038***さおり/まなみ

 

昨日は久々に温泉に入れて、痛かった節々も少しは良くなったような気がする。

いつも通り、朝食の準備のために朝6時にコテージを出る。

そこには、すっかり恒例となった白石くんの姿が。

毎朝迎えに来てくれて、白石くんは優しい。

 

 

「白石くん、おはよう」

「おはよ」

「毎朝迎えに来てもらってありがとう」

「ええねん、好きでやっとることやし」

「それでも嬉しいよ、ありがとう、じゃあ行こう!」

「おう、今日も元気よく行くで!」

 

 

さすがに4日目となると、少し疲れてきたけど、無理矢理テンションをあげていく。

じゃないと私体力ないからさ・・・。

 

 

朝ごはんを作り終って、みんな食べてる間に私は後片付け。

朝起きてすぐにご飯とか食べれないからね・・・。みんな朝一でお腹空くとかすごい・・・

それから、ご飯を食べてから、みんなはミーティングを開始。

 

今日は今まで要望の多かったテニスコートを作るらしいよ!

なんでも海側で網が見つかって、それをネットにして作るんだって!

橘くんたちがいる不動峰は、自分たちでテニスコートを作った経験があるらしく、橘くんを中心にテニスコートを作ることにしたみたい。

すごくない!?なんか橘くんって何でも出来るなぁ~。

料理も出来るし、テニスコートも作れるとかすごすぎるね!!

 

 

「橘くん、私もお手伝いしていい?」

「ああ・・・もちろんいいが・・・、俺たちでも出来るからあまり無理はしなくていいぞ」

「うん、大丈夫!」

「でも、まえさんに力仕事は難しいし・・・」

「じゃあ、片付け終わったら、海側にロープと網を取りに行くよ」

「ほな俺も行くで」

「わかった、じゃあロープと網はまえと白石が持って来てくれ」

「ついでにまぁちゃんの様子見てくるよ」

「まだ寝てんじゃね?」

「うん・・・寝てるかも」

 

 

そんな会話をしながら、私もコート作りのお手伝いをさせてもらうことにした。

食器を洗ってから、白石くんと海側に向かう。

まぁちゃんはいるかな?

 

 

「おはようございまーす!」

「おはようさん」

「あ、さおりおはよう」

「あら、蔵りんとさおりん、おはよ~♥」

「幸村も小春ちゃんもみんなも、おはよう!」

「お前あんまり小春に近づくなや!」

「ご、ごめん・・・」

「ユウジ!誰にでも威嚇したらあかんで!」

「せやで、女の子には優しくせな!」

「気にしてないから大丈夫だよ、それよりまぁちゃんは・・・?」

「あいつまだやで?」

「もうこないとちゃいますか?朝ごはん残ってるの食っていいすか」

「ダメだ!ちっ、あいつめ、毎日フラフラしやがって!」

「跡部くんごめんね・・・そろそろ起きてくると思うんだけどな・・・さすがにもう8時過ぎてるし・・・」

「あ!!さおちゃん!!」

「噂をしてたらきたね!」

「おっはー!!

「おっはー!!きみ、めちゃくちゃ寝れたね!」

「うむ、本日も良く寝れたぞ」

「寝すぎやろ!お前はみんなに合わせろや少し!」

「やだね」

「しめますか」

「財前、あかんで!」

「ヒカルも朝弱いのに頑張ってるものね~」

「跡部、メシ」

「お・ま・え・は!!!

「ふふ、まなみは相変わらずだね、はい、貝のお味噌汁と、魚とご飯」

「わーでたーもっと繊細なご飯にしてくれよー魚丸ごと焼いたのもう飽きたから!!もっとこう・・・料亭のような・・・」

「いいから早く食え!片付かねーだろ!!」

「それより、さおり、どうしたんだよ?」

「あ、そうだそうだ、鳳くん昨日網見つけたって言ってたから・・・今から山側でテニスコート作るから、取りに来たの」

「そうだったんですね、海側の倉庫にありますよ」

「おおきに、テニスコート出来たら、空いてる時間に使ってええからな」

「そうか、それは助かる」

「ロープもありますから」

「わかったで」

「さおちゃん今日何するの?」

「コート作り手伝うよ」

「えーそんなのいいから遊ぼうよ~」

「遊ばないよ・・・手伝うよ・・・」

「じゃあ今これ食べるから待ってて!アタシも行く!」

「お前はまた!!山側ばかり行きすぎだろ!!

