039***白石/さおり

まえさんが倒れた。

 

その瞬間、咄嗟に体は動いていたけど、頭の中は真っ白やった。

とりあえず、まえさんを管理小屋に運んで寝かせる。

 

俺も、運動部の部長として熱中症について指導があったから、なんとなくわかる。

 

とりあえず、意識はあるから、大丈夫。

 

(大丈夫・・・)

(大丈夫・・・やって・・・)

 

”大丈夫”と自分にも言い聞かせんと、罪悪感に押しつぶされそうだった。

 

 

まえさんは体力がない。

体も弱いと聞いていた。

それなのに、俺が一緒にいたい気持ちでいっぱいで、真面目に手伝おうとする彼女のことを思いやってあげられへんかった。

まなみは「アタシのせい」って言うてたけど、彼女が倒れたんは確実に俺のせい。

ずっと一緒におったから、絶対に無理してる彼女のことをもっと考えてあげることだってできた・・・

なのに、彼女が俺と一緒にいたいって言うてくれる言葉に浮かれて、そんな気遣いをしなかったんや・・・

 

 

「う~しょっぱいね」

 

 

少し経つと、まえさんは自力で起き上がり、自分で水分補給できるようになった。

塩と砂糖を少し入れた水のほうが水分の吸収がいいからと、柳生くんが作ってくれたオリジナルのミネラルウォーターを飲んでいる。

首も冷やし続けていたら、だいぶ体も楽になったようだ。

 

とりあえず、ここは俺に任せてもらって、みんなには今日の日程をこなしてもらうことにした。

今日は俺の日程は変わってもらって、まえさんといるつもりだ。

 

・・・そうすることしか、彼女にしてあげられない。

 

 

「白石くん、そんな暗い顔しないで?もう大丈夫だから、ごめんね、急にびっくりしたよね」

 

 

やっぱりご飯は食べないとダメだよね~と笑う彼女。

 

 

こんな時にまで俺を気遣う彼女に、膝に置いていた拳をギュッと握った。

 

 

「・・・ごめんなぁ」

 

「え、白石くん悪くないよ、」

 

「ごめんな、まえさん、俺のせいやわ・・・」

 

 

そう呟くと、ポロポロと涙が出てきた。

 

情けないし、格好悪いけど、後悔とか反省とか安心とか、いろんな感情がごちゃまぜで涙が止まらなかった。

 

 

「し、白石くん泣かないで!!白石くん何も悪くないよ!!」

「いや、俺のせいや・・・」

「どうして!?わ、私重いのに、ここまで運んでくれて、しかも看病もしてくれて、感謝しかないよ!?」

「せやって、俺やから」

 

 

まえさんとずっと一緒におったの俺やから、

 

 

俺がそういうと、まえさんは黙った。

 

 

(呆れたよな、こんな俺・・・)

 

 

そう思って下を向くと、

 

 

 

ソッ

 

 

 

彼女の手が俺の頭に触れ、

そして、ソロリソロリと俺の頭を撫でたのだった。

 

 

 

 

「・・・白石くんのせいじゃないよ、私がちゃんと疲れたら言えばよかっただけだから。ごめんね、私も白石くんと一緒にいたいって言ったから責任感じちゃったよね。でも、私ね、」

 

 

 

 

白石くんと一緒にいれて、良かったって思ってるんだよ

 

 

 

 

そう言いながら、彼女は笑った。

 

 

 

 

(っ、)

 

 

 

 

俺は、そんな彼女を見て思わず、抱きしめた。

 

 

 

 

「ごめんなまえさん、ほんまにごめん、」

「もう、謝らないで、あと泣かないで」

「でも、」

「次謝ったら、もう口聞かないよ」

「え、それはいやや・・・」

「うん、だからね、もう謝らないでね。白石くん悪くないから、私の体調管理が甘かったせいだから」

「・・・でも、」

「でもじゃないよ、本当にやめてね、しつこい男は嫌いだよ」

「!? ・・・・・・わかった」

「うん、泣くのも終わりね、私が白石くんと一緒にいたかったんだから」

「・・・おん」

「私白石くんと一緒にいるのすごく楽しかったんだよ、だから無理してるって自分で思わなかったんだ」

 

