学園祭が終わって 大きな学校の行事が終了した。
寒さのせいもあってかなんとなく校内が静かになった気がした。
もうすぐ12月。
期末試験も近い。
来週からは試験前で部活動停止となる・・・が
バレー部は実は1月に春高バレーがあって
それに向けて今追い込み真っ最中。
試験1週間前にいつもは休みになる部活も 今回は少し短くなる程度で基本的には毎日あるのだ。
まぁでもマネージャーはテスト前は休めって言われてるんだけどね。
みんな頑張ってるのに休むわけにもいかないから
今のうちから家で勉強しようと 図書室で必要な本を借りたりしていた。
澤村「前、部活行こうか」
さお「あ、私図書室寄ってから行くから」
ごめんね、また後でね と澤村くんに告げて 図書室へと向かった。
(えっと、この本借りたから・・・)
(次はこっちかな)
(勉強見てくれる光忠にこの資料借りておいでって言われたんだよね)
(小豆さんも見てくれるし)
(蜂須賀とかも・・・)
(うち実はすごい優秀な家庭教師いるよね・・・)
(勉強がんばらないと・・・)
(私要領悪いから・・・勉強得意ではないし・・・)
(´・ω・`)
いろんなことを思いながら 本を借りて図書室を後にする。
体育館に向かう途中の渡り廊下で 1枚のタオルが落ちてるのを見つけた。
(ん?)
(バレー部のかな?)
特に何も考えずに そのタオルを拾うと体育館の中に入ろうとした・・・・
「あっ」
後ろから声が聞こえて タオルを握りしめたまま、私は振り向いた。
「え?」
見ると 汗だくの男子生徒が立っていた。
「・・・それ」
「これ?」
「それ、お前のタオルか?」
「あ、ううん、ここに落ちてたから拾ったんだけど・・・」
「じゃあ多分俺のだ」
「そうなんだ!じゃあこれ・・・ハイ」
「ありがとう。お前、1年か?」
「うん、1年7組のまえさおりだよ」
「そっか、俺も1年。5組の不二山嵐。よろしくな」
「よろしくね!!」
不二山くんはタオルを受け取り、髪から垂れるくらいの汗を拭いた。
冬でこんなに寒いと、汗だくの彼から湯気のようなものも見える。
彼のぜーぜーという吐息も白くて
たくさん走り込みしたのかな、 そう思った。
「不二山くん、どこの部活なの?」
「ん?」
「外、ずっと走ってたんでしょ?部活なにかしてるのかな、って思って・・・」
「あぁ、部活は・・・してねぇ」
「ん?してないの?」
「てゆーか、なくなったっつーか」
「え?」
「あー・・・いや、いいわ」
「え、ちょっと待って、部活じゃないのにそんなに汗だくになるまで走り込みしてたの?」
「・・・もういいだろ」
「すごいね!!!」
「・・・は?」
一度は背中を向けた不二山くんが
私のその一言で 驚いた顔をしてもう一度振り向いた。
「すごいね不二山くん!!何かわからないけど・・・努力してるんだね」
「・・・」
「運動が好きなんだね・・・いや、その競技が好きなのかな・・・」
「・・・」
「なんにしても、すごいと思う!!私は応援するよ!!」
がんばってね!!
そう笑顔で言うと しばらく呆然と固まっていた彼は プッ と噴き出した。
「ハハ、お前・・・面白いやつだな」
「え!?私は面白くもなんともない女だよ・・・?」
「えーっと・・・名前、なんつったっけ」
「まえさおりだよ」
「前か・・・名前も珍しいな」
「そうかな?」
「あぁ。そんな風に言ってくれるやつ今までいなかったからさ」
「そうなの?」
「だって部活もないのにありもしないもののために体作って・・・笑えるだろ?」
「笑えないよ!!一生懸命努力してる人を笑うわけない!!」
「そうか・・・ありがとな」
不二山くんは 嬉しそうに笑って
それからそっと、教えてくれた。
「・・・柔道なんだ」
「え?」
「俺が好きな スポーツ」
じゃあな
そう言って不二山くんは走って行った。
私はその背中を見ながら なんだか淋しそうだな そう思っていた。
(柔道・・・って)
(うち柔道部なかったっけ?)
(スポーツがこんなに盛んな学校で)
(剣道部も合気道部も弓道部もあるのに・・・柔道部だけない・・・?)
