クロスオーバー57【まなみ】

12月。期末テストの真っただ中。
これが終われば冬休み!
クリスマスと年末年始は大好きなんだ。
みんなでクリスマスパーチーして、大晦日には初詣行って。
あ!年末マンガ完成してないから完成させないと・・・
でも歌仙に大掃除やれって言われるかなぁ・・・はぁ、やだなあ・・・。

 

その前にテストがやだけどな・・・。次赤点とったら許さんって歌仙に脅されてるし。
でも今回はマコちゃんに勉強教えてもらったし!!薬研にも見てもらったしな・・・
いつもよりも結構出来てる気がする!!
後は一番苦手な英語と・・・理科もまだ残ってるな・・・憂鬱。

 

はぁ、それに今日は日直で
テスト期間中なのに、リヴァイに手伝いを頼まれ 帰りも遅くなったし

更に すごい寒いのに雨も降っている。

 

(嫌なことばっかりだ・・・)
(悲しみ・・・)

 

白い息が 空に消えていく。
12月はただでさえ寒いのに 雨だともっと寒い。
いっそのこと雪が降ってくれればいいのに、なんて思うくらいに。

 

(さおちゃんとか清光、もう家ついたかなー)
(帰ったらまずアイス食べて)
(お菓子食べて)
(そして明日の勉強するか・・・)
(また薬研に教えてもらわんとな・・・)
(英語はムラマサが教えてくれるって言ってたっけな)
(あ、今日マコちゃんに教えてもらった数学出来たからお礼のメールも送っとかないと)

 

カバンをガサゴソと漁る。
手がかじかんで 早く家に帰りたいと思った。

 

(あれ・・・)
(折り畳み傘ないな・・・)
(入れた気がしたんだけど)
(あー・・・)
(困ったな)

 

雨に濡れるのは特に気にならないけど
でも濡れて帰ったら歌仙死ぬほど怒るかなって ボンヤリ考えた。
制服濡らしてどうするんだって。靴もびしょ濡れだろうって。洗うの大変なんだよって。
暗くて重い雨雲に 歌仙の顔が見えた気がした。

 

 

「はぁ・・・」

 

でも傘が見当たらないものは仕方がない。

アタシは 冷たい雨の中に飛び出した。

 

 

バシャバシャ

 

 

学校からうちまで そう遠くない。
走って5分くらいでついちゃうのだ。

 

 

(だから大丈夫!)
(ちょっとだちょっと!!)

 

 

それでも冬の雨は 冷たくて重くて

 

 

 

バシャバシャ

 

 

 

私の全身を濡らすのは 充分だった。

 

 

 

 

(あー・・・)
(足ビチョビチョ)
(帰ったらアイスの前にまず お風呂だな・・・)

 

 

 

信号が チカチカして

アタシの足じゃ渡り切れそうもないから 一旦止まった。

 

 

 

(うー、さむ!!)
(コートもびしょ濡れだわ!!)
(これ絶対怒られる)
(歌仙死ぬほど怒るわ)
(あかんこれ)
(スカートもびしょ濡れだわ)
(臭くなったらどうしよう・・・)

 

 

 

 

困ったなぁ

 

 

顔に垂れてくる雫を 手でぬぐった。

 

 

 

 

 

スッ

 

 

 

 

突然 頭上が暗くなり  そしてアタシを濡らす雨が止まった。

 

 

 

(え?)

 

 

 

ビックリして 見上げると、 紺色の傘が目に入った。

 

 

 

「な・・・」

 

 

 

 

そして後ろを振り向いて

その傘を差した人物を見て  固まった。

 

 

 

 

 

 

 

「びしょ濡れやん、風邪引くで」

 

 

 

 

 

その人は 自分も半分濡れながら そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

ゴクリ

 

 

 

 

自分の喉が鳴る音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(おしたり、 けんや・・・)

 

 

 

 

 

 

彼が今 アタシに傘をさして 立っているのだ。

 

 

 

 

 

 

「ほら、受け取りや」
「は・・・はぁ!?な、なに言ってんの!?」
「せやって・・・傘ないと濡れるやろ?」
「もう濡れてんの!だからいいの!」
「いや、そういう問題とちゃうやん・・・」
「そーいう問題だよ!家も近いしアタシは別に・・・」

 

 

 

そう。
もうアタシは濡れてるし。
今更だし。
家も近いし。
こんなん日常茶飯事だし。

 

 

 

だから、気にしなくてもいいのに。

 

 

 

(いいのに、)
(・・・気にしてくれなくたって、)

 

 

いいのに。

 

 

 

 

 

 

 

(だって)
(だって、アタシに傘貸したら)
(きみが 濡れちゃうでしょ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の前だと頭が真っ白になる。

 

もっと可愛く素直に ありがとうって

でもあなたが濡れちゃうから いらないよって

 

 

言いたいのに

 

 

全く言葉が 出てこない。

 

 

 

 

出てくるのはまるで可愛くもない 悪態をつく言葉。

 

 

 

 

 

 

「ええから、ほれ」
「い、いいって言ってるでしょ!今更!!」
「けど、」
「もう、やめてよ!アタシに構わないで!!」

 

 

 

 

 

はっ

 

 

 

 

 

そこで  なんてことを言ってしまったんだって 気付く。

 

 

せっかく気にかけてくれたのに。
優しくしてくれたのに。

 

 

 

ひどいこと言った。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そうか」

 

 

 

 

 

 

 

彼を、また 傷つけた。

 

 

 

 

 

 

(どうしよう)
(悲しい顔、してる)
(どうしよう)

 

 

 

 

 

ズキン ズキン

 

 

 

 

 

胸が痛む

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、今のは、」

 

「・・・ほな、ええわ」

 

 

 

 

 

 

”ええわ”

 

 

 

 

 

 

 

ズキッ

 

 

 

 

 

その言葉が 胸の奥深くに突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・俺の勝手にするわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(え?)

 

 

 

そう言って 彼は

私の手に無理やり ギュッと傘を握らせて

そして雨の中を 走って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ・・・!」

 

 

 

 

声をかけようとしたけど 彼は早くて
雨のせいで すぐに姿は見えなくなった。

 

 

 

 

「・・・」

 

 

 

 

 

 

 

熱かった。
寒いはずなのに。
濡れて体も冷えてるはずなのに。

 

彼に触れられた 手も
アタシの顔も、耳も、喉も、心も。

 

 

 

 

 

 

 

(・・・ああ)
(アタシこれ)

 

 

 

 

好き、だな

 

 

 

 

(彼の事)

 

 

 

 

 

忍足謙也のことが

 

 

 

 

(大好きだな)

 

 

 

 

 

 

降りしきる雨の中
始めて自分の気持ちを自覚して
しばらく動けずにいた。

 

 

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