 

心配かけてごめんね、という彼女を抱きしめる腕に力をこめた。

 

 

「・・・めっちゃ心配した・・・心臓止まるかと思った」

「・・・うん、ごめんね」

「昨日も言ったけど、まえさんになんかあったらおれ、生きていかれへん・・・」

「うん・・・」

「残りの日数は、ちゃんとしっかり休んでな・・・」

「うん、わかった・・・」

「おれも、出来るだけ側に・・・・・・・・・側に、おらんほうがええのかな・・・」

「え」

「また無理させてまうかも・・・」

「しないよ、もうしないから、」

 

 

まえさんは、慌てて俺の腕から抜け出して、俺に言った。

 

 

「せっかく、久しぶりに会えたんだから、もう少し一緒にいたいよ」

 

 

そう言った彼女の顔が超絶可愛くて。

きっと、これは、普段弱音を吐かずに頑張っている彼女の甘えなんだと思うと、愛しくてたまらなくなった。

 

 

(ああ、)

(好きやな・・・)

 

 

そう思うと、涙の代わりに笑みがこぼれる。

彼女と一緒にいられる時間を与えられた喜びは、何にも勝るものだった。

 

 

「・・・ほな、これ飲んでや」

「あーーー、塩水しょっぱい」

「砂糖も入っとるんやから文句言わない」

「塩の割合のほうが断然多いもんな~」

「たくさん飲んで、ちゃんと治してな」

「うん、もう大丈夫だけどね?倒れてても意識ははっきりしてたし」

「けど、心配やから今日は外に出たらあかんで」

「え、でも、」

「でもやない、みんなも今日は休めって言うてたから」

「・・・うんわかった」

「あー・・・絶対幸村くんにどやされるわ・・・」

「え、幸村優しいから大丈夫だよ!」

「優しいのは優しいけど・・・」

「それより、まぁちゃんのが怖いと思うけど」

「Σ(;゚ω゚)ハッ!! せやな!!」

「まぁちゃん、アタシのせいだ~って泣いてたけど、あのあと白石くんのせいにして怒ると思うんだ」

「あー・・・まぁ罰は甘んじて受けるわ」

「白石くん悪くないんだから大丈夫だよ!」

 

 

けど、ほんまにみんなに謝らなあかんなって心から思った。

とりあえず、彼女の顔色も戻って、笑顔を見せてくれるようになったから、もう大丈夫そうやと、ほっと胸をなでおろした。

 

 

 


 

 

 

熱中症で倒れてしまった。

確かに、自分でも食欲ないし、ちょっと疲れが溜まってると思っていたけど、倒れると思わなかったから驚いた。

 

そして、

 

みんなに迷惑をかけてしまったことに反省していた・・・。

はぁ・・・。情けない。

 

(自己管理も出来ないなんて・・・)

(というか、倒れると思わなかったな・・・!)

(まさか自分が倒れるとは・・・!)

 

そして、みんなに心配をかけた上に、こんなに重い私をここまで運んでくれた白石くんに頭が上がらない。

本当にデブな私をここまで運んでくれて申し訳なさ過ぎるわ・・・。

なのに白石くんは、自分のせいだって言うし、本当にびっくりだよ。

どう考えても私が悪いのに・・・。

私が悪すぎて、あとでみんなに謝らないとって思った・・・。

 

 

(外に行った服で寝たから、シーツとか布団も変えたいなぁ、確か倉庫に予備たくさんあったはずだからあとでもらいたいな・・・)

 

 

そんなことを考えていた時、

 

 

 

 

バンッ!!!!!!!