「いや、ええから行けや」

「いないほうが平和」

「よし、お前らあとで背後霊ごっこして付きまとってあげるね

「ゾッとした」

「きみたちと遊ぶのはあとだ!早く食べよう!」ガツガツ

「ああ、早食いはあかんで!体に悪い!」

「うっせ!早く食べてさおちゃんと一緒に行くの!!」

 

 

まぁちゃんが食べ終わるのを待っていたら9時近くになった。

9時から作業って言ってたから、まぁちょうどいいかな。

私と白石くんとまぁちゃんは、ロープと網を持って山側の広場へ向かった。

 

 

「ロープと網持って来たで」

「ああ、ありがとう」

「アタシも来たぞ

「いらね」

「ガクトの背中で子泣きじじいになるわ」

「来んな!」

「よし、それでは、今からテニスコートの作製にかかるぞ」

「倉庫に巻き取りメジャーがあったで。これでテニスコートの大きさ測れるやろ」

「それは助かる。目測ではずれが生じるからな・・・センターサービスラインはここでいいだろう、ポストの位置を測ってくれ」

「杭と木槌持って来たっす!」

「ありがとう、ポストの位置が決まったら、杭を打ち込んでくれ」

「橘くんすごい・・・本当にテキパキと指示だしてるね・・・」

「ホンマやなぁ、どんな経験がどんなことろで役立つかわからんもんやな」

「はぁ、ガクト子供体温であちーわ!今日も朝からあちーな!!」

「本当におんぶしてもらってたの・・・がっくんバテてるよ」

「ばかめ、これくらいでバテるとは鍛え方が足りないんだな」

「うむ、そうだな」

「でも、確かに暑いね・・・多分30℃以上あるだろうな・・・」

「ねー南の島だからしゃーないね」

 

 

そう言って太陽を見る。

今日も晴れていい天気。

こっちに来てからずっと雨が降っていないし、毎日天気がいいからとても暑い・・・

 

 

「では、石灰がないから、コートのラインはとりあえず溝を掘っておこう」

「あ、それなら力仕事じゃないし、私でも出来そうだから手伝うね」

「ああ、手分けして溝を掘ろう」

「枝を使えばええな」

 

 

そう言って、枝を手に取る。

これを使って真っ直ぐ線を掘らないとね・・・。

真っ直ぐじゃないとちゃんとした練習にならないからね!曲がってるコートなんて嫌だろうし・・・。

まぁちゃんは持っていた枝を振り回して、野球のバッドみたいにブンブンしてる。危ないってみんな怒ってるなぁ・・・。

全くまぁちゃんは・・・。

 

 

枝を使って少しずつ溝を掘る。

ゆっくり、慎重にって思って作業していた時、

 

 

 

 

クラッ

 

 

 

 

(え?)

 

 

 

 

前にマンゴーの木に登った時にも感じた眩暈が私を襲った。

 

・・・あの時とは比べものにならないくらいのひどいものが。

 

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 

「さおちゃん!!!」

 

 

まぁちゃんの声が聞こえる。

耳はなんとなく聞こえてるけど、全く体が動かない。

口々にみんな心配している声が聞こえる。

 

少しだけ目を開けると、まぁちゃんの悲しそうな顔が見える。

それから、白石くんの心配している顔も・・・。

 

(あーあ・・・)(ダメだ・・・)

(身体動かない・・・)

(まぁちゃん、泣かないで・・・)

 

 

こうして私は、身体が思うように動かず、横になっているしかなった。

 

 

 

 


 

 

 

さおちゃんが倒れた。

アタシはすぐその場にかけよったけど、さおちゃんはそのまま意識がなくグッタリしていた。

 

「さおちゃん!!」

 

アタシがさおちゃんを揺らそうとしたら、

 

「揺らしたらあかん!!」

 

そう、謙也の声が聞こえてアタシは手を引っ込めた。

 

れんじとヒロシとメガネと青学の乾と大石って人と・・・

あと謙也がさおちゃんの周りに集まる。

 

「体温が高くなっている」

「ああ・・・熱中症だな・・・」

「すぐに身体を冷やす必要がある」

「けんや、行けるか?」

「おう、俺、川から冷たい水汲んでくるわ!!」

「一先ず、管理小屋に運んだ方が良いですね」

 

そうヒロシが言ったら、

 

「俺が運ぶわ・・・」

 

そう言って、白石がさおちゃんを抱きかかえて管理小屋のほうに向かった。

謙也はもう水を汲みに行ったのだろう、姿はなかった。

さおちゃんが心配すぎて、涙が止まらなくて、足も動かなかったアタシ。

 

「まなみ!!行くぞ!!」

 

そんなアタシの手を掴んで歩き出したのはガクトだった。

 

ガクトの後ろ姿しか見えないけど、アタシの腕に食い込むくらいの力強さで握られた手。

 

いつもは、嫌なことばっかり言うくせに。

 

さすがにガクトも心配だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「さおちゃん!!」

 

 

管理小屋に着くと、さおちゃんをベッドに寝かせようとしている白石と、父親が医療関係の人たち、それから手塚がいた。

 

 

「あ、寝かすのここでええ?」

「うん、そっち、さおちゃんの、ベッド」

 

 

白石が、ベッドにそっとさおちゃんを下した。

アタシは、ベッドに近づく。

 

すると、さおちゃんは目を瞑ったまま、口だけ動かした。

 

 

「・・・まぁちゃん」

「さおちゃん!!大丈夫!!!??」

「・・・ごめんね・・・身体動かなくて・・・」

「よかった・・・、意識はあるみたいですね」

 

 

みんな一安心したようだった。

 

 

