが グッと 顔をあげて

 

「はー!あかんな!湿っぽいのは苦手や!な!また明日から友達に戻ろうや!」
「・・・しらいし、くん」
「・・・次 会えるのは、冬休み明けに なってまうけど、」
「・・・」
「またな!!風邪引かんようにな!」

 

 

 

ほな、 と彼は 走って来た道を引き返して行った。

 

 

(・・・白石くん、)
(ごめんなさい、)
(ごめん、なさい)

 

 

涙が止まらない私は しばらく家の中に入れずに 外の壁に背を付けて泣いていた。

 

 

私の気持ちとは裏腹に 星はとても綺麗に輝いていた。

+2