(なんでだろう)
部活中もそんなことをずっと考えながら
私は家に帰ってすぐに 走って彼のもとへと駆け寄った。
「山伏さん!!」
「ん?どうなされた主殿」
食事を運ぶ手伝いをしていた山伏さんは驚いて私を見た。
よかった、今日は家にいてくれた!
「ちょっと、聞きたいことがあって」
「カッカッカ!そうであったか。しかし手洗いうがいも着替えもせずにそれより大事なことなどあるまい」
(ハッ!)
(ほんとだ、私ったらそのまま来ちゃった!!)
「ごめんなさい!出直します!!」
急いで手洗いうがいをして着替えてからもう一度山伏さんを探した。
彼は穏やかな笑顔で居間で迎えてくれた。
山伏「主殿、そんなに急いでどうしたとういうのだ」
さお「あ、あのね?山伏さんもうちの学校出身だよね?」
山伏「そうであるが」
宗三「うちのものはみんな貴方と同じ学校出身ですよ」
髭切「ふふ、ずいぶん慌ててるね主」
さお「確か・・・剣道部と柔道部掛け持ちしてたって聞いたんだけど・・・」
山伏「登山部も掛け持ちしていたである!!」
山姥「さすがだ兄弟」
さお「そうなんだ!!やっぱり!!昔は柔道部あったんだね!!」
山伏「柔道部?もちろん全国大会常連で部員も多かったが・・・」
山姥「柔道部か・・・」
さお「まんばちゃん、何か知ってるの???」
まー「ただいまー。むっくんと駄菓子屋寄ってたら遅くなっちゃったよ。何の話してんの?」
膝丸「今、柔道部の話をしていたところだ」
まー「柔道部?」
さお「柔道部はなくなったって聞いて・・・」
まー「そういえば柔道部ってないよね、他の道の部活はあるけど。なんで?」
山伏「柔道部がなくなった?まさかそんな・・・」
山姥「なくなったのは去年だ」
さお「そうなの!?」
山姥「俺が高校3年の時、柔道部に新しい顧問が来てな。元有名な選手だったらしいのだが・・・それはもう傍若無人な顧問らしく、剣道部の俺の耳にもその噂は入って来たし、俺自身も部員を殴ってるところをよく見かけていた」
さお「え・・・」
まー「マジか、クソだな」
宗三「最低ですね・・・」
小夜「復習しようか・・・?」
山姥「いや、もう制裁は下ったんだ。部員の一人が体罰のせいで重症の傷を負ってな・・・。顧問は必死に練習中の事故と言い張り、部員たちにも口裏合わせるように指示していたのだが・・・我慢できずに部員全員が顧問の体罰のせいだと直訴したらしい」
髭切「じゃあその顧問は捕まったのかな?」
山姥「あぁ、顧問の逮捕と柔道部員の精神的な不安もあって近隣の柔道の強豪校に部員たちを特待生として転校させ、うちの学校の柔道部は廃部にされたって聞いたぞ」
さお「・・・」
膝丸「それはニュースになってもおかしくなさそうな事件だな」
山姥「生徒たちのプライベートもあるからニュースにならないよう学校側で規制かけたって話だったな。今は被害者ですらSNSで名前や顔も晒されるからって」
山伏「そのようなことがあったのだな・・・。拙僧の後輩たちがそのように苦しんでいたとは・・・なんとも無念である・・・」
まー「お腹空いた・・・ぐぅ」
宗三「もう話に飽きたんですか?こら、つまみ食いしようとするだなんて、はしたないですよ」
小夜「みんな呼んでくる」
まー「アタシもみんな呼んでくる」
まぁちゃんが話に飽きてしまって すぐにみんなを呼びにいってしまったので
居間にみんな集まってきてもうそれ以上話は出来なかった。
でも私はご飯を食べながら 不二山くんのことを考えていた。
(・・・そうだったんだ)
(じゃあ去年いきなり柔道部がなくなったんだ・・・)
(不二山くん・・・きっと柔道部入りたかっただろうな)
(でもそんな頭おかしい顧問のいるところでツライ思いはしてほしくないし・・・)
(だけど柔道部もないのにひとりでいつかできるかもしれない柔道のために訓練して・・・)
(私、なんとか出来ないかな・・・)
その夜はなんだか胸がモヤモヤとして 全然眠ることができなかった。
次の日。
まー「さおちゃん聞いてよ、御手杵今日一緒にカラオケ行ってくれるって言ってたのに急にバイト入ったとか言ってさー💢」
登校中
(あ)
(あれは・・・)
(不二山くん!!)