「さおちゃん、大丈夫!?さおちゃん・・・」

「まなみ、落ち着け。意識がなければ重篤だが、意識があるなら熱中症の回復は可能だ」

「だって、だって、さおちゃん倒れたんだよ!?病院もないのに・・・何かあったらどうするの!!」

「大丈夫ですよ、水分は点滴よりも口からとったほうが効率が良いのです。休んで水分をとっていれば回復しますよ」

「だって、さおちゃん、倒れたんだよ!!」

「まなみ、落ち着けって」

 

 

そう、ガクトが言うけど、ポロポロ涙が止まらない。

さおちゃんに何かあったらどうしようって、そればっかり考えてた。

 

 

その時、

 

 

 

バンッ

 

 

 

「水汲んで来たで!!!」

 

 

 

謙也がバケツを持って来た。

 

「まなみ、タオルあるか?」

 

そう謙也に言われて、タオルを何枚か持ってくる。

謙也は、タオルを濡らして、強く絞ると、さおちゃんのおでこにタオルを乗せた。

何枚か同じように濡らして、首元にも当てる。

 

そうこうしているうちに、白石が水を持って来ていて、ストローもどこからか持って来たのか、さおちゃんに飲ませようとする。

 

 

「まえさん、喋れるなら、水飲める?」

「うん・・・起きれないけど・・・」

「俺が支えるから、飲んで」

「うん・・・」

 

 

白石がさおちゃんを起こして、口元にストローを持って行く。

すると、さおちゃんはゴクゴクと水分をとった。

 

みんなホッとしたようで、水分をとれるなら大丈夫だと口々に言う。

 

でも、アタシは何が大丈夫なのかわかんない。

病院だってないこんな島で、さおちゃんに何かあったらどうするの!?

 

 

「さおちゃ~~~~~ん!!うわ~~~~~ん!!」

「ちょ、まなみうるせーよ!!」

「あ~~~~~ん!!アタシのせいだ~~~~!!さおちゃん疲れてたのにつれ回しちゃった~~~~~~!!」

「・・・それを言うならおれのせいや・・・まえさん、食欲なかってん・・・ずっと側におったのに、ちゃんと管理してやれへんかった・・・」

「うっ・・・ひっく・・・確かに・・・さおちゃんがご飯食べてるとこ見てない・・・」

「まえさん、マンゴーしか食べてへんねん・・・」

「栄養不足もあったんやろうな・・・」

「熱中症の一番の対策は良く食べて寝ることやからなぁ・・・」

「寝不足もあったでしょう」

「彼女は元々体力があまりないからな、慣れない環境で無理をしたんだろう」

 

 

よくよく思い返してみる。

さおちゃん、確かにマンゴーは食べてたんだけど、実はご飯自体はあんまり食べてなかったんだ。

きっと夏バテだったんだと思う。

朝も早かったし、さおちゃん寝不足で・・・

みんなの手伝いをするって張り切って、毎日動き回って・・・

真面目なさおちゃんは、無意識のうちに無理をしていたんだ。

 

 

「さおちゃ~~~~~ん!!!わあああああ~~~~ん!!!アタシのせいだ~~~~!!!!!」

 

 

「やかましいわ!騒がしすぎて、良くなるもんも良くならんわ!!ほら、外行くで!!」

 

 

今度、アタシを連れ出したのは謙也だった。

手を引かれて、外に出る。

 

 

「さおちゃんが~~~~!!アタシがもっと気を付けて、あげれば、よかった~~~~~~!!!!」

「まなみのせいやないやろ」

「だって、さおちゃん、さおちゃんに、何かあったら、」

「大丈夫やって、水分とれたから、時期に良くなるから、」

「さ、さおちゃんが、死んじゃったらどうしよう」

「あかん!!!!」

 

 

謙也の大きな声でビクッと体が揺れる。

 

 

「・・・それだけは言ったらあかん・・・」

 

 

謙也も、何か思ったのか、悔しそうに唇を噛みしめていた。

 

 

「・・・・・・う、うわ~~~~ん!!!」

「あああ、もう泣くなや・・・!」

「だって!!けんやが怒った~~~!!!!!」

「怒ってへんて・・・!!」

「怒ったもん~~~~!!!うわ~~~~ん!!!」

「す、すまんて!!」

「けんやのバカァ~~~~~~!!!!」

「・・・」

「けんやのアホ~~~~~~~!!!!」

「・・・」

「け、けんやの、」

「あーーーーーーーもう!!!!!!」

 

 

 

 

 

(!!!?)

 

 

 

 

 

ガバッ

 

 

 

 

 

アタシはいきなり、体が動いたことに驚いて泣きじゃくっていた目を開けると、

目の前には謙也の体があって。

ギュッと強く抱きしめられていたと気づいた時には、腕の中から抜け出せなかった。

 

 

 

 

 

「・・・俺はバカでもアホでも何でもええから、泣き止んでや」

 

 

 

 

 

泣きすぎて、お前まで倒れてまうで、

 

 

 

 

 

けんやはそういうと、更にアタシを抱きしめる手に力を込めた。

 

 

 

 

「・・・うぅ・・・う~~~~・・・」

 

 

 

 

 

アタシは、そんなけんやの背中に手を回して、今度は静かに涙を流したのだった。

 

 

 

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