 

 

 

 

ビクゥ!!!

 

 

 

突然扉があいて、思わず驚いてしまった。

 

 

 

そこに立っていたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁちゃん・・・」

 

 

 

鬼の形相のまぁちゃんだった・・・

 

 

 

「白石!!!殴らせろ!!!」

「おおお落ち着けって!!すまん!!泣いてたと思うたらいきなりキレだした!!」

「・・・まぁそうやろな・・・」ズーン

「ちょ、ちょっとまぁちゃん!!」

「だって!!!さおちゃんが倒れたのよく考えたら白石のせいじゃない!?だってさおちゃん白石とずっと一緒にいたじゃんアタシより白石といたじゃん!!

「おっしゃる通りです・・・」

「ほんとなんなの!?さおちゃん守れないなら一緒にいるな!!

「・・・申し訳ございません・・・」

「ちょっと、まぁちゃん!!どう考えても悪いの私だよ!?自己管理出来なかったんだから!!」

「いや、そもそもさおちゃんはこんなアウトドアをしたの初めてだし、自分の限界がわかるわけないよ。さおちゃんは真面目だし、絶対に周りが無理しないように気を使ってあげないといけないのに、それをお前は

「・・・ほんまにすみません・・・」

「だから、それは、私が悪くて、」

「こんな体力ある男たちと一緒のわけないじゃん!!どう考えてもさおちゃんか弱いだから、もっと考えろ!!連れまわすな!!そして私からさおちゃんをとるな!!

「めっちゃ私怨やんか」

「私の!さおちゃんに!無理をさせた!罪は!重い!!

「はい・・・ほんまに申し訳ないです・・・」

「まぁちゃん、やめてってば、」

「もう、お前は裸で土下座しろよ!!!!

「え、」

「はい・・・わかりました・・・」ゴソゴソ

「脱ぐな!!!さおちゃんに汚いもん見せんなバカ!!

「どっちやねん」

 

 

結局、まぁちゃんは怒りまくって白石くんのことを本当に殴った後、

 

「さおちゃん、起き上がれるようになったんだね!よかった!マンゴーとってくるわ!」

 

とまたいなくなってしまった。

 

まぁちゃんこそ、うろちょろしていて大丈夫なのだろうかと思ったけど、あの人たくさん寝てるし、たくさん食べてるから大丈夫なのかもしれない・・・。昼寝もしてるみたいだし・・・。

とりあえず、まぁちゃんに怒られた白石くんに謝っておこう・・・

 

 

「白石くんごめんねまぁちゃんが」

「いやいや、怒られて当然やからな・・・」

「当然じゃないよ!私が悪いのに・・・」

「ちゃうよ、ほんまに。まなみの言うとおりやねん・・・まえさんのことちゃんと気遣えなかった俺が悪い」

「もー、悪くないって言ってるのに!なんでみんなそういうかなー」

「これはもうしゃーないで・・・」

「納得いかないよ・・・」

 

 

どうしても自分のせいだと言い張る白石くんとそう話していると、

 

 

コンコン

 

 

またドアを叩く音がした。

 

 

「はい?」

「さおり、大丈夫?入ってもいい?」

「あ、幸村・・・」

 

 

その瞬間、白石くんが覚悟を決めた顔になったのがわかった。

後ろから、俺たちもいるぜーってブンちゃんの声がするから、立海のみんなだと思うけど・・・

きっとこれから、同じような会話が繰り広げられるのかと思うと、どうしたらみんなを納得させられるんだろうと考えたけど、なかなか答えが出ないまま、みんなが部屋に入ってきた。

 

ああ、これはもう、

白石くんがかわいそうな一日になっちゃうな!

 

 

(そして、立海のみんなが帰った後、)

(今度は氷帝の人たちがやってきて、)

(白石くんは引き続き責められることになるのでした・・・)

 

 

 

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