私はまた走り込みをしている不二山くんを見つけた。
朝練している部活はたくさんあるけど
部活でもないのに たった一人でああして自ら鍛えて
今まで気づかなかったけど
きっと彼は入学してから毎日毎日
ひとりきりで 訓練してたんだ。
柔道が好きって、それだけの理由のために。
胸が熱くなって
そして私は意を決した。
ダッ
まー「え!?さおちゃん!?どこ行くの!?」
さお「不二山くーん!!!」
嵐「あ?前?おはよう」
さお「お、おはよう!!あ、あのね!!」
嵐「ん?どうした?」
さお「私ね!!手伝う!!」
嵐「は?」
さお「私ね!!また柔道部作れるように、お手伝いするよ!!」
学級委員とか生徒会とかバレー部とかあるんだけど3学期は暇だろうし手の空いたときに少しづつだけど、
そう私が必死に話すと また不二山くんは唖然として、そのあと
笑ったのだ。
嵐「ブッ ハハハハハ!! お前、ほんとおもれーやつだな!!」
さお「え!なんで!私は今真面目に・・・!!」
嵐「・・・わかった」
さお「え?」
嵐「・・・じゃあ頼むよ。なんかお前となら、がんばれそうな気するわ」
そう ニッ と笑う不二山くんが心なしか嬉しそうに見えて
余計なことしたかなとか 私なんて関係ないのにとか 色々思っていたモヤモヤは 消え去った。
(・・・うん!!)
(私、間違ってなかった!!)
さお「一生懸命がんばるね!!」
これからもよろしくね、不二山くん!!
手を出すと 彼は大きな手でその手を握り こちらこそよろしくな と笑ってくれた。
スッキリと晴れた冬の日。
これからどうやって柔道部を作ろうか そんなことを考えていた。
余談
まー「さおちゃん急に走り出してびっくりしたよ、誰だこの男」
さお「あ、まぁちゃんごめんね」
嵐「お前誰だ?」
まー「お前こそ誰だ」
さお「あ、こちらは不二山くんだよ!一緒に柔道部を作ることにしたんだ」
まー「柔道部ってきみ・・・きみから最も遠い場所にあるじゃないか・・・何をしてんだきみは・・・それでなくても忙しいのに更に自分の首を絞める気かよ・・・」
さお「いいの!!やるって決めたの!!」
まー「だから昨日柔道の話してたのかよ・・・きみはほんと・・・自分を苦しめるのが好きだな・・・どえむかよ・・・」
さお「不二山くん、こっちは私の妹のまぁちゃんだよ!まなみっていうの」
嵐「妹?中学生か?」
まー「高校生だわい」
さお「双子なの。口は悪いけど、悪い子じゃないんだよ」
不二山「そうか、俺は不二山嵐。よろしくな!」
まー「嵐!!あーらしーあーらしーoh-ドリーム」
不二山「・・・性格全然違うんだな」
さお「不二山くん、また今度ゆっくり打ち合わせしようね!私生徒会だし、どうやって部を作るか聞いておくから!」
不二山「あぁ、悪いな、よろしくな」
まー「もうさおちゃんってほんっとにお人よしなんだから!!もー!もうもう!ますます遊ぶ時間なくなるじゃん!!」
さお「え・・・そんなこと言わないでよ・・・」
まー「もう!!むかつくからアタシも手伝うからね!!気分次第だけど!チラシ作るのとかは手伝ってあげるわ!」
さお「え!ほんと!?」
まー「そうすればきみと過ごす時間増えるな。おら天才👍」
不二山「いいのか?なんか悪いな」
さお「やったぁ!3人でがんばろう!!」
まー「あとこないだチアダン見て感動したから大丈夫、イケる。部員2人からスタートしてたからチアダン。大丈夫」
さお「面白かったもんね、チアダン・・・」
こうしてなぜかまぁちゃんも増えて(でもまぁちゃん気分屋だから活躍はあまり期待してないけど)
しばらくは3人で 柔道部設立に向けて頑張りたいと思います!!!